どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで   作:『テキスト』

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ある不幸な少女の場合

 

「はぁはぁ」

 

 息を切らしながら走る。足だけじゃなくて体の全てを意識して。熱を持った空気を思いっ切り吸いこんで肺を焼く。

 急に止まったら転ぶんだろうなぁと、思いながらまっすぐ進む。

 

 耳から入ってくる競技場に詰め込まれた生徒たちの歓声が大きい。

 青空の下、ボクを含めた生徒一同は競技に明け暮れていた。正々堂々をスローガンに掲げて闘う、別名運動会。

 

 ボクは今、お昼過ぎの女子リレーを走っていた。男子よりも足の速いボクは二位と大差をつけて独走状態でいる。

 地面を足の裏で蹴り飛ばし砂が宙を舞った。より一層、速く走るボクに観客たちは盛り上がりをみせた。

 

 長く走っているおかげで余計なことを考えられず、頭に隙間ができる。今まで考えたくないことが頭をよぎる。

 一応、ボクは小説やらアニメでいうところの転生というのを体験した身になっていたというのに、まったく役に立てていないことに気がついた。

 強いて言うなら少し体を鍛えていたから体が少し強のと、ちょっとだけペーパーの点数が高いだけしかない。

 

 

 アンカーにボクのたすきを託して、邪魔にならないようにコースから外れる。

 

「ふぅ」

 

 体から水分が溢れる。頬から垂れた汗は輝きながら地面にらせん状に落ちていった。

 夏に近いせいもあるのか、走っているときよりも空気は重く熱い。ヒリヒリと肌を焦がしていく。

 

「おつかれ」

 

「あはは、ありがとう」

 

 いつの間にか近くにいた彼からタオルをを受け取って、顔をゴシゴシと拭くとタオルの柔軟剤の甘い香りが広がる。

 

「やっぱり足、速いな」

 

「んん、まあねぇ」

 

「……なんか、そのドヤ顔むかつく」

 

 次は首に動かす。

 

「アンカーになんでならなかったんだ?」

 

「んー?」

 

「昔、走るのが好きだったよな? 今日だってめちゃくちゃ速かったしさ」

 

「……走るのは止めたんだ」

 

 出会った当時のことを考えながら、口を動かした。

 意味がないから。月日が流れれば流れるほどに足掻くことで世界の残酷さをひしひしと感じる。

 

 あの保健室に行った日に考えていたことがあった。

 彼が泣いていたボクを助けたのは間違いで、本来あの場所にはボクじゃなくて他の女の子が行っていたはずだった。

 偶然と偶然が重なり、たまたまボクがあそこに行って彼と接点を作ってしまった。

 そう思ってしまってから、彼と会うたびに罪悪感と虚しさが胸の中でひしめき合って心が軋んでいく。

 

 彼と出会っていないもしもの話をするなら、走っているアンカーがボクになっていたかもしれない。ボクも走るのが好きだったし、彼女のキラキラと無我夢中に走っている姿に嫉妬をしてしまう。

 

 ――ボクもあんな風になれたのかな?

 

 肩を拭こうと服をつまむと彼は顔を逸らした。

 顔を別の方向に向けてこちらを見ようとしない。ボクが動くと彼も別の場所に顔を動かす。

 大して胸はないから興奮はしないだろうけど。

 

「君もしかして肩フェチか?」

 

「う、うるさい」

 

 ボクなんかに赤面になるなんて、彼も大分初心なんだなと笑う。

 

「ほらほら、行ってきなよ。君は次のリレーのアンカーだろ?」

 

「……そうだな」

 

 ボクのチームメイトがゴールテープを切って一位で走りきった。

 次の男子リレーは彼がアンカーだ。もうスタート位置に行かないと行けない。

 

「じゃあ、行ってくるわ。見ていてくれよ?」

 

 くれたタオルを首にかけながら見送り、体を冷やすために深呼吸をして彼と逆方向へ歩く。

 

「さぁてと、ボクは水でも飲みますか」

 

 水分が絞り出されたおかげで喉がカラカラだ。

 肌が赤いのも水分不足のせいだろうし。

 

「彼のレースの前で熱中症で倒れるなんて、笑えない~」

 

 せっかくの見せ場なのに彼は優しいからボクが倒れたなんて聞いたら飛んでくる勢いで、お見舞いにきそうだし。

 

「あれ、委員長?」

 

 口をすすぎ給水を終え、運動所から少し離れた所で彼女を発見した。

 日陰になっている、サボりたい人が行きそうな場所。ギリギリ競技が見えるけど

 

 彼女がでる競技は終わっているはずだけど、なんでこんな場所にいるんだ?

 

 疑問に思いながら気づかれないように彼女の様子を観察する。

 太陽の光で照らされているのに、顔に影がかかって暗く思い詰めている。

 

 数分間そうしていると誰かが近づいて行く。

 一瞬だけドキッとしたが、委員長に話しかけに行った影は妹ちゃんだ。

 

「妹さんか」

 

 正直、心の中でホッとしていた。

 駆けつけるのが彼じゃないことに。

 彼はリレーでここには来れないけど、なんとなく彼が来てしまうんじゃないかという胸騒ぎをしていた。

 

 ――本当にひどい人間だな、ボクは。

 こそこそと困っている人を見捨てて、彼じゃないと分かったら喜んで。

 

 会場の方から落胆をする声。アンカーの前で誰かが転んだらしい。

 

 ボクは知っているんだ。彼に助けられた彼女らが自分たち同士で助け合っているのを、彼が彼女らを孤独にしないように本来は繋がりがなかった人同士を繋げていることも。

 

 バトンは彼に繋げられた。大分差がつけられてしまっているが、ゴールに向かって進む。

 彼が駆け抜けると同時に委員長も運動場の方へ走っていった。

 

 ボクにはできなかった。

 委員長を見捨てて彼が来ないことを隠れて願った。だったら、自分から助ければいいのに。

 

 彼は速かった。離れた場所でも分かるくらいに異常に速度を伸ばして他のアンカーをどんどん抜いていき。

 最後にはテープを切って一位でゴールをした。

 

「主人公なんだろうな彼が」

 

 最下位からの逆転劇。これを起こしたのが主役じゃなかったら、いったい誰がその役になれるんだろう。

 

 ヒロイン枠はあの娘たち。

 

 肉体でも精神面でも、ボクは彼女に寄りそうことができなかった。だから誰にも勝てないということが分かる。

 結局ボクの転生というのはボクがずるく卑怯者になってしまっただけで、まったくのプラス、それどころか性別が逆になったことのマイナスにしかなっていない。

 

「……本当に噛ませ犬っぽいなボクは」

 

――

 

「……楽しそうだね」

 

「そう見える?」

 

 いつもの時間で教室に入ると鼻歌を歌いながら、ツンデレちゃんが笑顔でいる。

 普段の彼女は不器用で近寄りづらそうな顔をしているけど、今日はほんわかと空気を和ます勢いだ。

 

「まあ、今日はバレンタインだもんね。彼にあげるんでしょ?」

 

「まあね」

 

「……うん、そうだよね」

 

 ゲームじゃなくても今日は一大イベントだ、気分が上がるのはボクでも理解できる。

 話したくない気持ちを抑え込みながら机に鞄を置いて背中越しで彼女に応えた。

 

「あんたも、あげるんでしょ?」

 

「うーん、どうだろ?」

 

「去年まであげていたじゃない」

 

「去年は去年だから。今年はないよ」

 

 ――嘘だ。

 今年はあげるつもりはなかったけど毎年の習慣で勢いで手作りを作ってしまった。迷ったあげく鞄の中に入っている。

 

「ふーん、あんたのチョコ毎年おいしそうだったから今年も楽しみにしていたのに――」

 

 

「――てっ、チョコレートあるじゃない」

 

「あ、コラ! 何しているのさ」

 

 目を逸らした隙に鞄を漁られて見つけられた。

 なんで、泥棒みたいなことをしているの。

 

「彼以外にあげる人いるの? 毎年彼だけにあげていたけど」

 

「いや、作っちゃっただけだよ」

 

「本当に?」

 

「うん、あげるつもりはないよ」

 

 今年は先輩たちが卒業する年。

 ボクがあげたら、彼に迷惑になってしまう。

 

「……彼、あんたのチョコレート気に入っていたわよ」

 

「えっ?」

 

 それは初耳だった。

 

「貰ったチョコはもちろん全部食べるんだけど、あんたのチョコは必ず大事そうに最後に食べていたし」

 

「最初に食べないのは他のチョコの味をしっかり味わうためじゃない?」

 

 これ以上は駄目だ。聞いちゃいけない。

 ――また、ボクは彼に勘違いをしてしまうかもしれない。

 

「あんたは知っているでしょ? 彼は好きな食べ物とかは最後に食べていることを」

 

 ため息を交えながら彼女は言ってしまった。

 心の箍が外れて、感情が液体になって体全体に流れる。

 

「……ライバルが増えるだけだよ? それでもいいの?」

 

 早朝なのに二回目のため息を吐いて、眉間にしわを寄せた。

 その姿でもボクと違って可愛らしさがある。いくら頑張っても届かない領域にいるのが感じてしまう。

 

「いい? あんたが一番最初に彼の側にいたのになんで遠慮しているのよ。ライバル? 自分の実力で勝からいいわよ」

 

 ふふんと笑いながら笑顔で言い切った。

 不器用ながらボクに遠回しに頑張れと伝えている。

 すごく彼女らしいなと思う。

 

「頑張ってみるよ」

 

「そうしなさい」

 

 彼女は自分の机に戻っていく。

 表にはあまりでてこないけで根が優しすぎる。彼女も立派なヒロインなんだろうな。

 そんなこと考えたって彼女じゃないボクには仕方がないのに。

 

 朝練をしていた校庭の運動部が校舎に入って来ているのを見て、普段の学校が始まるのを予言してい。

 

――

 

 授業の最後のチャイムが鳴り、ホームルームを挟んだ後、今日の学校が終わった。賑わいが衰えない教室でゆっくりと支度をする。

 ここの高校は授業が終わってからバレンタインを渡すのがルールになっているせいで帰る生徒は普段よりは少ない。

 

「ほら、さっさと行くわよ」

 

 帰り準備をしているボクにツンデレちゃんが話しかける。

 手には可愛らしくラッピングされてバレンタイン用の箱。彼に渡す気でいる。

 

「やっぱり、ポクはいいよ」

 

 授業中に考えたけど、ボクは必要はあるのかな?

 

「行くだけ、行ってみない?」

 

「……そうかも」

 

 腕を掴まれて、引っ張られる。流されやすい自分が嫌になる。

 

 理由は知らないけど彼は門の前にいる。毎年、バレンタインの日はそこに立っているから。

 彼女と一緒に下駄箱から靴を履き替えて、門の方へ歩いていく。

 

 帰宅する生徒の波を避け、見えた先に八人の女生徒が彼の周りにいた。

 

 胸が大きく鼓動する。

 あんなに嬉しそうに囲まれてボクなんていらないじゃないかと。

 

 集まっている美少女たちに囲まれた彼を見てボクはその場からそっと離れる。

 進んでいく彼女と、通り過ぎていった自分。

 彼のあの姿を見ていると、ボクは耐えられそうにない。

 

「あっ」

 

 彼が離れるボクのことを見つけて追いかけた。

 逃げる。走って、足の速いボクに彼はなかなか追いつけない。

 

 走りながら車がないことを確認して、前方の青信号の横断歩道に足を踏み込む。

 生徒が一人もいないけど信号の色は変わるまで余裕がある。

 ボクは迷わずに、真っ直ぐに走った。

 

 一歩、二歩と問題なく進んでいき横断歩道の半分に足を踏み込んだとき。

 

 ――突然、左側から車のブレーキ音が聞こえた。

 

 あ、ボク轢かれたな。

 唐突なことに、そう思いながら、まぶたを閉じる。

 思い浮かんだのは彼との思い出たちだった。

 初めて会ったときの記憶、救ってくれた記憶。

 彼とその周りの美少女たちと遊んだ記憶。

 

 濃くて甘い、トロリとしたどれも大事な記憶だった。

 

 ――違うだろ?

 

 それを抱えて、ボクは今から轢かれる。ほとんど思い出せない前世なんかよりも、素晴らしく楽しい人生だった。

 

 ――素直になれよ。

 

 また、生まれ変わるのかな? それとも、天国という場所に今度こそ行けるのかも。

 

 ――逃げるな。

 

 今まで無視をしていた黒い部分が騒ぐ。

 死ぬ前らしく自分の中では素直になればいい。自暴自棄になって心の底での大声。

 

 ――最後にボクが彼に恋をした記憶。

 

 ぷつんと、ボクの中で我慢していた切れる。

 もうすぐ死ぬという空間で、ボク一人で孤独にごまかしていた恋に落ちていく。

 純愛にしては重くやっかいな物を。

 

「笑えないよ。今さら」

 

 声にでない言葉はなんのためにあるのだろうか。

 

 死ぬ前の走馬灯は時間がのんびりと流れると聞いたけど本当のことだったんだ。

 前世は何も分からないまま死んじゃったからな。

 あの時みたいな白い光がボクの全身を貫く。

 

 足掻いて最後は景色を見ようとまぶたを開けると、駆け寄ってくる彼の姿――

 

「危ないっ!」

 

 ドンッ!

 

「あ、あ゛あ゛あぁぁぁっ」

 

 何で? どうして?

 車に轢かれてるの?

 

 彼がボクの目の前で血だまりを作って倒れていた。

 

――

 

「……あんた、ちゃんとご飯食べてる?」

 

 視点が定まらない。声は聞こえる。だけど、誰が話しているか分からない。

 彼がいなくなって時間が止まっているようにも、めちゃくちゃに進んでいる風にも感じる。

 あれからカレンダーでいうと二週間のマスが進んでいた。

 

 轢かれ、意識不明の状態でまだベットで寝ているというのにボクはのんきに学校に来ていた。

 

 何となく、窓を見る。夕焼けがギラギラと校庭、血みたいに赤く染めていた。

 

 あの日に見た景色と似ている。

 

 彼が轢かれた後もあんな色だったと、呟いて罪悪感が溢れかえる。

 体が震えて涙がポツリと机に落ちていく。

 

「うっ、うぅぅ」

 

 自然と涙と一緒に声がでていた。悔しさと罪悪感で。

 

 本当は、病院で彼とずっとにいたい。轢かれたのがボクが原因なんだから。

 きっと彼はボクに学校に行けと言う。ボクも、周りもそれが分かっているから学校に来ている。

 彼のいない学校には色がない。彼がいないというだけでこんなにも景色が違うなんて、ボクは薬物みたいに依存していたんだと、初めて気がついた。

 

 今日はもう帰ろう。それで彼のお見舞いに行こう。

 そう思って席を立って、出入り口へ歩いていく。側に立っていた誰かはボクのことは止めずに唇を噛んでいる。

 

 ――殴ってもいいのに。

 それくらいにボクには後ろめたさがある。そして、他の人には権利がある。

 

 そんなことを思いつつドアに手をかけ開けると、廊下で誰かが壁によりかかっている。

 ボサボサの茶髪の毛をなびかせて立っている一人の女子生徒がいた。

 

「話がある」

 

 彼女は確かに扉の先でボクが来るのを待っていた。

 

「オカ研の部長さん。いま、彼女は――」

 

「――彼が目を覚ます方法が見つかったんだっ」

 

「……えっ」

 

 霧がかった頭が一気に晴れた。何日も前に止まっていた血液が体の中で動き始める。

 

 いま、部長は何て言った?

 

――

 

「よく集まってくれた」

 

 見渡すと、集まったのはボクを含めた八人の女性。この高校で彼の周りにいた八人だ。

 転校生ちゃんと妹ちゃんの二人は用事があるらしく今日はいない。

 

「以前にオカルト研究部で『学校七不思議』を探したのは憶えているか?」

 

「うん、憶えています。あの時は確か六個見つかったけど」

 

 部長はボクの目を見ながらそう話す。

 ボクの隣にいつもいる頼れる彼はここにはいない。ボク一人で枯れた声を張って全員に聞こえるように声をだした。

 

「そう、六個だ」

 

「……もしかして」

 

 六個。あの時は時期が違うからと、見つけられなかったものがあった。

 

「あと一つ」

 

 風が吹いて窓から、何かが入ってくる。甘い香りとボクらを挑発するためなのか、一枚のピンク色の花弁がヒラヒラと部室に入ってきた。

 

「桜に彼が囚われている」

 

「囚われている?」

 

 ポツリと呟いたのはこの部屋の誰だったのだろうか?

 全員が深刻そうな顔をしていて、誰も言っていないかもしれないし、全員が言ったかもしれない。

 

『この学園の庭に生えている桜に気にいられた者は、必ず事故にあって桜に魂を持っていかれる。ほら、昔からあるオカルトじみた話だろ?』

 

 泊まり込みの日に部長に言われたことだ。覚えている。

 どうしてボクは気づかなかったのか。この世界は明らかにギャルゲーがモチーフなんだから今考えればフラグだ。

 

 罪悪感が心の中で広がる。あるのは後悔だけだ。

 ボクが最初から気づけていれば助けられたかもしれないのに。

 

 

「……助ける方法はあるんですか?」

 

 心配性の委員長は涙ぐみながら訴えるように震える口を動かしている。

 

「あるにはある」

 

「……だっ、だったら!」

 

 普段は声の小さいクーデレちゃんが声を荒げて、大きな声をだした。

 

「――桜が満開の日。彼が心の底から告白を受けてくれたら、助かるかもしれない」

 

 説明している部長も、今は声も手も震えている。

 

「桜が満開の日っていつだ?」

 

 ギラリとした紫色の目で言葉にする。

 

「三月十四日」

 

 いち早くスマホで調べてくれた後輩ちゃんがそう呟いた。

 今日を含めて約一週間。彼を救うチャンスはすぐそばまで迫ってきている。

 

「……あまり言いたくないが、運命というやつなのかもな」

 

「神様とか運命とか普段は信じないのに珍しいな」

 

 黒髪を揺らして、生徒会長が驚いて口にする。

 いつも冷静な人がそう言っているんだ、ボクだって驚いていた。

 

「……バレンタインの日に意識を失って、ホワイトバレンタインに取り戻せるチャンスがある。これが運命じゃなかったら、誰かの手によるものしか考えられないが――」

 

「そうすると、意識を操るなんて芸当。人間の格上のカミサマみたいな存在しかいなくなるということか」

 

「そうだ」

 

 短い応えの後に沈黙。うつむいてみんなの顔に希望が見え隠れしている。

 それぞれが彼に挑む覚悟を決めているようにうかがえた。

 

「妹さんとあの転校生には、私から伝えるとするよ」

 

 最初に声を上げたのは、生徒会長だ。覚悟を決めて顔をみんなに向け、瞳に力強さが再び宿った。

 

「まあ、ここで落ち込んでいるだけなのもしゃくだしな。どうやって先輩を堕とすかなんて後になってから結局はやることなんだから関係ねぇしな」

 

「そうだよ、そうだよね。堕となんて話はちょっと物騒だけど告白して助かるなら」

 

「でも、もしも誰の告白も受けてくれなかったら」

 

「……だいじょーぶ。彼のこと委員長も分かっているはず。悲しませることなんてしない」

 

 続々と席を立っていく中でボク一人だけが座っているままだ。

 ひたむきに前に進んで覚悟を決めた。だから彼女らは彼に対して告白する資格が存在している。

 だけどボクには――

 

「ボクっ娘。君はもしかして彼に告白しないつもりか?」

 

 部長の恨むような目がボクの目を貫く。一番身近にいたボクが告白をしないなんて信じられなかったからか。

 

「……ボクには資格がないから」

 

「――ふざけんないでよ!」

 

 突然胸ぐらを掴まれて、一瞬だけ呼吸ができなくなる。爪が肌を刺さりチクッとした痛みで思考が止まる。ツゥ血が流れていた。

 血を伝って爪を、そこから伝って伸びた腕を視線で辿っていくと、ツンデレちゃんの腕だった。

 

「言いたくないけど。うじうじ、うじうじ。彼が助かる可能性があるんだから、喜べば良いじゃない!」

 

 彼女も落ち込んでいるはずなのにゼェゼェと声を誰よりも高くして、凛々しい声がボクの耳に吸いこまれていく。

 正論なんだよ。彼女の言葉はだからこそ今のボクには辛い。

 

「ボクがあそこに行かなければ、彼は車に轢かれなかったかもしれないんだよ! 無理だよ、ボクには……」

 

 気がついた。彼女の涙が、ボクの顔にに垂れている。

 何も言えない。

 逃げ出したい衝動にかられて、ボクは立ち上がりそのまま、まっすぐ歩いていく。

 

「来なさいよ。じゃなかったら」

 

 誰も止めないまま、扉まで行くと後ろから声が聞こえる。涙ぐんだ声だった。

 ボクはその声に振り返ることができない。

 

「――私はあんたのことを一生恨むから」

 

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