どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで 作:『テキスト』
ボクはいつも一人ぼっちだった。
灰色の群集夕暮れを背後に前に進む。汗ばんだスーツを着たサラリーマン。買い物帰りの主婦。横切った公園で遊んでいる子供たち。
全部に見つからないようにさも家に帰る子供のふりをしながらあてもなく歩く。
一人になりたかった。コツンと道ばたに落ちている石ころを蹴っ飛ばす。
今日あったことを思い出すと読書をしている。一人の空間で誰にも見向きもせずに。
物語も誰かの考えた説明もページをパラパラと捲る、指から水分が抜け出していくあの感覚も全てが嫌いじゃなくて。
本が元々好きだったわけでもない。周りと馴染めなかったから本を読んでいるだけだ。
どうしても周りと楽しくあわせることができない。
それが悪循環になった。
同い年に馬鹿にされて、貶されて彼らとボクとは溝が深い。
ませていたせいで子供よりも大人と会話することが多いボクは彼ら彼女らに対して何かしらのシコリがあって、適度な距離が分からないから、結局のところ一人になる。
自分でもこれでいいことだとは思っていなかった。変わろうとして、変わるのが怖くて何回も失敗をする。
だから、他の同級生との仲はもう諦めていた。
「別にいいんじゃない? 誰に言われようが生き方なんて自由だよ」
そんな中で太陽みたいな彼と出会ったのは。
ぶらぶらと歩いていた休日。きっかけが今でも鮮明には覚えていない。散歩していたのかもしれないし泣いていたのかもしれない。それくらいには薄れていった記憶の一欠片だ。
彼との出会いを絶対に忘れてはいけないはずなのに、彼は大切だと、かけがえのない魂の一部だと体が叫ぶ。悲鳴のように木霊して、狂いそうになりながら炭酸水みたいに、しゅわしゅわと消えていった。
ボクは彼の隣にいること自体が間違えだと、第三者から言われているようで。それでもボクは諦めなかった。
そうしてから三年。気がついたらそれから彼が隣にいてくれて、ボクの人生の道を初めて照らしてくれた人になっている。
かけがえのない唯一の価値観の合う人間。
ボクは彼を独り占めしたい――
「不器用なだけだよ」
――ああ、彼はそういう人間だ。
お互いに小学生に上がってから彼は一人の少女に声をかけた。
素直になれないせいで孤独になっていた一人のかわいそうな世界の犠牲者。
彼は誰にでも優しくて、手を伸ばせるボクの憧れて好きな人。
「ボクも友達がいないんだ。良かったら友達になってくれない?」
ボクも彼の横で続けて言う。
「……うん、よろしく」
こうやって、笑顔が不器用な娘がボクと彼の隣に増えた。
独り占めはできない。だけど、ボクはまだ幸せだ。
――
「どうしたのさ! そんなに怪我して」
ボクと彼と彼女が中学生になってからのある日。
いつものように金曜日に下校して、休日に彼の家に上がって見た光景。
あの日以降、素直になれない彼女以外には彼は特に仲良くなっていない。
だから、安心をしていた頃だった。
傷だらけの彼の体。
薄い皮の唇は当然みたいに裂けて、服やそこから露わになっていた、腕や足にも細かい切り傷が不均等につけられていた。
彼は「んっ?」と、薄い反応をして朝食を食べているだけ。
ボクからは服で見えない胴体の部分にもたくさん生々しい傷があると思う。
「……脱いで」
「えっ?」
「だから! 脱げってつってるだろうがぁ!!」
「ヒェッ」
小柄にしては野太い強めなボクの言葉に彼は驚きしぶしぶといった感じで服を脱いでいく。
「酷い傷」
するすると脱げていく衣服の下から、青あざや充血のした後が見えた。
昨日別れた時にはついていなかったから傷を受けたのは夜だ。痛々しい傷たちに彼は手当もしないで
「……何をしたの?」
「えっと、転んで?」
目が左右に泳いで明らかに嘘をついていている。
「あ゛あ゛」
「け、喧嘩です」
「喧嘩?」
救急箱から消毒用のスプレーを取り出しながら彼が自分から喧嘩するように思わずについ聞きかえしてしまう。
「ほら、道場に最近通い出したって言ったじゃん?」
「……ああ、確か合気道だっけ?」
最近になってから通いはじめたと言っていた事を思い出した。
「そうそう」と、彼の相づちを聞きながら、彼の傷口にスプレーをかけると「いたっ」と、情けない声を出す。
「それで、合気道の道場と何か関係あるの?」
「その帰りに酔っ払いの喧嘩に巻き込まれちゃって。ほら、稽古が終わると遅くなっちゃうじゃん?」
嘘を言っているのに本当のことを言っているみたいな口調の彼にイラッとしつつ、傷口に少し強めにガーゼ貼って、ポンポンとガーゼの上から彼の傷があった場所を叩く。
「いたたた」
「今日はそういうことにしとくから。もうこんなに怪我しないでね」
「……気づいたら――」
「聞いたってムダなんだから聞かないよーだ」
彼が嘘をついているのは見て分かる。嘘を嘘だと分かっても彼は教えてくれない。
誰かのための傷を彼は誰にも言わない。誰かに言えば巻き込まれることを彼は知っている。彼は何時まで経っても優しい頑固者だ。
座っている彼のおでこに自分のおでこをくっつけて、背の小さいボクが背の高い彼を見下ろす形になる。
「どうせ誰かのために内緒で怪我するんでしょ? だったらボクの隣で怪我してよ」
「ああ、うん?」
いまいち納得のいってなさそうな彼の、誰も知らない頼りなさそうな姿に胸の奥がぽかぽかと温かくなった。
「だからさっ、お礼とは少し違うけど一週間後に夏祭りがあるんだけど行かない?」
「あー、かっこつけて話したけど思ってた以上に恥ずかしいわ」
一人になってから胸のざわめきが、近づいたときに彼には届いていないで響いているのを願ってしまう。
――
赤い光に照らされている階段を一段づつ登る。
赤色はは空からじゃなくてもっと近い場所、提灯から照らされていた。
遠くから聞こえるドンドンと迫力のある大太鼓の音が響いていた。
「待っ――」
「待った? ごめんね」と言葉を言いかけて、最後の音を喉に詰まらせる。
ボクが最後の一段を駆けて見えたのは、見知らぬ美少女と彼が手を繋いでいる瞬間。
――その光景を見て、ボクはとっさに走った。
「はぁっ、はぁっ……はぁっ」
人の流れに逆らって走る。
浴衣で走りづらくてジメジメとした夏の風は気持ち悪く肌に纏わり付く。
「はぁ、はぁ」
口からの強さが少しずつ弱っていく。
出口の境目に足を踏み込んだときに、背中から花火が上がる音が聞こえた。
ボクは後ろに広がる鮮やかな空間を振り返らない。振り返られない。
冷たい汗が頭から足を伝って流れていく。夜の道にはボク以外の人はいない。最初から期待はしていなかったけど、彼もボクのことを追いかけて来てはくれなかった。
「……はぁ」
自分の家に着いた頃には、上手く呼吸もできないくらいに疲れ果てていた。
喉の渇きを無視をしながら自分の部屋に戻った。
自分が歪むほどの頭痛。殻を閉じても自分にかかる不快感は抑えられない。
脳や心臓を握りつぶされるような痛みがただ、彼のいない一人ぼっちの空間で電気もつけずに体を抱きしめて床に倒れ込む。
「なんだよ。柄にもなく着替えたっていうのに」
自傷するように、笑う。笑っても抑えきれない痛みと考えが頭の中で渦巻く。
ボクは何を期待していた? ボクなんかが彼のヒロインになれると思っていたのか?
――痛い。
さっき見た光景を思い出す。
――痛い。
一人になりたくない。
理由は分からないけど、彼のいないこの世界がただ辛い存在になってしまう。
――痛い。
「あ゛あ゛あ゛」
頭が割れるようなほどの痛み。頭の中で自分自身が書き換えられる感覚がする。
熱を持って、食いちぎられる感覚。
――ボク大切な中心の核みたいなところにその熱が浸食をしていく。
ああ、そっか。
立っていたマンション群は瞬く間に更地になって隣人は親しい人たちも消えていく。水も緑もなくなった世界でボクは一人で朽ちていった。
だから、一人が怖い。それに彼以外の同年代の人と打ち解けられなかった精神年齢の違いも、ボクが周りよりも少しだけ年上だったから。
夢じゃないと分かる確かなことが一つだけあった。
ボクは記憶を持ったまま転生した。それも女の子の体に。