エーデルガルトの少女エル化計画~FE風花雪月金鹿ルート外伝~ 作:しとしと
アビス、女性用居住区にて私はコンスタンツェ、ハピとともにお茶会をしていた。
師が戦いに赴いている間、こうして呑気にお茶会している場合でも無いと思うのだが、一人でただ黙々と過ごしていても心配で眠れなかっただろうから、ありがたい時間でもあると感じていた。
「さ、じゃあ、今度はハピともお話しよっか」
しかし、コンスタンツェとの幾分か気まずい感覚は鳴りを潜めたが、未だこのハピという女性はよくわからない。師と共にいる姿を何度か見かけたり、師を介していくつか話したりした記憶はあるが、それだけだ。そのため、未だ彼女がどういう想いでここにいるのかには疑問だった。
ハピが話始めた現在の修道院の状況について聞いていると、その疑問を幾許か解消できた。
「つまり、精鋭部隊を二手に分けたのね」
「うん。先生がテフ豆一杯くれるっていうから、仕方なしに残留組になったんだよね」
「そ……そうなの」
聞けば、闇に蠢く者の討滅に向かうのは良いが、本拠地でもあるガルグ=マク修道院を蛻の空にすることは陽動の可能性も考えできなかったという。
故に、迎撃できるだけの戦力を分散させて修道院に数名残すだけでなく、暗躍しやすい環境でもあるここアビスにも配置することを師は決めたそうだ。
「フェルディナント達……元黒鷲の学級の面子も修道院に複数名残留していましてよ」
「……それは危険ではないかしら」
仮にも帝国勢である。
帝国を下したとは言え、ガルグ=マク修道院は同盟にとっての本拠地、裏切りなど起こればどうするのか。
「故に、最も信頼をおけるものを置いているのですわ。帝国領の人間でありながらも、同盟軍として戦った彼らこそ、師にとって最も信頼おける存在ですわ」
「……そうね、確かにその通りだわ」
そう思えば、確かに彼ら以上に裏切らない存在も無いだろう。
帝国の思想と真っ向から反対し、地位も捨てて同盟軍として参加してきたのだから。そして、アビスにおける最も信頼おける部下が、彼女達コンスタンツェとハピなのだろう。
「師から信頼されているのね」
「まあねー……でもま、ほんとはハピも因縁あったんだけどねー。先生が代わりに仇を取ってくるって言うから、残ったけど」
「……因縁?」
「ええ、ハピは幼い頃、彼らの一端にある改造を施されているのですわ」
「……獣を呼ぶというあれかしら?」
「そうだよ」
溜息をつくと魔獣を呼び寄せる体質。
帝国の記録には残っていなかったが、彼女もまた紋章の犠牲者なのだ。
「それは……辛かったわね」
「まあ、今は別に。先生とかバルトが傍にいる間はいくら溜息ついても倒してくれるし」
それもそれでどうかと思うが、ハピは今の生活に満足しているようだった。紋章の犠牲になりながらも、なぜそう朗らかに笑えるのか新たな疑問となって胸を襲う。
「なぜ、それでいいと思えるの?」
「え? だって、この体質が無かったらコニーとかとも会えなかったし」
「ハピ……勿論私も出会えてよかったですわ!」
「はいはい。ま……つまり、なっちゃったことは仕方ないじゃんってことで」
ハピが改造を施さなければ、アビスに来ることは無かった。故に、ここでの出会いも全て無かったことになる。
しかし、それだけでこれまでの全てが許せるだろうか。これまで数多の辛い思い出があった筈だ。私が身を焦がした憎悪と憤怒と絶望に溺れた時もあった筈だ──それでもそう言えるのは、ハピの強さなのだろうか。
それとも、コンスタンツェや師達との出会いが、そう昇華できるだけのものだったのか。それは、素直に感嘆すべきもののように感じた。
「ハピ……あなた、凄いわね」
「ハピはガーティも凄いと思うけどな」
「……え? な、なぜかしら」
「だって、あのおばさんみたいな怖い人が帝国中に潜り込んでいたんでしょ? なら、ガーティがどうしようと遅かれ早かれ戦争になってただろうし……そんな人を纏めてたガーティは凄いなって」
「そう思えば、エーデル様の負担は計り知れないですわね……」
おばさん、というのが誰かはわからないが、ハピは心底同情しているのだろう。ハピの表情はテフの苦みを表現するかのように眉を潜めていた。
確かにそう思えば四面楚歌で戦ってきたように思う。ヒューベルト、ベルグリーズ伯、ベルモンド郷など協力者はいたが、闇に蠢く者は常に私の傍にいた。
特に一番の危険人物は、闇に蠢く者頭目タレス──アランデル公フォルクハルト、私の叔父の成り代わりである。
全ての元凶であり、私に炎の紋章を宿した宿敵。いずれ私自身が手を下すと考えていたのに、それは今回の遠征における師の役目となった。
「ですから、エーデル様はもう休んでいいのですわ」
「ハピもそう思うかな」
「そうかしら……」
二人は労うようにそう言う。
二人の言葉を反芻しながら、思わず首を傾げる。果たしてそうなのだろうか。
今は、私が生きていることに肯定的な優しい面々しか会っていない。
つい流されそうになるが、レアやそれに殉ずる面々以外にも、かつてのディミトリのように私を恨み、私の死を願い行動する者もいるのだ。本来はこうして隠れ生きなければならない身である。
師は誤魔化してはいるが、意図的にそういった面々との邂逅を避けているように思う。私に再び皇帝の道を歩くしかないと思わせないために、火種にしないために、こうして動いているのだろう。
忘れてはならない。私はただの少女ではなく、世界に数多の怨恨を齎した皇帝なのだ。故に──
「ええ、エーデル様はもう十分──」
「──それでも、手を下したのは私なのよ」
「……」
「私がたとえこのまま過ごすと決めたとしても、何らかの責任を取らなければならないわ。なぜなら、闇に蠢く者と同じように──私が彼らに強いたのだから」
そう、たとえ闇に蠢く者が裏にいたとしても、無辜の兵や民を犠牲にする決定をしたのは私だ。ベルグリーズ伯が自らの首で責任を取ったように、私も責任を取るべきなのだ。
師は、そこを見ていない。闇に蠢く者に改造され、紋章主義を作った教会を憎み、意のままに操られ戦争を起こした哀れな少女だと思っている。
違うのだ。これ以上、私のような犠牲者を出さないための最善の道、たとえ多くの犠牲が出ようと私の代で終わらせるために、私が決意したのだ。
私怨で闇に蠢く者を滅ぼすだけでは終わらない、このフォドラを操る者を尽く打ち壊すことこそが正義だと。
誰の意見でも、操られているわけでもない、あの頃に囚われ続けている──私自身を救うために決めた道。
「……やはり、あなた様は上に立つ者なのですわね」
「だね、先生の言った通りになっちゃった」
「……どういうことかしら?」
二人は私の言に対して諦めたように言う。
師の言う通り、とは何だろうか。
「あなたを説得するようなことはするな……と言われていたのですわ」
「ガーティは絶対に曲げない人だから、逆に火をつけちゃうーって」
「……そう」
師の評価を聞き、師に対して思い違いをしていたようだ。
私のことを、闇に蠢く者に騙されたただの少女だと思っていると考えていたが、そうではなかったようだ。
あくまで皇帝として、私が抱える責任も全て知って、接してくれていたのかもしれない。私に肯定的な面々としか会わせていないのも、今は師と私の安全を最優先に考えているだけなのだろう。
「師は……他に何か言っていたかしら?」
「皇帝に戻るなら、それはそれで支持すると。ただ、エーデル様が折れるまで戦うと言っていましたわね」
「……そう」
「ハピはもう戦うのは懲り懲りだから、そのままアビスの住人になってくれたら嬉しいけどね」
巻き込まれる民は堪ったものではないから、ハピの言はその通りだろう。私がこのまま教団に隠れてアビスの民として過ごすのが、最も平和な手段である。
しかし、と思う。それでは私は責任から逃げることになってしまうのだ。
師が今回の遠征でタレスを倒せば、一見フォドラは平和になったと言えるだろう。しかし、彼らはこのフォドラに深く根を張っており、火種は尽きない筈だ。レアもこの世界を管理し牽引し続けるであろう。
であれば、これからも平和の影に隠れて犠牲になる者達のために再び戦いを挑まねばならないかもしれない。それが、戦争を齎した者の務め、エーデルガルトとしての責務であると思うのだ。
ただ──
「──師は、私の思想を一定理解してくれているわ」
「ええ、そのようですわね」
「けれど、故に相容れないことも確かよ」
「……そっか」
残念そうに視線を落とすハピを見ながら、もう一つの答えを続けた。
「……それでも、もし私が歩み寄れたら……戦うことは無いのかもしれないわね」
それは、これまでの師やリシテア達との生活で得た考えでもあった。
皇帝エーデルガルトとしての自分は、再び立つことを求めている。フレスベルグの後継者として、再びフォドラに戦乱を齎せと。
しかし、今になって私にはもう一つの道が初めて見えてきたのだ。
それは──彼らと話し、彼らを理解すること。
私は、私の考えるまま物事を進めてきた。
自分の道を、夢を、決意を、誰かと話して決めたことはあっただろうか。コンスタンツェに話さなかったことも含め、誰にも相談せず一人で悩み、判断したのではないか。独りよがりの理想になってはいなかっただろうか。
ヒューベルトも、私の理想に賛同して動いてくれていただけで、私の理想自体に異議を申し立てたことは無い。故に、最後まで傍に置いていたとも言える。
誰もが反対するとわかっていながら──世界のためだと、誰の理解も要らないと、私が思う解決法を私の思う手段で成してきただけに過ぎないのだ。
一転、クロードと師は二人で考え、仲間と共に理想の道を歩いている。それが──羨ましかった。
今思えば、師にあれだけアプローチしたのも、彼ならば私の考えに対等に意見できると考えてのことだったのかもしれない。話をする中で自らの考えの不備を修正し、理想の道を共に歩く。それができれば、なんと良かったことか。
──私が間違っていた、なんて口が裂けても言わないけれど。
師やクロードの掲げる、フォドラの中も外も全ての者が手を取り合う未来。かつての私であれば夢物語と一笑に付していた筈だ。
しかし、一度は道を違えた師や級友らと普通に話し、意見を交わし、共に生きる中で、私の考えには変化が生まれた──その夢も見てみたいと、思ってしまったのだ。
「……ええ、そうですわね! 私も、そう思いますわ!」
コンスタンツェが嬉しそうに破顔して同意する。
しかし、今私が考えていることは、彼女が思うような全てが丸く収まる方法ではないだろう。
──皇帝として戦うこと以外の、責任の取り方。
自らの死を以って責任を取ったベルグリーズ伯の顔が思い浮かぶ。
彼は正しく、この戦乱を指揮する者としての責任を取った。では、私の理想を以って戦乱を始めたことの責任は、どう取るべきなのか。
私がエーデルガルトとして再び立つ以外に取り得る方法はあるのか。もしあるならば、それは──
「──話も落ち着いたし、じゃ、そろそろ寝よっか」
「ええ、そうですわね」
ハピ達の言に気付いたように手元を見れば、既に机の上には紅茶も菓子も無くなっていた。会話をしながら知らず知らずのうちに口に入れていたようだ。まあ、菓子はハピ達が殆ど食べていたようだが。
随分話こんでしまっていたようだ。通路を見れば真っ暗な闇と無音が支配している。
コンスタンツェに寝台の一つを紹介され、そこに諸々済ませた後に寝転がった。
ハピも寝転がったが、コンスタンツェは一冊の本を取りだした。
「コンスタンツェは寝ないのかしら」
「ええ、寝ずの番ですわ。一応、警戒しておかなければなりませんもの」
「明日はハピがやるからねー……おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
コンスタンツェとハピに就寝の挨拶を返し、コンスタンツェの傍以外にある蝋燭の火が消える。
ぱらりと一定の間隔でページを捲る音に意識を向けながら、寝台で目を瞑って考える。
師が帰ってくる時、それはタレスを討ち取った時だろう。その時には、私は答えを出さなければならないのだ。
少数精鋭の素早い行軍とはいえ往復距離もある。師が帰ってくるのは早くとも明後日以降は確実だろうが、だからといって余裕はない。
師も、優柔不断な私を手元に置いておくほど甘くはない筈だ。たとえ師が許したとしても、クロードが許さないだろう。
紅茶のおかげで眠気も無く思考は冴えていたが──答えは最後まで出なかった。
アビス組は皆いい子でいいっすね~
DLC買ってない人、買おう!(ダイレクトマーケティング)
ハピのコルネリア関連の話はまた次回以降できたらいいですね。