どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで   作:『テキスト』

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俺の場合

 

 俺の人生を一文字で表すとしたら歪というのが正解だろうか。

 

 まず、俺に両親はいない。とっくの昔に交通事故で亡くなったらしい。ここでいう、らしいとはその頃はちっちゃな子供だったから覚えていないからだ。

 無論、幼い自分を引き取って育ててくれた恩人がいたから、俺は悲しまずにすんだけど。

 

『お前は世界を救う』

 

 銀色の髪と多分カラーコンタクトの赤い両目。言い方が悪いが、誰がどう見ても厨二病のオッサンなのは否定しない。

 

 それともう一つ、自分が自分で歪だと思うのが時折、声が聞こえるということだ。

 イマジナリーフレンドとは、またちょっと違う誰かしらの声。

 

「あちぃ」

 

 夏の神社。蝉の鬱陶しい声がどこに行っても聞こえる。耳の中で残る音に嫌気がさしてどんどんと歩いてここにたどり着いた。

 ――いや、正確には蝉だけじゃない。あの声からも逃げだしてきている。

 

「にしても、あの声は何なんだ?」

 

 いつの日から聞こえ始めた俺だけに伝わってくる不思議な声。テレビで見るキャスターの無機質な声にも聞こえるし、優しそうなおじいさんの声、節々に子供らしさもある。

 

「公園に行けって言われてもなぁ、夏の暑い日に行くはずないじゃん」

 

 声は今日が初めて聞こえたじゃない。

 生まれたときからそれらは『何々をしなさい』『どこどこに行きなさい』など、命令してくることしかしなかった。

 今日は『公園に行け』という声が聞こえてきたんだ。

 

「オッサンに言っても笑うだけで何も教えてくれないし、本とかテレビを見てもこんな人いなかったから他の人に言っても馬鹿にされるだけだしなぁ」

 

 実を言うと今日、初めて声に逆らってみている。

 律儀に聞こえては従ってきたけど、わざわざ従う理由もないから今日は公園の先にある神社に来ていた。

 こじんまりとしている自然豊かな小さな神社。下に行けばここよりも大きくて祭りもやっている神社がある、そこに比べるとここは知名度が低い。

 

 俺はこっちの方が好きだけど。

 心の中で呟き、思い出したのは何年も前に見た心に残った花火の光景。毎年やる夏祭りの日にやる花火はここから観覧するのが一番綺麗だから。

 

「にしても、何で今日に限って扇風機もクーラーも壊れるなんて」

 

 昨日までは使えていたのに今日になってから、いくらスイッチを押してもうんともすんとも言わなくなった家電たちを思い出しながら服の襟元を広げて空気を取り込んだ。

 

「んっ?」

 

 しばらくそうしていると階段の方から靴の音がする。

 そこに視線を送ると逆光で見えないシルエットが階段を上がってきた。

 一段二段、ゆっくりと丁寧に上がってきて、来たことがないのか足取りには迷いが含まれている。

 階段を登りきっても暗い雰囲気は変わらない。

 

 鳥居をくぐり抜け、やっと見えるようになったその人物はうつむいていて、すすり泣いていた。腕を顔にこすりつけて目を真っ赤にさせて。

 だんだんとその影は俺の座っている方向に近づいてきた。

 

「お前、なんで泣いているんだ?」

 

「……えっ?」

 

 つい話しかけてしまった。

 賽銭箱の前にある段差に腰掛けていた俺は無用心に近づいてきて人物にそう言う。

 

「悩み事があるなら聞くけど?」

 

 同い年とはいえ、まったく知らない人間だ。泣きたくなるくらい辛いことがあって話すはずはないけどと、心のどっかで笑う。

 とりあえず今日の俺はあの声から逃げられて気分がよかったから、大分適当になっているみたいだった。

 

「その、自分のことをボクって言うのはおかしいって言われて、それに男みたいに走るのもおかしいって」

 

 言っちゃったよこの子。

 

 初対面どうしなのに。俺が悪い人間だったらどうするつもりだったんだろう。最近の若い子の倫理観が俺の中で少しだけ心配になってしまうよ。

 

 それにしても一人称がボクねぇ。

 

「別にいいんじゃない? 誰に言われようが生き方なんて自由だよ」

 

 自分の呼び方なんてどうでもいいでしょうに。歴史をさかのぼれば、まろとかそれがしとかもっと特殊な人とかがいたんだから。

 

「……そうなのかな?」

 

「そうそう、まあもうちょっと気楽に生きていこうぜ」

 

「そうなんだ」

 

 人間、思い詰めれば何でもネガティブに感じられるし、ポジティブに変えられるから本当に捉え方しだいだからと、俺を育ててくれているオッサンが言っていた。

 そのせいか、俺もかなり自由な人間なんだろう。

 

「そうだ、明日近くの公園で遊ぼうよ。俺も友達といえる友達もいないし」

 

「え、いいの?」

 

 嬉しそうな表情に変わって面を上げる。

 肩まで伸びた髪に、くりくりとした綺麗な黒い目が今になって現れる。

 

「ああ、じゃあ明日またこの場所で」

 

 

 声は彼女と出会った境目に聞こえることがなくなった。日常生活にも浸食していた声を聞かなくなって俺は正直に言って安心をしていたんだ。

 

――

 

 小学生になり、彼女とも同じ学校に通い、同じクラスにもなった。

 自己紹介が終わり、友達を作ろうと辺りを見渡すと一人座っている女の子が目につく。一人ぼっちで座っている彼女。

 

 初めて見る彼女が一人でいることに対して、すごい矛盾を感じてしまった。

 あの子には一回も見たことがないし、声も聞いたことがない。

 それなのに、どうしてか俺が何かを間違えて不幸にしてしまったように思えてならない。

 

 そう、会ったことがないんだ。会ったことがないのに既視感がある。

 

 突然どこかから聞こえた、いつの間にか聞こえなくなった彼の彼女の性別なんてあってないような無数の、俺をあざけ笑う声が。

 お前が従わなかったからああなるのだと。

 

『あの子に声をかけなさい』

 

 俺を急かすように、どっかからまた声が聞こえる。窮屈な教室で集団になった子供達の声よりも、夏に聞いた蝉の音よりも何よりも大きくて聞こえた。

 

『あの子に声をかけなさい』

 

 その声の今まで出会った中で一番の力強さがある。

 頭の中はその言葉一色になり、自我というものは存在できない。

 体は自分の意思とは関係なしに勝手に呼吸をして、勝手に行動をする。

 

 どんどんと彼女の座っている座席へ動いていく。

 彼女の周りには不自然に誰もいない。まるで、俺一人が彼女に話しかければいいという状況を作りたいためなのか。

 

「不器用なだけだよ」

 

 プレッシャーに負けて、彼女に話しかけてしまう。

 ここで俺は確信する。声は俺にとっての絶対なんだ。生きるための制約としてアレがある。

 

 俺に今あるのは後悔しかなかった。

 もちろん彼女には非はない。もしも、あの時に公園に行きこの女の子と知り合っていたら、この子はもっと幸せになったんじゃないか?

 

 不安が過る。

 

 それは結果論でしかないのに、頭はそれを頑なに肯定をした。

 

『この子と仲良くしなさい』

 

 感情のこもっていない、声が脳に直接囁かれる。

 

 そうだ、俺は彼女と仲良くしないといけない。幼馴染みになって接点を作らないといけない。いつか、彼女と恋をしなければならない。

 

 頭の中で響いた声は本当に俺の意思で、俺の声なのか。残っている恐怖が否定するけど。否定しきれるほどの強さは俺にはない。

 

 それよりもはやく彼女が誰にも盗られないように話しかけな――

 

「ボクも友達がいないんだ。良かったら友達になってくれない?」

 

 聞こえたのはボクッ娘の声だった。

 

 彼女が側にいてくれてホッと力が抜ける。

 頭の中で木霊していた強迫観念も霧のように晴れていった。

 

「……うん、よろしく」

 

 それからも、ボクッ娘の彼女はどんなことがあっても俺の側にいてくれた。

 

 怪我した俺を治療してくれたり、泊まりの時に自分から上半身を裸で現れて、恥ずかしがったり。

 動作の一つ一つ、笑うも悲しむも彼女が愛おしくて恋しい。

 俺はその時に恋をした。あの声にすら囚われない恋を。

 

――

 

 彼女に思いを告げられずに高校生になってから二回目のバレンタイン。

 彼女と一緒に帰りたくて校庭の前で立っていた俺は女子生徒に囲まれていた。

 声に従って知り合った女性たち。みんな何かしら人生に重い何かを背負っている。

 

 不思議と誰にも救われなかった彼女たちを声に従って接した。声は彼女らの欲しい言葉を欲しい行動を俺に命令してきたから。

 声に従ってきただけの俺に彼女らと恋をする資格はない。

 

 だから俺は彼女ら同士の接点を作った。これは声には言われなかった行動。

 昔、一度だけあった声に支配されそうになったこともあったけど、その度にボクッ娘の彼女と会話をして緩和をしている。

 

 彼女らと待っていると正門からこっそりと帰るボクッ娘を見て、ピリッと危機感があった。それは、声に従わないといけない時みたいな嫌な感覚。

 このまま彼女を失ってしまうかもしれない。

 

 心のざわめきが大きくなって、今すぐ追えと伝えてくる。

 

「ごめん、彼女のところ行ってくるわ」

 

 彼女らに、一言口にしてから俺は走る。

 周りから止める声は一つもない。それどころか俺と彼女を応援してくれる人もいた。

 

 

 くそっ、やっぱり速い。

 

 追いかけてくる俺に気がついたのか、彼女は学校を出てから突然走りはじめた。

 どんなに走っても、彼女の速度と俺は殆ど互角で距離を詰めることができない。

 

 小学生まで彼女は走るのが好きだった。走るのは止めたらしいけどこの前のリレーでも衰えていなかった。

 

 追いつけなきゃ一生後悔をしてしまう。何でかそう、思ってしまったんだ。だから追いつかないといけない。

 

 長い信号で有名な歩道橋を渡りきれば彼女にギリギリに追いつけそうな位置につける。

 左右には車はいないようでこのまま進めれば追いつけそうだ。

 

 追う理由はないのに、追いかけないといけない。これは命令してくる不思議な声のものじゃない。

 

 確かに自分の意思によるものだった。

 

 あと三歩もすれば彼女に追いつけそうな時、いなかったはずの車が猛スピードで迫ってきている。

 このままだと彼女が轢かれてしまう。

 

 何で青信号なのに突然、車が湧いてでるんだよ!

 

 心の中で叫びながらも、歯を食いしばって足により力を入れる。

 今までも全力だったのに、この短い距離で速度は上がらない。

 

 間に合わない。どんなに考えても、どんなに思っても彼女には絶対に届かない。

 一歩、二歩の前には進める。

 ただ、肝心の三歩目に俺は到達できない。

 

 もし、声の命令だったら助かっていた場面だったかもしれない。

 お互いに助かってハッピーエンド。物語としてはそれが綺麗なんだろう。

 

 くそ食らえ。現実はそんなに上手くはいかない。

 このままだと彼女が車に轢かれるだけで終わる。

 

 ――それでも俺の命を使ってでも好きな彼女は助けないといけない。

 

「危ない!」

 

――

 

「で、今までの人生を振り返ってみたけど、これでいいのかオッサン?」

 

「……まあ、いいだろう」

 

 目の前には俺を育ててくれて、いつの日かに失踪したオッサンが立っていた。

 

「まだ厨二病治ってないのか?」

 

 昔と話していた時と同じ口調で、緑色の派手な服を着てあれから歳をとっているはずなのに、しわ一つ増えていない。背筋をピッと伸ばしていて、とても生きていることを我慢しているようにはまったく見えなかった。

 

「失礼な。これが素だよ」

 

「まるで、素じゃなかった時があるみたいだけど」

 

「まあ、それはおいおい」

 

 はっはっはと、二人とも久しぶりにあった反動で冗談を交えつつ笑いながら会話してしまう。懐かしみを感じた。

 

「それで、俺は死んだはずだけど」

 

 ここからは本題に入る。

 お互いに笑みを沈めて、真剣な表情に変わった。

 最後に見た景色は彼女を助けるために車に轢かれて俺の体で血の池を作っていた。

 

「もしかして、アニメみたいに実は死ぬはずじゃなかったとか?」

 

 思いつくのはクラスやネットで流行っているアニメの話。

 クーデレちゃんはあんまり好きじゃなかったみたいで、あの声もアニメを見ろと強制はしてこなかった。

 

「そんな都合のいいはずないだろ」

 

「まあ、そうだろうね」

 

 あきれ顔をされて、自分でもそんなことは本気では思っていないと態度でしめす。

 オッサンは髭をじょりじょりと触り頭上を見た。言うか言わないかを悩んでいるように俺にはそう感じる。

 

「……お前は別の世界があると言ったら、信じるか?」

 

「はぁ?」

 

 人間、理解できないことをとっさに言われても頭の中が真っ白になって、理解できなくなるというのは本当だったんだ。

 現に俺は判断ができなかった。

 

「……別の世界ってあれ? さっきのアニメやらのやつの?」

 

「まあ、そうなるな。信じられるか?」

 

 信じる信じられないの話じゃなくて。ありえないだろ。

 別の世界があるなんて、それこそフィクションの世界だけなんだから。

 

「いやいや。そんなのありえない」

 

「お前はオカルト研究部だろ。否定してどうする」

 

「どうして、オッサンが知っているんだ?」

 

 オッサンがいなくなったのは中学生に入る前だ、高校になってからの俺の生活は見ているはずがない。

 

「見てたからなぁ」

 

「見てたって?」

 

「ここは桜の中だ。正確に言うと少しだけ違うけどな」

 

「桜って学校に生えている?」

 

 桜、桜と心ので自分の中で納得いくものを探索していると、一つだけ当てはまる物がある。

 

 学校の七不思議にある桜。

 いくつもの噂があって、どれも不気味なものばかり。

 

「ああ、あの桜だ」

 

「その桜の中にいると」

 

「俺が桜の中にお前を呼んだ」

 

「ここに呼んだってことは何かあるんだよな?」

 

 オッサンは昔からそうだ。俺に頼みたいことがあると二人きりの密室空間に呼ぶ癖があった。

 納得はしないけど、ここはオッサンらしいと思う。

 

「そうだ、お前しかできないことがある。頼めるか?」

 

――

 

「んっ」

 

 蔓延する薬品の匂い。体中からコードが伸びていきその先にはピー、ピーと胸の心拍数を測っていた。

 くらくらとする頭を抑えながらぼやけた視界が次第に定まっていく。

 

「そっか、俺帰って来れたんだ」

 

 緑色の入院患者が着る服は、テレビでし見たことがなく濁った緑色をしていて普段は着慣れないせいで斬新だ。

 部屋は個室みたいでかなり広い。

 

「あ、そうだ。起きたこと誰かに知らせないと」

 

 手に違和感を覚える。それはすぐに分かった。

 右手が誰かの手と繋がれていた。

 

 その手の持ち主は寝息をたてて、無防備に寝ているのにこの手はいくら放そうとしても、強く握られたまま動かせそうにない。

 

「本当に心配性なんだなコイツ」

 

 肩まで伸びた髪に、今は閉じられているくりくりとした黒い目。変わらない彼女に向かって呆れるように呟いて――

 

「ただいま」

 

 ――いつか聞いた、またねの返事を言った。

 




人物メモ

ボクッ娘

前世の記憶持ち。元男。
元々前世でも長くは生きていないので、男に恋をするのは嫌悪感は低い。軽度の人間不信で記憶が戻る前からずっと側にいてくれた彼にしか恋をできなかった。
記憶が戻った後はちょっとだけ彼との距離に線を引いたけどやっぱり好きになった。
好きな食べ物は苺。趣味は運動。
記憶が戻らなかったら、運動大好きっ子になっていた。



主人公。
産まれたときから聞こえる『声』に従って生きてきたが、ある一日だけ『声』を無視をしてボクッ娘と出会った。
本来はツンデレちゃんと小学生なるまで毎日のように遊ぶはずだっがその役割はボクッ娘に変わる。そのせいもあってツンデレちゃんには負い目がある。

事故にあい意識を失ってからも育ての人物と色々とやっていたが、ボクッ娘との関係はないためここでは記入はされない。
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