どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで   作:『テキスト』

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ある生徒会長の場合

 

 自分以外いない教室。天井付近に掛けられた時計をちらりと見て、今が八時十分だと知った。

 ほこり臭い教室の窓の隙間から入る少しひんやりとした、冬の残りの空気を吸いながら、今日が終わるのを、ただここで待つことにした。

 

 ぼんやりと青い空に浮かび動く雲を眺めながら、視界に桜の木が満開になっているのに気がついた。

 温かいすごしやすい気温になっていて。もう、そんな季節になったんだなと思ってしまう。

 窓ガラスに指をなぞっても冬みたいに跡はつかないし、夏みたいに外に陽炎が見えるわけでもない。春は摩訶不思議だな、と言葉をおしゃれに仮装させてみて何処かの文学者みたいに思いふけてみる。

 

 そんな中にガラガラと静かだった教室に独特の音が鳴った。

 この教室に来るはずのない突然の来訪者に俺は驚きながらも、音が鳴った扉に視線を移す。

 

「やあ」

 

 一人の女性がこの教室の扉の前で立っている。こちらを認識してから黒いポニーテールを揺らしながら教室の中に入ってきた。

 

「私が一番乗りか?」

 

 扉を今度は音を鳴らさずに閉めて、キョロキョロと周りを見渡しながら口にする。

 今この教室には、俺と彼女の二人しかいない。

 

 もうすぐ、チャイムが鳴りますけど教室に行かなくて良いんですか? 遅刻になっちゃいますよ?

 

「良いんだ。どうせ、もうすぐ卒業するのだし」

 

 おちゃらけたように笑う彼女を俺は知っている。

 

「それに、私は優等生だからな。一日くらい良いだろう」

 

 ニコリと微笑んだ表情に何も言い返せなかった俺は、視線を彼女から逃げるように窓に戻して外を様子を眺める。

 

「おいおい、先輩の事を無視しないでくれ」

 

 はい。すみません生徒会長。

 

 素直に彼女に視線を戻す。

 彼女は文武両道、容姿も道行く人がみんな振り向くであろう。そんな物語にでてくるような完璧でいて、この学校の生徒会長も務める本当に非の打ち所がない女性だ。

 

「止してくれ、生徒会長は元だ。だから、今はただの先輩」

 

 ……分かりました、先輩。

 

「うんうん、それで良い」

 

 ところで何でこんな教室に来たんですか? この教室には何もないですよ?

 

「分かってるくせに」

 

 分からないから聞いているんですよ。

 

 自分が見る限りこの教室には、使える物が殆どない。

 ほこりを被った旧式の机や椅子の学校機材や半分に折れたチョーク。学校側が倉庫がわりに使っているのがこの教室だった。

 

「まったく」

 

 肩をすくめてヤレヤレとリアクションをとってから、ゆっくりと窓側に行った。太陽光が眩しかったのか目を細め、何かを訴えるようにわざわざ俺の方に近づいてから。

 だけど窓際に行ったのにその視線は決意したのか鋭くこちら向いたままだ。

 

「私は君が好きだ」

 

 一呼吸置いてから彼女から自分にたいして言われた言葉が、やけに教室に聞き取りやすく広がった。

 

 先輩、急に何を言っているんですか?

 

 ドクリ、と心臓があった位置のざわめきを感じながら考える。

 聞き間違えだろうか。先輩が自分にそんなことを言うなんて。

 

「もう一回言うぞ。君が好きなんだよ。ライクじゃなくてラブで」

 

 カツン、と硬い音が鳴る。教室には二人いるのにもかかわらずにここは静かな空間になった。

 何と返せば良いのか分からない。そもそも、先輩にはそういう感情を持ったことがなかったから余計に困惑をしてしまう。

 

 しばらく迷ってから『ちなみに俺のどんなところが好きになったんですか?』と言葉を足す。「恥ずかしいのだがな」と照れて笑いながら彼女は時計を見上げた。時間は八時十五分。

 

「困っている私に手を伸ばしてくれた君が、優しく笑う姿を見胸の高鳴りが止まらないんだ。すぐに分かったよ、これが恋なんだなって」

 

 先輩が困っていた時に手を伸ばしたことは本当だ。ただじっと、見ていられなくて生徒会の仕事を手伝ったりしたことがあったからだ。

 

「君のことが好きだ」

 

 何度も言われて困ります。それに恥ずかしいです。

 

「恥ずかしいのはこちらも同じだ。……それで、私の告白は受け取って貰えるだろうか?」

 

 俺はそれに首を横に振る。

 

「自分が言うのも何だが、かなり良い物件だと思うが?」

 

「勉強ができて」

 

 知ってます、テストの範囲で分からないところをよく教えてもらいました。

 

「料理、と言うか家事全般もできるぞ?」

 

 憶えています。バレンタインに美味しいお菓子をもらいました。

 

「君に対しては、かなりチョロいぞ?」

 

 ……先輩が優しいから。

 

「それでも私の告白を受け取れないのか?」

 

 彼女は本当に魅力的な女性だ。だからこそ縦に首を振る。一息ついてから「そうか」と小さく呟いて脱力させながら余っている椅子にうなだれた。

 

「本当は分かっていたんだ」

 

 俺は先輩のこの語りに手を出してはいけない。彼女の独白を聞かないといけない。それが今俺にできる役割だ。

 

「初めて会った日の事を覚えているだろうか?」

 

 最初に会ったのはこの学校で廊下の角で俺がぶつかって先輩が、学校便りを落としていた。

 

「疲れていた私は君に優しく接してもらえて」

 

 先輩の顔色が悪かったので声をかけたのを思い出す。

 

「恥ずかしい話だが、初めは体目的だと思っていた」

 

 魅力的ですもんね先輩は。いつもみんなに優しくて責任感があって。

 

 唯一できた言葉は、自分からしても綺麗なのか汚いのかすら分からない。

 

「そんな魅力的な女性を君は振るのだな?」

 

 その問いかけには首を縦に振った。

 

「そうか、もしかしたら私は君と出会うのが遅かったのかもな。君にとってもう一番魅力的な女性がいたのだから」

 

 ……そうかもしれませんね。

 

「まだ間に合いそうだ。では、失礼するよ」

 

 ちらりと教室の時計を見てから、窓際からこの教室の扉まで急いで行こうとする彼女に、慌ててわざと音を立てこちらを振り向かせる。

 

「どうした?」

 

 早く教室を出て行きたかったのか、ソワソワしている彼女に悪感があるが引き留める。

 

 先輩待ってください、これを。

 

 教卓の裏に置いてあった物を彼女に手渡す。

 

「花? これは、黄色の花びらで向日葵に似ているが」

 

 はい、向日葵じゃないです。

 先輩をフッてしまったお詫びに渡します。

 

「……ありがとう。だけど私を振るには花だけじゃ、釣り合わないぞ」

 

 分かっています。先輩は素敵な女性だから。

 

「分かってるなら良いんだ。……そうだな食事をいつか奢ってくれ。それで許す」

 

 やっぱり優しいんですね、と伝えて笑うと先輩も笑って「そうだな」と短く言ってからまた教室の外に近づく。

 

 「では、失礼した」と先輩の声と静かに閉まった扉の音だけが孤独になった教室に響き渡った。

 

 先輩を見送って、また今日が終わるのを待つ。

 

――

 

 

「では、失礼した」

 

 倉庫になっている教室を出た私は、外に置いてあった軽い自分の鞄を持ち上げて歩く。

 廊下は静かだった。もうすぐチャイムが鳴るから廊下で話している生徒はいなく。今日に限ってギリギリに登校してくる生徒もいなかった。

 

「そうか、私はフラれたのか彼に」

 

 私が独り占めしていた廊下で先ほどあった事を呟き、目頭に熱が集まっていく。

 振られることがこんなにも辛いことだとは思わなかった。映画も小説も失恋する描写は過剰に表現しているだけだと、そう思っていた。

 

 私も何人かに告白されて振ったことがあったことを思い出す。

 いつも『すまない』と一言だけ言って断っていたがみんなこんな気持ちだったのだな、と申し訳なくも思えてきた。

 

 

 彼と初めて会ったのは私が生徒会の仕事をするために学校に来ていた夏休みの日。

 私が頭の上まで積み上がった書類をいつも通り運んでいた時だ。

 

『すみません先輩』

 

『いや、こちらこそ不注意ですまなかった』

 

 仕事が多く、急いでいた私は角から歩いてきた彼のことに気づかずぶつかってしまった。

 慌ててバラバラに散らばったプリント類を集めると『手伝います』短く言って手伝ってくれた。

 

『あぁ、すまない』

 

 プリントを拾うときに上履きを見ると青色の物を履いている。三年が赤、私の学年が黄色。ということは彼は一年なのだろう。

 優しい後輩ができて嬉しく思った。

 

『このプリント何所に持っていけばいいですか?』

 

 彼はプリントを一つにまとめてから元々あった半分を持ち、こちらを見ていた。

 まだ、手伝ってくれるのだろうか?

 

『ありがとうと、言いたいところだが夏休みに学校に来たということは、補講か部活動だろ?』

 

 手伝ってくれるのはありがたいが、夏休みに用事があるから学校に来ているのだ、私は他人に迷惑はかけたくない。

 

『学校には部活で来ましたけど、まだ時間があるので大丈夫ですよ。何所に持っていけばいいですか?』

 

 そういうことなら甘えてもいいのだろうか?

 

『では、生徒会室に』

 

『分かりました』

 

 黙々と二人で歩く。途中校庭から聞こえた運動部の声を聞きそういえば、あの運動部は大会が近いなとぼんやりと考える。

 

 生徒会室の部屋の前に立ち扉を開ける。

 私が先に入り机の上に自分の持っていた書類を置いて、まだ入り口に立っていた彼の方を見る。

 

『ありがとう。そこの机に置いてくれ。すまないがお礼はまた今度させてくれ。今から書類を分けないといけない』

 

 彼は一直線に机まで歩き周りを見た。それから幾ら待っても出て行かない彼に不信感を抱く。

 この生徒会室には私と彼しかいない。密室空間で男女が二人きり。

 つまり、彼はやましい思いで私のことを手伝ったのでは? そして他の生徒も先生もいないこの部屋で――

 

『この作業って、生徒会長がやらないといけないんですか?』

 

『えっ』

 

 彼が口にした言葉は私の思いもよらない言葉だった。考えを遮られ、小さな声が出てしまう。

 

『他の生徒が働いている姿が見えないんですけど』

 

 『先輩?』と声をかけられ淫らな思考のせいで、赤くなった顔を隠しながら彼に応える。

 

『いや、他の者は忙しくてな』

 

『忙しい? 例えば?』

 

『えっと、部活が忙しかったり、勉強が忙しかったり他にも――』

 

 副会長、書記、会計。他にも様々な人員はいるが何時もみんな忙しそうだった。だから、私がやるしかない。

 だから、私が生徒会長なのだろう。組織のリーダーだから、皆の仕事をやる。それが一番いい。

 

『それって生徒会よりも優先できますか?』

 

 そう、思っていたんだ。

 

 衝撃だった。目の前の男に異文化の常識を学ぶような感覚。彼のおかげで自分の中の価値観が、少しずつ変わっていくと実感が出来る。

 目を開けたままの私を見て彼は、慌てたように口を開く。

 

『いや、大切ですよ。部活も勉強もでも、それは先輩も同じじゃないですか』

 

 私も同じ?

 

『他の人も生きてやりたいことをしています。だけど、先輩も生きています。先輩も好きに生きて良いと思いますよ?』

 

 好きに生きるか。だけど私には時間が。

 

『時間がないなら、俺が手伝います。そうすれば時間ができますよね?』

 

 そんなこと君に申しわけない、と口にしようとして、彼が自身の口元でバツ印を作った。

 

『申しわけない。なんて禁止ですよ』

 

 彼に言うべき正解の言葉が分からず、一通りの言葉を頭の中で一周してから息と一緒に絞り出した。

 

『ありがとう。助かるよ』

 

 自分でも聞いたことがないひどく細い声。クイズの答えが分からない臆病な小学生が、合ってるかを恐る恐る聞くみたいに弱い声量だ。

 

『はい。任せてください』

 

 どうやら合っていたようだ。安心をして自然に強ばっていた力をそっと抜く。

 

『私の向かいの席に座って、プリントを分けてくれ。分からないことがあったら何でも私に聞いてくれ』

 

 彼は優秀だった。一度教えたら忘れず、テキパキとこなしていく彼の姿を見て、彼の動く指先の一つ一つにドキドキと胸を弾ませて緊張してい、これを『恋』と言わないのなら何なのだろうか。

 

 二人で仕事をこなしたおかげでスムーズに進み夏休みの一通りの仕事が終わった。書類の片付けをする。

 

『ありがとう助かったよ』

 

『いえ、大丈夫ですよ』

 

 窓の外が視界に入り、随分と暗くなった空に自分で驚く。かなり長い時間彼を拘束していた。

 

『それよりも良かったのか? こんなに手伝ってもえて私は嬉しかったが、こんな時間だ部活動は終わってしまっただろ?』

 

『いいですよ。今日は学校に泊まり込みで活動すると言っていましたし、今から行っても間に合います』

 

 彼の微笑んだ姿にときめきがあったがそれよりも、聞き捨てならない言葉を聞いた。

 

『泊まり?』

 

 私は今日の部活動で、どの部活にも泊まりを許可した覚えはない。

 部活動関連でまとめていたファイルを捲っても生徒会の許可どころか、申請まで届いていない。

 

『……えっ? 部長が生徒会長に許可貰ったって』

 

『……ちなみに聞くが何の部活だ?』

 

『オカルト研究ですけど……』

 

 また、アイツか。

 

『分かった。泊まることは黙認するから部長にはくれぐれもよろしく言っといてくれ』

 

『すみません、申し訳な――』

 

 彼の唇の前に人差し指を一本立てる。

 

『こういう時はありがとう。なんだろう?』

 

『はいっ! ありがとうございます』

 

 夏の独りぼっちだった生徒会室に、蛍がいるように明るい雰囲気になった。

 

 

「花なんてくれたら、私はまた夢を見てしまうじゃないか」

 

 花びらを触りながら、思い出に浸ると、時間は簡単に浪費ができた。彼がいる教室から離れながら、目の縁から走る液体を片手で押さえそう思う。

 

「ははっ、我ながら女々しいな」

 

 彼に会う前はこんなにも脆く、崩れやすくなかった。

 彼を知って、彼に貰った人間である証。素晴らしい感情だ。

 

「……屋上にでも行くか」

 

 彼に告げた通り教室に行く予定だったが、今は外の空気をゆっくり吸おう。三年間、頑張ったのだ今日くらいサボっても良いだろう。

 





人物データ

生徒会長
 黒髪黒目、少しだけツリ目気味の女性。
 いつも髪の毛をポニーテールにしていて、羊羹が好き。
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