季節イベント(波間IF)   作:夢枕 七変化

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節分(参謀総長サボ)

 やるべき事を終えた俺が1人で情報収集も兼ねて街を散策していたら、本屋の前で列をなしてる人達を見て足を止める。何をしてるのかと問い掛けると、宝玉の新作が出たのだと嬉しそうに話す青年に成程と頷いて俺もその列に並んだ。

 金額を可能な限り押さえて、小説等の娯楽本を除けば全てに書き込みができるように行間を広く取っている宝玉の本は、自分だけの1冊に出来ると言う事で人気が高い。なので何度も再版されるのだ。

 複数人で1つの名前を使っているとか言われている宝玉が、実際は俺の姉1人のそれであるのだと思えば鼻も高くなる。それを知っている人物も少ないのだと思えば思う程に、内心で天狗のように鼻を伸ばしてしまう。

 そうして並んでいれば、どうやら今回発売された本は料理系だと知る。それにしては男が並んでる率が高いなと辺りを見てみるが、何冊かずつ買って行く彼等の会話から料理人達なのだと気付く。

 プロに求められるなんて、流石俺の姉だよな。本当に鼻が高いと思いながら俺も本に手を伸ばして、コック達への土産にするかと2冊購入する。

 その中に季節料理と書かれたコーナーがあり、節分に合わせた豆料理と恵方巻きと書かれたページが全体の3~4割をしめる勢いで存在するのを見た。その他はいつものように、役立ちそうな情報や美味そうな食べ物が作り方と共に書かれている。

 挿絵として料理の完成図が描かれているのを見れば、本当に多彩だなと感心する。まるで絵本に出てくるような色彩で描かれたその料理は、想像を膨らませるのに最適だろう。

 本当はそのまま帰ろうと思ったんだが、巨大な豆が自生すると言う話を聞いてはそれも土産にと島に立ち寄ったとしてもおかしくは無かっただろう。そうして到着した島で、拠点になりそうな場所があるかなと辺りを見てみる。

 ちょうど良い所がなければ作らないとと思った時、足音が聞こえて振り向くとそこに居たのはエースで……。新聞では見ていたし、記憶が戻ってからは可能な限り情報も集めた。

 それでも俺は大切な兄弟に会う勇気が持てなくて……憎まれてや居ないかとか、色々考えてその1歩が踏み出せずにいたんだ。なのに、その姿を見たら……腕は勝手にエースを求めて持ち上がる。

 どちらが先だったのか分からないままに腕を伸ばし合い、触れ合えたその温もりが夢や幻では無いのだと教えてくれる。本当に生きていたのかと、声を震わせる大切な半身に会いに行けなくてごめんと謝ると、馬鹿だなと笑われちまう。

 

 「兄弟の絆が切れてなくて、生きていてくれた。俺は他にはなんにも望んでねェよ。……無事で、良かった」

 

 エースの言葉に泣きそうになる自分を自覚しつつ、エースと強く抱きしめ合っていたその時、ふと正気に戻り気恥ずかしくなった俺達は自然と離れる。このまま再会を喜び1晩でも2晩でも語り合おうと思った時、その声が聞こえた。

 それは俺とエースの再会を喜ぶ気持ちを即座に〝兄貴〟としてのそれに切り替えてしまう位には、影響力のある声。甘ったれで、弱くて、泣き虫で……何よりも愛しい弟の声だ。

 

 「エースゥ!!サボォー!!」

 

 泣きながら飛び付いて来たかと思ったら、そのまま巻き付いてきたそれは、ゴムであるが為に隙間が無くて、俺もエースもそのまま窒息しちまいそうになる。泣きながら紡がれる言葉は不明瞭で、無意味に泣くなとガキの頃からエースに言ってるのに治らないそれ。

 

 「苦しいってんだよ!!馬鹿ルフィ!!泣き虫は嫌いだって言ってんだろうが!!」

 

 思わずと言った様子で叫んだエースに、けれどもルフィが泣き止む事はない。そんなルフィに呆れを隠さずに、まるで当然のように初対面であるルフィの仲間達が寄ってきて俺とエースを暖かく受け入れてくれた。

 ルフィが兄だと言うなら、疑うまでも無く俺達にとっても大切な相手だ。そんな想いが伝わって来る、ルフィの仲間なのだと痛感させられる暖かな仲間達。

 そのまま簡易ベッドだと言いながらも、恐ろしく性能の良さそうな装飾や宮台までついたベッドを用意されちまえば、俺もエースも笑うしかない。突然始まった宴には、本当に生きてるのかと問い質したくなるような骸骨の演奏と、長い鼻の少年が歌う事で花が添えられる。

 視線を向ければナミは相変わらず優しい笑顔を向けてくれて、けれども本当に忙しそうに動き回っている。それが落ち着いた頃、俺達が血眼になって探していたニコ・ロビンの隣に座り笑い合う姿に、ここにいた方がニコ・ロビンには良いのかもなと思わされた。

 当然のように金髪の青年がナミに膝掛けを貸出し、それに無防備な笑顔を向ける。1度受け入れた相手に、警戒心を少しも抱かないのは相変わらずらしい。

 

 「ナミは相変わらずだな」

 

 俺の気持ちを代弁するように放たれたその声に視線を向けると、エースとルフィが話をしていた。首を傾げるルフィにエースは言葉を重ねるが、それに対してルフィが爆弾を投下してくれて俺でさえ1瞬反応に困る。

 

 「そのままだろ。可愛くて無防備。でもま、なんか色っぽくなったな。……成長期だからか?」

 「ん?……俺が食ったからだろ」

 

 ルフィとナミを見比べて、でもなんかわかる気がして1人で頷く間に動揺して叫ぶエースの声が聞こえて来る。それに呆れしか抱けないのは、ガキの頃から変わらない様子の2人が目の前にいるからか。

 だが忘れないでいて欲しい。お前達は大切で愛しい兄弟だが、ナミは俺の自慢の姉なんだ。

 傷つける事は許さねェ。辱めるなんざもっての外だ。

 

 「エース五月蝿い。ナミに恥かかせるな」

 

 エースを殴ったら文句を言われたが、ニッコリと笑ってやればいい子になったのでこういう所本当に変わらないよなと思う。エースとルフィは本当によく似ていて、それを言うと2人はナミと俺がよく似てると言うから、結局血は繋がらなくても似た者兄弟なのかもなと思わられるんだ。

 賑やかで楽しい宴の後、ナミにも促されて泊めてもらった俺達は翌朝ナミの声が聞こえて目が覚めた。何だか懐かしい感覚に小さく笑いながら近寄れば、ルフィが首だけナミに伸ばしていて本気で怯えられているのが見える。

 そういやナミは、完璧に見せかけてお化けと虫ダメだったな。俺達が喜ばそうと思ってカブト虫捕まえて見せた時、半狂乱で怯えられたのは遠すぎる過去の思い出だ。

 その後話を聞けば、島に猛獣と言う名の肉と、巨大で美味い豆があると言う。最高の食材だなと思っていたら、ルフィがやはり収穫に行くと言い出した。

 けれども直後にエースが笑えばルフィがナミを庇うように動き、何もわかってないナミは不思議そうに首を傾げた。恐らく俺やエースも含めてこの船に残るか、揃って飛び出すと思っていたのだろう。

 そのまま無防備な様子を改もせずにキッチンへ向かう蜜柑……いやいや、ナミを見て、頭が痛くなったのはその姿が何処かでコアラと重なったからか。豆の仕込みをしながら、呑気な様子を見せるナミに多少ではなく苛立つ。

 わかっている、ナミは悪くない。寧ろ悪いのはエースだと。

 だが……甘やかすしかしないナミにも原因はあるんじゃないかとそう思った直後、肩を抱かれたりしても気にせずに料理を始めたナミを見て、助けるしかないと気付く。例え相手が誰でも、望まない相手とそうなって泣くに泣けないで耐える姿なんか、見たくもない。

 

 「昭和オムレツでも作ろうかなって。別名、冷蔵庫の残りなんでもオムレツだけど」

 

 笑うナミの隣に立つ為にエースを蹴り飛ばして、本を開いて声をかける。この海苔巻きなら俺にも作れるだろうから、コアラに作ったら……喜んで、貰えるかなと。

 これでも1応、迷惑とか掛けてるのはわかっていて……好きな相手には、嫌われたくないと願っちまうんだ。だからと思って声を掛けると迷い無く中身を好きな物にと言われて考える。

 

 「……五目ちまき……?」

 

 嬉しそうにちまきを食ってる姿を思い出して言えば、ナミは動きを止めた。それから考えるように首を傾げて、言う。

 

 「五目ご飯で太巻き作る?」

 

 そんな事が出来るのかと問い掛けた俺にナミは笑って、白米や酢飯の代わりに五目ご飯使うだけだものと笑う。そうしてナミは、ならまずは美味しい五目ご飯の炊き方ねと言いながら手を動かし始めた姿を見て、当然のように愛してくれるこの姉を守りたいと思わされるんだ。

 性別や身分で区別したりしたくないが、それでも女は助けても男には自力でどうにかしろと言い捨てる事が多いのは、恐らくナミを守ると決めた時からの習性だろう。そんな事を思っていたら、エースがナミの胸を揉み、ナミが珍しく怒りの色を見せた。

 

 「包丁とか火を使ってるのに、危ないでしょ!!メッ!!」

 「「「ナミ、その叱り方はどうだよ」」」

 

 ナミの中で俺達はいつまで幼子なのか。子供の様相で甘えたら、そういうものとして受け入れて甘やかしそうな姉に苦笑がもれる。

 エースに小言を言いつつ、必死でエースを牽制するルフィに手伝いをさせながら、五目ご飯と昭和オムレツを作る為に手を動かす。その合間にも、俺に笑いかけてはコツだとかを教えてくれるのだから凄い物がある。

 

 「……俺は何か作ったりしなくていいのか?」

 「ルフィは、物を取ってくれたら充分よ。お願いだから、手を出さないで。……私、人間の食べ物を食べたいの」

 

 ルフィとナミのやり取りに全く持ってその通りだと頷けば、ルフィは首を傾げる。……なんでこう、ルフィには料理の才能が欠片もないんだろうな?

 あそこまで料理が出来ないと既に才能にも思える。……褒めるつもりは無いし、二度と食いたくないがな。

 その内エースとルフィが喧嘩を始めれば、両成敗で叱り飛ばした。酷いようなら追い出すぞと。

 そんな状態にありながら、ナミは次々とオムレツと五目ご飯を1つの皿に乗せて、ブロッコリーとウィンナーを添えると完成!!なんて笑う。スープは簡単にミネストローネよと言ったそれに、作り方を確認しつつ声を張り上げたルフィを眺める。

 鬼は外福は内と豆まきが行われる頃には、ナミとルフィの姿が消えていた。あぶれた鬼がいじけているので、俺としては教えて欲しかった事もわかって余裕があるので、慰める為に隣へと腰を降ろす。

 

 「ナミを泣かせないようにだけしたら、俺はどっちとナミが1緒になっても応援するぞ」

 「サボー!!」

 

 反応がルフィと同じだなと思えば、笑いが押さえられなくて……エースがルフィからナミを奪う可能性も残されてるのかもなと小さく笑う。楽しそうな雰囲気を楽しみつつ、兄弟の幸せを願う俺は後程こっそりキッチンへ行き昭和オムレツの残りをこっそり貰っておいた。

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