そのニュースは間違い無く世界が震撼した。勿論表立っては海軍が捕らえて平和を取り戻したとなっていたが、位置とタイミングを見ればそれは違うと分かろうものだ。
可能性を考えれば、確認したいと思ってもおかしくは無いだろう。それに、本当に安全になったのか、まだ危険な生物が大量にいる可能性はあるんじゃねェのかと思えば、自然と手は帽子を掴んでいた。
「サボ君!どこ行くの!?」
「この情報の真偽と、事実関係を確認しに行く。そもそもの話として、どうでもいい海賊の1人として適当に流していい相手じゃねェだろ」
「待って!単独行動したら連絡つかなくなるから駄目!」
「コアラ!!」
俺の怒声にも引かず、キッと睨み上げてくるその顔はいかにも〝怒ってます〟と言っている。……くそ、ハック辺りなら適当に逃げるのに……!
「サボ君……?」
「俺は行くからな」
「……なら、私も行くわ」
コアラの言葉に勝手にしろと言い捨てたが、内心はドキドキだ。つまり、ほら、2人で旅に出る訳だろ?
勿論目的は金獅子のシキの件を調査報告する事にあるが、だが……コアラと、2人旅。……俺の理性持つかな。
そうして理性と戦いながら空を飛んでいたという島を調査して回る事になれば、確かに変な進化してる動物がわんさかいる。それなのに、話に聞いていた程の凶暴性は無い。
「政府に都合がいいように、変えられてるのは覚悟してたが……これはどういう事だ?」
「把握しきれてないのかな。もしくは、政府が知ってる状況から変化がおきたか……よね」
「変化するには時間が足りねェだろ」
そんな事を言いながら巡る中で、春島らしい島を歩いて行く。調査も必要だが、そろそろ俺も……その、くそ!
大人数向けの宿泊券は持ってるが、それを理由に誘えば皆に連絡して1緒に行こうとか絶対言い出す。そう思えば折角持って来たこれも使えねェし、そうなるとゆっくりと2人で過ごす時間ってのも、作れねェ。
桜の花なんかよりずっと綺麗な、触れたいのに手を伸ばす事さえ躊躇わされる女が目の前にいる。風に帽子が飛ばされないようにしっかりと押さえて、桜が舞い上がるのを楽しそうに見詰めている姿に、どのタイミングでなら好きだと言っておかしくないのかと考えて、結局何も言えずに口をとざす。
「サボ君!あの子もしかして!?」
そんな言葉に驚き視線を向ければ、愛しい姉と弟の姿がある。優しく微笑むナミと、驚いた様子から泣きそうな顔に変化して行くルフィ。
こんな所で会うなんて……。ルフィ、会いたかった。
そう思って手を広げれば、ルフィが弾丸よりも素早く俺の元へ現れる。繰り返し俺の名を呼びながら、顔に張り付くゴムを必死で引き剥がして呼吸を繰り返したのは不可抗力だろう。
ゴムだから隙間がねェんだよ。いやマジで。
可愛いけど、呼吸はさせて欲しい。そう思っていたら、優しい声が聞こえて来た。
「サボ、久しぶりね。……はじめまして、私はナミ。こっちの泣いてるのはルフィで、ウチの船長。貴女の名前、教えて貰える?」
そんな言葉とと共に、コアラへと向けられる微笑み。でも、ナミお前絶対知ってるだろ!?
何が初めましてだ!そう思うのにコアラははじめましてと笑うのだから……つい、その笑顔に魅入った俺に罪は無い。
そのまま自己紹介をして、仲間の紹介をしてくれるナミの話を楽しそうに聞くコアラを眺めて、仲間の中に気になる名前があり視線を向ける。……出任せかと思ってたが……本当に居たのか、ニコ・ロビン。
ルフィの引きの強さと、ナミの隣にいる時の少女のような様子に微かに胸が痛む。この女の何処が悪魔の子なのか。
もしも元々が冷酷な女だったのだとしたら……恐らく変えたのは、いや、戻したのはルフィとナミなんだろうな。そんな事を思いながら弁当を食って行く。
……美味っ!なんだこれ、美味!
誰が作ったんだこれ!?
そう思って見ると金髪の青年が笑った。あいつか、欲しいな、うちのコックに。
まァ、ルフィが手放す筈ねェよな。そう思ったその時ルフィが何かを差し出して来た。
それを見て……嘘だろと思う。だってよ、これ、俺が正に求めてた物だぞ。
「この人数だからって、ナミが行くの諦めようとしてたんだ。……サボ、なんかいい案ねェかな?」
「……ルフィ、それ、くれないか。そしたら、代わりに団体用の宿泊券やるよ」
ペア宿泊券から俺の視線は離れない。これなら、コアラ誘ってもおかしくねェよな。
「え!?良いのか!?」
「俺の持ってる券と人数もちょうど良さそうだし、俺の方は団体のそれでも皆でってのには無理があるからな」
寧ろ俺は皆でなんて嫌だ。俺はコアラと2人になりたい。
流石に船の上で襲えねェし、その場所で断られたらその後生きていける気がしねェから言い出せなかったんだけどな!宿なら話は別だ、他に気を向ければ何とかなる。
その時ルフィがなんか言おうとしてるのに気付いて、それを止める。ったく、騒がれたら誘いにくくなるだろうが!!
「俺さ、コアラ……そこでナミと1緒に卵焼き食ってる子な。彼女が、好きでさ」
「……おゥ?」
「2人になりたいんだよ。分かるか?」
俺の言葉に小首を傾げて、少し考えるような素振りを見せた後、ルフィは言った。それも、それなりの声量で。
「……抱きたいって事か?なら、押し倒して見たらどうだ?」
「馬鹿か!?」
そのまま説教タイムに入ったら、ナミがテクテクと歩み寄って来る。どうやら2人を心配してくれてるらしい。
ルフィの事だけじゃないところが、ナミだよな。その時ふと視線を向けると、ニコ・ロビンが甘やかな空気を醸しながら姿を隠す所で、傍に居る巨大な人物……?が恋人だったらしいと今更気付く。
人間なのかは兎も角として、それにしても……。明らかにナミと居る時の方が少女っぽい顔してたよな?
そんな俺の傍で、ルフィにたこ焼きを差し出しながらチケットについて話を始める2人は、なんとも甘やかな空気を出している。そしてナミはチケットを俺に差し出すと、幼い子供に言うように言葉を告げてきた。
「コアラちゃんと行ってきなさい。ただし、合意なく襲ったら……ちょん切るわよ」
これは、本気だ。マジで切るぞ、ナミなら。
軽く身震いしながらそれに頷いて、素直な気持ちを伝えるとナミは母親のような顔で俺を見た。それがなんでだか、違和感を抱かせないのが問題だと思う。
「……ナミは、本気でやるよな。分かってる。俺さ……コアラの事は、泣かせたくないんだ」
「良い子ね」
そのまま頭を撫でられていたら、コアラが不安そうな顔をしていてなんだろうかと考えちまう。でも、笑って欲しくて手を振ればホッとした顔をされた。
だから俺はナミに、代わりのチケットを渡して立ち上がる。たまにはルフィのお守りじゃなくて、皆で楽しんで来いよな。
コアラの元へ駆け出し、にっと笑えばコアラは微かに瞳を揺らした。だから勢いで言葉を口にする。
「今さ、チケット貰ったんだ。だから、この後温泉行こう」
「温泉?」
「ペアの宿泊券で、あの人数だと使えないからってさ。……温泉、嫌か?」
焼印がある。今はタイヨウのそれになっていても、それでもやはり気になるだろうか。
そう思った俺にコアラはチケットを覗き込んで頷いて、それから固まる。どうしたんだ?
「部屋に、お風呂着いてるから、いいと思う、けど……」
「けど?」
「へや、2人で1つよね」
「そうだな。離れだし」
なんでかコアラが顔を赤くしてる。熱でも出たのかな。
温泉入るのは病気にもいいかも知れないから、効能調べた方が良いだろうか。取り敢えず、チケットに書いてあったかなと視線を向けたらコアラが声を震わせた。
「サボ君と、私、よね」
「そうだな。2人で移動してきたんだし」
「……サボ君の鈍感」
「は!?コアラにだけは言われたくねェよ!!」
そうして喧嘩になった俺達だが、その途中で同時に気付く。まさか、コアラも……サボ君も……同じ気持ち?
桜の花弁が風に舞う。その中で互いを見詰めて動けなくなる俺達。
花見の言葉で、花より団子なんて言葉があるらしいが、俺はコアラと言う花にしか、興味を持てそうも無い。そっと抱き寄せたのに、抵抗されなかった。
それをいい事に、俺はその細い肩を強く抱き締めて、暫くその場から動けなくなっていた。その硬直が解けた時、きっと二人の想いは繋がるだろうと、舞い踊る花弁が二人を大切に包み祝福している。