ラキア王国の軍艦、『マルテリオス・ラキア』・・・大きな外見に外には海で陸を制圧できるほどの威力を持つ大砲。中身は食堂、兵士の寝室、操縦室、牢屋、会議室など様々な部屋が揃っていた。食堂は全員が一気に食べられるような広さに、操縦席は最高責任者だけが操縦するのを許され、会議室は、アレスとマリウスなどの指導者が立つ場所やテーブルに地図があり牢屋に関しては捕虜を閉じ込めておくのに使うのだ。牢屋の中は、少し暗く、だが清潔感があった。人体に疫病が蔓延しないように船内では掃除は徹底しているようだ。エルヴィン曰く、古き友人が潔癖症な為、掃除には少し細かいらしい。サシャも何やら過去の記憶から掃除には熱心になっていたという。静かな雰囲気が漂っていた。
「えっと・・・食事・・・です」
「・・・・」
そんな中、一人の青髪の少女、カサンドラは捕らわれている赤髪の少女、ダフネに食事を持ってきた。ダフネの元に届いたのは普通のシチューとパン。だが、骨付き肉があり牢屋にしては少し豪華であった。それにダフネは黙って受け取りそのまま頬張った。
カサンドラは食事を届けた後見張りを任されているため、檻の前にある椅子に座っている。よく見たらレベル1がレベル2の冒険者を捕らえているのはとてもシュールな光景だ。通常、レベルは一つ上であれば何か特殊なスキルがあることを除き圧倒できる強さだ。
だが、今カサンドラは銃というモノを手に持っている。この世界では銃という物は存在しない。更に弾の威力はレベル5だった物が今ではレベル8までいけるとのこと。火薬の中に魔石を混ぜることによる威力上昇らしい。そのせいでレベルが5の冒険者も捕らえられたらなかなか手も出せないのだという。軍艦、銃、大砲・・・人類の技術はハイエルフの魔法・・・イヤ、神と同等の力を手に入れようとしたことが思い知らされた。
さて、その話はここまでとしよう。少し静寂によって辺りが包まれる。聞こえるのは食器の音、そして咀嚼音そして、ランプが揺れる音だけであった。明かりは少なく、見張りと捕虜も眠りについている者もいた。しんとした空気が辺りに漂う。
「どうして・・・ウチを助けた・・・」
ふと、ダフネがあの雨の中カサンドラが自分を助けたことに疑問を投げかける。カサンドラの姿はどこか悲しげだった。
「あんたは・・・私が憎いはずだ・・・ウチラのファミリアでようやく訪れたオラリオにも離れなくちゃいけなくなった・・・あんたは私を殺したいほど、アポロン・ファミリアが憎いんじゃないの?」
ダフネはただ、カサンドラに自分の疑問を投げかけられる。カサンドラはそのことに身をかがめていた。少し方を震わせ、息づかいも僅かに荒くなる。
「後悔・・・しているんです・・・私がこの戦争に参加したことを」
カサンドラの言葉にダフネは目を丸くする。カサンドラは涙拭みながら話を続けていた。
「私は・・・最初は自分を助けてくれるのに、何も出来ないのがイヤだったから参戦したんです。辛い訓練もあり、ローゼさん達からも止められました。私はただ・・・守られているだけのお姫様にはなりたくなかった・・・そんな傲慢な思いが当時の私にはありました・・・」
そうしてカサンドラは、銃を手にかけ、そっとなでる。カサンドラは震える声で続けた。
「でも、メレン上陸作戦を見たとき・・・軍艦の大砲の音と共に自分の過ちに気が付いたんです!あの悲鳴が今でも耳に残っているんです・・・その惨劇はダフネさんも知っているでしょう・・・」
「アア・・・」
ダフネは、あの惨状が今でも鮮明に覚えていた。船から出される砲台の音、女も混じる悲鳴、そして血が混じった赤い砂煙・・・メレンは地獄となっており一般人が見たら吐くほどだろう・・・いや、確実に吐いている。内臓がもろむき出しの死体、地面を染め上げている赤い血・・・そして何より残酷だったのが、銃弾で死んだ人間の死体が踏みつけられる事だった。その死体を見てみれば脳もむき出しだったほどだ。
「私も、ここまで生きる為に何人も殺しました・・・確かにアポロンファミリアには入りたくはありません・・・でも、そのせいで多くの人が死んで・・・今はコレで本当に良かったのかなんて思うほどあの感触が残っています。特に小人族の男の叫び声と怒号が忘れられません」
そう言ってたえきれなくなったのか、カサンドラの膝に水滴が落ちていった。暖かく、それで冷たい水が・・・
「あんた・・・」
ダフネはそれを見て戸惑っていた。ここにいるのは敵同士であった少女・・・だが、少女はただ守られるだけではイヤ・・・それだけの思いで参加した。だが、現実はまた違った。
17歳の少女には速すぎた罪であったのだ・・・彼女には自分が殺した者の叫び、怒りが彼女の耳に伝わる。
「・・・・・・・」
「ダフネさん・・・?」
ふと、ダフネは思わずカサンドラの頭に手を乗っける。そして慰めるようになで始めた。
「ウ・・・アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
カサンドラは耐えられなくなったのか、大声で泣き始めた。檻を通してダフネはカサンドラを抱きしめる。それに気が付き他の看守、捕虜もいたが看守が、他の捕虜に文句を言わないようにしていた。看守はその空気を読んでただ見守っていることにしたのだ。
「私は・・・・・・・ッ!私は・・・・・・・ッ!」
「大丈夫だよ・・・悪いのはあの、変態神だから・・・貴方は何も悪くない・・・・・・・ッ!」
そうして、なんも根拠もない理論を出しながら泣いているカサンドラを抱きしめる。17歳の少女は同い年である少女に救われたのだ。それも敵であった少女に・・・カサンドラの泣き声は暫く続いたのだった・・・
「ありがとうございます・・・お陰で楽になりました・・・」
そう言ってカサンドラは自分の顔を拭い、再び椅子に座る。捕虜の就寝時間はとっくに過ぎていた。
「良かった・・・元々あんたがこうなってしまったのはウチラのせいだから気にしないで」
「あの・・・」
「ん・・・?どうしたの?」
カサンドラは突然、顔を赤くする。就寝時間も過ぎているため早く寝なくてはならないのだが何やら言いたそうだった。やがてカサンドラは勇気を振り絞ったのか次の瞬間、突然顔を上げる。そして・・・
「これからダフネちゃんって呼んで良い?」
そうしてカサンドラは顔を赤くしながらダフネに向かって敬語ではない、ただの女の子のカサンドラの姿だった・・・
「ア・・・イヤだったらやっぱり良いです」
そう言ってカサンドラは次の看守に変わるため、牢屋を後にしようとする。
「ふふ、カサンドラって見たまんまだね」
そう言ってダフネは静かに笑い声を出す。カサンドラはそれに顔が茹で蛸のように赤くなかった。ダフネはそれに構わず笑い続けた。
「良いよ、そう呼んで・・・ウチには敬語を使わなくても良いよ」
そう言って、ダフネは檻越しからカサンドラの頭を撫でる。そして・・・
「うん、よろしくね!ダフネちゃん!!」
そう言ってダフネは笑みを見せた。その様子をサシャを含む看守達が安心するように見守っていたのだった。
はい、今回はここまでです。次回はオラリオ襲撃を書こうかと思います。ちなみに軍艦の名前はそこまで深くありません。それではまた次回!