2度と会えないだろうと思っていたクルーの姿を見て、内心ホッとしたのはやはり信頼出来る相手だからなのか。その奥からコラさんが姿を見せて、少し怒っているような顔をしているから後で説教されるのは覚悟しないといけないかと思う。
麦藁屋の1味に合流したら、何故か黒足屋が居なくなったと言う話になり、俺が怒り狂っているといつの間にか打ち解けたらしいナミが俺のクルーと仲良く会話をしていた。だが知らない間にナミの衣装は、見慣れない物に変わっていた。
いつものようなドレス系ではなく、和服に。素肌が見えないというのは逆にそそられるものがあるなとそれを見ていると、ふわりと笑ったナミが口を開いた。
「ローちゃん、ロシー、今話してたんだけど今夜は宴になるみたいなの。それでね、ついでだから〝七夕祭り〟をやる事にしたから、ちょっと来て」
ローちゃんは俺だから分かるが、ロシーって誰だよと思えばコラさんが迷わずにナミの元へと歩き出している。まさかと視線を向けるが、今の所明確な答えは無い。
だが、自分が呼んだ呼び方が原因で俺がこんなふうに考えているとは気付かないナミは、平和そうな笑顔で七夕祭りとやらについて説明をしてくれる。単純に願い事を紙に書いて吊るした後、燃やすイベントらしい。
その説明の直後ふと横を見ればコラさんが当然のようにナミを抱き締めていて、ナミもそれを受け入れて何故か笑っている。この2人付き合ってるのかと思ったが、どうやらそうではなく再会の挨拶らしい。
「あの2人、ガルチュー好きだから」
ベポの言葉に俺は溜息を禁じ得ない。そう言えば初めて会った時から、コラさんはナミに優しかったな。
そうやって思い出せば、ずっと探していたのもあの頃から想いを募らせていたという理由であると考えられる。それは正直……厄介だ。
他の誰が相手でも気にせず奪い取れるが、相手がコラさんでは正攻法でやり合わない訳にもいかないだろう。まァコラさんが相手でも譲るつもりは無いが……それはお互い様だろうし、ここで手を抜く方が失礼だろう。
「ナミ、それは全員参加なのか」
「出来るならね。ここは襲われたばかりだから、少しでも気晴らしして欲しくて提案したってのもあるから、何か重要な案件でも無ければ参加して欲しいわ」
その言葉でどうやらナミは主催者側らしいと気付く。このお人好しは誰にでも発動するものらしい。
深い溜息が落ちたのも仕方ない事だろう。それを受けて何故かナミは嬉しそうに微笑むと、ありがとうと言う。
今の溜息が了解の意だと何故分かったんだか。そう思っていたら好きな色を選んでくれと紙を差し出され、それに願いを書くらしいと理解した。
コラさんは1番上にあったのを貰い、それから真剣に何か悩んでいる様子を見せるから、気が抜ける。俺も受け取りはしたが、何を書けというのか。
ドフラミンゴを倒すという大きな目標は達成したと言うのに、他にもまだ何か願えと言うのか。コラさんが生きていて、仲間が無事で、ナミとも生きで再び間見える事が出来た。
これ以上望む事など……。そうか、この状態が続く事を願えば良いのか。
そう思って書こうとしたところで、それはどうなんだと思って動きが止まる。見ればコラさんも似たような動きをしていて、それをナミは楽しそうに見ている。
何か考えるきっかけになればとナミに話しかけようとして、何と言えば良いのか戸惑う。そこでコラさんが先に口を開いた。
「ナミの衣装はワノ国の物と似てるが、高くなかったか?」
ワノ国は鎖国している為どうしても物が出回らず、高値で取引される事になる。それを考えれば、その質問もおかしくはないか。
「ああ、布買って作ったから、安く済んでるのよ。七夕祭りなら浴衣かなって思って張り切りました!」
……時々ナミが同じ人間なのか疑わしくなる。作れるのかと言う疑問と、七夕祭りだから和服と言う謎の繋がりで混乱する。
これはワノ国の祭りなのか。だとしたら何故ナミはそれを知っているのか。
「……似合わないかな。和服はクビレが無くて、胸がなくて、黒髪の方がやっぱり似合うよね」
「1人で納得するな、似合っているが、作ったという単語でそちらに気を取られていただけだ」
言われてみると、有名な女の中に胸の小さいヤツはいないなとそんな事を思う。そうなると基本的に、有名人は全員似合わない物だと言う事に繋がるのではないだろうか。
そんな事を考えていたらふと祈りたい事が脳裏を過ぎた。なので、ペンを手にそれを書き留める。
〝クルーのバカとドジが治りますように〟
俺の能力でも治せない病だからな。祈るのに丁度いいだろう。
突然思い浮かんだ名案を書いてからナミに声を掛ける。
「書いたがどうしたらいい?」
「それなら、広場に笹竹があるからそれにつけて欲しいけど……そうね、案内するわ」
そう言って当たり前のように俺の手を掴むナミは、ゆっくりと手をひきながら歩き出した。無防備で無邪気、それでいて俺を子供扱いする女……か。
導かれるままに到着した所には、笹竹が大小様々に置かれているのが見える。それ自体が既に飾りと化していて、華やかな印象を与える。
宴開始まで目を楽しませ、それぞれがその飾り付けに参加する事で場を盛り上げ、手間に感じさせない。最後には燃やして片付けるとなれば、金も手間も掛からないいい案だと言えるだろう。
「9月9日の重陽の節句はもう、知られてすら居ないけど……七夕まではちゃんと残ってる。廃れさせるのは勿体無いわ」
隣でナミが呟くように言った言葉は、聞き慣れないものだったが、どうやら他にも似たようなものはあるらしい。笹竹に短冊を取り付けて隣に立つナミを抱き寄せれば、相変わらず蜜柑の香りが漂う。
そこへコラさんが手を伸ばして来てナミを俺から奪い取ると、自らの後ろへと匿うように隠した。状況を飲み込めていない様子でナミは、その瞳を大きく見開いている。
「ロー、無闇に触るな」
「コラさんがどう思おうと、俺はこれからも手を出し続ける」
既に唇は奪っている。恋人の有無も、ナミの気持ちも無視したものだったが、それは今後何があろうと変わらないだろう。
俺とコラさんが睨み合う中で、ナミはフラリと俺達から離れると笹竹に自分の短冊を取り付け始める。この鈍さもまた、ナミらしいと言えばらしいのかもしれない。
「ロー、奪うだけが愛じゃねェって事くらいわかるだろう」
「コラさんがどう勘違いしてるかは知らねェが、俺は海賊だ。欲しいと渇望した相手を力で奪って何が悪い」
あの日からずっと想ってきた。囚われてきた。
あの暖かく優しい温もりを欲する事に、なんの問題があると言いたいのか。コラさんだって本当は分かっている筈だ。
手放せば2度と触れられないかも知れない。そんな恐怖がいつも俺を包んでいる。
「ロー……。大切なら、奪うだけじゃダメだ」
「見守るだけなら、他の奴に取られる。俺は、やらずに後悔するつもりは無い!」
コラさんが優しいのは知っている。恐らくはナミも同種だろうから、共にいれば相性もいいだろう。
だが、俺はどちらも側に置いておくと決めている。特にナミは俺の女として。
「ローちゃん、ロシー、喧嘩しないのよ。はい、飲み物」
俺とコラさんが喧嘩していると判断したらしいナミが当然のように飲み物を差し出してくる。それを思わず受け取れば、温かい。
コラさんはそれを手にどこかへ座ろうとするが、それを見ていたナミが咄嗟に1度渡した飲み物を回収して椅子へ案内している所から、ドジっぷりは理解しているらしい。座ったコラさんに飲物をしっかりと持たせてから、熱いから気を付けるようにと散々注意している姿は既に母親だ。
それからくるりと俺の方を向くと当然のように手招くから、無言で近付くとその隣に座るよう促される。座った俺の頭を撫でて、穏やかな表情でクスクスと楽しげに笑う。
「2人とも疲れてるのよ。温かいものは気持ちを楽にするから、少しゆっくりしたらいいわ。また、夜にね」
そう言って喧嘩の原因が立ちされば、コラさんが困ったように笑ってからゆっくりと口を開く。
「……ありゃ、相当手強いぞ、ロー」
「んな事はわかってる。それでも俺は、諦めるつもりはねェんだよ」
飲み物を飲んで見れば妙に美味しくて、確かに心が多少和むのを感じる。それからナミの事を視線で追いながら、言葉を口にする。
「1番の強敵は、ナミ本人だろうが、それでもコラさんも俺は十分脅威に感じている。だから、ナミに関しては敵と看做すからな」
「……了解、キャプテン」
コラさんの言葉に俺はふと肩の力を抜く。それでも戦いは、今始まったばかりだ。