どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで   作:『テキスト』

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あるTS少女の感情の場合

「彼女にも何かあるの?」

 

 進学した日の学校帰りの道で、遠回しに聞けないボクは直接彼に問いただした。

 今日、委員長になった長い黒髪でメガネをかけている彼女のことだ。

 

 そもそも不思議に思ったのはこの高校に上がってからだった。

 小学校、中学校とともに友人として彼と付き合っていくきたけど、彼は目立ちたがらない。

 大勢の前では口数が少なくなるし、けして自分から集団の先頭に立ってリーダーシップを発揮はしない。彼は大勢を嫌って困っている人がいれば個人で寄りそっていくタイプの人。

 

 それなのに去年に引き続き彼は委員長になった。

 だったら理由は一つしかない。

 

「何かって何が?」

 

「とぼけるのかい?」

 

 クラスの誰か、もしくは委員会で顔を合わせる別のクラス委員長の誰かということだ。

 去年のクラスメイトは彼とボク以外に一緒の人はいない。

 

 風がボクらの間を通り抜け夕闇に照らされた道ばたに生えている木々が怪しく揺れる。

 不自然にざわめく心を抑えながら、彼と向き合う。

 

「ツンデレちゃんが委員長と同じ部活に入っているからたまに聞くんだよね」

 

 ツンデレちゃん、もとい小学校の時に友達になった彼女は天文学部だ、委員長も同じ部活らしい。

 そして、彼女にも何かしらの不安定要素があるということは事前に聞いていた。

 

「そう」

 

「どこで委員長を知ったかは分からないけど。本当に君は弱い者の味方だね」

 

 今彼の前で心から笑えているだろうか。

 

「悪いことかな?」

 

「いいことだよ」

 

 少なくともボク以外の人には。

 

 

 夕焼けが無言で見守る。分かれ道で帰ればいいのにわざわざ家の前までボクを送ってくれた、彼の背中が消えるまで、見送る。不自然に胸が鳴った。

 

 ボクには君を一緒にいるときの胸の高鳴りの感情の名前が分からない。

 どうして君は他の人にも優しいのだろうか? もっとボクを――

 

――

 

「おにいちゃんは、親友さんと話しててっ」

 

「ちょっと妹さん?」

 

「なんでボクまで?!」

 

 五月。新しい生徒たちに学校全体が馴染みだした頃。

 時期としては少しだけ遅れて入部してきた新入生にボクと彼は突然、後輩の美少女に部室の横にある物置に押し込められた。

 

「ああ、やられたな」

 

 掃除の行き届いていないほこり臭い部屋でまだ、ボクは状況がつかめていないのに彼は肩を落としてゆったりとしている。

 今も扉を開けようとはせずに、のんびりと壁にもたれかかった。

 

 彼の様子よりもさっきの会話で気になることがあった。

 

「そんなことよりも。い、いもうと!? 妹ってなにさ?」

 

「落ちつけ」

 

「落ちつけって……」

 

 ぽんぽんと、優しく肩を軽く叩かれて、一言そう言われる。こんな状況で冷静でいられる方がおかしいと感じる。

 改めて彼と向き合うために顔を見ると、いつもと違う暗い部屋で二人きりの近い距離感に心臓がふわっと浮いた。

 

 熱くなる。体全体の血液が沸騰したみたいに熱い。

 どうしてボクはこんなに緊張しているんだ?

 

「いいか、よく聞けよ。君には妹はいないんだぞ」

 

 正気に戻すために思いっきり肩を両手でつかむ。彼は「えっ」といった表情になった。

 お構いなしにボクはぐわんぐわんと左右に無抵抗で揺らす。怪我をさせないためにけして壁には頭を打ちつけていない。

 

 彼は揺られる中、声がでないせいか一生懸命に口で形を作り何かを伝えようとしている見えて手を止める。

 

「いや、知ってるよ」

 

 軽口。ボクが慌てているのを馬鹿にしているくらいの平気な顔で彼は言い切った。

 

「えっ? ……え? だって彼女を妹だって」

 

 ボクは頭が混乱してよく分からなくなった!

 

「わけあって彼女は預かってるんだ」

 

「わけあって……?」

 

 何というかというか。

 

「……なんで毎度ながら面倒なことに突っ込むの」

 

「あはは、つい?」

 

 やっかいごとに巻き込まれて、こっちは笑い事じゃないよ。

 突然はっきりと水っぽい音がする。近くで彼の顔を見ても特に変わったところはない。

 

「えっと、ボクッ娘さん?」

 

 この密室にはボクと彼の二人しかいないから、それがボクの泣き声であることは当然だった。

 泣く理由なんてないのに。自然と涙が溢れてくる。

 

「見ないでよ。バカ」

 

 彼から見えないように彼の胸に顔を埋める。不細工な泣き顔なんて見せたくない。

 こんな行為はやっかいごとに巻き込まれる彼に対する八つ当たりでしかない。

 

「そっか、悪かった」

 

 それでも、彼がボクを抱きしめてくれる。お互いの温度を感じて、またボクは勘違いをしてしまうほどに。

 物置の扉が開くまでボクらはずっとこうしていた。

 

――

 

 昼下がり、転校生とボクは二人きりでいた。

 

「ねえ、さっき言ったのって本当の事?」

 

 脳を繰り返し支配していた言葉を、ボクは銀髪の彼女に聞くかを最後まで迷っていた。

 

 暇つぶしにやっていたカードゲームで彼女が呟いた言葉に疑問を思ったから。

 多分、聞いたって誰も幸せになれない。むしろ不幸になるかもしれない。本当のことだったら聞くのは危険だ。

 それにきっとボクが聞く資格はない。あるのは彼くらいなのかも。

 

 それでもボクは知りたい。

 

 ボクというちっぽけな人間も彼に助けられた。

 この歪な世界を彼女を知れば何かしら彼の役に立つ。そんな風に思えてしかたがない。

 

 つまるところ自己満足なんだろうこれは。

 

「さっき?」

 

「ほら、この世界がゲームみたいな」

 

 いつもは人で賑わっている昼休みの廊下なのに、教室を出てから誰一人として会わない。

 まるで、今日のために作られたハリボテのシーン。

 乾いた笑いを心の中でして、改めて思ってしまう。

 やっぱりこの世界はおかしいと。

 

 二人で歩きながら問いを投げるというもりも、確認作業に近い。

 

「……ああ、この世界は作られた存在だ」

 

 少しの沈黙。ボクはまばたき一つしないでジッと見つめていると観念をしたのか彼女が話しはじめた。

 

「そっか、やっぱり」

 

 やっぱり、彼は主人公で、この美少女たちはヒロイン。それで前世の記憶持ちの異物であるボクは――

 

「では、良く休むのだぞ」

 

 転校生の声で気がつく。保健室に着いていたみたいだ。

 

「うん、ありがとう」

 

 カーテンが閉まるのを確認してから、横になる。閉まるのが遅かったのは、それほど私の心が動揺していたせいだろうか。

 

「……やっぱり、ボクにはノーチャンかな」

 

 保健室の扉が鳴った後に天井に呟いた言葉は誰にも聞かれないで中に消えた。

 考えたくなかった現実にいつの間にか胸のモヤモヤをしている。そっと真っ白な布団で体を抱く。

 

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