新しく届いたスマイルを確認に向かい、数等に間違いが無い事を確認した俺はナミの元へ戻ろうと足を進めた。先月少しばかり無理をさせたからか、限度を覚えるまで触らないで!と叱られたのは記憶に新しい。
だが……全体的にナミが悪いと思うんだがな。俺の想いに中々気付かず、気付いても当然のように俺を誘惑し翻弄し続けたナミに責任がある。
想いが通じたらやる事やって何が悪い。キングやクイーンまでもか、五月蝿ェのがまた気に入らねェ。
俺の女だってんだよ。節分の時はちゃんとタタせたらご褒美やるって言ったんだから、わかって当然と思うじゃねェか。
はァ……と溜息を落とした時、ナミの為にと用意した部屋から歌声が聞こえて来る。最近は俺の部屋にいたから、あの部屋にいるのは何だか物珍しく思えて、部屋まで迎えに行きながら特に用事もない現実にどうしようかと考えてみた。
……顔を見に来た、で、良いか。ナミを連れて行くと悲しそうな顔をする仕事は終わったんだから、問題はねェだろ。
部屋のドアを開けるのと、ナミが歌い終わるのはほぼ同時だった。その為に俺のたてた音に驚いて振り向くナミは、何処か幼く、無防備に見える。
だがそれは違うと直後に気付く。泣きそうなのだと分かっちまった。
無言で手を広げるのが俺に出来る精一杯の事で、だがナミはその意味を正しく理解して俺の胸に飛び込んで来る。そのままでは腕が届かずに落ちるからと支えてやれば、甘えるように擦り寄る姿にこれは小動物だったらしいと認識を新たにした。
……擽ったいな。それに、美味そうな匂いがする。
「どうした。叶えてやれる保証はねェが、聞くだけ聞いてやるぞ」
「……そこは嘘でも〝何でも叶えてやる〟って言う所じゃないの?」
「ナミに、嘘は言いたくねェ」
「そういう所が、好きなのよね。悪人なのは分かってるのに……駄目ね」
悪人でも好きだというそれが、この激甘兎の使う言葉の中では最大級の愛の告白だと伝わるから、もう少しこのまま甘やかしてやろうと思う。そうして顔を埋めていたナミが、ボソボソと言葉を伝え始めた。
「海賊一番くじが当たったの。重箱に卵焼きとか詰めて、お花見とかどうかしら?……でも、難しいわよね」
俺と居て不可能があると思う方がどうかしてるだろ。そう思って頭を撫でれば、痛かったのか顔を上げるが……どうやら驚いただけらしい。
「やれば良いだろ。そんなもん」
「だって……」
「ん?」
「カイドウ達仲良くないから、いつも喧嘩になっちゃうし、宴の度に怪我人出るじゃない……」
まるで他の海賊団を知ってるような言い方に少し不快になり、知ってるんだったなと思い出す。今では俺と肩を並べる形で言われている赤髪海賊団にいたとは、聞いた覚えがある。
そもそも俺が出会った時は、その左肩に魚人のマークを入れられていた。今は、俺のマークに変わってるそれを軽く撫でて言う。
「……海賊が怪我を気にしてどうなる。少しくらい殴り飛ばしたからって、どうにかなるような弱い奴は幹部にはいねェぞ」
「でも……」
なんだってコイツはこう甘いのか。それでいて、戦うとなると強すぎるんだよな……。
仕方ねェ、な。俺が勝てる要素のない戦いなんだから。
「なら、2人で行くぞ」
「え?」
「弁当はナミが作るんだろ。食い尽くしてやるから、気合い入れて作れよ」
俺の言葉に嬉しいと呟くように言って顔を俺の胸に埋めて隠しちまうナミに、さていつなら弁当の準備が整うだろうかとまだ見ぬ明日に期待する。早くナミとのんびり出かけたいと、そんな事を思って。
そうしてナミと戯れていたら破壊音が響いて、奴等は静かな時を過ごせねェらしいと舌打ちすると、胸に顔を埋めたままナミが笑い出す。そして僅かに涙の滲んだ状態で俺を見上げた。
「……私が間違ってたわ。カイドウ達って、同族嫌悪なだけで基本的に仲良しね」
「ナミから見たら、仲良しじゃねェ奴の方が少ないだろうが。……チッ……行ってくるから、明日には行けるようにしとけ」
俺のそんな無理のある言葉に頷いて、頑張るわと微笑むそれは本当に小娘なのかとその年齢を疑いたくなる。その後は結局、暴れる奴等に混ざり鬼ヶ島の1部が崩落した。
翌朝目覚めると寝台にナミが居なくて、どこ行きやがったと身体を起こす。そこではたと思い出す。
……なんか作ってんのか。そう思って様子を見に行くと、楽しそうに料理を箱に詰めていて、詰めきれなかっただろうおかずが皿に乗せられてるのを見れば、あれが朝食かと笑っちまう。
そうして案の定な朝食を共にして、何とも健全な生活してるもんだと苦笑すればナミが小首を傾げるから、弁当落とすなよと声をかけて龍になればナミが背に飛び乗って来た。そうして空から桜を眺めつつ、人の余りいない所へ向かい飛ぶ。
その途中で屋台を見付けたナミが小さく懐かしいなんて言うから、そっと外れに降りてやる。すると不思議そうな顔で俺の背から降りるから俺も人の姿になり、ナミが怪我をしたり誰かに拐われたりしねェようにとヒョイと片腕で抱き上げた。
「カイドウ?」
「ナミは、何に興味があるんだ?」
「え?」
「懐かしい、んだろ。ナミは1人だと食えねェだろうが。……どうせナミは1口齧れば充分なんだから、半分食ったら渡してやる」
「ありがとう」
耳まで赤くしてそう言うナミが指さしたのは飴屋で、見れば苺飴だとか、葡萄飴だとか、林檎飴だとか色々ある。どれが良いのか分からずに、適当に買って半分齧ってから差し出すと、少し赤い顔でそれを舐め始めた。
その様子に中の果物なんだったかと口の中にあるのを噛み砕くが、ナミのたどたどしい食べ方が妙にエロくて既に味どころじゃねェ。苺でも林檎でもなんでもいい。
もう既に蜜柑だろ。成程、俺の腕の中に居るのは蜜柑飴か。
前々から甘いとは思ってたが、飴だったなら仕方ねェな。飴なら舐め尽くして何の問題があるのか。
「カイドウ?」
「んあ?」
「ありがとう、楽しい……」
「ナミが楽しいなら、それで良い」
欲望に忠実な事を考えていた俺の毒気を抜く微笑みと言動に、俺は何とか言葉を返した。それに対して、どうやら林檎だったらしい飴を少し食べただけで、なんか疲れたと言って返して来る。
それを受取り林檎飴の残りを口に咥えながら歩くと、ナミは桜を見上げていた。掌を広げて、降り注ぐような勢いで落ちてくるそれを掌に集める。
その姿が年相応の少女に見えて、普段大人としてやってる分そんな姿が妙に愛しい。娘どころか孫でもおかしくない相手に、どれだけ溺れてるんだかな。
さて、何処か人気のない所でナミの作った弁当を食うかな。俺は花より団子が目当てなんだよ。
……そういや、酒の用意はあるんだろうかとナミを見ると、ナミはなぁに?と首を傾げる。その様子が可愛いからとりあえず頭を撫でて歩き続けた。
今度、温泉にでも連れてってやるかと考えていた俺は、帰ってから使えそうな物を見付けてナミを連行して、半泣きで喜ぶナミが温泉で桜色に染まるのを目の当たりする事になる。当然その後はそんな桜の花を散らして喜ぶ事になるが今は、まだ知らない未来の話だ。
だからこそ、今は桜を楽しむナミを楽しみながら手作りの弁当を食べる事がこの男の急務である様子だ。花より団子……?
いや、この男にはどちらかなんて似合いはしない。花も団子も兼ね揃えた女を、男は容赦無く丸齧りする事だろう。