どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで 作:『テキスト』
先輩たちが教室を出て行ってから、一限目が終わるチャイムが鳴ると、今まで静かだった廊下からバタバタと足音を立てて誰かが走ってきた。
「お兄っちゃん!」
教室に勢いよく入ってきたのは、髪を後頭部で二つに分け、可愛らしい声で結んだツインテール髪型を揺らして入って来たのは可愛らしい少女だった。
銀色の髪に赤い目。日本人にしてはあまり見かけない容姿の彼女がニコニコと笑顔で立っている。
来たんだ。
「そりゃ来るさ! 私にとっての唯一のお兄ちゃんだもん。休み時間の短い時間にでもさ、飛んで来るよ」
教卓にバンッと音を立てて、グイグイと顔がつきキスをしてしまいそうな勢いで迫ってくる。
そんな妹に手で待ったをかけて止めさせた。
ここには俺以外に誰もいないぞ?
「えー。どうしようかな」
首を斜めに傾げ、上目遣いで悩む素振りをしつつこちらを見る妹に負けず、にらみ返すとちぇ、と彼女は可愛らしく舌打ちし音を鳴らした。
「……分かりました、マスター」
急に人物が変わったように声質が態度が変わった。幼い少女だった声と表情がニュースキャスターの聞き取りやすい、だけど感情がこもっていないスラスラとしたモノに変わる。
今の彼女を同級生の人に見せても、誰も同一人物だと認識できる人はいないだろう。
まあ、二重人格とか人物が実際に変わったとかいうわけじゃなくてただ、猫を捨てだけだけど。
だから、俺はマスターじゃないって。
「いえ、今のマスターはあなたです。マスターが死ぬまでは設定は変えられませんし、貴方が死ぬか、私が壊れるまで」
美少女に生涯一生に関係を持てるなんて、聞こえがよくて嬉しい気持ちがあるけど、無表情で言われると少し、いやかなり気味が悪い。
無表情で言われると怖いよ。
「無表情で、と言われても生まれつきこんな表情ですし」
俺は、そんな二人きりのときの普段の会話をしていて安心をした。
「……マスターは永遠に興味がありますか?」
突然に言われた言葉の意味を理解するのに数秒間。それからまた数秒間目をつぶり、自分を少しでも冷静にさせてから手を動かす。
永遠の命?
「はい。永遠の命です」
あらためて彼女が口を開くと、静かに思い空気がこの教室に満ちていく。だけど、器からは溢れることはない。
「死ぬことも」
俺は声がでない。
彼女はこちらを気にせずに淡々と台本を読む感覚で、責めた口調で言っていた。
「老いることも」
俺が遮ることは、世界に望まれていないから。
最後に彼女は窓際まで歩く、後ろ姿には一つとして感情がこもっていない。
「そして、誰とでも絆を結べなくなる。私と将来二人だけで生きていく」
手を差し伸べながら彼女の語りは静に終わった。
けして、早くはない口調で言っていた。途中で風が吹くことも、いつもはうるさい廊下にも生徒が通ることも一切なく。
それが運命づけられているかのように誰にも邪魔をされないで。
「……興味はありますか?」
最後の問いかけに、俺は息をのむ錯覚を覚えた。
たまたまカーテンが捲れ、彼女に向かって太陽の光が差している。背後の窓には桜が咲いていて、彼女の整いすぎた顔の魅力を最大限まで高められた。
この光景を一言で表すなら幻想的。主人公とそのヒロインだけに許された最高のシチュエーション。
彼女なりの精一杯の告白に俺は――
俺は永遠の命に興味はないかな。
「やっぱりマスターも私のことを゙おいでいくんですね」
どこかに消えてしまいそうな声で、冷静な彼女が捨てられる犬みたいな絶望をした表情をしている。
俺は彼女を守らないといけない。ただ一人の家族だから。
一人の君の兄として、君の家族として。ずっと側にいるよ。
「私にも家族としてって、そんなことができるんですか?」
子供の夢物語を大人から聞かされ、呆れたような声を出し、一回ため息をついた。
見えた表情にさっきまでの苦しさはない。強いて言うなら、アホを見ている顔だ。
ああ、できる。だから、家族の印として頭を教卓の方に向けて欲しいのだけど。
「何ですか、マスター? またイタズラでもするんですか?」
彼女には珍しく冗談を交えながら、ブツブツと言ってるが、なんだかんだ素直に歩いてくる。
彼女の髪に小さな白い花弁が取り出したた衝撃でゆらゆらと揺らしていた。
教卓越しに彼女の髪に結びつけて、鈍い銀色の髪に可愛らしいドライフラワーがよく映えている。
「これは何の花ですか?」
一瞬の間だけ彼女の目が見開いたように見えけど、すぐにいつもみたいな無表情の顔に戻った。
いつもはしない表情にカメラを用意すればよかったなど少しだけ後悔してから、すぐに花の名前を言葉にする。
カタカナ五文字の普段も見慣れた植物。
ジャガイモ。
「……食べ物の花を女性に贈るなんて、マスターらしいですね。だから、何時まで経っても彼女ができないんですよ」
……うるさい。
「まあ、いいでしょう。貰っておきます」
内心ジャガイモなんか渡して、彼女に怒られるんじゃないかと心配をしていたが大丈夫だったようだ。
「迷惑をかけたんです。花だけじゃ足りないですよ」
突然、彼女の声が聞こえた。普段は無欲に近い彼女からは珍しくちょっとだけ驚く。
……俺はどうすればいい?
「私の願いを一つ叶えてください。それなら許します」
彼女の初めて聞いた震えながら言う声に後ろめたさが芽生えながら、慎重に言葉を選んでいく。
家族として、もう彼女に迷惑をかけたくない。
俺が叶えられるものなら。
「今日は家に帰ってきてください」
口をもごもごとさせて言いづらそうにしていたが、あらかじめ決まっていたのだろう。強い表情が彼女に宿っていた。
本当の笑みで笑ってくれなかった彼女が今、確かに笑っている。
善処するよ。
だからこそ心配をかけることができない。今伝えられるのはこれしかない。
「……うん、それならいいよっ!」
最後の最後に猫を被って、妹はここに来たときみたいに勢いよく教室を出て行った。
――
『すまない。ワシはもう駄目みたいだ』
沢山のコード。鎖のように繋がれたそれらは比喩なく彼の命を繋ぎ止めるのに必要な物だ。
彼はこの鎖がないと生きていけない。それほどまでに彼は追い込まれていた、他でもない……私のせいだ。
『できれば、もっと生きて最後までキミを見たかった』
彼がいつの日からか口にしているいわば癖のような言葉。
声色には愛が感じられる。
『ハイ。博士からの愛は感じられました』
愛される気持ちは分かった。
『そうか。よかった……』
繋がれた機械の一つに命を山なりにして、教えてくれる物があった。いつも山なりだったその機械は、今は平らの線しか映していない。
――死んだのだ。彼は創造物の私を残して。
『お休みなさい。マスター、また会える日まで』
博士が死んでからの段取りは事前に決まっていた。
山の中にあるこことデータの保存されているフロッピーディスクを壊す。入り口にあるボタンを押せば爆発して埋め立てなる。
私が持ち出していいのは、博士からなぜか渡されたいくつかの植物の種だけだった。
写真もデータも私には一つも渡してくれない。博士は幸せそうな顔で死んで。
……博士。どうして誰かを愛する感情を私に付けてくれなかったのですか?
分かりません愛し方が。博士からの愛は受け取れました、でも博士の愛し方は私には分からない。
水たまりに映った表情はひどく暗く、病魔にうなされている博士みたいな顔をしている。
体は痛くない。なら、どこが痛いのだろうか?
その場で考えていても仕方がなく、住んでいた場所の後始末をしてから、博士との約束を果たすために私は旅をした。機械の私でも他人を愛せる方法があると信じて。
季節が何回も変わり、発展していく街並みを見ながら旅をする。数日、数年、数百年いつの時代も冬になれば人も動物もねぐらに隠って、春になれば蓄えを大量に消費してから出てくる。
二、三回街の人間の様子を見てから前に進む。たまに後ろに戻ることがあっても時が経ちすぎて、私を覚えてる人はいなかった。
老いない私は一カ所に立ち止まれない。だから、前に進む。止まったら愛し方が一生分からないままで死んでしまうから。
繰り返す日々の中、博士が死んでから千回目の春が明けそうになった時に。
――突然、世界が白く塗りつぶされた。
目が覚めたら、平行線に続く視界には緑も青も一つもなない、干からびた大地が続くだけだ。
それどころか、建物群も少ししかまともに保っていない、微かに残ったのは住む場所と何もかもを失った人がいるだけ。
明らかなののは、生きている人々の目には絶望が広がっていた。日本だけなのか全世界でこうなっているのかは分からないが、テレビもラジオも使えない今、情報社会の現実で情報を獲得する手段がとれなくなった。
情報も食糧もなくなった人間は混乱をし、そのまま世界は衰退して。全ての生物が死ぬ。
――はずだった。
私の腰には、植物の種が入っている。何が育つかは博士から聞いていないし、水がなくても育つすら知らない。それでも好奇心でその植物を植えた。
水はほんの少しの、雨の残りしかないのに、順調に根をはり、実を付けて。気がつくと種を埋めた場所は草原になって、森に変わっていった。
次第に生き残った人や動物たちが集まり、村となって、周囲の枯れた大地も少しずつ緑に回復していく。
次第に生物が死んでいき、この世界に水が少しずつ戻っていった。
それを糧にして、人間はすくすくと育っていき年月が経てば残っていた、本や人工の物の残骸から簡単な機械を作りあげる。
気がついころには緑が根を張っていた大地を削りコンクリートを道に引き締めた。
そこから人間たちが比較的に楽な生活に戻ったのは五百年もしない。
私は旅をする。北から南に、南から北に黙々と繰り返す。やけに頑丈な体と、やけに脆い心を持って。
コマ送りの四季の中で、博士が渡してくれた感情が日に日に擦れていった。
新たに復活した世界は前の世界よりも貪欲で、授かった感情で旅をするのは苦痛でしかなかったからだ。
初めに悲しみが消えた。
悲しめる隣人がいなくなったから。
次に怒りが消えた。
誰に怒ればいいのか分からない。だから怒りも消えた。
最後に誰かと笑い合う喜びも消えた。
笑い合う人がいない今、私にあっても邪魔だったから。
数える度になくなる心から助けを求める声が聞こえる。私の心なのに、体なのに、一部なのに博士から貰った大切なモノたちを、自分からは何もできない歯がゆさに悩まされつつも私は歩き続けた。
いつしか誰かに、求めるように空っぽになった心で助けを呼んでいる。何年も何年も怨念のように。
価値のないスクラップに成り果ててしまいました。誰か壊してください。
――私に生きる権利はないです。
どれくらい旅をしただろうか。気がついたら一瞬で季節は変わっていった。
ひたすらに歩いて歩いて。気がついたら
ここは、誰かの家の庭かな?
なんで私はこんな場所にいるんだ? 人がいる場所に入った覚えはない。
考え込んでいると突然、扉が開き家の中から一人の男が出てきた。
制服を着ていて、顔つきも幼さが残っている。彼の歳は若いのはずだ。
『怪しい物ではないです』
男さ目を見開くだけで、とくに声を上げるわけでもなく私をじっと見ている。
大声をださないだけでもありがたい。家の敷地内に知らない人がいたら普通の人間だったらそのまま警察を呼ぶはずだから。
『すみません。すぐに出て行きます』
私自身だってここにいることに驚いているし。迷惑をかけないうちに早く出ないと。
彼に心の中で感謝しつつも、私は『失礼しました』と声をだして走って家の外に出ようとすると『まってと』引き留められた。
『君が誰かは知らないし、どんな秘密を持っているかも知らない。だけどね、目の前でそんな悲しい顔を見せられちゃ放っておけない』
彼が言った悲しいは昔持っていた感情の一つのはずだ。それを私が表情にうかべている?
『ここに君を咎める人も問い詰める人もいないよ。だから、家の中に入って来なよ』
男は扉の前で手をこまねきし、私が入ってくるのを待っていた。
『……急に入ってもご両親とかが困るのでは?』
中身の年齢がどうであれ私の見た目は幼い少女の姿をかたどっている。
親戚でもない子を家に入れたら、誘拐と思われてしまうかもしれない。
『親はいないから。大丈夫だよ』
『それは……』
彼の表情をほんの一瞬だけ曇らせて、すぐに作った笑顔になった。
彼が曇らせた表情は水たまりに映った博士を失ったときと同じ表情だった。
『ほら、入っておいで』
家に入るとまず始めに、風呂を自由に使わせて貰い泥を流した。
人助けにしては明らかに怪しすぎる。
……もしかして、体目的?
風呂場にあった鏡を覗く。
作られてから老いることなく、ある程度の弾力がある肌に銀色の髪色。これを魅力的で性的に思う男性も少なくはないと思う。
お風呂から上がって、バスタオルを体に巻いて彼の前に立つ。
『では、マスター今日は優しくよろしくお願いします』
彼が私にそういう目的で入っていいと言うのなら、私は一回だけ体を許そう。拾ってくれた恩があるし、彼にならいいのかなと何故か思ってしまうから。
それから私はまた旅に出る。それでいい。
『ま、ますたー? というか服だしたはずだけど何で着ていないの?!』
そのまま風呂場に押し込まれてしまった。
今日は別々の部屋に泊まって、それどころか彼は庭に倒れていた見ず知らずの私に何日も居ても良いと言う。
始めは本当は体目的でシャイなだけだと思っていたけど、彼と暮らしていると、そんな考えが馬鹿だったと改めて思ってしまった。
彼はただ優しいのだ。自分以外の誰にでも。
ある日、テレビで学校の特集をやっていた。私は博士と一緒に暮らしていたおかげで、学校という存在は知識として知っているが通ったことがない。
プールや文化祭。体育祭と球技大会の違いはよく分からないがテレビに映る人はみんな楽しそうに映っていた。
『もしかして、学校に行きたい?』
『えっ、ええ。行ったことがないので少しだけ興味があります』
『ちょっと、待ってて』
扉が閉まった後、階段を上る音が聞こえる。二階に上がっていった。
学校特集が終わった後にテレビを消そうが迷っていると、階段が下る音が聞こえてきた。扉が開き、息の切れた笑顔のマスターが立っている。
片手に通話中の携帯電話を持っていた。
『春から学校に行ってみない?』
『……学生としてですか?』
『嫌だったか?』
消し忘れたテレビの音がやけに大きく感じる。ニュースでもアニメでもドラマでも、聞こえてくるテレビの音はどれかだろうけど分からない、不思議な感覚だ。
『学校に通えることは嬉しいのですが……大丈夫なのですか? その、学校に通っても』
世間的には私は身元不明の人間だ。普通学校には通えない。
『ああ、なんか学校側に話したら許可が出たから』
軽く言うマスターに初めて恐怖を覚えた。
それはマスター自身じゃない。彼を何所までも愛するこの世界に。
『初めまして、妹ですっ!』
高校に入学をしてマスターがいる部活に、私も入ることになった。
いつ私が本当の妹じゃないとバレるか分からないから、マスターを監視をするため。彼は抜けているところが多いから。
『ん?』
『おにいちゃんがいつもお世話になっています!』
事前に妹という概念を勉強してから学校の中ではそれを演じる。
可愛らしく、愛くるしい感じがいいらしい。
『あれ、妹さん?』
マスターが目をゴシゴシと幻を見るように、こちらを驚いた表情で何回も見ているけど、そんな顔で見ないでほしいけどね。
『おにいちゃんは、親友さんと話しててっ』
『ちょっと妹さん?』
『なんでボクまで?!』
話に聞いていた、彼の親友さんと抵抗する彼を押しつけて隣にある倉庫に二人を押し込む。
長年付き合いのあるらしい親友さんにはマスター自身がごまかしてくれるだろう。
『改めまして、兄がいつもお世話になっています』
唯一残った茶髪の女性の前に行き、丁寧に挨拶をする。
マスターの話を聞いた感じ彼女が部長らしいから、私の正体が念のためにバレていないか確認するために。
『キミ、無理をしてないか?』
『そんなことないですけど?』
この女性は感情を読むのが上手いのだろうか? それとも、彼女自身も詳しいのだろうか。
『はぁ。私の前では猫を被んなくても良いぞ?』
お互いに引く気はなかった。
この状況を見られて不利になるのはどちらだろうか。少なくとも彼女は何も損をしないだろう。
『……えぇ、では貴方の前では』
機械的な感情のこもっていない声が機械声帯から溢れた。
マスターには見せられないくらいに私は冷たい表情をしていると思う。
『ほぉ、被り終わった後でも十分可愛らしいじゃないか』
『そうですか? かなり無愛想だと自分では思っているのですが』
それで嫌われたこともあったと、過去に旅をしていた旅の記憶を思い出す。
コミュニケーションができる人間は、大抵得をする。だけど会話が苦手な人間はいつも大抵損をする。人間社会は昔からそうであった。
だから、私は会話をするのが苦手だ。
もしもまた、あの光で私だけが生き残ったら? 今度は耐えられないだろう。
博士の種がない今、この星に生物は戻らないだろう。そうしたら私は孤独に何もない砂漠を歩いて朽ちるだけの存在になるのが怖い。
『君もこの部活に入るんだろ? だったら私の前だったらその状態で話せ。できなかったら退部だ』
『むぅ、それは困ります』
困る。あの人がいつ私の正体を言ってしまうのか、不安で不安で仕方ない。だから私はこの部活に入らないといけない。
『では、貴方の前ではこのままの状態で話させていただきます』
彼女の一瞬だけニンマリと笑う姿に薄らと嫌な予感がしたが、手を差し伸べられて握手をした。
『ああ、よろしく妹さん』
まんまとはめられたと思うと久々に変人以外と喋るのは難しい。
「ここで思い出した感情は、苦しさですか」
思い出に浸ってから、現実の世界に戻ると、この世界はやけにちっぽけで小さくロボットが考えたような幸せな、妄想が現実になればいいと、この世界が一度砂漠になってしまってから私は思ってしまっている。
バラバラになった感情の中の悲しみを今思い出した。
できれば思い出したくなかった。感情は色々あったはずだ。喜びや驚きとか、その中で悲しみを引くなんてよっぽど運がないと薄らた笑ってしまう。
「苦しいです。悲しいです。辛いです」
変な疼きがする胸を両手で押さえてその場で丸くなる。感情に体が押しつぶされそうで、今すぐにも誰かに壊してもらいたい。
それでも――
「その悲しみたちの間に、微かな喜びがあるのは何故でしょうか? 結局のところ私には得がないというのに」
不思議だ。不思議で仕方がない。公平に生きるために私は損得でしか考えられないように作られた存在なのに。損をしてその中に幸せを得てしまった。
窓ガラスに反射した花を改めて見る。白く小さな花。
「お兄ちゃんはドライフラワーなんて、おしゃれな物知っていたんですね」
永遠の命は断っておいて、枯れない花を渡してくるなんて。
そこまで考えて、頭の中では――お兄ちゃんのこと一色になるだけになる。
「これが愛なのですね。博士」
胸の中にあるぽかぽかとした温かい、名前のついていない感情。私が名づけていない未知の言葉をつけるなら。
私は『愛』とつけるだろう。
頭に付けた花、白い可愛らしい花が別れを告げるようにお兄ちゃんがいる教室の方向に揺れた。
一生の別れじゃない。彼は帰ってくる。だから、私は彼が帰ってこられる家にしなければ。
足取りは軽い。今までにないくらいに。
窓から空を見上げる。雲一つなく澄んだ空に太陽を見つけて、その方角に目を閉じ祈るように手を組んだ。
博士、幾らかの年月をとって私にも『愛』を理解できました。
だからこそ分かります。持ち得る寿命で私のことを愛してくれた博士の優しさに。
恨みはしましたが私は幸せになります。だから作ってくれてありがとうございます。また、いつの日か会える日まで。
博士への懺悔が終わり、目を開けて前の窓に映る私は、まだ細く微笑んでいたことに驚いた。ロボットには表情筋がない。偶然に意図せずに笑うなんてありえない。
私はその場で笑みを作って、自分が笑ったことを確認してからそのまま教室に戻った。
きっと笑えるくらいに私は救われたのだから、今度はお兄ちゃんに心の中で誰にも言わない感謝と応援を呟いて。
人物メモ
妹
銀髪ツインテールで赤目のアンドロイド。
食べ物をエネルギーに変えるため、普通に食事はする。チョコミントが好き。