たまたまナミが居ない時に女部屋に入った俺は、ロビンが何かを読んでいるのを見てそっと近付く。それにロビンは即座に気付くと、読んでいた紙を俺に手渡してきた。
「ナミの書きかけの原稿よ。バレンタインから引き続きでこんなイベントがあるのね」
ロビンの言葉に曖昧に頷いてそれに目を通せば、確かにナミの文字でオレンジデーと言う日の事が書かれている。オレンジの物を贈り合う……か。
大切な人にって事は、またナミは全員に配るんだろうか。俺のナミなのに、俺だけのものにはなかなかなってくれない恋人を想って、少し切なくなる。
「珍しいわよね。いつもならこういうイベントの物はその季節迄に発売できるようにするのに、途中で筆が止まっているなんて」
「……多分、俺達が知ったらナミに気を使うと思って書けなくなったんだ。オレンジデーなんて、どう考えてもナミの為にあるようなイベントだから」
ナミはそういう所がある。だからつい口に出したその言葉に、ロビンは嬉しそうに笑った。
それからルフィのそういう所、好きよなんて意味の分からねェ言葉を残して部屋を出て行くから、俺はとりあえずナミのベッドで横になった。ナミの匂いがするベッドだからか、自然と眠くなってそのまま寝てしまうと、誰かが俺の頭を撫でた感触で意識が浮上する。
「愛しているわ」
突然聞こえてきたナミの言葉に、起きるタイミングを逃した俺は、どうしたらいいだろうかと寝たふりしながら考える。そんな俺の額にナミはそっとキスをして来て、俺が寝てる時いつもこんな事してくれてんのかなと思ったら、顔がニヤけそうになるのを耐える。
そのままナミが抱き着いてきたので、思わず抱きしめ返そうとして、それはどうなんだろうと思い止まった。そのままナミは俺に甘えるように擦り寄ってきて、どうするかな、起きるかなと考える。
「お休み」
その小さな囁きの後でナミは本当に眠ったようだったので、ナミの寝息が聞こえるのを待って体を起こせば深く眠っている事が分かる。何時だったかチョッパーが、ナミは睡眠負債があるから眠れそうな時は寝かせてやって欲しいって言ってたな、なんて思い出す。
ナミがしてくれたように俺もまたナミの頭を撫でて、その額にキスをするけど、俺と違ってナミは安心しきった顔で眠り続けている。そんなナミが起きるまでここに居るかと考えて、そんな事したら襲って起こすと気付いて立ち上がろうとしたら俺のシャツをナミが掴んでいた。
……襲うぞコラ。なんだその、可愛すぎる行動は!
そう思うのと同時に愛しいなと思って、このまま寝かせてやりたいからとシャツを脱いでナミにそれを抱かせてやる。俺は上半身裸でも誰も気にしないだろうから、良いけどよ。
俺のシャツを抱いて、安心したように寝ているその姿は正しく猫のようで、手配書にあった〝泥棒猫〟は言い得て妙だなと思う。俺の心を1瞬で奪った、愛しい猫。
「ナミ、俺も愛してる」
そう言って部屋を出た俺はそれから先、ナミと2人になれない日が続くなんて考えても居なかったんだ。食事にも出て来るし、いつもと何が違うってんでも無いんだけどよ、ロビンがナミから離れねェんだ。
途中フランキーが見張りの日とかもあったのに、ロビンはフランキーの所へ行かなくて、ナミを抱き締めて寝ていて……。狡ィと小さく言葉を落としたらそれにフランキーが笑って言った。
「麦藁、ナミにロビンを返せと言えよ」
「巫山戯な!ロビンがナミを俺に返さねェんだよ!」
「……だよな。明らかにロビンが小娘を構い倒してるもんなァ。もう既に、小娘から離れたら死ぬのかよって勢いだよな、ロビンは」
「あァ……今夜はフランキーの所に来るだろうと思ってたのによ。フランキー、フラレタのか?」
俺が首を傾げるとフランキーは不吉な事言うんじゃねェと怒り出して、何か変な事を言ったかなと少し考える。でもよ、フランキーとロビンが上手く行ってたら、ロビンがナミにくっ付いてる理由が無いだろ。
「麦藁……その無邪気な顔で残酷な事言うな。これでも気になってる。なんかした記憶はねェんだかな。……そもそも麦藁の見張りの日も小娘行ってねェだろが!」
「ンなもん、ロビンが〝そばにいて〟とか言えば1瞬で俺の事忘れるのは今更だぞ。ナミはな、ロビンとチョッパーには激甘なんだ!」
俺の言葉にそうだよななんて、フランキーは言って落ち込むから何かセイサンセーのある話をするべきかなと考える。でも、うーん、セイサンセーのある話って何だろう。
「そういやさ、オレンジデーって、フランキー知ってるか?」
そう言えばその話をした翌日から、ロビンはナミから離れなくなったなと思って言葉を口にしたら、フランキーがいや知らねェなんて言う。だから、ロビンに教えられたそれを説明する。
それにフランキーは成程なァなんて笑うと俺の頭に手を置いて、髪をぐしゃぐしゃにして来た。その顔が〝兄貴〟で、俺は兄貴って存在に弱いからついムキになる。
「なんだよ!?」
「小鳥達は俺達に、そのオレンジなんちゃらをやろうとしてるんだろうなと考えただけだ」
「……違ったら、どうすんだよ。俺は今すぐナミが欲しいのに。つらいんだぞ!ロビンにも言ったけど〝ナミの体だけが目当てなの?〟って冷たい視線向けられたんだぞ!」
「……若ェな。まァ……そうだよな、10代だもんな……。……まァ違ったら、当日無理矢理引き剥がせば良いだろ。俺も協力してやる。……いや、どっちにしてもロビンと小娘はその日1緒に夜は過ごせねェ」
「ん?」
「当日は、ロビンが見張りの日だ」
フランキーの言葉に俺とフランキーはニンマリと笑い合って、数日後に控えたその日を待つ事にした。まァ……ナミは悪くねェんだけどよ、俺は寂しい。
そうして迎えたオレンジデー当日。早朝にいつもの様にシャワーお浴びたらしいナミが出て来て、甲板で海を真っ直ぐに見詰めている姿を目撃した。
……綺麗だよな、ホント。海賊らしくなくて、でもきっとこの1味の中で誰よりも海賊として生きている期間が長いのはナミだ。
フランキーはゴロツキだったし、ロビンは海賊ではなくその知識が理由で手配されて来た。隠れて生きて来たロビンは、恐らく海賊としてはそれ程長く生きてねェ。
ワニのやつの所にいた間も、海賊じゃなくてえいじんと?とかって奴だったからな。ゾロは賞金稼ぎで、サンジはコック。
ウソップと俺は村の少年でしか無かった。……あ、ブルックが1番長ェのか。
でも、海賊船に乗ってても海を漂っていただけだって言うんだから、どうなんだろうな。それも海賊期間に数えていいのか?
「ルフィ?どうしたの?」
「起きたら、ナミが見えたから……見惚れてた」
そのついでに色々考えてたのは話さなかったけど、ナミはその頬を赤く染めて、恥ずかしそうに怒鳴る。……本当に可愛いな。
「もうっ!いつからそんなお世辞言えるようになったの?あ、ルフィ、今夜部屋に来てくれる?」
少し恥ずかしそうにしてナミがそんな事を言うから、俺はそれに1も2もなく頷いた。その直後にブルックが甲板に出て来てヴァイオリンを弾き始めるから、俺はそれに喜んでリクエストを繰り返していく。
いつもと変わらない楽しい時間を過ごして、そうしていたら夜になった。ロビンが部屋から出て行くのを待って俺が代わりに部屋に入ると、ナミが笑って俺を出迎えてくれる。
「ルフィ、あのね」
「ん?」
「シャツ、ありがとう。返すタイミング無くて、ごめんね。返すわ」
そう言ってナミは俺に紙袋を差し出すから、おうと言ってそれを受け取ると中にはシャツの他にオレンジ色の布が入っていて……。腰に巻くやつだと、取り出して気付く。
それと同時に蜜柑の香りがして、ナミが触ったりしてたんだなと分かる。だからついじっとそれを見ていたら、ナミがしどろもどろに言葉を紡ぎ始めて、布の端に蜜柑が麦藁帽子を被った刺繍があるのに気付いた。
……なんだ、この可愛い刺繍。冒険に行く日は身に付けられねェじやんか。
「黄色が良かったかなとも思うんだけど、今日はオレンジデーって日で、だからルフィにオレンジ色の物をって考えて、それで……」
「俺からも、あるぞ。ナミの誕生石でもあるって聞いたから、ちょうど良いと思ったんだ」
そう言って金の輪っかで1つの宝石を貫いてる感じのブレスレットを差し出せば、ナミは驚いたような顔で俺を見てから、ありがとうって笑った。それをすぐに腕に通してくれて、それから小さな声で呟いた。
「オレンジデーなんて誰も知らないと思ってたのに、皆が知ってるなんて驚いたわ。……カーネリアンのブレスレットね、大切にする」
言葉と共にそのブレスレットを愛しそうに撫でてくれたので、俺はそれに満足して笑うと布も嬉しいけどよと言ってナミに手を伸ばす。そんな俺にナミはキョトンとした顔を見せるけど、俺、干からびそうなんだよ。
「ナミを、くれよ」
「へ!?」
「ナミが、オレンジそのものなんだから、ナミをくれ。大切に、残さず喰ってやるから」
俺の大切な、愛しい蜜柑は日に当たり過ぎたかのように真っ赤に染まり、それから頷いた。それに気を良くして服を脱がせると、下着と言うか水着がオレンジ色で……。
「ナミも、そのつもりだったのか?」
「違っ……ロビンが、その、オレンジデーだからってこれ、くれて……」
「そっか、まァ……どっちでも同じだけどな」
そう言ってナミをベッドに押し倒せば、ナミは恥ずかしそうに視線を逸らすけどよ。……そろそろ慣れろよと思いながら、そっとその唇を奪うようにキスをした。
Happy orangeday……女はいつまで経ってもウブな反応を見せるから、男にもそれが時々伝染する。それにより欲望が抑制される事はなく、結局は煽っているだけなのだから女は当然今宵眠らせては貰えないだろう。