俺達がナミと出逢ったのは、偶然と言う名の必然だった。手紙でサッチの事を教えられていた為に、サッチの命が助かり、けれどもエースは飛び出しちまった。
それを追い掛けていた時に、エースの故郷へ行ってみようとの話になったのが今思えば出会いの切っ掛けだったんだろう。1人で船を動かす少女に、俺達を見て驚く姿に庇護欲が刺激されたのは間違いない。
村を牛耳っていた魚人を縛り上げ、親分に連絡後サッチを救ってくれた手紙の送り主でもあったナミを引き取ったのは、自然な流れだろう。そうして連れて来た際に蜜柑の木をモビーの上に植えてやったのは、サッチの命を救ってくれた礼のつもりだった。
エースを共に追い掛ける中でナミと恋人と呼ばれる関係になった後で、まだ無垢な体であると知ればどうしたら良いものかと考えさせられたがな。色々ありエースの先回りを出来た上に、エースより先にティーチと再会し落とし前をつける事に成功して暫くの後、ナミの誕生日が近い事を知ったんだが……。
そう、問題はここからだ。家族を愛し、愛され、守り抜いたナミが、まさか誕生日を祝われた事が無かったとは思わなかった。
恋人と呼ばれる関係になって最初の誕生日だ。歳若い恋人を喜ばせてやりたいと思って、何がおかしいだろうか。
「エース、ナミの好きな物はなんだ?」
「……家族?」
「物質で頼む」
「……蜜柑?」
聞く人選をミスしただろうか。深い溜息が落ちると、エースが楽しそうに笑った。
「ナミの相手が親父じゃ無けりゃ、諦めなかったんだけどな。親父じゃ俺勝てねェし、ナミが惚れるのもわかる。俺も女なら惚れて飛び付いたと思うからさ」
「エースが女ならこの船には乗せてねェぞ」
俺の言葉にエースは驚き抗議してくるが、戦闘員の女は乗せねェと何度も言ってるだろうに。そんな事を思いながら、息子達にもそれとなく根回しをして誕生日の宴を開いてやろうと決める。
だからと言って、赤髪の小僧を呼んでやれるだけの余裕はまだ俺にねェがな。……呼べばナミは喜ぶだろうが、その分今夜俺が嫉妬に狂って、間違いなくナミを壊しちまうだろう。
その時、甘やかな歌声が聞こえて来た。蜜柑の木を世話でもしているのだろう、潮風に乗って蜜柑の香りも漂って来たのが、その証拠だろうと思う。
視線を向けると、優しく微笑みながら手を動かし続けるナミが見えた。歌声は優しく、歌詞も可愛らしいと言えるが、同時に帰郷したいと言われている気がして胸が痛む。
水をやり終えたのを確認してナミを抱き締めれば、即座に甘える猫のように擦り寄る。俺にしか見せない姿だと知っているからこそ、我儘の1つも言わない恋人が心配にもなるのだ。
「帰りたくなったか?」
「何処に?」
きょとんと首を傾げる無防備な姿に、気分は飢えた狼だ。この歳で、こんな事になるとは考えても見なかった。
だが……それも悪くねェ。蜜柑の木よりも蜜柑の香りを強く放つ女に、俺は唇を降らせる。
飢えた獣は貪る事しか出来はしねェんだ。喉の奥までいっぱいに舌を差込み、堪らず喘ぐナミの声さえ奪う勢いで唇を吸う。
それだけで堪らないと言わんばかりにナミは両腕を俺の首に回し、その口付けを深くする。渇き切った心を癒せるのは、それだけだとでも言わんばかりに貪り合えば、ナミの体がピクリと反応した。
もっと……もっと欲しいと、魂が震える。いくら手にしても足りないと心が叫ぶのだ。
舌を深く絡め、唇を噛み合い、激しく音を響かせながら互いの蜜を吸い続ける。と、抑えきれぬ吐息がナミから漏れた。
「んんっ……!」
俺の力だ。加減していても、抱き締められているナミに痛みが無い筈もない。
だと言うのに、ナミはそれを当然のように受け入れる。そうと分かっていて、舌を凶器のように喉の奥まで刺し貫き、己の不安ごと全てナミにぶつける。
それを受けて尚、ナミは悠然と微笑んだ。緩やかに動く唇から、視線を外せなくなる。
「……ばかね……」
「ん?」
「私の帰る場所は、ここだけよ」
……あァ、壊しちまいそうだ。そう思いながらも、俺はナミを抱き締める自らの腕から力を抜く事が出来なかった。
そんな俺とナミにハルタが呆れたように声をかけてきて、準備が整ったと言う。それにナミは首を傾げるから、そっとその体を抱き上げて甲板を見渡せるところへと移動する。
その場に見えるのは、ナミの誕生日を祝いたい自称兄と姉達だ。自分の誕生日を祝われた事が無いなんて事が、この船で許されると思うのが間違っている。
「ニューゲート、なにこれ?」
「ナミの生まれた特別な日を祝う為に、自ら志願して集まった暇人達だ」
俺の言葉に暇人とは酷いと息子達の声が響く。それに重なるように娘達がナミを解放しろと騒ぐが、俺は胸元からナミを離すつもりはねェぞ。
そんな俺の様子にビスタが笑いながらグラスを手に近付いてきて、ナミに小袋を手渡す。それを不思議そうに受け取ったナミに、ビスタがおめでとうと言えば漸く自分へのプレゼントだと理解したらしく焦って礼を述べていた。
その様子が可愛かったのか、自称兄達が群がりナミは俺の腕の中からそれを受け取る。持ちきれなくなる頃それを俺が奪い取り横に積み上げれば、ナミが困ったような顔をした。
「置き去りにしたら悪いわ」
「悪くねェ。全員からのそれを受け取りきれるか。それにな……」
言葉を切れば、不思議そうに首を傾げるナミ。その額にそっとキスをしてから、適当な果物をナミに渡す。
「主役が料理を何も食えねェ勢いで渡してきた奴らの事なんぞ、気にするな。……ナミお前、少し痩せたぞ、しっかり食え」
「そ、れは……!ニューゲートが、休ませてくれなくて、食事する体力が残らないから……!」
慌てた様子で口にした言葉に、その場の空気が1瞬凍り付いた。……まァ、そりゃァ、俺が悪いな。
なら仕方ねェ。償わせて貰おうか。
「なら、しっかり食わせて、責任取ってやるよ」
「へ?」
「ナミ、ほら。あーん」
俺の言葉に無意識にか唇を開いたので、その中に苺を投げ入れる。それをモグモグと食べながら首を傾げるナミに、次は何にするかと適当に近くにある皿を引き寄せた。
するとそのタイミングで、イゾウが楽しそうに可愛らしい物の多く乗った皿を差し出して来た。それを受け取ればナミがギョッとした顔をしたが、成程しっかり食わせてやろう。
「果物とデザートだ。これならナミも喜ぶだろ?」
「悪いな、イゾウ」
「栄養が偏るから、メインも食わせろよぃ」
そう言ってマルコが持ってきたのは、1口サイズのおかず達だ。焼売や餃子等が並んだその皿にも、同じ物は1つとして乗っていない。
「ありがとな、マルコ」
そう言ってナミの口に1つずつ入れていけば、ナミは疑う事無くそれを食べて行く。時々幸せそうに頬を緩めるから、どうやら好きな味の物があるらしい。
「自分で食べられるのに」
「嘘つくな。ナミは、毒味されてねェ物は、基本的に食えねェだろ」
俺はそう言いつつ、ナミにグラスを持たせて酒をそれに注いでやる。残ってる酒瓶に俺が直接口を付けると、ナミから狡いなんて声が聞こえたが、体のサイズを考えろ。
俺と張合うんじゃねェよと笑うのも仕方ない事だろう。俺が食わせれば食うなら、俺が体重を減らしちまった分は俺がしっかり責任を持って食わせてやろうと、ナミの口に食べ物を入れる。
それによりナミは無防備な顔でそれを食べながら、少し恥ずかしそうにしている。その姿に、たまにはこうして食わせるのも楽しそうだなと、小鳥の餌付けでもしてる気分でそれを繰り返して行く。
「も……むり……」
夜2人でいる時は良く聞くその言葉に、苦しそうな様子に、部屋に連れ帰りたくなった。だが明らかに常人の1人前に満たない量で限界を訴えたナミに、少しばかり心配にもなる。
酒を注いでやりながら、仕方ないかと皿の残りを俺が平らげる。酒だけは豪快に呑んでいるから、体調が悪いという事は無いだろう。
甘えるように俺の胸に体を預けるナミをそっと撫でながら、息子達に視線を向けると息子達もまた楽しそうにこちらに手を振ったりし始めた。その視線の先にナミがいるのは当然だが、それが少し気に入らなくてコートの中にナミを隠せばブーイングが上がる。
俺の胸の中で小首を傾げるナミに、そっと笑いかけながら、俺は素直な気持ちを告げる。ただ、愛していると。
「す、少しは、恥じらいとか、照れてみせるとか、ないの!?」
真っ赤になったナミに、俺は可愛いとは思うが理解は出来ない。何が恥ずかしいのか。
「真実を口に出す事に、なんの恥がある。ナミは可愛い。そして俺はナミが愛しい。これは、変わらねェ真実だ」
その言葉に息を飲むナミに、俺は息子達の視線からは隠れているのを言い訳にそっと触れる程度のキスをする。それ以上やれば、今夜もまた、寝かせてやれなくなりそうだからな。
Happy Birthday ナミ。成長と共に美しさを増すだろう恋人に、男は戦慄に似た想いを抱きつつその小さな体を愛おしげに見詰めていた。