バースデー(麦わらのルフィ)
昨夜からサンジが何か忙しそうにしてて、ロビンが何だか楽しそうにしてる。チョッパーやウソップ、フランキーは真剣に何か作ってた。
んで、見張りも終わったからと降りたらゾロに会ったから聞いてみたら、今日がナミの誕生日だって言う。……え?
誕生日って、嘘だろ。俺何も用意してねェ!
と言うか、今まで誕生日なんて聞いた事も無かった。俺は……ガキの頃色々貰ってたってのに……!
そんな時、歌声が聞こえてきた。また、何か歌ってるんだなって思ったけど、聞こえて来るそれがそのままナミの歌だったから……嘘だろって思う。
帰りたくなったのかな。ナミ、俺の傍に居ろよ。
そう思って背後から抱き締めたけど、全然抵抗しない。ナミは、無防備過ぎると思うんだ。
そんな事を思ってた俺に、ナミは甘えるように擦り寄ってきて、何だか猫みたいだと思う。……甘えてくれるなら、まァいいかなんて思わされそうになるけど、やっぱり不安なんだよな。
「帰りたくなったか?」
「何処に?」
キョトンとした顔で振り向いたナミは、本当にわかってない様子で……でも、この賢すぎる恋人のそれが、俺を宥める演技じゃないとなぜ言える?
メリーで1人去って行ったあの時。ナミは俺を抱きしめて、二度と会うつもりも無かった癖に〝またね〟って笑っていたのに。
あの時、本当は生きるつもりがなかった事を思い出しちまう。ナミが向けて来るその優しい笑顔に、何度俺は騙されただろうか。
だからこそ、俺はナミの唇を塞いでしまう。もう、今は何も聞きたくなかった。
俺のそれを受けて、ナミは優しく俺の頭を撫でる。大丈夫とでも言わんばかりに。
そっと唇を離せば、ナミが静かに笑った。なんか、ガキ扱いされてる気がする。
「……ばかね……」
「ん?」
「私の帰る場所は、ここだけよ」
無意識で、ナミを抱き締める腕の力が強くなる。ナミ……お前の言う帰る場所は、麦藁の1味か、それとも俺の腕の中か?
そんな事を聞ける筈もなくて、でも、どちらにしても俺がナミの帰る場所なんだって思ったらなんか……泣きそうになる。それを誤魔化すように、俺はナミをただ、強く抱き締めていた。
そんな時、初めて聞くようで、何処か懐かしい声が微かに聞こえて俺は顔を上げる。……誰だ?
その時ナミが表情を変えた。そう、俺達兄弟を見詰める姉の顔になったんだ。
それにまさか……と、思う。でも、ナミが笑顔で手を振るんだ、姉の顔で……。
「……サボー!!」
「ナミ!ルフィもいるかー?」
「いるわよ、ここに!」
……サボ……?
確かにナミから生きてるって、聞いてはいた。でも、本当に会えるなんて思ってなかったんだ。
ずっと、あの時死んだと思ってた。大好きな、兄ちゃんなんだ。
もう、二度と会えないと思っていた。優しくて、暖かい、俺の……自慢の、兄ちゃんなんだ。
軽い感じでサニーに乗り込んで来た青年は、でも言われてみれば確かにサボに見えて……俺は何も考えずに腕を伸ばして絡み付いた。声は言葉にならなくて、伝えたかった事、話したかった事、そうした多くの物が渦巻く。
ただ、溢れる涙をそのままに、必死で伝えたかったぐちゃぐちゃした事を音にしようとしていたら、サボに背中を叩かれて、少し体を動かされた。そして、困ったような顔で俺を見て、笑ったんだ。
「ルフィ、泣き虫は相変わらずだな」
「だっで、サボ……!ザボォー!!」
俺が泣いてる間にナミは皆にサボを紹介したり、隣にいた女の子と挨拶したりしてその場を取り仕切ってくれてる。今日はナミの誕生日なのに、俺はなんにも出来てなくて、更には……。
「ナミ……ルフィは相変わらずだな」
「えぇ、可愛いでしょ」
「ナミさんの弟だってんなら、ちょっと手伝え!仕上げが待ってんだ」
「何かあんのか?」
サンジがサボを呼ぶと、サボは素直に歩き出してからサンジにナミの誕生日だと教えられたらしく、その顔を憤怒に変えた。どうしたのかと思ったら、サボがナミの肩を掴んで叱り始める。
それな、俺も思った。俺は色々貰ったぞ……肉とか。
「これ迄1度も俺達に祝わせなかったろナミお前!何で教えなかったんだよ!?」
「ふぇ!?た、タイミング?」
「姉の誕生日くらい、祝わせろよ!!知ってりゃ何か持ってきたってのに」
「あら、もう貰ったわよ?」
「へ?」
俺達もそれにはへ?ってなる。ナミは、嘘ついてる様子もないけど、なんだ?
「サボが逢いに来てくれたわ。ルフィも泣いて喜んだ!それに、サボは彼女まで紹介してくれたのよ。最高の誕生日プレゼントだわ!」
「わ、私、サボ君の彼女じゃなくて!仲間で……!」
「サボじゃ、駄目?」
「駄目じゃ無いのが駄目って言うか……!あー!!」
慌てた感じで何か言ってた女の子は、ナミに誘導尋問みたいにされて赤くなって混乱した。……あれ、サボもなんか赤い。
……付き合ってなかった、のかな?
なら、うん、良かったな。サボ。
にしても、何だってナミは自分の事には気付かねェのに、サボと彼女には気付けたんだろう。そうして少しすると始まった誕生日のパーティは、本当に盛大になった。
贈物に驚いて、泣きそうな顔で笑うナミは、祝われる事に慣れてない感じがする。何か……例えば海月でも捕まえてあげたら、それだけでもナミは喜んでくれそうだなと思う。
だからこそ、適当な事はしたくなくて、どうしたらいいかなって少し離れて様子を見ていたら、サボの彼女が寄ってきた。なんか、楽しそうな様子で。
「やっほ!ルフィ君だよね。血は繋がってないんだって、サボ君から聞いてるよ。でも、兄弟なんでしょ?」
「おう!自慢の兄ちゃんだ!サボはさ、昔っから優しくて、いつも怒ってばかりのエースから守ってくれたんだ。……ずっと、死んだと思ってたけど、生きててくれた!」
「……ルフィ君に会いたいから。そんな理由でこっちの用事全部1人で引き受けて来たのよ。サボ君。そうしたら〝偶然〟会えるかもって」
「サボらしいなー!サボは、案外寂しがり屋なんだ。俺に会いに来てくれたんだな」
俺の言葉に、少し寂しそうに彼女は笑ってサボに視線を向ける。そして、ナミを見て瞳を揺らす。
それに、ん?って思う。ナミがどうかしたのか?
「ナミちゃん、に、逢いに来たのかも知れないわよ?」
「……そりゃ、サボはナミの事唯一本気で姉として見てたからな。会いたかったと思うぞ?」
「え?」
「俺もエースも、ナミをガキの頃から俺の女って決めてたけど、サボだけはナミを姉として慕ってた。たまに、母ちゃんがナミなら良かったって言ってた位だからな」
「へ?」
「ナミはさ、サボが唯一〝甘えられる〟相手なんだよ。いつも俺達を抑えたり叱ったりして、良い兄貴だったから。……同時に、サボだけがナミを叱ってた」
「……甘え……」
「ナミは無茶ばっかするから、サボが叱ってくれなかったら多分、俺とエースの為に死んでた。それもあってさ、ナミは俺の事弟にしか見てくんねェから、苦労したんだぞ。恋人になんの。……サボは、えっとコアラ?だっけ?お前の事好きじゃんか」
その瞬間、真っ赤になったサボの彼女は、視線を泳がせて小さく呟く。本気で、姉として……?って。
それを聞いて思う。ダメだな、サボの奴って。
彼女を不安にさせるような慕い方したら、ナミも悲しむぞって。そう思って視線を向けたら、サボとナミはなんか楽しそうに話して、時々真剣な顔で話して、昔っから変わんねェなって思う。
昔から、この距離だった。2人は真剣に色々話してて、俺とエースは狩りして帰るとある意味で合致した2人に近付きにくくなってたんだ。
でも今はもう違う。失う事を知ってる俺は、遠慮なんかもうしねェ!
「ナミー!」
どんな時でも、呼びかければナミは昔から1番に俺を持って来る。他の何を放置しても、俺を優先するんだ。
「ルフィ?どうしたの?」
「俺、ナミへのプレゼント決めた!」
「プレゼント?」
「おう!俺をやるよ!だから、部屋行こう!」
その瞬間真っ赤になったナミが、それ私があげてるじゃないなんて叫んだけど、気にしねェ。サボは爆笑して、ゾロとサンジは苦笑して、ナミは真っ赤になってる。
チョッパーは楽しそうだなって言ってて、ロビンは程々にねなんて無茶を言う。フランキーはスーパーだなって言って、ブルックはバースデーソングを演奏し続ける。
多分これでいいんだ。ナミは俺のだし、だから、俺はナミのなんだ。
「ナミ、愛してる。産まれてきてくれてありがとう!」
「ルフィ……?」
「今日はナミの産まれた特別な日だろ。だから、産まれてくれてありがとう。俺達を愛してくれて、ありがとう」
俺の言葉にナミは驚いた顔をしてから、静かにその瞳から涙を溢れさせる。ナミは昔っから変わらずに、俺の、大切な女だ。
何を抱えてても、何を隠しててもいいよ。ナミが俺の傍で生きててくれるなら、他にはなんにも望んでねェからさ。
「ナミ、2人になろう」
そっと抱きしめて言えばナミは頷いてくれたから、俺は皆に視線を向けてにししって笑う。それに皆が、明るく笑う。
主役奪うなよなんて言いながらも、結局皆もナミが笑えばそれが正解なんだ。だから俺はナミを女部屋に連れ込んで、俺がナミの涙ごとその全てを貰い受ける。
Happy birthdayナミ。俺に世界を教えてくれた愛しい女。