Last Kiss   作:エビアボカドロックンロール

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 声に出すまでもなく、言葉を尽くすまでもなく雪ノ下雪乃を愛している。

 共依存でも返報性の原理でもない――間違えようもなく俺から発露した想いだ。

 

 まあ、声に出すことも言葉を尽くして伝えることもままあるのだが……

 

「鳥類でも踊って愛を伝えるというのに…私の恋人であるところの八幡はまさか鳥類以下なのかしら……」みたいな感じの圧力。

 

 そんな俺たちだから当然、恋人になってから一度たりとも喧嘩をしなかった訳ではないし、むしろその回数は一般的なカップルに比べて多いのではないのかとさえ思う。一般的なカップルなんて知らねえからこれは適当だが。

 ある意味お手本のように恋から愛への変化を、恋愛を楽しみ、青春を謳歌した俺たちではあるが一点『別れ』という言葉だけは決して口にすることは無かった。

 

 雪ノ下は一切虚言をはかないなんて理想を押し付けることもないし、俺の言葉は全てが詭弁だ、なんて悪ぶったことを言うつもりもないが、それでも世界にある数少ない取り返しのつかないものの一つがその言葉だと――俺はそんな風に思っていた。

 

 つまりは重いのだ。雪ノ下ではなく俺が。俺の愛が。

 

 雪ノ下の重さを支えるには軽くて薄いままの俺ではいられなかったのもある。

 

 しかし本来の俺は臆面もなくのめのめと小町を愛しているし、同じくらい父親も母親も愛している。

 キャラ付けとして分かりやすさから自他共に認めるシスコンであったが、もっと正しく言うのであれば俺はファミコンなのだ。こう言うとまるで俺が1983年に発売された家庭用ゲーム機なのかと勘違いする人もいるかもしれないが残念ながらそうではなく、ファミリーコンプレックスを略したところのファミコンだ。まあ、この言葉にそんな意味は存在しないのだが。

 

 そしていつの頃からか雪ノ下に対しても俺はそう思っている。

 たかだか2年の付き合いでしかない雪ノ下を、産まれてからずっと一緒にいる家族と同じように愛している。

 『別れ』なんて言葉を使うのは、それこそどちらかが死んだときだろう。

 

 

ーーーーーー

 

 

「パートナーを持つ男性が好きや愛しているという言葉をむやみやたらと使うのは浮気の兆候……ね」

 

 さらりと流れる髪の隙間でチョーカーが怪しく光る。

 あなたが言わせたんですよ…?

 

「…………」

 

「こんな下世話なワイドショーを信じるわけではないけれども、だとしたら八幡は浮気しているということになるわね」

 

「え?なんだって?本に集中してたからよく分らんが浮き輪がどうした?海でも行きたいのか?」

 

 何でもない日曜日。

 コーヒーにトーストをお供にぐうの音も出ないほどパーフェクトなニチアサを過ごした後、そのままリビングのソファーで読書していると雪ノ下がなにやらお裁縫などをチクチクとしながらついでに俺のこともチクチクとしてくれた。

 いやまあ、文字にすれば緊迫した風に見えなくもないかもしれないが決してそんなことはない。

 

「こういったことを知った後で言うのもなんだけれど、あなたが思い出したように言ってくれる愛しているという言葉……私はとても心地よく感じているわ」

 

「あの……いや、照れるんだけど」

 

 むしろ柔和だわ。

 思い出したように言ってるのではなく言わされてるんだよ、と見解の相違はあるがこういう時の雪ノ下は俺よりもよほどのこと男らしくてむしろこっちが言葉に詰まる。男らしさなんて曖昧な言葉は時代に取り残されていくのかもしれないが、柔らかさの中に凛とした強さをちらりと覗かせる雪ノ下家の固有能力を表すのにパッと浮かんだのがこの言葉なんだから仕方がない。

 

「私ももっと積極的に言葉にした方がいいかしら……」

 

「―――気付いてないかもしれないけど、思ってることがそのまま態度に出るタイプだからねあなた。なに、猫なの?」

 

 なんなら猫の方が理性あるんじゃねえのかってくらいに家の中では仮面を脱ぎ捨てて奔放に振る舞う雪ノ下の可愛さは再生回数100万回級である。広告なしで公開してやりたい気分だろ。

 内弁慶ならぬ内…………、――まあこれと言って浮かばないんだが、なんせ可愛いということだけ分かってもらえればいい。

 

「もう、そうやって茶化すんだから……いくら私があなたに気を許しているとは言え、地球上で一番尊い生き物であるところの猫みたいに可愛さをまき散らしているわけがないじゃない……」

 

「可愛いよ?可愛すぎるんだけど?河合さんって呼んでいい?」

 

「は?だれ、その女?」

 

 おっと……

 針をこっちに向けないでください雪ノ下さん。

 

「いやなんでもない、気にするな……」

 

「――そうよね。あなたの妄言をいちいち気にしていても仕方がない死ね」

 

「死ねって言った?」

 

「仕方がないしねって言ったのよ。まったくどんな耳をしているのかしら、昨夜に甘噛みしすぎておかしくなったのかもしれないわね……」

 

「甘噛みとか言うな……」

 

 夜の営みに言及しようとするな。こっちは頑なにR18を避けてんだよ……

 

 そんな風にとりとめのない会話をしながら見事な手つきで雪ノ下印の猫グッズが出来上がるのをぼーっと見ていると、ところで、と言って裁縫をする手を止めた。

 

「午後は掃除をしたいから今のうちに買い物に行っておきたいのだけれど、よかったらそのついでに外食でもどうかしら?」

 

「まあいつも雪乃に作ってもらってばっかも悪いし、たまには外食もいいかもな」

 

 思わぬ提案だったが正直ホッとしていた。

 以前に言っていた衣食住は命を懸けて云々は、全てを管理するという意味では無かったらしい。同棲を始めて以来、一度も外食ができていなかったのでもしや?とは思っていたが何のことは無い、雪ノ下も気合が入り過ぎていたのだろう。

 ラーメンが食べられなくなるなんて死んだも同然だからな。健康になっちまうよ……

 

「それでどっか行きたいとこでもあるのか?――あ、分かった。ラーメンか?ラーメンだろ!?」

 

 一度考えだしたら自分ではその思考を止めることが出来ない呪いの単語、ラーメン。これを納めるには頭に浮かぶそれを喰らうしかなく、それまでは正常な会話もままならないのである。

 

「あの暴力的なうまみもたまにはいいかもしれないけど、行ってみたいところがあるの――」

 

 京都で食べたあの夜を思い出したのか、ことさらに柔らかい表情で俺を見る雪ノ下。

 ラーメンのことしか考えられなくなって何も見えていない俺。

 

 はた目には見つめ合っているように見えるのでよし。

 

 そしてアンニュイな雰囲気で雪ノ下は目を怪しく光らせつぶやいた。

 

「――あなたの通う大学に行ってみたいの――」

 

 

 管理する気マンマンじゃないですかやだー

 

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