季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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クリスマス(赤髪のシャンクス)

 世間はいつの間にやら、クリスマスと言うイベントの事で盛り上がっている。そのクリスマスの発端がナミだと言うのだから、本当に素直に隠されてて欲しいと願っちまう俺の気持ちも理解して欲しい所だ。

 その上ナミは俺とベックに、同じくらいの信頼を寄せている。いや、下手をしたらベックへの信頼の方が厚いかも知れねェ程だ。

 

 「ベック、これなんだけどね」

 

 1枚の紙を顔を寄せ合って見ている何時もの光景に、小さく舌打ちがもれる。クソ……分かってるってのに……!

 分かってる、経理とか事務とか、その他諸々の事を2人でやってるんだから仕方ねェって事は!

 それでも、俺以外の男にナミが自分から擦り寄ったり抱き着いたりするのは、許せねェんだよ。しかも、ベックには素直に甘えるし、何かあれば俺の名と1緒にベックも呼ばれる。

 クソッ!頭じゃ理解してるってのに……!

 数日前に予約していたから、今日はさり気無くナミを連れ出そうと思っていたが、既にそれどころじゃねェ。すぐにでもベックから引き離そうと足音を消して近付き、ナミの意志を無視して抱き上げる。

 

 「シャンクス?」

 「出掛けるぞ」

 「待って、私着替えて……「買ってやるから」」

 

 これ以上は、1秒たりともナミをベックと居させたくなかった。そんな余裕の無い俺にベックは笑い、軽く手を振る。

 その余裕がまた、妙に俺を刺激する。分かってんだよ、ベックがナミに何がする筈ねェ事位。

 俺の腕の中で小さくなってるナミを先に見つけておいた店に連れ込み、店員に声を掛けた。その間ナミは状況把握出来てませんと顔にデカデカと書いていて、それがまた愛しく思える。

 

 「マーメイドラインとスレンダーラインのドレスで〝赤〟の物を幾つか見せてくれ」

 「シャンクス!?」

 「今日は、俺の色を纏ってろよ」

 「シャンクス……」

 

 俺の名を呼びながらそっと腕を伸ばして来るナミは、俺の首に腕を回すとそこからそっと俺の耳元で言葉を紡ぐ。それは明らかなる抗議。

 

 「赤は良いけど、マーメイドもスレンダーも動きにくいわ。違うのにしてよ」

 「ナミは顔が幼く、胸がデカいからAラインとプリンセスは許されないって自覚しろ。そもそもプリンセスは幼く見せるし、Aラインは胸が邪魔でAにならねェよ」

 「うっ……」

 「それとも……」

 

 言葉を止めるとナミは不思議そうに俺を見つめるから、ニッと笑ってやる。寧ろ俺はそれでも構わねェが。

 

 「エンパイアラインが良いのか?1人で歩けるとは思えねェが、ナミが望むなら仕方ねェ……ずっと抱いててやるよ」

 

 俺の言葉にナミは顔を赤く染めて、マーメイドかスレンダーでお願いしますと自ら言葉を口にした。プリンセスは俺が明らかに犯罪者にしか見えなくなるから嫌なんだと、そう言えなかった時点で随分卑怯だと自覚している。

 元々ナミは少し幼い可愛い顔立ちなのに、幼く見えるデザインなんぞ着られたら俺が幼女趣味にしか見えなくなるだろう。俺は幼女趣味じゃなくて、ナミだから欲しかっただけなんだよ。

 その証拠にナミ以外で視線が向くのは……ナミに似た女か?前は売り物なら妖艶系、眺めるなら清楚系が楽しかったが……毒されたもんだ。

 

 「シャンクス?」

 「これからはエンパイアラインのドレスを身に纏って船にいるか?俺の女神だと世間では浸透してるし、女神らしい装いだろう?」

 「……そんな事になったら、私戦えないわよ」

 「戦わなくても、それなら皆で護ってやるさ」

 「嫌よ」

 

 キッと睨み付けてきたナミは俺に言い放つ。それは凍える焔をイメージさせる。

 必要とあればその甘さを消し去り、己の意見を主張出来る強さは昔から変わらねェな。本当に、それがどれ程戦う男を煽るか、分かってねェんだよなと思えば笑えてくる。

 

 「私は、シャンクスや皆の荷物になるつもりは無いの。邪魔になるくらいなら、泡になって消えてあげるわ」

 「人魚姫か、お前は……」

 

 呆れたような声で言う俺に、そんな説もまことしやかに囁かれてるわよ?なんて笑う。

 戦災孤児で実の両親が分からないのもあるし、魚人島の人魚姫と私、似てるらしいのよねなんて他人事のように言う。それに対して口を開きかけた所で、ドレスが運ばれて来た。

 動きやすそうな物を除外して、特に動きにくそうな物から選べばナミが悲鳴に近い声を上げたが……。

 

 「どうした?ナミがこのデザインにしてくれと頼んだんだろ?」

 

 無論、確信犯だ。文句は受付けねェぞ。

 1人にすると男引っ掛けて歩くナミだからこそ、俺無しで歩き回れない姿にしておく必要がある。それに何より……絶対似合う。

 そう思ってドレスを試着させ、3枚に絞るとその中から好きなの選べと伝える。ナミはムムムと言いながら1枚を選んだので、それに着替えて来るように言って、残りの2枚は船に届けるようにと手配しておく。

 ……選びきれるか、どれも似合いすぎなんだよ。

 それぞれのドレスに合わせた小物を店員に用意させて、今着替えている物用以外は纏めて送らせると、着替えを終えたナミに小物を差し出す。それを驚きつつも受け取ったナミは身支度を整えるから、その間に会計を済ませておく。

 

 「シャンクス、いいの?」

 「当然だろ。ナミを着飾らせたかったのは、俺なんだからな」

 「……変じゃない?」

 「俺が選んだんだ。変な筈があるか。そもそも……ナミが綺麗すぎて、このまますぐに何処かに連れ込みたい気分なのを耐えてんだぜ?」

 

 真っ赤になったナミは、けれども俺の腕に縋るようにして立っていて逃げる事は出来ない。愛しい温もりは俺の腕に絡み付いて、恥ずかしそうにしながらも俺に合わせてついてくる。

 歩調は当然ナミに合わせてはいるが、ナミに行先を告げてないから俺に合わせてナミは歩くしかない。そんなナミを連れて近くの店に入ると、クルーへのプレゼントを見繕ってくれと無茶振りしてみる。

 それに対してナミは快く頷くと、俺に色々と話し掛けながら候補を絞って行く。結局は皮のベルトを選んだナミは、それにマークを焼き付けてくれと頼んでいる。

 

 「ナミ?」

 「全員に揃いなら、マーク入ってる方が良いでしょ。このベルトなら武器をそれぞれが装着できるし。……幹部だけ何か特徴つける?」

 「いや、そういう差別はいらねェな」

 「ふふ、良かった」

 

 そう言って可愛く笑ったナミは俺を真っ直ぐに見て、期待に応えられた?なんて聞いてくる。

 充分すぎると言いながら、選んで貰った物をラッピングして船にという手続きを済ませてしまう。その後予約していた店までナミをエスコートすれば、何処かソワソワした様子で俺について歩く。

 

 「どうした?」

 「なんか、恥ずかしい」

 「……エスコートされ慣れてるのに?」

 「だって、こんな、いかにもデートって感じの事、今までした事無かったし……!」

 「……そう、か……」

 

 なんだこの可愛い兎は。俺の理性を粉砕して遊んでるのか?

 いや違う、これは素だ。何も考えちゃいねェ!

 それが分かるからこそ、仕方無いと溜め息を落として歩き出す。それに伴いナミは俺の腕に掴まったまま歩き、寒そうに俺の腕にその体を擦り寄せてくる。

 これで誘惑してるつもりも何も無いのが怖いところだと心底思いつつ、目的地である店に入る。店内はほど良く暖かく、それにより腕に絡み付く力が弱まればそれが少しばかり残念に思えるのだから、駄目だなと自嘲しようというものだ。

 俺の姿を見て即座に案内する店員に、俺も有名になったものだと思う。夜景の美しい個室と言う売り文句に惹かれて予約したが、実際夜景が美しくナミは嬉しそうにその瞳を輝かせた。

 

 「綺麗……」

 

 呟いたそれに視線を向けると、何故か瞳は輝いているが泣きそうな顔をしているのが分かりどうしたのかと思う。様子を見ていると、俺の腕から手を離し窓に近付いたナミは小さく何かを呟き始める。

 

 「空の星は地上の星に遮られ、見えなくなったが地上の星はまるで宝石箱のようだ……と言われてたのを思い出すわね。その上で空からは雪だなんて……本当に星が見えないからこそ、帰って来たような、不思議な気持ちになるわ。お誂向きとしか言いようのない、ホワイト・クリスマスね」

 「ナミ?」

 「ごめんなさい。感傷的になって……もう、大丈夫よ」

 

 そう言って笑うナミは、何処か痛々しい。それに思わず手を伸ばそうとした時、部屋に運ばれて来た料理はこのクリスマスに因んだ物だと言う。

 それを見たナミは静かに涙を零し、俺に抱き着いてきた。珍しいそれを受けて抱きしめてやると、細い肩を震わせながら涙に濡れる声で言葉を紡ぐ。

 

 「シャンクス、ありがとう……。夢みたいで、現実感が無くて……。私……」

 「ナミの書いた、小説の中に出て来た世界と似てたか?」

 

 故郷の村とは明らかに異なるこれを懐かしそうにしている上に、帰ってきたと言葉にしていた。明らかに何かあるのは分かるが、今はそれを問い詰めても無駄だろう。

 ならば2人で、ナミの作ったとされる世界とよく似た雰囲気を楽しむしかねェだろう。そう思ってナミが顔を上げるのを待って唇を重ねる。

 Merry Christmas……お前が喜ぶならば、それがどんな物であったとしても、それが例え世界だとしても、用意してやると唇に想いを乗せる。俺にとってお前より、聖なる存在など他に有りはしないのだから……。

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