お花見(麦わらのルフィ)
サンジが作ってくれた2度目の朝食が終わって、昼飯の前に少しナミの顔を見ようと梯子を登った。そこでナミは新聞を持って来るカモメから何かを受け取っている様子だ。
それだけならいつもの事だったのに、様子が違ってくれば心配にもなる。初めは嬉しそうに笑ってたのに、何故か封筒の中身を見たら寂しそうに笑ったんだから、心配になって当然かも知れねェけどさ。
「クーちゃんありがとう。温泉も桜も大好きだから、本当に嬉しい。楽しんでくるわね」
その言葉に内心で首を傾げる。だってよ、言葉とは違ってナミがなんか悲しそうだから。
カモメが飛び立ったそれを見送りながら手にしていた紙を引き出しにしまうのを見て、後で確認しようと思う。あんなに悲しそうな様子を見せるような、何が書かれているんだろうか。
その時ナミが、窓の外を眺めながら優しい声で歌い出した。それが何だか泣いてるように聞こえて、邪魔する事が出来ずに最後までそこで聞いているしか出来ない。
ただ所在無く立ち尽くしていれば、ナミが歌い終えると同時に驚いた様子で振り向く。それに無意識で笑った俺は、半分冗談でそのまま両手を広げてみた。
でも、それを見たナミは迷い無く飛びついて来てくれる。なんだろう、なんか……可愛いぞ。
「どうした?何か、あったか?」
「海賊1番くじが当たったの。重箱に卵焼きとか詰めて、お花見とかどうかしら?……でも、難しいわよね」
何が難しいのか分からなくて、でも賢過ぎるナミは何か色々考え過ぎてんだろうなと気付く。だからと思って頭を撫でると、驚いた様子で俺を見るナミが妙に幼くて笑っちまう。
「花見、良いと思うぞ。やろう!」
「ありがとう、嬉しい……」
なんだこれ。いつもより甘えて来て、え……まさかなんか俺、試されてんのか!?
そんな訳ねェよな。だとしたら、これはこのまま押し倒しても良いって事かなと思ってソファに押し倒そうとした所で、複数の手が生えてきて動きを阻害される。
思わず犯人を睨めば、にこやかに俺を見詰めて唇の動きで駄目よなんて言ってくるからやりにくい。それに、ロビンに何かしたら怒り狂うのしか居ないから、元々手を上げたりするつもりはねェけど余計に色々削がれる。
そもそもナミは俺のクルーで、俺の彼女で、俺の幼馴染なのに、どうして甘えて来たのを食ったらダメなんだよ!と思いながらも仕方なく解放すれば、ロビンはナミを呼んで連れて行っちまう。
ナミも、ロビンやチョッパーに呼ばれると簡単に俺から離れるのは納得いかないけどな。俺の恋人たる自覚を持って貰いたいもんだ!
そんな訳で俺は、1人になったその場所でナミがしまっていた紙を取り出してその内容を確認する。そうしたら、余計にわからなくなった。
……普通に好きだろ、これ。なんであんなに悲しそうだったんだ。
飯はバイキング形式で、旅館の本館に食べに行く形式らしいし、食い放題なら俺も行きたい。温泉で、花が咲いてるならナミも……あ、これ、ペアだ。
皆と行けないならって事で諦めたのかな。うーん、でも俺と2人で行きたいって言えば、誰も止めねェと思うけどなァ。
そんな事を思いながら、重箱を持ってサンジの所へ向かうと、既にナミとロビンが説明を終えててくれてた。だからそのままナミが地図を広げて、近くの島を探してくれるのを眺めている。
「ナミさん、私の考えではこの近くに春島がありますよ。地図に載ってない筈なので、行けるかは運次第ですが」
「どういう事?」
「先日、シキと共に降ってきた島には……春島が含まれていましたよね?少し戻る事にはなりますが、如何でしょう?」
ブルックの発言で全員が顔を見合せて頷き合う。そうして到着した島で、俺達はビリーと再会を果たしつつ花見の宴を開く事になった。
「それにしてもよ、ロビン!」
「あら、何かしら?」
「どうしていつも邪魔すんだよ?」
俺の言葉にロビンは呆れたような視線を向けて来て、まだ病み上がりでしょうと言う。
なんだ、ロビンは何言ってんだ?
俺病気になってねェぞ?
そう思っていたら、ナミがだと言われちまってそうだったと思い出す。でも、ついこの間ナミを食ったぞ?
病み上がりで問題なら、あの時ナミも言っただろうから、もう平気だろ。ナミ何も言わなかったぞ。
「……ナミは、自分の体調が悪くてもルフィに求められたら拒んだりしないわ。だからこそ、ルフィが気を付けないと、ルフィがナミを壊してしまうわよ」
「ンなもん、小娘と麦藁の判断だろ。横から口出してんじゃねェよ」
「「フランキー!!」」
俺とロビンの声が重なる。その声の持つ色は、正反対だけど。
ロビンは咎めるように、俺は歓喜でその名を呼ぶとフランキーは大人の顔で笑う。そして、ロビンに向けて言う。
「壊したら戻らず、後悔しても遅いって気付いた時には手遅れ。それは言葉じゃ伝わらねェんだから、好きにやらせて喪う事を知ればいいだろ」
「……貴方は、ナミを犠牲にするつもりなの?」
ロビンの声がいつもより数段低くなる。こと、ナミに関してロビンの沸点は恐ろしく低い。
しどろもどろになるフランキーにロビンが詰め寄った時、俺は歌うウソップの後ろに居る知ってるようで知らない男を見て呼吸を止めた。それは相手も同じ様子で、先に動いたのは1緒に歩いていた女の子の方。
「サボ君!あの子もしかして!?」
「……さぼ?」
俺の期待と願望ではなくて、妄想とかじゃなくて、本当に、サボ?
フラリと足を進める俺を見て、その青年は困ったように笑うと両手を広げてくれた。その時、少し前のナミの気持ちがなんか、わかった気がしたんだ。
サボの名を呼びながら飛び付いて、涙を流し続ける俺の頭を撫でながらサボは泣き虫は相変わらずだと言うけど、ナミには聞いてたけど……!生きてるのは、わかってても!会えるなんて思ってなかったんだ。
「サボ、久しぶりね。……はじめまして、私はナミ。こっちの泣いてるのはルフィで、ウチの船長。貴女の名前、教えて貰える?」
そんな風に言って女の子と挨拶を交わすナミは、皆を簡単に紹介しながら皆で弁当をつつく。それを見ながら、そう言えばと思ってサボにチケットを見せた。
「この人数だからって、ナミが行くの諦めようとしてたんだ。……サボ、なんかいい案ねェかな?」
「……ルフィ、それ、くれないか。そしたら、代わりに団体用の宿泊券やるよ」
「え!?良いのか!?」
「俺の持ってる券と人数もちょうど良さそうだし、俺の方は団体のそれでも皆でってのには無理があるからな」
困ったように笑うサボだけど、なら、2人用だと余計に駄目だろ。そう思って口を動かそうとしたら、サボに指でシー!ってやられる。
……なんだ?
「俺さ、コアラ……そこでナミと1緒に卵焼き食ってる子な。彼女が、好きでさ」
「……おゥ?」
「2人になりたいんだよ。分かるか?」
2人になりたい。つまりは……?
「……抱きたいって事か?なら、押し倒して見たらどうだ?」
「馬鹿か!?」
そのままサボに叱られてたら、心配したナミが近寄って来て、皆に何かを言ってからサボと俺と、そのコアラって子を連れて歩き出す。抱きたいならそう言って押し倒せば、ナミはいつも受け入れてくれるからサボにそう言ったら何故か頭を殴られて、しかもそれが痛ェ!
ナミも爺ちゃんも、その上サボまで、どうして俺ゴムなのに痛ェんだよ!?
その時いつの間にか傍から離れてた女二人組が帰って来た。そして、ナミだけが近くまで来て、コアラって子は少し離れたところで足を止めている。
「ルフィ、町の人に会ったからたこ焼き買ってき……それ、どうして持ってるの?」
「ん、ナミが気にしてたから何かと思って見てたら、そのまま持って来ちまった」
俺の持ってるチケットを見てナミが首を傾げるから、たこ焼きを受け取りながら答えたらナミが静かに笑う。そして、俺からチケットを受け取るとサボにそれを手渡した。
「コアラちゃんと行ってきなさい。ただし、合意なく襲ったら……ちょん切るわよ」
「……ナミは、本気でやるよな。分かってる。俺さ……コアラの事は、泣かせたくないんだ」
「良い子ね」
そう言ってナミがサボの頭を撫でてたら、コアラって子が寄ってきて不安そうな顔をする。それにサボが笑って手を振り、それからナミに違うチケットを手渡した。
「俺からはさ、なら、これやるよ。皆で行ってきたらどうだ?」
そのままサボはコアラって子のいる所へ走って行って、チケットを見せながら何かを話し始めた。距離があってよく聞こえねェけど、なんか楽しそうだ。
そんな姿を俺と並んで眺めていたナミが、受け取ったチケットを見て小さく呟いた。その声は妙に明るい。
「これなら、皆で行けるわね。あ、プールもついてる」
「ホントか!?」
遊べるなら嬉しいとナミの持ってるそれを覗き込む為に後ろから首を伸ばしたら、胸の谷間が俺を誘う。そこに俺より先に花びらが1枚落ちていくのを見て、お前だけ狡いとその花弁を息で吹き飛ばした。
そんな俺に恥ずかしそうに頬を赤く染めたナミが睨んで来て、その顔に欲情する。皆で行くそれは勿論楽しむし、戻ったらまた宴の続きやるけど……今は上で咲いてる花よりも、目の前に居る花が欲しい。
逃げられないように強く抱き締めてそっと唇を重ねたら、ナミが唇の隙間で外は嫌なんて言う。なら、今夜部屋でなら良いんだなと問い掛けたけど、返事なんて聞かなくても分かってる。
返事の代わりに重ねられた唇を受けて、やっぱここで押し倒したいと思う。今なら花弁が、上手く隠してくれる気がするんだよな。
花より団子。団子より、蜜柑。