カレンダーを何度も確認して、次の任務迄の時間確保が出来た状態である事に満足して笑えば、同じ船にいる仲間達が疲れ切った顔で行くなら1人で行けと言い出した。……何故だ?
俺の姉であるナミはともかく、弟のルフィには皆会いたいだろう。なんと言っても、世界で1番可愛い存在だぞ。
そう思って首を傾げると、コアラだけが俺と共に行くと言ってくれる。それにそうだろうそうだろうと頷き、肩をさり気無さを装って抱けば微かに赤くなるコアラに喉が鳴る。
少しは、俺を意識してくれてたりするのか?
そんな事を聞ける筈もなく、上手く想いを伝えきれない俺自身の情けない現状が、触れる指先を震わせる。そして、借り受けた小舟を使って革命軍で共に過ごす事の多いメンバーで写した集合写真を、久々に会うからと土産として持って行く。
俺を心配してくれてるだろうナミなら、この写真を素直に喜んでくれる気がするんだ。その為に四つの海に居るべきメンバーと、ドラゴンさんを呼び集めたと知った時に全員の顔が怒りに染まり身体が震えたのは、ご愛嬌だろう。
ドラゴンさんとコアラだけは、呆れたような視線を向けて来るだけで終わったが。そうして撮影した写真を見たドラゴンさんが、これの価値は相当な物だぞと笑いながらも、可愛い写真立てに入れてやれよと笑ったので、それに頷いて用意しておいた。
そうして現在目的地である船に向かって来たのだが、あの時とは船が変わっていて色々あったんだろうなと思う。そうしながら、大声で微かに見える人影を呼ぶ。
隙間なくくっついているその影を見れば、ルフィがナミを手に入れたのだとわかる。そうなると、エースには残念だなと小さく笑っちまったが。
「サボー!!」
「ナミ!ルフィもいるかー?」
「いるわよ、ここに!」
見えていて聞いたんだが、姉の顔で優しく答えてくれるナミにやはり愛しいと思う。愛されてるのが、その表情や声から伝わる。
ヒョイっと船に乗り込むと、涙を拭う事もしないで飛び付いてきた弾丸のようなそれを受け止めようとして、顔に貼りつかれちまえば流石に呼吸が……!
背中を必死で叩く俺に気付かないのか、大粒の涙どころか滝のような涙を落とすそれを僅かにずらして呼吸を整える。だがそこには、何を言ってるかさえ定かではないルフィがいて、それを実感すれば自然と頬が緩んじまう。
でもな、そんな所も含めてルフィらしいと思えるんだ。何を言ってるかは分からないが、俺を呼んでいるのはわかる。
「ルフィ、泣き虫は相変わらずだな」
「だっで、サボ……!ザボォー!!」
死んだと思ってたと言われればそうだよなと思う。それでも、ナミから生きてるとは言われてたんだと言われれば、なんだってナミは俺を俺だと即座に理解したのかと本気で思いつつ視線を向ける。
それに微笑みを浮かべたナミは、コアラと挨拶を交わしたり、クルーの紹介をしてくれていて、ルフィがやるべき事を簡単に纏めて行っちまう。この様子では、ルフィとナミのどっちが船長か分からねェな。
「ナミ……ルフィは相変わらずだな」
「えぇ、可愛いでしょ」
「ナミさんの弟だってんなら、ちょっと手伝え!仕上げが待ってんだ」
「何かあんのか?」
金髪の青年が放った言葉に首を傾げた俺に告げられたのは、今日がナミの誕生日だと言うもので……誕生日?
そう言えば1度も祝わせて貰った事がねェなァ?
土産のつもりが誕生日プレゼントになったなと思いながら、それでもナミへの怒りは抑えられそうにない。俺の顔を見てそっと離れたルフィは、やはり野生動物かも知れねェな。
ガシッとナミの両肩を掴む俺に、ナミは驚いた顔はするがそれだけだ。俺が本気ではナミを傷付けられねェと、知ってるんだよな。
「これ迄1度も俺達に祝わせなかったろナミお前!何で教えなかったんだよ!?」
「ふぇ!?た、タイミング?」
「姉の誕生日くらい、祝わせろよ!!知ってりゃ何か持ってきたってのに」
「あら、もう貰ったわよ?」
「へ?」
何言ってんだコイツって顔で見た俺に、クスクスと笑うナミは、優しい顔をしている。幸せそうに微笑んで、その瞳に慈愛の色を乗せて……。
「サボが逢いに来てくれたわ」
……なに、言ってんだよ。そう思うのに、声が出ない。
姉の顔で、嬉しそうに笑う。俺の存在が、それだけで最高の贈り物だと本気で伝えて来る。
「ルフィも泣いて喜んだ!それに、サボは彼女まで紹介してくれたのよ。最高の誕生日プレゼントだわ!」
「わ、私、サボ君の彼女じゃなくて!仲間で……!」
即座に割り込んだコアラの声に、ナミは小首を傾げる。心底不思議そうに。
「サボじゃ、駄目?」
「駄目じゃ無いのが駄目って言うか……!あー!!」
……え、俺、それは、期待していいって事だよな?
期待に震える胸により、何も言えない俺の横でナミは楽しそうに笑う。俺は自分の顔が赤くなっているのを自覚しながら、少し目深く帽子を被り精一杯顔を隠そうと努力する。
そうして自分の赤い顔を隠す為に準備を率先して手伝えば、コックだと言う金髪の青年が俺を不思議そうな顔で見て来た。それから皮を剥いてくれと言われるままに野菜の皮剥きをしていたら、問い掛けられたのはある意味当然の疑問。
「ナミさんとルフィは1つ違いで、血の繋がらない姉と弟の関係だったと聞いてる。エースとルフィは兄弟で、エースもナミさんの弟たと。……お前は、どういう形になるんだ?」
「ん?あァ、俺はエースとどっちが兄になるか分からねェから双子かもなって言ってたんだが……。エースとルフィも血は繋がってねェぞ。つまり、ルフィを末にして、ナミを頂点にした血の繋がらない四人兄弟だ」
「ナミさんのがエースやお前より歳下だろ」
「俺は、甘やかして貰ってたんだよ。それに、俺達1度もナミに勝てなくてな。強いんだ、ナミ」
滅多に本気にならねェし、相手を傷付けない武器を使ってる時だけ強いと言う恐ろしさ。つまり、優し過ぎて傷付けられないから弱いだけなんだよと言えば、ルフィより強いだとなんて言うけど……俺達から見たらルフィは最弱だからなァ。
「ルフィは、強くなったのか?」
「え?」
「俺やエースから見たら、泣き虫で弱っちくて、守ってやってた感覚がどうしても抜けねェからさ。ナミなんてルフィを抱いて戦ってたぜ?」
「ルフィを……?」
「あァ……だが、エースとあの後も頑張ったなら、強くなったんだろ。良かったよ、ナミを任せられる」
俺の言葉にどういう意味だと問い掛けるその凄味に、こんな所でもまた男を落としてんのかと笑っちまう。いい男ホイホイだな、ナミは。
そんな事を思いながら、ナミは世界に狙われてるからなと言えばその気配が緩んだ。どうやら知っていて共にいるらしい。
「ンなもん、ロビンちゃんも同じだ」
「……ニコ・ロビンだな。ずっと俺達も探していたんだが、ルフィと居るならそれの方が良いだろう」
「探していた?俺達?」
「ナミから聞いてないか?俺は革命軍だ。ニコ・ロビンは保護対象としてずっと探していたが、見付けられなくてな」
不自然に生えている耳に向かい、だから害悪を与えるつもりは無いと言えば耳が消えた。それでもドアの付近から殺気立つ気配は消えず、あの緑頭の剣士君かと小さく笑う。
そんな中で始まった誕生日のパーティでは、主役である筈のナミが唯一暗い顔をしている。獣系の悪魔の実の能力者らしい小さな子供をナミが優しく撫でながらケーキを差し出して、突然祝われて喜びよりも戸惑いを見せるその姿にコラと思い近付く。
「流石は兄弟だよな」
「サボ?」
「エースも、初めて祝われた時、同じ反応だった。……お前、産まれてきた事が罪だとか思ってるんだな」
エースは疑問に思ってるだけだったが、それでも生きていいと言って欲しくて足掻いていた。でもナミは、違うんだな。
そっとあの頃は大きく見えたその背中が、か細いと感じる位の時が流れた事に気付かされる。……今度は、俺が守るよとは言えないけど……可能な限り力にはなりたい。
「俺は、ナミが姉で良かったと思ってる。俺が仲間内の中で上手くやっていけてるのは、ナミに愛された記憶があるからだと思ってるんだ」
「サボ……」
「ナミ、愛してくれて、守ってくれて、慈しんでくれてありがとう。お陰で俺はこんなに成長出来たんだ。それに、ルフィにも再会出来た」
「……エースには、会えた?」
そんな風に言って泣きそうに笑ったその儚さに、思わず抱き寄せるとその細さと小ささに心臓が軋む。あんなに強くて、頼り甲斐のあった姉が本当は無理していただけの、ただの少女だったと今になって知ったからだろうか。
「会えてないけど、これからちゃんと会うよ。思い出せたからな」
「そうしてあげて、喜ぶわ。エースも、ずっとサボは死んだのだと信じていたから。腕の刺青が、それを現してるじゃない」
言われて思い出すのは、自らの名を刻んだ刺青。それには確かに、俺の頭文字が共に刻まれていた。
それにより動揺する俺が甲板に崩れ落ちるように座れば、か細い指が俺の頭を優しく撫でた。視線を向ければ、昔と変わらない優しい微笑みを浮かべてくれていて……。
「ナミ、本当は土産のつもりだったけど、これ、誕生日プレゼント」
手渡した俺と俺の仲間が写った写真。それを見て破顔したナミは、ありがとうと言うから本題に入る。
そうだよ。俺の目的は実はこれだったんだ。
「ナミ、女の子が貰って嬉しい誕生日プレゼントってなんだ?」
問いかければ、俺をじっと見てから視線をコアラに向けて、少し考える素振りを見せた後幾つかの候補を教えてくれる。それぞれが持つ意味も1緒に。
誕生日プレゼントを渡す事が告白になるようなアイテムと、単純に喜ばせる為のアイテムとを教えてくれる。そんな俺とナミをルフィとコアラが見ているのに気付いて手を振ると、何故か赤くなったコアラに首を傾げちまう。
それにしてもルフィと仲良くなるとは、やはりコアラはよく分かってるな。どうだ、俺の弟は可愛いだろう!
そう思ってドヤ顔したら、コアラから何故か呆れたような視線が帰り、その瞬間ルフィがナミに大声で呼び掛けてきた。
「ナミー!」
「ルフィ?どうしたの?」
昔と変わらず、何を置いてもルフィを優先するナミが当然のように俺から離れると、ルフィが宣言するように言った。まるで当然の事のように。
「俺、ナミへのプレゼント決めた!」
「プレゼント?」
「おう!俺をやるよ!だから、部屋行こう!」
その瞬間真っ赤になったナミが、それ私があげてるじゃないなんて叫んだけど、何か幸せそうで安心した。安心したからか、笑いが止まらなくなっちまったけど。
「ナミ、愛してる。産まれてきてくれてありがとう!」
「ルフィ……?」
「今日はナミの産まれた特別な日だろ。だから、産まれてくれてありがとう。俺達を愛してくれて、ありがとう」
俺が似たような事を言った時は動揺しただけだったナミが、そっとその瞳から涙を溢れさせた。それを見て、ルフィは守られるだけの弟を辞めたんだと気付く。
男として、ナミを守れるようになったんだな。なら、俺もそろそろ本気で動かないと、兄として示しがつかねェか。
少し大人びた顔でナミに笑いかけたルフィが、何を思ったかは知らない。それでも、ナミを愛しているのだけは見ていてちゃんと伝わって来た。
「ナミ、2人になろう」
そっとナミを抱きしめたままルフィが言ったそれにナミが頷くと、主役を奪うなよなんて声は上がったがそれでも暖かく見送る仲間達。……良い仲間達だなと笑えば、ルフィが1瞬俺に視線を向けてからゆっくりしてけよと笑ってナミを連れ去った。
少女のような顔でルフィを見ているナミに、姉を卒業出来たのかと思えば良かったと思う。ナミを、姉を幸せにできる相手と居てくれるなら、それで俺は良いんだ。
Happy Birthday ナミ。俺に家族からの愛情を惜しみなく与えてくれた、優しい姉の幸福を願っている。
「コアラ……」
「サボ君?」
「今夜は泊まっていこう。2人で少し話したい事もあるから」
「サボ……君?」
コアラの誕生日には、恋人となってからプレゼントをしたいと願ってその細い手首を掴む。その手が微かに震えているのだけは、どうか許して欲しい。
今夜は、自分の気持ちから逃げねェし、コアラの事も逃がさねェと心で小さく呟く。声が震えない事を願いながら、俺は想いを伝える為にゆっくりと唇を動かした。