季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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ホワイトデー(悪魔の子ロビン)

 カレンダーを見れば、もうすぐホワイトデーだと言う事に気付いた。ナミに何か返さないとと考え始めたけれど、何も思い浮かばない。

 フランキーに相談してみようかしらと立ち上がったけれど、何時もの物置に居なくてどこに居るのかしらと首を傾げてしまう。近くに居るウソップに声を掛けてみると、多分蜜柑畑だとか言われて様子を見に行くと本当にフランキーが蜜柑畑にいた。

 当然のようにナミに手を伸ばして腰やら足やらを撫でいている姿に、1瞬胸が嫌な音をたてた気がしたのは何なのかしら?

 それをナミは気にしていない様子で笑いながら、何かを楽しそうに会話している。それからすぐに蜜柑に視線を移していたのに、フランキーの言葉に驚いた様な顔で振り向いたナミが、照れたように笑って何かを言った。

 まるで恋人同士の様なそれに、私の足は自然と止まってしまう。それからそっと能力で会話を盗み聞いてみると、フランキーの声が聞こえて来た。

 それに私は本を読むふりをして聞き入る。盗み聞きするのはもう習慣で罪悪感なんてこれ迄1度も感じた事が無かったのに、少し悪い事をしているような気持ちになるのは何故なのかしら。

 

 「ヒールなんかはいてるから、ナミは足が遅ェんじゃねェのか?」

 「あれ?フランキー知らないの?私多分この1味の中だと足早い方よ」

 「なら何で逃げる時だいたい麦藁に抱えられてんだよ」

 「そりゃ、ルフィの方がもっと……早いからよ。前は足だけは私の方が早かったのになぁ。ルフィの成長速度はハッキリ言って異常よ?」

 

 そんな会話から先程の照れたような笑顔はルフィを想ってのものだとわかり、ホッとする。……なんで、ホッとするのよ、ナミとフランキーに何かある筈無いのに。

 そっと空に視線を移すとサンジが飲み物を運んで来たので、それを有難く貰う。本の内容が少しも頭に入って来ないなんて、こんな経験が無かったから自分に戸惑ってしまう。

 

 「何か、落ち込んでますか?」

 「え?」

 「少し、表情が暗かったもので……甘い物でもお持ちしましょうか?」

 「そうね、ナミの分もお願い。2人で食べるわ」

 

 あえて言葉の1部をスルーしたのにサンジは気にした様子も無く頷いて、声を掛けておきますねなんて言ってくれる。フランキーとナミの会話は船の事や、新しい機材の話に移行していて二人共真剣な様子が見受けられれば既に疑う余地はない。

 

 「クーラーと洗濯機の使い勝手はどうだ?」

 「どっちも良い感じよ。注文通りだわ」

 「あんなもんよく思い付いたな」

 「本当はドライヤーも欲しいのよ。でも、温風が出るのは理屈が……」

 「あー、とりあえずどんなもんか話してみろよ」

 

 その会話は船に必要なものだと分かるのに、ナミもフランキーも特に何がある訳でも無いのに……寂しいと感じてしまう。それからサンジの声が入り、ナミはそれに嬉しそうにすぐに行くわと笑う。

 その直後に姿を見せたナミは私を見て、誘ってくれてありがとうと笑ってくれて、それに何だか癒された気がする。……あら?

 

 「髪に、少しじっとしてて」

 

 蜜柑の花弁がナミの髪についていて、可愛いわねと思う。それに笑顔でありがとうと言えるナミを見ていて、違和感に気付く。

 まさか、私、ナミがフランキーに取られる気がして嫌だったのかしら?

 逆ならナミを見た時不愉快になるはずなのに、ホッとしてしまうんだもの、そうなのかも知れないわね。そんな事を考えていたらナミが航海日誌を書きながら、問い掛けてくる。

 

 「ロビンと私はバレンタインの時に結果的にチョコ交換したけど、ホワイトデーも何か交換する?」

 「ナミからは宝石も貰ったからいらないわ。たまにはナミが受け取るだけでも良いでしょう?」

 「私は、いつもロビンに甘えてるし、守られてるもの。イベントの時くらい何かお礼したいだけなんだから、私からも受け取って欲しいわ」

 

 そんな事を衒いも無く言うナミを思わず抱き締める。だって、きっとこの子本気で言ってるのよ。

 貴女から向けられる信頼と友情に、どれだけ私が救われてるか……分かってないわね。ナミだけは、何があっても守り抜くと私は決めてるのよ。

 

 「もっと甘えて。夜、私となら眠れると言うのは甘えじゃないわ。だから、それじゃない形で甘えて欲しいの。ナミは何か欲しい物は無いの?」

 「皆の笑顔が1番の贈物よ。欲しいのは、皆が笑ってる未来かしらね」

 

 ……それ、私は、どうしたら良いのかしら。ナミは私に何をして欲しいの?

 にこにこしているナミに溜息を落とした所で、運ばれて来た飲み物とケーキに会話を中断すると、そのタイミングでサンジがナミにそれロビンちゃんを困らせたくて言ってます?なんて聞いてくれた。けれどナミはそれに小首を傾げているから、悪気はないらしいと知る。

 それからほぼ毎日、フランキーはナミに張り付いていて、年中ジャレている。それに対して寂しさで胸が軋む時があるけど、ルフィのように近づいて行く勇気は私には無い。

 ……どれ程望んでも与えられる事のなかった多くの物を、突然与えられるようになって戸惑ぅていた。それに慣れてきたばかりの今、私にはそれを失わない為にどうしたらいいのか分からないの。

 手にした事のなかった憧れていた大切なものを、手にして初めて失う恐怖を知ったような、そんな気がするわ。ナミもフランキーも、遠くに行かないで欲しいと、願ってしまうの。

 そうして迎えたホワイトデー当日。朝から珍しくナミがハンドクリームを塗っていて、贈られてきたんだったわねとそれを見て思う。

 

 「ナミは吸い付くような肌なんだから、そんなの必要無いんじゃない?」

 「ロビンみたいな美人さんには分からないのよ。……少しでも、ルフィに喜んで欲しいから、色々気を使ってるのよ、これでも」

 「なら、これも、受け取ってくれる?」

 「ありがとう」

 

 そう言って受け取ってくれたナミは、中身を確認して不思議そうにしている。それが少し可愛い。

 

 「スカーフよ。首とか胸元隠すのに使って」

 

 言葉にするとナミは真っ赤になって、小さくありがとうなんて言うから、私はこのままナミを部屋に閉じ込めたい衝動にかられる。でも、そろそろルフィに奪われるのは分かってるのよ。

 島が見えたぞォー!と叫ぶルフィの声にナミの表情が変わる。優しく穏やかなそれに、頑張ってねと内心で呟いて甲板に出て行くナミの背を見送った。

 それから部屋で過ごしているとフランキーが顔を覗かせたので、笑って入室を許可すれば何故か寂しそうな顔をしていてそれが気になる。まさか、ルフィが居ないと寂しいとでも言うつもりなのかしら。

 

 「何かあったの?」

 「ん?いや……ロビンは妬いてくれねェんだ……って何でもねェ!それより、ほら、これ返しとく」

 

 そう言って押し付けるように渡されたのはペンで、それはバレンタインに貰った筈が直後に回収された宝石が付けられた物。ただし改造の域を遥かに越えて、別物に作り替えられたのだと分かる。

 中にインクを入れておけば、インク壺が無くても書けるようになってるそれには、キャップもある上に持つ所がクリスタルで作られている。これならペン先も長持ちするし、インクも飛び出さないわ。

 

 「綺麗……」

 

 クリスタルに数種類の花を薄く削る形で描かれていて、思わず見惚れてしまう。この繊細な物を作ったのが、フランキーだとは信じられないわ。

 

 「……小娘に、ロビンの好きな花とか、ペンの構造とか聞いてみたら、硝子でペン作ると綺麗だとか助言されたんだよ。気に入ったか」

 「まさか、フランキー貴方、その為にナミに張り付いてたの?」

 「あァ、会話を聞かれてもバレないように、その辺は紙に書いてやり取りしてたがな。読むか?」

 「……いいの?」

 

 問い掛けるとフランキーはその顔は、卑怯だろなんて言うけど……何か変な顔したかしら?

 差し出された紙の束は確かにナミの文字で、丁寧に作り方を書いてあって説明も多い。硝子は綺麗だけど壊れやすいから宝石で作るのがオススメなんて書いてあるのを見れば、何故だか泣きたくなる。

 

 「……妬いて、くれてたのか」

 「え?」

 「無自覚か。まァ、ロビンにそんな顔させたと小娘に知れたら殺されそうだから、もう無駄に小娘には張り付かねェよ」

 

 何を言ってるの。この人。

 

 「ロビンに不安そうな、寂しそうな顔されて俺はそれが嬉しいってんだから、ダメな奴だと自覚もするって話だ」

 「フランキーがナミを好きでも、ナミはルフィしか見てないわよ」

 「……ロビン、今日は俺だけ見てろ。小娘に俺が妬きそうだ」

 

 フランキーの言葉につい笑えばフランキーが私を抱き締めて来る。唇が重なった時、触れた鼻が冷たくて笑ってしまう。

 本当に全てが鉄や機械になってるのね。なのに、脈打つ鼓動は感じられるのだから不思議なもの。

 貴方に名を呼ばれるだけで、自分の名前が愛しくなる。貴方に触れられただけで、肌が歓喜に震えて粟立つの。

 そんな事は口には出せないけれど、フランキーは分かってるとでも言うようにその瞳で愛を語る。フランキーの手が私を宝物のように扱うから、私は声を抑える方法が分からなくなってしまう。

 今更愛してるなんて言葉を使う事はそんなに無いけれど、貴方の存在に、その言葉や行動に私は満たされているのよ。貴方がいるから、私は明日という日が来る事が愛しく思えるようになったの。

 そんな想いを込めて、そっとキスをすれば野獣のようにフランキーはその瞳をギラつかせる。そしてその瞳だけで、私を欲しいと、必要なのだと伝えてくれた。

 ホワイトデーだからなんて本当は名目でしかなく、互いの吐息が重なり、肌が触れ合った時2人の想いは絡み合う。このまま溶け合ってしまえたらなんて、そんな詮無い事をどちらともなく囁いて数日傍に居られなかった寂しさを補うようにその熱を分け合い始めれば……時の経過など互いの愛に溺れる2人には、もう分かりはしない。

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