異世界転移の冒険者、ダンまちに転生する。   作:龍神王聖人

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遅くなり、すいません。
 


第二話 エルフ

 案内で拠点に着くと、周辺に散らばっていたエルフ達と合流すると、事実確認の為にスリーマンセルで件の橋へ人を送った。

 合流した人たちの服装をみる限り、クーリエさん達の旅装束姿とは違う、森の保護色となった服装をしたグループのようだ。

 実質上のエルフ達による監視体制の中、事情聴取を受け、野外謹慎中?的な状況になっていた。

 

 

 結論を先に言うと、この状況は三日後に事実確認が取れたエルフらが帰還した事により、無事、解放されることとなった。

 

 この三日間はとても大変な日々だった。

 まず、食事は朝昼晩の三食ともに無味な携帯食だし、御手洗いもエルフ野郎の監視付きで出しづらかった。

 特に酷かったのは魔物との戦いだ。

 エルフ達に監視されているので、魔物たちによる襲撃三昧な時間を過ごしていた。

 魔物除けのお香を焚く事を提案してみるものの、実力に自信があるのか、素気なく却下された。

 当然、お香が焚けないので、魔物は昼夜問わず襲撃してくる。

 襲撃の際、共闘こそしているものの、連携は全くしていない。

 エルフ達が各自連携して魔物に対応する中、孤軍奮闘の戦いを強いられていたが、雑魚だった為、鎧袖一触〔がいしゅういっしょく〕と言えるくらいに討伐できた事は幸いだった。

 殆どの戦闘がエルフ達より先に終わってしまったので、加勢しようかと思ったが、目が『不要』と語っていた為、魔石やドロップアイテムの回収を優先した。

 流石に人の目があるので素材採取の解体スキルは使わなかった。

 もっとも、戦闘を見ていたエルフさんにはドン引きされていたが。

 

 まあ、そんなこんなで誤解が解け、森の出入口付近でエルフ達からは解放され、旅の続きをしていたのだが・・・

 

「……クーリエさん、あんたらは何処まで乗っていくつもりだ?」

 

遠目に見える青々しく茂る絨毯を眺めながら、隣に座るエルフを見てみる。

 質問された当の本人は鼻歌交じりに自家製ドライフルーツを美味しそうに食べながら、その美味しさからか、足をばたつかせていた。

 

 どういう事か、それは森を出てすぐの所。

 追いついてきた数名のエルフが馬車への同乗を申し入れてきたことに由来する。

 何故、うちの馬車に?と尋ねてみる。

 すると彼らは近くの町まで、馬車の護衛も兼ねて同行したいという。

 別に困って無いし断ろうか…と悩んだが、…まあ、花があるから良いかと受け入れた。

 不当な拘束に何も無いのは…と詫びも兼ねて幾つかの対価を受け取り、旅を再開した。

 そして、ようやく遠目に町が見えてきた頃、改めて目的地の確認をする為、隣に何故か居座るエルフに尋ねたのだ。

 

「とりあえず町までお願いします。

 そこから先は要交渉と行きましょう。」

 

すると、頓珍漢な答えが返ってきた。

 まず、町まで行くのは良い。

 そういう約束だからな。

 しかし、別れるわけでもなく交渉とは、一体、何を頼まれるやら。

 

「要交渉って、あんた、俺の旅に同行するつもりか?」

 

一応、俺は男である。

 もし、旅への同行ならば、見目麗しい彼女らが放つ花の色香に惑わされるかもしれない。

 エルフ達側にも二人、男がいるとは言え、間違いが起こるとも限らない。

 

「あんたじゃあ、ありませんよ。

 私の事はクーリエと呼んでください。

 もちろん、呼び捨てで構いませんよ。」

 

「そいつは失礼した、クーリエさん。」

 

「ム~、呼び捨てでも構わないんですけど・・・」

 

そんな心配事を余所に、名前の呼び方に納得せずにむくれるクーリエさんはジト目で此方を見つめるが、

 

「・・・いきなり馴れ馴れしく呼び捨てはできないだろ、普通。」

 

その可愛らしい姿に若干目を逸らしながら正論をもって、その訴えを退けた。

 そもそも、そちらもさん付けなのでは?と思ったが、あえて言わない。

 

「・・・はぁ、仕方ありません。

 分かりました。今のところはそれでいいですよ。…今はね。」

 

何処か、残念そうに呟くと、クーリエさんは話題を換え、結局、追求には答えなかった。

 

 クーリエさんや他の特に旅装したエルフ達の態度が軟化し始めたのは何時だったか。

 親しく話す様になったクーリエさんは、初対面の時とは別人のように見えた。

 強さに惹かれたか、俺の中に流れる奇跡の血に気づいたか。

 理由は本人に聞かなければわからないだろう。

 

 

 

  

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

ガサリと、前方から音が聞こえた。

 荒い息、匂う獣臭、彷徨く周囲の気配。

 それは近くに敵が潜伏しているサインだった。

 

「ーーーやれやれ、またか。」

 

「え?」

 

突然の溜息に怪訝な様子のクーリエさん。

 質問に答えず、道のりを進んでいると、やがて道端の茂みから複数の野犬が出現する。

 野犬、またの名をバウンドと呼ばれているこの魔物は、かつて、オラリオの迷宮から地上に進出してきた生物である。

 オラリオの迷宮で確認されている『ヘルハウンド』が先祖と言われているが、その強さは彼のそれに比べるとかなり弱いらしく。

 

「フンッ!!」

 

座席から降り、剣を複数回、速く振っただけで、戦闘が一瞬で終わってしまう。

 種類が単一だったのも一つの要因だろうが、それにしても弱すぎだった。

 常識では恩恵を持たぬ一般の成人男性は最弱であるゴブリンにすら勝てないと言うが、本当だろうか?

 正直、ゴブリンより強いとされるバウンドですら戦いが一方的過ぎて張り合いがない。

 寧ろ、その後の後始末が大変だ。

 魔石は砂粒レベルでピンセットで回収する必要があるし、ドロップアイテムは品質がよろしくないようで、町では子供のお小遣いレベルだ。

 しかし、貴重な換金素材だ。

 チリも積もれば山となる。

 心の中からモッタイナイお化けが顔出す。

 貧乏性も相まって、一々回収しているのだ。

 

 そもそもの話だが、地上の魔物が弱いのには訳がある。

 進出した大半の魔物に共通していることでもあるのだが、魔物が弱いのは体内の魔石を繁殖に利用した為とされており、その証拠に地上の魔物たちから採取される魔石は迷宮の同種のそれに比べればかなり小さい。

 とはいえ、地上進出を果たした魔物たちは繁殖を繰り返しながら、千年近くたった今でも未だに人々に脅威をもたらし続けている。

 

 この辺でも魔物は多く、バウンドの他にも、ゴブリン、コボルトといった人型種を始め、様々な種類の魔物が生息している。

 

ーーー閑話休題

 

 

 ここ最近、よく魔物の群れと遭遇する様になった。

 エルフ達に拘束される前もそうだったが、魔物が群れる確率が依然として高水準を維持している。

 群れがやって来る方角から恐らく、カドモスによって縄張りを追い出されたか追い立てられたのだろう。

 

 一個人の感想としては戦闘になったとしても同種が四、五匹ほど群れたところで大したことはないが、それ以上の群れや他種類が混ざり始めると面倒くさくなるといった具合だ。

 ただ、苦戦のくの字すら顔を出さないレベルで圧勝しているのは確かだ。

 故に、一人だけでも十分に護衛が間に合ってしまっていた。

 これではどちらが護衛かわかったものではない。

 一応、馬車の周りで周辺を見ていたエルフ達もそれぞれの武器を構えていたが、結局は出番が無い状況が続いていた。

 

 その後は前後を入れ替えて、進む事になり、戦闘らしい戦いができたが、結局、捌ききれずに助力する羽目になったが。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 森からの道が東の物流街道に合流した。

 ここから西へ行けば、町へと到達する事が出来るだろう。

 此処らの街道は本来なら兵士達が巡回しているらしいが、今回はちょっと事情が違うらしい。

 一般の成人男性がゴブリンに勝てない事は知られているが、訓練された兵士ならば、ゴブリンやコボルトくらいなら何とかなるという事実はあまり知られていない。

 冒険者の影に隠れているということもあるが、兵士は基本的に恩恵を持たないことが主な理由だ。

 只でさえ、オラリオよりも神の降臨が少ない外。

 それこそ、国家系や軍閥系のファミリアでも無ければ、一般の兵士に恩恵なんて回ってくる道理は無かった。

 そんな訳で、恩恵を持たない一般兵士隊は訓練で得た地力と技術、そして頭数で魔物に対抗し、間引きすることで、街道の治安は維持されて来た訳だ。

 しかし、今回はそうも行かないらしく、魔物とのエンカウントの上昇に加え、チラホラとレベル1上位クラスの力を持った存在も現れだしていて、とても手が回らないそうだ。 

 

 ちなみに、これらの事情を話してくれたのは、町と町を結ぶ街道を任された兵士隊を率いる隊長さんだ。

 隊の兵士達がエンカウントした魔物を相手しているところに助太刀した縁で話を聞くことができた。

 ついでと言わんばかりに、魔物の種類や様子を聞いてみると、あまり変わった様子は見受けられなかった。

 

 兵士隊の人達とはそこで別れ、青々とした麦畑に挟まれた道を進む。

 麦畑から時折、草陰からゴブリンとコボルトが飛び出すが、耳の良いエルフ達には諸にバレていて呆気なく片が付いていた。

 普通に手を出す必要はなかった。

 再びちょくちょく戦闘を繰り返しながら、麦畑を抜け、ようやく町へたどり着いた。

 そこはこの世界ではよくある高い壁に囲まれた町だった。

 町の規模は五万人弱。

 我々が通ってきた東街道を含め東西南北4本の道がこの町から伸びている交通の要所だ。

 四方の出入口にはそれぞれ門番が配備され、行き交う人々を見張っていた。

 

「止まれ。」

 

皮鎧を装備した壮年の兵士から呼び止めが入る。

 話を聞くと単なる職質だった。

 ヒューマンとエルフの組み合わせは珍しいのだろう。

 

「パルゥムとエルフの組み合わせとは珍しいな。

 冒険者かい?」

 

・・・・・。

 普通にパルゥムだと勘違いされてた。

 ダメ元でロダ地方の施設で得た身分証を見せて、漸く納得してくれたが、今度は何処かのファミリアなのかと勘違いされた。

 ロダ地方の冒険者施設に所属はしているので、一応、信者の部類には属するが、恩恵は貰っていないので団員ではない。

 そう、説明すると、そんなもんか、と門番は普通に納得していた。

 身分がはっきりしたことで、警戒が緩くなったのだろうか。

 大丈夫だろうか?そんな心配を余所に入門料五百ヴァリスを払うと、あっさり通された。

 

 

 直ぐ様、無難な宿を確保して、部屋の前でいざ解散とエルフ達に告げようとした時、クーリエさんが一代決心した様子で此方を見た。

 

「ハクルドさん、私に剣術を教えてください!」

 

サラサラ感あるブロンドポニーテールの尻尾がそう頭を下げると同時に顔へとぶつかった。

 さて、この案件、如何したものか。




ご愛読ありがとうございます。

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