エーデルガルトの少女エル化計画~FE風花雪月金鹿ルート外伝~   作:しとしと

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ここからDLC要素増えます。ネタバレするので買ってない人は買ってやってみてね!

今回は、二話連続投稿(前編)です。


第十一話

 リシテアとの邂逅より数日、ついにその時が来た。

 深夜、闇に蠢く者討滅の作戦決行により討伐隊が編成され行軍が開始される。彼らに気取られないよう、秘密裏に行われる深夜の行軍と相成ったそうだ。後に敵本部拠点近くで駐留した後、気づかれぬよう矢の進軍でもって侵攻するらしい。

 また、亡きヒューベルトからの伝言により、闇に蠢く者の本拠地であるシャンバラにはレアも連れていくことに決めたそうだ。確かに、仇敵である大司教レアを捕えながら殺さなかった理由は闇に蠢く者への対抗策も含んであった。レア本人もついて行くという発言もあるとはいえ、師らの判断は支持すべきものだと私も思う。

 しかし、そうなれば教団支持層はレアに付従うだろうからガルグ=マク修道院からいなくなる筈だ。以前よりは警戒せずに出歩けるかもしれない、そう思っていた矢先であった。

 

「師、まだ行かなくていいのかしら?」

「ああ、君を安全圏に連れていった後に、合流するよ」

 

 師は、クロード、レアやセテス達が先んじて行軍する中、未だ私の部屋にいた。師は私を思って合流を遅らせることとなったようだ。

 師は懐から何かを取りだす。

 

「……この仮面を、つければいいのね」

「ああ」

 

 行軍で師が暫くいなくなるためか、師の部屋で過ごすことが叶わなくなり、一つの仮面を渡された。炎帝の時のものではない。顔の上半分を隠すもので、端に小さな赤い花が刺繍されたものである。

 聞けばドロテアに頼んで劇団で用いられるものを手に入れた後、ベルナデッタに頼んで刺繍を加えたものだそうだ。

 

「……ベルナデッタは食虫植物を刺繍しようとしていたんだが、流石にエルに似合わないと思ってね。デザインを変えてもらった」

「そうね……この花は可愛いわ。ありがとう」

 

 ベルナデッタの刺繍は良い出来である。食虫植物であれば返答に困っただろうが、この名も知らぬ赤い花はとても気にいる出来であった。

 

 渡された仮面を被り、私は師の後をついていく。

 こうして外を歩くのは久しぶりである。夜風があたって気持ちがいい。

 ただ、警戒しているからだろうか師の歩くペースは幾分早く、その歩幅に合わせるように歩くとすぐに息が上がる。やはり体力は落ちているようだ。

 静けさの残る通路を歩き、裏路地に立つ男と師はいくつか会話をする。男が道を譲った先をさらに進むと、人気の少ないガルグ=マク修道院の地下アビスに着いた。

 

「来ましたわね、先生」

「ハピも待ってたよ」

 

 そこには、灰狼の学級を自称する面子の内、見覚えのある二人の女性が私を待っていた。

 師が一通りの説明をし、私の中でその言葉を噛み砕いて理解する。

 

「つまり、師が帰ってくるまでは……私は彼らと共にいればいいのね?」

 

 つまるところそういうことだった。

 師が遠征している間は、アビスにて彼女らと共同生活を送ってほしいとのことだった。申し訳なさそうに言う師であるが、介助に頼らずとも過ごせるならば部屋で籠りきりの生活よりも快適なくらいである。

 

 しかし、師の言では私が見つからないようにする配慮とのことだが、ある意味私が皇帝としての道を再び歩まないようにするための監視も含まれているのだろう。見れば、かつてヌーヴェル家の復興を願いながらも私を止めたコンスタンツェ、そして獣を呼び寄せることのできるハピがいた。

 

 かつての私であれば立ち向かえないこともないが、今の戦闘から離れた自分では相手にもならないであろう。それに、ユーリスと呼ばれた男の存在がこの場にいないことも気になる。彼女たち二人を制せば良いというわけではなさそうだ。

 

「ああ、コンスタンツェやハピは頼りになる女性たちだ。ここの生活については彼らに頼ればいいだろう」

「わかったわ」

「一応、アルファルドさんにもユーリスからある程度話は通しているが……それでも、顔を他の人に見られないようにしてくれ。一応、アビスにも教団関係者は多い」

「……ええ」

 

 アルファルド──確か、アビスを管理している教団の重鎮だったか。話を通しているとはいっても、エーデルガルトが存命しているとは伝えていないだろう。

 アルファルドがどういった立ち位置なのかは知らないが、彼も教団関係者であれば報告義務はあるのだ。あくまで秘密裏にしたい女性であると伝えている程度ならば、確かに顔を見られるのはまずい。

 

 師としても私を修道院に居続けさせるよりはアビスの方が安全と見て、苦渋の判断であるのだろう。うろうろせずに、仮面をつけて彼らと行動するのが最も安全だ。

 

「先生よ、別れを惜しむのもいいが、そろそろ俺達が行かないと怪しまれるぜ」

 

 アビスの通路の奥から、見覚えのある男性が顔を覗かせた。彼は確か、バルタザールといったか。

 

「ああ、バルタザール、待たせたね。それでは……行ってくるよ。エル」

「ええ……本来ならば、私が討ちたかった相手だけれど」

「そうだね、君の代わりに倒してこよう」

「……気を付けて」

「ああ、遅れは取らないさ。さ、コンスタンツェ、ハピ、前に話したように……エルを頼んだよ」

 

 師は天帝の剣を抱え二人の女性に声をかけた後、バルタザールと呼ばれる男と共に並んでアビスを後にする。

 残されたのは、女三人。口火を切ったのはコンスタンツェであった。

 

「さ、こちらですわ!」

「え、ええ」

 

 地下に響き渡る声量でアビスを案内するコンスタンツェ。

 しかし、擦れ違う住人に彼女の声量を咎めたり表情を顰めたりする人間はいなかった。彼女のこういった仕草は慣れているのだろう。もしくは他人に興味関心を抱かないのがアビスのやり方なのかもしれない。

 

 ハピと呼ばれた少女と共にずんずん歩いて行くコンスタンツェを追って進む。こちらが浴室、トイレ、と指さし確認で場所を見回りながら、最後にアビスにおける女性陣が住むとされる寝台のある部屋に通された。

 

「ここが、あなた様の住む部屋ですわ!」

「ハピ達も一緒だけどね」

 

 見回せば、地下らしく薄汚れた雰囲気はあるものの、掃除は女性らしく行き届いている。身の回りのことをマヌエラ殿に頼っていたことを思えば、ここでの自由生活は気楽そうだ。ただ気がかりは──

 

「ええ、よろしくね」

「さて……先生が帰ってくるまでの間、昔のようにお茶会と参りましょうか!」

 

 椅子を人数分持ってきた後、コンスタンツェは昔のままの朗らかな表情で、高らかにそう誇示した。

 

 彼女はコンスタンツェ=フォン=ヌーヴェル。帝国貴族であるヌーヴェル家の正当な後継者でありながら、闇に蠢く者の策謀によって御家を潰された存在である。アビスにおける灰狼の学級と呼ばれる謎多き存在の中でも、彼女とだけは多くの言葉を交わした。

 なぜならば、ヌーヴェル家復興を目的に私と接触があったためだ。私が皇位を継ぐにあたって、彼女の家の復興を約束したこともあったほどだ。

 

 ハピがよいしょと奥から紅茶と菓子をのせた机を持って参じると、三人でお茶会をするような形になった。

 しかし、私としてはコンスタンツェと会うことはとても気まずい。師が相談も無しにこうしてアビスに連れてくることが無ければ、断っていたかもしれないほどに。

 

「コンスタンツェ……」

「こうして椅子に座ってお話するのも、久しぶりですわね」

「ハピは初めてだけどね」

 

 昔のように笑うコンスタンツェ。ハピも気にした風も無くテフを飲み始めた。

 居た堪れなくなり思わず目を逸らす。

 

「お茶会と言うけれど……何を話すのかしら?」

「そうですわね……あなた様の気がかりを」

「気がかり?」

「あの時のこと、一度も相談してくれなかった──なんてあなた様を責めるつもりはありませんわ」

 

 彼女とは約束を交わしながらも、道を違え、幾度となく剣を交えた。コンスタンツェの言うあの時とは、その袂を別つきっかけとなった五年前の聖廟襲撃のことであろう。

 

 相談すれば、絶対に止められるだろうことは想像に難くなかった。だから言わなかった。結果、それが袂を別った原因となったわけであるが、後悔はしていない。

 私が悩み苦しんで出した答えに対して、コンスタンツェは正しく私の──帝国のやり方に憤り、師とともに剣を向けたのだから。

 

「……そうね、お互い、あれは仕方がなかったのかもしれないわね」

「ええ、今思えば、事前に相談されていればあなた様についていたかもしれませんもの」

 

 コンスタンツェは優雅に紅茶を飲みながらそう言う。

 思わず瞳を見開いて聞き返してしまう程に、私としては意外な言葉であった。

 

「私は貴族主義を排するために戦っていたのよ? 貴族復興を目指すあなたにとっては大きな裏切りでしょう」

「……元々、エーデル様の描く未来に、貴族の居場所は無い。そう勘付いてはおりましたわ。貴族に変わる統治制度が敷かれ、私達の役目も変わっていくだろうと」

「その通りよ。だから、あなたは師についたのではないのかしら?」

「違いますわ」

 

 コンスタンツェは穏やかな笑みから一転、意志の強い瞳をこちらに向けた。

 

「私の家を再興することと、貴族主義を排することは関係ありませんの。なぜなら、行き過ぎた貴族主義が私の家を破滅に導いたことは否定できませんもの」

「……それは」

「我が紋章が特別なものであることは、エーデル様はご存知でしょう」

「ええ」

 

 以前、コンスタンツェより聞いたことだ。ヌーヴェル家は、フォドラに一つとして残存していない筈のノアの紋章を持っていた。

 故に、それを秘匿するため様々な方法で帝国からの調査を誤魔化しており、数多の貴族の中でも最も他の貴族や平民に与することを良しとしなかった高潔な貴族であった。

 

「紋章を秘匿するために様々な方法を編み出し帝国の内憂は回避できたものの、ダグザという外患には対処できなかったんですもの。貴族主義──貴重な紋章を持っているという矜持故に、多くの家と繋がりを結ばなかったヌーヴェル家の自業自得ですわ」

「……どうかしらね。ヌーヴェル家の断絶は六大貴族の思惑も大きいわ」

 

 七大貴族の変において、皇帝側についてくれた貴族はそう多くはない。ヌーヴェル家はその数少ない皇帝の味方となってくれた存在である。

 だからこそ、エーギル公並びに闇に蠢く者にとっては邪魔な存在であった。故にダグザ・ブリギット連合軍を防ぐための捨て石にされたと聞いている。

 

「それも、今となってはどうでもいいことですわ」

「……そうかもしれないわね」

 

 特に、今の敗北してしまった帝国にはヌーヴェル家復興など余力はないのだから。

 

「ええ、ですから……手段は別としても、あなた様の考えを否定したいわけではありませんわ」

「……では、なぜ師についたのかしら?」

「私はただ、あなたがあなたのやり方で理想を叶えようとしたのと同じ……私のやり方で家の復興を目指したいと思ったから、ですわね」

「あなたの、やり方?」

 

 それがどんなやり方なのか、興味があった。

 コンスタンツェはよくぞ聞いて下さいましたと満面の笑みを浮かべると、両手いっぱいに広げて言葉を紡ぐ。

 

「ええ! それは、新たな魔法を作ることですわ!」

「そういえば……そんなことを言っていた覚えがあるわね。魔道研究はまだ続けているのかしら」

「ええ、勿論ですわ! 早速付き合ってくださる?」

「そ、それは遠慮しておくわ……」

 

 彼女の魔法は紅茶を七色に変えたり、物を爆発させたりと枚挙に暇がない。

 実験台となるのは避けたいことであった。実験と名のつくことにトラウマがあるのもその考えの一助になってしまっているが。

 

「とにかく私は、先生の元で魔道の研究をして後世に残る功績を作ること──それこそが近道であると信じたんですの」

「そう……なのね」

「ええ、私の為に研究を手伝い、親身になって応援してくれる先生を──ヌーヴェル家の従者とする野望を抱いているからこそ、先生についたんですのよ!」

「じゅ、従者?」

 

 クロードとこれから人の上に立つだろう師を、従者とは。相変わらず色々な意味でスケールの大きい人である。

 コンスタンツェは、変わらず花のような笑みと高飛車な笑い声を上げて、自らの言葉を続けた。

 

「ええ、あれだけ私のために動いてくれる者などそうはいませんわ! だからこそ、礼としてこうしてあなた様を生かすことにも十全に協力させていただいているんですのよ」

 

 私を生かすことに協力、それは師のためであるという。

 かつて友であった者として寂しい言葉でもあるが、裏切った手前それも当然か。

 

 野望を話し高らかに笑うコンスタンツェであったが、私が少し憂鬱な表情をしてしまったのに気付いたのか訂正するように言う。

 

「勿論、先生のお手伝いだけでなく、私もあなた様を生かすことについては賛成ですわよ」

「ハピも一応賛成かな」

「そう……」

「ええ、こうしてまた……友人として話したいと思っていましたの」

 

 さ、お茶会を楽しみましょう。とコンスタンツェに紅茶を勧められた。

 話ばかりしていたせいか、すっかり冷めた紅茶に目をやる。コンスタンツェの言葉は純粋に嬉しかった。先ほどのような気まずさは幾分か消え、紅茶も喉を通る。

 

 この味は──

 

 かつて二人で開いたお茶会でコンスタンツェに言った記憶がある。私が好む味を覚えてくれていたのだろう。それだけで、先ほどの話が嘘でないことがわかった。

 胸から溢れる言い様の無い温かさに、言葉が漏れた。

 

「……美味しいわ」

「ええ、冷めても美味しい私の魔法がかかっていますのよ」

「……」

「嘘ですので、捨てようとしないでくださいまし」

 

 懐かしいやりとりだ。

 一度道は違えてしまったが、こうしてまた話すことのできる間柄に戻ることができたのは、純粋に嬉しかった。

 

「ガーティと仲直り……できて良かったねコニー」

「ええ、そうですわね」

 

 ハピが口角を少し上げて言う。

 コンスタンツェも、微笑を返すようにして答えた。ただ、ちょっと待ってほしい。

 

「ガーティ、って私の事?」

「うん、元の名前で呼んじゃ駄目なんでしょ? だからガーティ」

「……ま、まあいいわ」

 

 どこからどうとってガーティなのかはわからないが、ハピにとっては愛称のつもりなのだろう。コンスタンツェもコニーと呼ばれて何も言わないあたり、特徴的な略し方が常なのだろう。

 

「さ、じゃあ、今度はハピともお話しよっか」

「え、ええ」

 

 アビス地下深くに夜の帳が下りる中、三人の女子による姦しいお茶会は、まだまだ続きそうであった。

 

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