どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで   作:『テキスト』

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ある部長の場合

 

 会長が出て行ってからすぐに風が吹いて、窓が揺れる。授業が始まる知らせのチャイムが鳴ると同時に教室の大雑把に扉が開かれた。

 

 扉に振り向くとそこには、ボサボサ茶色の髪を腰まで伸ばし目の下の隈がひどい、ワイシャツを着た女性がただ一人立っている。

 この寂れた教室の二人目の来訪者だ、そこまでの驚きは自分の中にはない。

 

 今は授業中のはずなのですが部長?

 

「今の私は部長ではないがな」

 

 彼女はそう言って、教卓の前にある机の上を軽く払ってから座った。強調するように胸元に片腕を組んでいる。

 スラリとした脚が制服のスカートから伸びるそれに、目のやり場がなくなる座り方で彼女以外を見ようとしても、それを彼女が許しくくれそうになかった。

 

 彼女のこちらを見るその目は力強い。ただ、怖いとは思えなかった。

 

 俺の中では今でも部長なんですよ。

 

「そうか」

 

 短く彼女は俺に返事をした。納得したのか素っ気ない飾り気のない言葉でいつも通りの雰囲気に少し安堵しつつ会話を続ける。

 

 彼女は俺が入っている、オカルト研究部の一つ年上の引退した元部長。

 ボッキュンボンの体を見せつけるようにキツキツのワイシャツと短めのスカートは、非常にエロい。いや、めっちゃエロい。

 

 そんな部長は男人気は凄いけど、無愛想なのに近づいて来た人をよく振りまわす。天才であるからこそ、他人からは問題児と言われてしまう。残念美人の塊みたいな人。

 だから部活には入ってこないから廃部寸前で、人気はあるけど告白をしに来る人はいなかった。

 

 

 ところで、こんな教室に何か用ですか。

 

「用って、こんな教室に来たのだから一つしだろうよ?」

 

 問いかけるように話す彼女は綺麗だ。

 いつもは何所を見ているか分からないけど今日だけは、俺一人を見ている。

 

 すみません。

 

「おいおい、まだ要件は言ってないのに謝る必要はないだろ」

 

 ため息を吐きながら呆れた声で言った。

 

 告白の件ですよね?

 

「ああ、そうだが。驚いた君はそんなキャラじゃなかったはずだが」

 

 部長はしばらくこちらを怪しむように軽く眉をひそめた。

 ……言えない。まぐれで当たったなんて。

 

「んー、そうだな。フラれちゃったなら仕方ないが……」

 

 話題を逸らそうと思い、何か言葉にしようと考え文字が出かけたとき、彼女から先に声が聞こえた。

 

「例えばだが、この体を自由に使っていいと言ったら、どうする?」

 

 ワイシャツをパタパタとさせて、谷間を自分に見せつけるように角度をつけけながら話している。

 

 な、何を言ってるんですか!

 

 日常会話をするような軽い声で言われた言葉を、何度も頭の中で理解しようと繰り返し考えたけれど、まったくもって意味が理解できなかい。

 結局、考えた結論は、この人は何を言っているんだ、と。

 

「で、どうだ私と付き合うか?」

 

 すみません。それはできないんです。

 

 ぎゅっと目をつむる。ふぅと部長がやけに色っぽいため息をして天井を見上げ、髪の毛を丁寧に耳にかける。

 

「決意は固いのだな。これは私に勝ち目はなさそうだ」

 

 今の部長は無理をしてないですか?

 

「してないよ」

 

 俺は素の部長が好きですよ。

 

 彼女は他人からしたら考えている事が突拍子な人だけど、いつもの不敵な笑みをうかべている、不思議な魅力のある女性だ。

 

「……ほんと、敵わないよ後輩くんには」

 

 天井を見ていた彼女は、顔を下げる。今度は耳から垂れた髪の毛を鬱陶しそうに扱った。

 

「慣れないことはしているかもな、告白なんて私の柄じゃないし」

 

 今の笑顔は我慢しているのだろうけど、それでも俺と向かい合って自分を乗り越えようとしているようにも見えた。

 

「あの堅物とは違っていけると思っていたのだが、特段イベントがなかった私じゃ、やっぱり駄目だったみたいだ」

 

 部長、これを。

 

 今の俺が彼女にできることはそうくない。ハンカチを差し出すことで、涙を拭き取って慰める事はめきない。

 それでも、自分なりなことをするだけだ。

 

「クローバー? しかも十葉とな」

 

 カミサマに貰ったんです。

 

「おいおい、貰った物を他人に渡すなんて。しかも神様からだろ?」

 

 良いんですよ。

 

「まあ、深くは聞かないでおくよ。私は神様なんて信じていないからな」

 

 そういえば、この学校の七不思議の時もそんなこと言ってましたよね。

 

「ほぉ、良く覚えてるじゃないか。もしかしなくても私のことが好きなんじゃないか? 今からでも遅くないから突き合ってみないか、何か変わるかもしれんぞ」

 

 だから、それは、すみません。

 

「……ジョーダンだよ。冗談、そんなに歯切れが悪くならないでくれよ。恨んではいないよ。むしろ吹っ切れたさ」

 

 俺と部長の決断はどうであれ、今の彼女は満足そうに見える。罪悪感の衝動が膨張し崩れ口から溢れだそうになった。

 

「彼女ができたら紹介してくれよ」

 

 一言残して彼女は教室を出て行った。入る前よりも清々しそうな明るい表情をして。

 

 ……本当に部長には勝てませんよ。

 

 コレ(沈黙)が正解だ。俺は彼女には相応しくない。

 そっと肩の力を落とす。気づかないうちに壊れかけていた自分の思いが痛い。この傷は一生背負わないといけない痛みだ。

 

 

 

「彼女たちを追わなくていいの?」

 

 いつの間にか教室に入っていた、二人とは少し違う人物に特に驚く事もせずに返事をする。

 

 彼女たちを追う資格は俺にはない。

 

「ボクはそんな風には思わないけどね」

 

 暇だったのか、黒板消しの三つあった内の二つ持って窓の外で叩いた。チョークの粉が入ったのか「けほっ」と短くむせる声が聞こえる。

 涙目になりつつも黒板消しを戻すと、軽く涙を拭いてキリッしてこちらを向く。

 

「……早めに決断しなよ。時間は有限なんだから」

 

 そう言ってから教室を去って行った。

 後ろ姿に言葉はださない。決断なんてずっと前からしているのだから。

 

――

 

「……フラれた」

 

 私らしくない弱々しい声がでたのは、教室を後にしてしばらく経ってからだった。

 教室には戻る気がしないし、心にぽっかりと空になる感覚。

 

「告白するのも初めてか」

 

 立ち止まり昔を振り返って、?私から声をかけることが少なかったと思い出した。

 

「まあ、いい経験だったか」

 

 割り切るしかない。窓から入る光を眩しくてまぶたを閉じるしかできなかった。

 

 

 人は失うことで対価を得る生き物だ。

 金を払えば商品が。肉体で労働をすれば、お金が貰える。

 

 ――そして、努力をすれば学び得ることができる。

 

 私は知ることが好きだ。

 書かれた文字を追うこと、数字のパズルをするための式、歴史を追うための予備知識も、オカルトじみた噂話も。

 

『――ちゃんは何でもできるんだね』

 

 三歳の子供がやるには周りには不気味に見えただろう。歳をとっても周りとの距離は縮まらずにむしろ溝が深まっていった。家族とも学校の生徒とも。

 

 

 友人も作らずに中学の二年生のとき鞄の中からボロボロになってしまった私の本と、その姿を見てゲラゲラと下品な笑いをする周りにいる同級生。

 

 はぁ、と小さくため息をつく。理由は分からない、どちらかというと陰鬱な雰囲気の私にしばらくの間標的にされることは間違いないだろう。

 女性のイジメはしつこい。幼ければ幼いほど純粋な物を壊したりと行動にでてしまう。

 

 無視をしよう。イジメもこの学校を卒業したら終わる。

 

『おい』

 

 一人の同級生が声を上げた。ひどく低く冷たい声。

 その声にビクッと笑っていたいじめっ子が、いじめられっこの恐怖の表情に変わった。声を上げた少女が正義感のあるクラスのリーダーシップのある少女だったからだろう。

 

『ほら行くぞ』

 

 誰もいない空き教室に手を引っ張られ連れて行かれた。

 

 ちょっとだけ濡れていた小さな手を感じながら『良かったのか?』と聞くと『良くない』と応えた彼女を笑うと、彼女もつられて笑った。

 

『クラスの――あ、名前で言っても分からないか。休み時間に女子に囲まれてる奴いるだろ?』

 

 昼休みになると決まって一人の男子生徒の机に、女子が集まっている騒がしくしている映像が微かに思い出した。

 顔がある程度良くてサッカーができ、女にモテている奴。要するに一般的にはイケメンと呼ばれる人間だったはず。

 だけど、そんな人間が私に何の関係があるのだろうか。

 

『そいつが、お前に惚れちゃったみたいで』

 

 クラスのイケメンが私に惚れてるねぇ。まあ、私をいじめる理由なんてそんなところだろうよ。

 

『お前は正義感が強いのだな』

 

『……そんなこと、ない』

 

 イジメを止めたら自分が次の標的にされるかもしれないのに。それも女子の嫉妬なんて、馬鹿か本当に優しい人間のどちらかしかできない。

 彼女は後者の方なんだろう。

 

『まあ助かったよ。ありがとう』

 

 私に感謝されるのがそんなに驚くべきことなのか口をパクパクさせて驚いている。

 

『あ、謝まった?!』

 

『私だって必要であれば謝るさ』

 

 この学校で謝るのは初めてのことだったけど。

 次の日からも特にいじめられることはなく、なんやかんや彼女に助けられつつ、最後の方はかなり仲良くなって中学を卒業した。

 

 高校生になってから、興味のある部活に入り、先輩方とそれなりに仲良くしていたが部員が私と一つ上の先輩が二人の、増えない生活を送っていた。

 先輩方が卒業し私が部長になり、今年で部活が取り壊しになったところに二人の生徒が偶然にも入ってくれた。

 

『部長』

 

 後ろから歩いて声をかけてきたのは、私から見て奇妙な生徒。外見は普通だ。長すぎず短すぎない髪型に標準よりも少しだけ小さい身長。

 見てくれはただの高校一年生。

 

 潰れかけの部活に入ってくれた恩があるが、面倒事ばかり起こす問題児の一人でもある。

 

『部長凄いですね』

 

 成績が貼られた掲示板を見上げて

 溢れんばかりのキラキラとした笑顔。きっと、凄いという感情が目の前の人の中では渦巻いている。

 

『なに当たり前のことを聞くんだ?』

 

『そうですよね。部長は頭が良さそうだから』

 

 ……頭が良さそう、か目の前の人間は根本的な間違った考えをしている。

 

『頭が良いのは認めよう。ただ、何かを達成する人間は努力をしている。それは君もだろ?』

 

『何のことですか』

 

 もう一人は分かりやすいのに、コイツは本当に食えない奴だ。

 

『来週の金曜日に学校に泊まり込みすることにした、アイツにも言っといてくれ』

 

『分かりました。伝えときます』

 

『ああ、任せた』

 

 

 扉に手をかける。開けた隙間からこの時間には誰もいないはずの屋上に人影が一つあった。

 

「おっと、天下の元生徒会長サマが不良のたまり場でサボってるのかい?」

 

「うるさい」

 

 今日の彼女はご機嫌な私とは正反対に不機嫌だ。フェンスを越えてイライラとさせながら足をぶらつかせている。

 

「おいおい、私たちは仲のいい友人じゃないか」

 

「……何しに来た。後、お前とは腐れ縁だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「礼を言いたかったんだよ」

 

 彼女ならここにいると信じて私は来た。

 ……サボりたい気持ちも少しだけあったがそれは口にしないでおく。

 

「何のお礼だ?」

 

「ほら、泊まり込みを許可してくれただろう?」

 

 思い出したのは夏休みに許可を出してくれた、かれこれ長い付き合いだけど初めて見た可愛らしく年相応にしおらしく照れた彼女の姿。

 

「……許可はしていない。彼に免じて黙認しただけだ」

 

「可愛らしい自慢の後輩だろ? ちょくちょく生徒会でお前の仕事を手伝ったりしてたみたいだしね」

 

「そんな彼にもフラれたけどな」

 

「はんっ」

 

 うつむき、影を落とす。目は鋭く心は錆び付いている。彼女は人間らしい人だ。私とは違うはずなのに陰鬱に落ち込む彼女の姿が醜くて、今の私も同じ状況なのだと思うとおかしく笑える。

 

「……何を笑っている?」

 

「そんな怖い顔しないでくれ。ライオンに睨まれたシマウマの気持ちになってしまう」

 

 ギロッと、漫画ならそんな効果音が鳴ってそうな表情をしながらこちらを睨みつける。

 そんな顔を無視をして、フェンスを乗り越えて彼女の隣に座った。そっぽを向いたが気にせずに口を開く。

 

「告白って言っても、君のことだアレだろ? 『勉強できます。家事できます』とかその辺の可愛らしいやつだろ?」

 

「なっ」

 

 睨みつけていた顔を真っ赤にして慌てて明後日の方向へそっぽを向いてしまった。

 いつも真面目そうにしているけど、君ほどに面白い反応をする人間はなかなかいないぞ?

 

「ははっ、簡単に想像できるよ。それで泣きたくなってここに来たのか?」

 

「泣いてなどいないっ!」

 

 赤くなっている目。端っこから飛んだ水滴。それを涙と言わないなら何なのかを、彼女に問い詰めたい気分だ。

 

「分かるよ。私だって、フラれたのだから」

 

「……」

 

 黙んないでくれよ。これ以上言うと恥ずかしくなってしまう。

 寄りかかった背中がやけに冷たい。

 

「私と初めて会ったとき覚えているか? あの時はいじめてきた奴らを馬鹿にしていたが、自分の立場になると分かってくるもんだな」

 

 太陽の体温が乗った春色の風が私たちの間を通り過ぎる。

 私のスカートと彼女のポニーテールが大きく揺れて元通りの位置に戻ってきた、

 

「君の後に告白するってかなりハードルが高いと思わなかったかと?」

 

「それは」

 

 本心だ。気高く高嶺の花な彼女は誰からどう見ても優秀で、本人が思っている以上に男女両方から人気であったはずだ。

 

「だから、色仕掛けすらしたのに」

 

「はっ、ハレンチな」

 

「ハレンチなんて使うの、今のご時世、キミくらいのもんだよ」

 

 カラカラと笑うとつられて彼女も笑った。

 太陽の下で誰かとこんな風に笑うのは久しぶりのことだ。

 

「……にしても、可愛らしい花を貰ったじゃないか」

 

「分かるのか、花の名前が」

 

 彼女の側にある花を見ながら言った私の言葉に食いつく。まだ若いなと思いつつ小馬鹿にしながら問答を続ける。

 

「君と違ってね。世間で言う女子力なるモノが高いんだろうよ。きっとね」

 

 むっとした顔に優越感を少しだけひたり、花の名前を口にした。

 

「名前はルドベキア。後は自分で調べてくれ」

 




人物データ

部長
 ボサボサの腰まで伸びた茶色の髪と怠げなたれ目。
 家には爬虫類とサボテンでいっぱい。
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