ストライカーを使い海を渡る中で、天候が怪しくなったからと偶然立ち寄ったその島で、俺は話には聞いていたが半信半疑だったその人物を見掛けた。正確には、その面影のある人物と言うべきだろうか。
振り向いたその人物と俺は互いに硬直して、どちらからともなく手を伸ばし合う。触れたその温もりが、夢では無いのだと教えてくれる。
俺を覚えていてくれた。俺を兄弟だと今も思ってくれている。
その事が分かれば、生きていてくれただけで、俺には充分すぎる幸福で……。強く抱き締め合い、互いに何だか気恥ずかしくなって離れたその時、まだまだ話したい事も沢山あったのに、その声を聞いた瞬間に俺達の優先順位は意図も簡単に書き換えられちまう。
「エースゥ!!サボォー!!」
泣きながら飛び付いて来たかと思ったら、そのまま巻き付いてきた。それは、ゴムであるが為に隙間が無くて、俺もサボもそのまま窒息しちまいそうになる。
ルフィから泣きながら紡がれる言葉は不明瞭だ。泣くなとガキの頃から言ってるのに治らないそれに、内心で笑いながら叱り飛ばすのもいつもの事だ。
「苦しいってんだよ!!馬鹿ルフィ!!泣き虫は嫌いだって言ってんだろうが!!」
思わず叫んだ俺に、けれどもルフィが泣き止む事はない。そんなルフィに呆れを隠さずに、まるで当然のように初対面の筈のメンバーまでもが俺を受け入れてくれる。
ルフィが自分の兄だと言うから、大切な相手だ。そんな想いが伝わって来る、暖かな仲間達。
泊まっていけと言われて、寝る場所は作ると言われれば断る理由は特に無いので頷く。そうして簡易ベッドだと言うが、恐ろしく性能の良さそうな装飾や宮台までついたベッドを用意されちまえば、俺もサボも笑うしかない。
突然始まった宴には、本当に生きてるのかと問い質したくなるような骸骨の演奏と、見知った顔の少年が歌う事で花が添えられる。今日はナミは歌わないのかと思いながら、目の前の料理に手を伸ばせば妙に美味い。
相変わらず人の面倒ばかり見ている幼馴染に視線を向ければ、あの時とは違う女の仲間と共に笑っていた。あの時は水色の髪の毛だったが、今は黒髪か。
そんなナミの元に集まる他の仲間達を眺めながら、ルフィの傍に腰を降ろす。ナミの事を話すなら、やはりルフィやサボだろうと無意識で考えていたらしい。
「ナミは相変わらずだな」
「どういう意味だ?」
「そのままだろ。可愛くて無防備。でもま、なんか色っぽくなったな。……成長期だからか?」
「ん?……俺が食ったからだろ」
ルフィの言葉に思わず嘘だろと呟けば、ルフィは小首を傾げてから納得したように頷いた。それから少し得意気に笑う。
「ナミは未経験だった。俺しかしらねェぞ」
「な、んだとー!?」
砂漠の国で会った時は、ならまだ無垢だったのか!?それなら押し倒しちまえばよかったと思いながら叫べば、サボに頭を容赦無く殴られる。それに文句を言ってみた直後に、その笑顔を見て俺は黙るしかなくなった。
サボのこの笑顔は逆らっちゃ不味いやつだ。普段温厚な分、怒ると手がつけられなくなるのは、ナミとサボの共通項だろう。
冗談だよと笑って誤魔化せば、サボは呆れを隠さなかったが追求もされなかった。その後朝になりルフィとナミが仲間達と何やら楽しそうに話しているのが見えて近付けば、ルフィが猛獣を倒しに行くと言っているのが聞こえて来る。
ちょうどいいなと思い、行って来いと笑ってやったのにルフィは野生の勘を働かせて傍に残ると言い出すから、内心で舌打ちする。突然お開きになった宴のそれに未練はなく、ナミがキッチンに向かうのについて行けば無防備なナミは俺に警戒心を見せない。
そっと肩を抱いても、甘えん坊ねと笑う始末だ。その状態でオムレツを作ると言ったナミに、少しは気にしろとその尻を撫でるとサボに蹴り飛ばされた。
……そうだった、サボはナミに恋愛感情は抱いてねェけど、本当にやばいレベルのシスコンだったんだ。そう思って見ていたら、サボはナミに料理を教わっていて、俺もルフィも同じように習ったが、身につかなかったなと思う。
五目ご飯がどうのこうのと話す2人に、俺も混ぜろと背後から抱きいたのに、反応が無いのでそのまま胸を揉んでみた。柔らかいなと思った直後、飛んできたのはルフィやサボの拳ではなく、ナミからの叱責だったが……その怒り方はどうなんだよ。
「包丁とか火を使ってるのに、危ないでしょ!!メッ!!」
「「「ナミ、その叱り方はどうだよ」」」
声が3人揃えばナミは首を傾げて、何か違った?なんて言う。それから笑った顔が少し幼くて、やっぱり可愛いなと素直に思わされる。
それからも俺を心配するように言葉を紡ぎつつ、料理を続ける。そんなナミが作ってるオムレツを味見と言いながら1つ平らげたら、ナミから頭を叩かれた。
さり気なく覇気を纏っていた掌により、ちゃんと痛ェ。ルフィは俺がナミに何も出来ないようにと張り付いて、なんにもわかってないナミに簡単な事を手伝わされている。
ナミの作ってる料理もだが、ナミの事も摘み食いしたいな。小鬼が守る福の神を、俺も少しくらいなら味見してもいいんじゃねェかとその手を伸ばすも、俺の片割れである筈のサボまで邪魔してくるんだからおかしなもんだよな。
料理を終えてルフィが声を出した直後、ルフィはナミの唇を簡単に奪う。それに驚きはしても抵抗しないナミに、胸が痛くなる。
鬼は外福は内と言うならば、ナミに襲いかかりたくなる狂暴な衝動よどこかへ行ってくれないか。俺は弟もナミも愛していて、どちらも手放したくはないが、同時に傷つけたくも無いのだから。
いつの間にかそっと隣に腰を降ろしていた片割れに、両方の味方だと笑われてはいじけてもいられねェ。いつの間にか姿を消しているナミが作った飯を食べながら、今夜もまた大騒ぎだろうなとサボと2人で笑い合った。