季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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このお話は、光源氏シリーズにあるクザンのオレンジデー作品のside作品となっております。


オレンジデー(スモーカー)

 東の海に配属されてから、月に1度手紙が届くようになった。俺宛とたしぎ宛にあるのだから、当然ヒナにも送ってるんだろうなと律儀な友人を思い出しながらそれを開く。

 文通と呼ぶにはおかしなそれは、俺から返事を1切出さない所に原因があるだろう。それでも月に1度、必ず届くナミからの手紙は季節の挨拶から始まり、最近こんな事があったと聞きましたと言うような事、そして、その月にある女が喜びそうなイベントについての情報だ。

 つまりは、さっさと幸せになれとアイツなりに応援してくれてんだろうな。俺が誰を好きなのかなんて教えた事もねェってのに、なんで知ってんだか……。

 煙が部屋に充満して行くのを感じながら、手紙を読み終えて、たしぎが飛び込んで来るのを待つ。今回はオレンジデー……か。

 

 「スモーカーさん!!」

 

 ほら、来た。嬉しそうにナミから手紙が来たと笑うたしぎを見て、良かったなと返せばたしぎは素直に頷くが……それから暫くたしぎの口からはナミの名前しか出なくなる。

 時々たしぎの暴走する正義感についてナミは苦言を呈しつつ、それでもたしぎを大切にしているのだからいい友人なんだろう。俺と友人関係を続けているのがそもそもおかしいんだよな、ナミは俺よりもたしぎと話が合うべきなんだから。

 

 「……出掛けるぞ」

 「はいっ!えっと、どちらへ?」

 「クザンに昇級したいと話したら、話を聞いてくれるって言われてな。クザンの奴も階級だけは高いから、少しは役立つだろ」

 「そんな事言って、スモーカーさんは仲良しさん少ないんですから、もう少し素直に楽しみだ位言ってもいいと思いますよ」

 「たしぎ、余計な事言ってねェで行くぞ!」

 「あ、はい!」

 

 何が〝仲良しさん〟だ。ったくよ……。

 親鳥の後をついて回る雛のように俺に着いてくるたしぎが、可愛くねェ筈があるか。上司と部下だと自分に言い聞かせても、俺と刀以外にたしぎが興味を示す事が不快な時点でどうにも手遅れだろうな。

 約束の島に到着すると相変わらず自転車に乗って現れたクザンと、その後ろに見慣れた髪色が見える。思わず数年ぶりになるそれに視線を向ければ、綺麗になっているなと思う。

 

 「久し振り。スモーカーは変わりないか?」

 「あァ、クザンはどうだ」

 「んー……まァ、弁当が地味に楽しみな程度で変わらねェかな」

 

 どうやら本当に変わらないらしい。弁当って事は、ナミが作ったのか。

 この容姿で料理出来んのかと思うと何だか不思議だ。何も出来ない、可愛いだけのお嬢様と言われた方が納得出来る。

 

 「……酒場でいいか?」

 

 俺の問い掛けに頷いてくれたクザンを伴い店に入れば、たしぎが呑めそうな物をナミが教えているのが見える。年齢は同じくらいの筈だが、だいたいいつもナミがたしぎをサポートしている気がする。

 

 「……俺のサポートしてるから、癖なのかもな。いつも気付くと誰かの世話してるよ」

 「……内勤は優秀らしいな。海賊とは基本、やり合わねェみたいだが」

 「そこは、おつるさん達が全力で守ってるからな。スモーカーも……ナミのもう1つの名前、知ってんでしょーよ」

 

 失えない世界の作家先生だもんなと思いながら頷けば、狙われて大変なんだとクザンは苦笑する。それからクザンと少し真面目な話をして、チラリとたしぎに視線を向ければクザンがそれに気付きナミへと視線を向けた。

 その刹那、視線で会話をしたかのように見えた。視線が絡んだのは明らかに1瞬だったのに、ナミはたしぎを誘い俺に声をかけて表へと出て行く。

 流石は大佐と言いたくなる実力をナミが有しているのは知ってるが、それよりもこの2人の信頼関係が少しでは無く羨ましい。たしぎが居なくなってから、クザンに恋愛事の相談なんて真似をした俺を、驚いた様子で見て来る。

 

 「あらら……。プロポーズじゃなくて、想いを伝えるって……まだ付き合って無かったのか」

 「クザンにだけは言われたくねェよ。付き合って何年手を出さなかったんだよ。今……ナミとは、上手くいってるみたいだな」

 「んー……4年くらいか?でも、俺は愛されてるからな。……聞きたいのか?俺がどんだけ甘やかされてるか」

 「甘やかしてるんじゃなくて、甘やかされてんのかよ!?」

 

 年齢差考えたら有り得ないだろう。甘やかして、守って、大切にしてるんだとばかり思っていたのに、まさかの甘やかされてる発言に声を荒らげる。

 俺は、甘やかしてやりてェんだが、どうだろうな。たしぎが甘やかしてきたら、それはそれで受け入れるんだろうか。

 

 「羨ましいだろうが、やらねェぞ」

 「いるか!あんな面倒な女!俺が欲しいのはたしぎだ!」

 

 思わず怒鳴った俺に、クザンは妙に優しい顔して笑うから居た堪れなくなる。……ナミと、似たような顔しやがって!

 幼い子供を見守る親のような眼差しで俺を見るナミに、辞めろと何度言ったか分からねェが、今度はそれをクザンにやられるとは。クザンは、その顔に見合う優しい声で言う。

 

 「……それを、そのまんま伝えてやんなさいな。それだけで上手く行くだろ」

 「おぅ……悪かった。怒鳴ったりして……」

 「ならお詫びにここはスモーカーの奢りだな」

 

 立ち上がるクザンに思わず、高給取りがケチんなと本音が漏れる。そのまま店の出口に向かうクザンを見れば、俺だけ残る訳にもいかねェかと勘定を置いてついて行く。

 途中で迷いなくオレンジ色のショールを買ったクザンに、今聞いたばかりで即座に贈物を選べるとか何もんだよと微かに尊敬の念を送る。その直後合流した俺達は少し会話をして別れたが、穏やかで優しい顔が基礎なのかと言いたくなるようなナミが、クザンには幼い顔で笑ったのを見て……俺もたしぎにとってのそんな立場になりてェと強く思う。

 

 「スモーカーさんは、ナミさんを好きなんですか?」

 「友人だからな」

 「そうじゃ、無くて……その……」

 「あ?あんな面倒な女に、それ以外の感情は持ち合わせてねェよ」

 

 俺の言葉にたしぎはでも、手紙取ってあるじゃないですかなんて言う。情報として欲しいものがいくつもあるから、残しているだけだ。

 それにしても、たしぎはなんだってそんな事を?

 問い掛ける事も出来ずに、だが、たしぎはそれ以上何も言わねェから、どうしていいか分からなくなる。……クザンは弁当食いたいからとか言って飯を断ってきたなと思い出せば、とりあえずそれを口に出す。

 

 「……飯、まだだったな。酒場に戻るぞ」

 「えっ!?はい!」

 

 少し進み、たしぎがついてきているのを確認してからまた歩き出す。離れるなと、そばにいろと、ただそれだけの言葉が上手く出て来ねェ自分に苛立ちながら戻り、とりあえずツマミの中でも、飯として食えそうな物を選ぶ。

 

 「あ、このスモークチキンのサラダをお願いします」

 

 たしぎが何かを頼んでいて、それを見ればどうやら俺の為らしい。……後で喫茶店にでも寄ってやるか。

 

 「はいよ、お待たせ。……彼氏さんに優しいねェ」

 「かっ……れし!?」

 

 注文した物を置きながら、店員が言ったそれにたしぎは言葉を詰まらせ、俺は絶句した。そこに店員が言葉を重ねる。

 

 「……違うのかい?あんた〝たしぎ〟だろう?さっきこの人が欲しい「おばちゃん、少し……黙ってくれねェか?」」

 

 咄嗟に遮ったのは、俺がさっきクザンに言った言葉を他人から伝えられそうだったからだが、たしぎを見るに遅かったらしい。真っ赤になっているたしぎに、畜生と内心で舌打ちしながらオレンジ色の花の飾りがついたヘアピンが入っている小袋を投げ渡す。

 

 「……やる」

 「あ、りがとう、ございます……」

 

 前髪でその顔が隠れねェようにと渡したそれを見て、たしぎが頬を緩ませた。そして嬉しそうに使っていいですかなんて聞くから、頷く。

 

 「使わねェなら、ンなもんゴミと同じだろうが」

 「ありがとうございます!大切にします!」

 「……たしぎ」

 「はい?」

 

 髪にそれをつけながらたしぎが俺に返事をする。どうして髪飾りをくれたんですか?とか言うかと思ったが言わねェ所に、何かあるのかと少し考えながら見れば、何かに気付いたように胸元から物を取り出した。

 ……ナミに変な影響受けんな。胸は物を仕舞う場所じゃねェ!

 

 「スモーカーさんに、葉巻入れです。その、私も、スモーカーさんに、オレンジの、物を……。あ!だ、大丈夫です!部下として、大切に思って下さってるのは分かってますし、変な誤解とかしませ「誤解じゃねェ」」

 

 たしぎの反応と言葉に、胸が期待に震え咄嗟に言葉を遮っていた。伝わるか、今なら。

 

 「スモーカー、さん?」

 「部下としてじゃなく、女としてのお前が大切だから、オレンジの物を用意した。俺が用意したのは……たしぎの分だけだ」

 

 渡された葉巻入れを即座に手に取り、中に自分の葉巻を入れながら、たしぎを見る。たしぎは顔をじわじわと赤く染めて、それから……大粒の涙を零した。

 その泣き顔が他に見られねェように、たしぎを煙で囲って抱き寄せればその小さな体が微かに震えている事に気付く。これは……YESって事で、いいだろ?

 葉巻を灰皿に置いて、俺は煙で全ての視界を遮断してからそっとその唇に自分の唇を重ねる。何も知らないらしい無垢な反応に、この歳でキスも初めてかと少しばかり嬉しくなった事を誰にも教えるつもりはねェ。

 Happy orange day……数年越しの想いは絡まり、漸く1本の糸となる。この糸が切れないように、きっと2人はこれから先迷いながら、間違えながら、ゆっくりとそれを織って行くのだろう。

 いずれは大きな布になる、その日まで。2人には、冷やかしの声さえ、今は届かない。

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