季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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お正月(不死鳥マルコ)

 年末のクソ忙しい時に餅つき大会を開催し、その結果正月休みは手に入れた。その関係で昨日の内に鏡餅も用意され、正月用の餅も量産された上に、金は本当に掛からずに済んだのだから文句はねェ。

 それよりも、だ……何故まだナミは部屋から出てこねェ?

 蕎麦の味見をとか、サッチと約束とかしてなかったか?

 そう思って部屋のドアを開けると、中からナミが飛び出てきて俺に抱き着いた。無意識で受け止めるように抱き締めれば、甘えたように擦り寄られる。

 驚き過ぎた俺は、どうしたんだよィと声をかけるしかできねェ。それにナミは震える声で言葉を紡ぐ。

 

 「やっと終わったの。少し、充電させて……」

 「俺も、充電したいと思ってた所だよぃ」

 

 可愛い事を言われて嬉しくなり、言葉を返せばナミは珍しく全力で甘えて来た。それがまた嬉しくて頭を撫でていたら咳払いが聞こえて視線を向けると、そこにはサッチがいた。

 そういやナミと約束してたな。そもそもその為に呼びに来たんだったか……仕方ねェ。

 

 「ナミ、サッチが迎えに来たよぃ」

 「もう少しだけ、こうしていたい。……だめ?」

 「俺もずっとこうしていたいよぃ」

 「駄目だ!蕎麦と天麩羅を用意する数を考えてくれ!時間が!俺達には時間がねェんだよ!!」

 

 サッチの言葉にナミははぁいと返事をすると、名残惜しそうに俺から離れて行く。それを見送り、俺は俺でやる事があるからと仕事に戻る。

 いつも仕事を手伝ってくれているナミが居ない事が、これ程迄に非効率になるとは思わなかった。居なくなって、初めてわかる有難みって奴かねぃ。

 そんな事を思いながら、仕事を何とか片付けた俺がナミの様子を見に行けば、その時には既に盛り付け等を始めていて、サッチが感涙している。本当に何でもできる奴だよぃ。

 

 「ナミ、風呂納めしなくていいのかよぃ?」

 「あっ!でも、もう少しで区切りなの!少し待って!」

 「俺は待ってやりたいが、早くしねェと他の隊の時間になるよぃ?」

 

 その時サッチが、もう充分だから風呂に行って来いよとナミに優しく笑いかけた。サッチはいつも馬鹿やってるが基本的には、馬鹿じゃない。

 だからこそ、ナミが風呂と手伝いで揺れているのに即座に気付いたのだ。そんなこんなでナミは風呂に向かい、サッチは座った俺に珈琲を差し出して来た。

 

 「ありがとう」

 

 素直に受け取って飲めば、サッチが楽しそうに笑っていてそれが妙に癇に障る。何だと思って睨み付ければ、鍵を投げ寄越された。

 

 「この島の和風ホテルの鍵だ。2人部屋で2泊3日、チェックインは初日の出より前でも可能。温泉つきで、部屋の机は炬燵。蜜柑食べ放題つき」

 「おい……?」

 「正月料理のレシピ本、年末の忙しい中でナミちゃんが3冊出してくれてな、それがあったからすっげェ助かった俺達から、ナミちゃんへのプレゼントだ。……お年玉も親父と相談して、全員分用意してくれたらしいぜ?」

 

 その言葉に俺は深く息を吐き出してから、珈琲を飲み干す。そして、ありがとなぃとコック達に笑いかければ俺には!?と騒ぐサッチに視線を向ける。

 

 「ナミの事はゆっくり休ませる。気遣いに感謝するよぃ」

 「……ここでナミちゃんを襲わねェ宣言できるお前をマジで尊敬する」

 「ガキじゃあるまいし、ナミの体調の方が大切だろぃ。その話だとナミは最低でも10日は寝てねェ」

 「……お見逸れしました」

 

 これでも医者の端くれだよぃと笑えば、サッチも嬉しそうにしている。船に残ればエースの突撃やら、ハルタの悪戯やらで休めねェと踏んだらしいと分かるからなぃ。

 そんな俺達の会話を知らずにナミは帰って来て、ホカホカした様子を見せるが相変わらず髪からは雫が落ちている。それを見て髪を拭いてやれば、いつもごめんね、頑張ったのよ?なんて言う。

 ……頑張っても落ちるのか、今度どうやって拭いてるか1度ちゃんと見てみるかねぃ。そう思いながらも、この時間を気に入ってる俺が、改善させたいと本気で思ってるかは微妙なところだが。

 年越し蕎麦を食べて、親父からお年玉が配られると1気に活気づく船内。だが、隊毎に封筒の色が違っていて、更にナース達の封筒には透かし絵まで入っていれば、明らかに親父が用意したものじゃねェと分かる。

 ……人数考えたら、1万ベリーだったとしても2千万近い出費を1人で負担したのかと考えれば、頭も痛くなるというものだ。優しく笑いその様子を眺めているナミの腕を掴み、その勢いで抱き上げると宣言する。

 

 「デートに行ってくるよぃ。俺とナミは3日までは帰らねェから、そのつもりでな」

 

 返事を聞くつもりはなく、そのまま1度部屋に連れ戻ると、初詣に行くよぃと言葉を向ける。そんな俺にナミは驚いたような顔をしてから、確かに笑った。

 それから何着たら良いかしらねなんて笑いながら服を見ているから、少し待ってろィと言ってイゾウの部屋に向かう。こんな時の為のイゾウだろうと、本人が聞いたら激怒しそうな事を考えながらドアを開ける。

 

 「イゾウ、ナミに似合いそうなの貸してくれ」

 「……初詣か。ちょいと待ってな」

 

 イゾウは突然部屋に押し入った俺に特に何か言うでもなく、即座に反応して桐の箱を差し出して来た。

 

 「返さなくていい。確かナミは着付けが出来るから、今度着てる所を見せておくれなと、伝えてくれ」

 「ありがとな」

 「どういたしまして」

 

 イゾウは笑って手を振り、俺は急いでナミの元へと戻る。そして、桐の箱を手渡しつつ説明すれば皆私に甘いわなんてクスクスと笑い、着替えるから少し待っててと微笑まれた。

 そのまま様子を見ていれば、紐と布を器用に巻き付けて美しい装いに変じて行き、髪も1本の棒を器用に使い纏めてしまう。髪が纏められた事で見える項が、妙に色っぽく見えるから、何かで隠させねェとなと心で呟く。

 普段とは違い露出のない姿に、逆に唆られると思いながらもナミにコートを着せてやる。それを擽ったそうにしながらも、何処か嬉しそうに笑うから他の奴らに狙われねェように俺はそっとその手をとって歩き出す。

 人混みの中ではぐれない為だと言い訳して、俺はナミの手を握るとその指が固くなっている事に気付く。折角の綺麗な手だってのに、どうして録にケアしねェのか。

 そっと俺の火でナミの手を包めば、ナミが暖かいと言って微笑んだ。その微笑みだけで、変な男に付きまとわれそうな破壊力を持ってるとそろそろ自覚して欲しいところだねぃ。

 

 「暖の為じゃなく、ペンの使いすぎで弱ってるのを少しばかりな」

 「あ……ごめんなさい。つい、役立てるかなって思っちゃって……」

 「構わねェよぃ。ナミが、自分を大切にしてくれるなら、何しても構わねェ」

 

 俺の言葉にナミは気を付けますと言いつつしょんぼりしてみせるから、癒しのそれが終わると同時に頭を軽く撫でる。そして、手を握り直して歩き出せばナミが嬉しそうに町並みを眺めている事に気付いた。

 何処か懐かしそうに瞳を細めているから、少し歩く速度を落としてのんびりと先へ進む。急ぐ用事があるでも無し、たまには良いだろうと思ったからだ。

 目的地に到着すると賽銭を入れて願いをと言うが、願いか。……親父と兄弟と非戦闘員の安全と健康かねぃ?

 そう思って居たら、そこには占いの紙が置かれていて、小銭を投げ入れると貰えるらしいと知る。ナミが2つ分の小銭を入れてから、2つ取ってと言うからそれに従うと片方をナミに差し出す。

 それを受け取ったナミが楽しそうに紙を開いてから、その中に書かれている文字を見て不吉だわと呟いた。少しでは無く嫌そうな顔に、どうしたのかと首を傾げればナミが苦笑しつつ内容を教えてくれた。

 

 「待ち人が押し寄せてくる上に、走り人が帰ってくるって……。シャンクス達が何か厄介事でも持ってくるのかしら?」

 「それは不吉だねぃ」

 

 それから2人で笑い合い、凶だったから結んで行くわと言うナミについて行く。俺のそれは良い結果だからとナミが御籤入れと言うのを購入して、それに入れて返して寄こした。

 

 「良い結果がマルコを守ってくれるかもしれないから、持ってて」

 「縁起物とか、ナミは好きだねぃ」

 「良いと言われてるものは、少しでも大切な人に持ってて欲しいのよ」

 

 甘い甘いナミの言葉に、俺は少し照れる。何の衒いもなく大切だと言いきれるその強さに、小さく笑ってナミを抱きしめた。

 その状態でナミに何を願ったのか聞いてみると、大切な人達が今年も平穏無事に過ごせる事よなんて言う。だが……〝今年も?〟って、定期的に戦闘もあるのに何を言ってるのか。

 おかしくなって笑う俺に、ナミは五体満足で生きていてくれて、絶望に心が囚われないなら、それだけでいいと呟いた。それには妙な実感がこもっている。

 これでいてナミは恐ろしく苦労人だという事を、こんな時に思い出す。だからこそ、これからは甘やかしてやりたい。

 2人で宿に向かいながら、目的地を告げていなかった為に驚くナミに、コック達からのお年玉だよぃと笑って教えてやる。それだけで泣きそうな顔で笑ったナミと共に部屋でのんびりと過ごす事となった。

 到着した宿で蜜柑食べ放題に大喜びして……ナミが蜜柑の食べ過ぎて体調を崩したのは、情け容赦無く本気で叱り飛ばした。だがそこはまぁ、見ていなかった俺の責任でもある事は本当は分かっている。

 ナミが果物、特に蜜柑を好きだって分かってたんだから、見てるべきだったよなぃ。普段はなかなか食事もしないナミだから、食べてるならと甘やかした俺も悪い。

 小さくなって震える恋人に、やり過ぎたかと少し反省して、もう怒ってねェからこっちに来いと言って葛湯を用意してやる。そんな俺に視線を向けたナミの頭上に萎れた耳の幻覚が見える程で、暫くは甘やかしてやるかと考えてもう1度手招く。

 Happy new year……君と2人で過ごせる平穏な日常が、これから先も続きますようにと願いながら笑い合う。幸福な日々がずっと続くように、それだけが2人の心からの願いなのだから。

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