エーデルガルトの少女エル化計画~FE風花雪月金鹿ルート外伝~ 作:しとしと
数多の兵が殺し合い、その頂きである玉座の間に辿り着いたのは、二人。
殺したいほど対立したクロードと、殺したいほど想い焦がれた師。やはり、私の前に立つのは貴方達なのね。
「もう、やめようぜ、エーデルガルト! 俺たちは、お前を殺したいわけじゃない!」
「私は、貴方達を殺したいわ。殺さなければ、正しい世は訪れない! だから、全力でかかってきなさい!」
英雄の遺産アイムールを高々と振り上げ宣言する。我が帝国兵はその言葉を聞きさらに奮起した。
悲し気な顔をするクロード。そして、師は未だ納得いかないかのように唇を噛み締めた。
「どちらかが果てるまで戦うしかないのか! エーデルガルト!」
「貴方達の理想は……私のものと近しい気がしないでもないわ。でも、この大地の痛みを知らない貴方には……フォドラは任せられない!」
「そうだな……俺はフォドラの歴史を、真に理解してはいないのかもしれん。だが、その分、見てきたものもある。心配すんな……お前の代わりに成し遂げる!」
クロードは覚悟を決めたか。
「それしか道は無いのか? エーデルガルト……」
しかしそれでも、師は未だ納得のいっていない表情のまま、語りかけるように言葉を紡ぐ。
「先生……貴方は今、きっと、私に勝てると思っているでしょうね。けれど、私は絶対に諦めない。手足を千切られ様とも、前に進む」
「エーデルガルト……」
「偽りの女神を、それに従う者を打ち倒し、世界を取り戻すために戦う!」
「それが、君の答えか……君がエーデルガルトである限り、君は――」
師から裂帛のオーラが迸り、蛇腹剣である天帝の覇剣がそれに応えるようにぼうと燃え上がった。
「来なさい! これが最後の戦いなのだからッ!」
「クロード!」
「応! 兄弟!」
それぞれ手に持つ英雄の遺産が火花を散らし交差する。何度も何度も打ち合い、斬り合い、悲しみに泣くかのごとく高い金属音が響き渡った。
しかし何度目の交錯か、覆しようのない不利を悟る。私は一人。もはや帝国兵も尽く討ち果たされ、二人の連携に為す術もなく後退するのみ。それでも――
「――私は、前に進むッ!」
「エーデルガルト!」
「はあああああッ!」
クロードの矢が身を掠めながらも、師に斧を振り下ろす。先に届いたのは――
「終わりだ、エーデルガルト」
からん、とアイムールが手から零れ落ちる。立っていられない様を見せまいと、剣を地面に突き刺し、何とか倒れそうになる体を踏みとどまらせた。
「はあ、はあ、はあ……私の道は……ここで……途絶えるか」
それに納得できぬとアイムールを再び掴むも、もはや振り上げる力すら残ってはいなかった。
「師……勝者の務めを……討ちなさい、師……!」
負けを認めず、ただ泣き喚く子供ではない。毅然と、するべきことを伝えるだけだ。師の表情は暗く、堅い。今尚、私を殺すべきか逡巡している。どこまでも甘く、優しい、私の――
「今も……各地で多くの人が、殺し合っている……私を討たねば……戦いは、終わらないの」
師が私にとどめを刺せるよう、刺さねばならない理由を一つ一つ話す。そうすれば、師であれば、わかるはずなのだ。私を生かす道など無いと。優しい師であっても、私を殺すことができると。
「貴方達の道は……私の屍を越えた先にしか……ないわ……」
「……」
「だから、せめて……貴方の手で……!」
「……」
私の生涯最後の願いを師に伝える。師は、ゆっくりとこちらに歩み寄る。
ああ、師――見上げる師の顔は覚悟を決めたものだ。
私が、唯一憧れ、唯一隣に居てほしいと願い、届かなかった人。私が頭を垂れて私の命を奪ってほしいと願った唯一の存在。ああ、私の師――
「二人で……歩き、たか――」
思わず呟いた声は師に届いただろうか。勝者である師が剣を振り下ろした瞬間、私の意識はかき消える。
私の――エーデルガルトの道は、今途絶えたのだ。
偽りの女神とそれに従う者を打ち倒し世界を取り戻す為に戦った。しかし、勝ったのはクロードと、その側にいる師。誰よりも欲し、しかし手に入らなかった存在。その存在によって私は討ち果たされたこととなった。
後悔はない。
しかし、私の理想に付き合わせたヒューベルトと他将兵達、同期の生徒達にはあの世で謝罪したい。叶えられず済まなかったと。そしてその謝罪の時はすぐそこに来ていた筈だった。
「あれ……?」
眩しい。
死とは真っ黒なものであると思っていた。あのネズミだらけの、死と生があやふやなあの牢の世界のような、暗い色をした場所だと。
しかし、眩しかった。
目蓋の裏でもわかるその眩しさに、思わず光の元を確認しようと目を開いた。
「ここは……?」
そこは、学生時代に居住していたあの懐かしい部屋だった。ベッドの上から部屋の中を眺めると、置いてきた家財も部屋の染みも全て一緒。違うのは――
「――起きたか、エル」
「せ、師……?」
そこにいたのは、穏やかな笑みを浮かべた師だった。
私は死なずに、生き残ったのだ。