どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで   作:『テキスト』

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ある後輩の場合

 

 呼び鈴の音が鳴った。わいわいと校庭の方で騒ぐ声がする。まだ授業が始まってもないのにボールを蹴る音とか、壁に向かって投げる音が聞こえてきた。

 体育の時間だろう。サッカーでもドッチボールでも、もしかしたらテニスかもしれない。ここからは確認のしようがないけど、音だけでも彼らを羨ましく思ってしまう。

 

 妹が教室に入ってから一時間が経った。何気ない時計の長針のチクチクと音を聞く度にしっかりと今日が終わることを実感する。

 

 ……パイ。

 

 扉の外から微かに声が聞こえる。

 

 なんとなくデジャブを感じつつも、声の持ち主がバタバタと鳴る足音と何かを叫ぶ声が、段々と近づいて――

 

「センパイッ!」

 

 大きく教室の扉が開くと空気が震えるほどの声量。

 突然の攻撃で俺の耳がキーンとなり、痛くなる。

 だけど俺を見つける度に走ってくる彼女に慣れつつある俺いて、まだ耳は痛いけど痛みを気にせずに、特徴的なプリンみたいな髪の後輩と向き合う。

 

 今日は平日で、さっき呼び鈴が鳴ったから今は授業中のはずだけど?

 

「センパイのために来たんです。授業なんて関係ないですよ」

 

 胸を張って応えて、その後ろに薄らと泥船が見えてしまうのは気のせいだろうか。

 彼女は胸を張ったポーズをしながら教室に一歩目のときに彼女を廊下に引き留めようと文字を書く。

 

 内申点とか、大丈夫か? やばいって言ってたよね?

 

「……もう、今はセイセキとか関係ないんです」

 

 扉の線で授業に出る出ないを心の中で揺れ、悩む素振りをしてから口を膨らませ応える。その姿はやっぱり自信がなさげだ。

 

 今ならまだ帰れるけど?

 

「もう、遅いですよ……」

 

 そっか、ゆっくり話そうか。

 

「はい! そうしましょう。そうしましょう」

 

 コクコクと激しく首を上下に振らして彼女のボブカットの髪が揺れる。教卓まで手を掴もうとして、勢いよく迫って、そのまま彼女の手は空ぶった。

 

「……むー、ひどいですよ」

 

 ひどいって言われても今日は仕方ないでしょ。

 

「そうですね。今日はしかた――」

 

 深い呼吸をし窓の方を向く。キラキラとした太陽の光が教室を照らしていい感じに暖かい。

 彼女がすぅ、と一呼吸をしてから気持ちよさそうに目をつぶった。

 

「――てっ、先輩はいつも、かわすじゃないですか!」

 

 目を思いっきりカッと開き、途中で勢いよく声をだした。

 それのせいで、教室の声が揺れる。

 

 この手はのらなかったか。

 

「いちいち言葉にしないでくださいっ」

 

 今日も彼女はノリノリで元気よく声をだしている。

 さっきまで授業に出れないことで、落ち込んでいたのにそれでも元気よく振る舞っていた。

 

「今日もいつも通りのセンパイですね」

 

 俺はいつも通り優しいし、頼りがいのある先輩だよ。

 

「……先輩が自分で思っているよりも性格は悪いと思いますよ?」

 

 えっ?

 

「えっ?」

 

 何かひどくない?

 

「本当のことですもん」

 

 後輩が笑うと、俺もつられて笑い声をだそうとする。

 こっちを見て少し悲しそうな顔をしてから、手で顔を擦った。

 

「それじゃあ、本題を言ってもいいですか?」

 

 緊張は解れた?

 

「私のこと何でもお見通しなんですね」

 

 先輩だからね。

 

 教室に小さな呼吸。もう、後戻りはできない。呼吸のせいでお互いに進むしかないんだ、と再確認する。

 うるさかったグランドからの声がピタリと止む。話すなら今しかない。

 

「センパイが私の声を綺麗って言ってくれたの覚えていますか?」

 

 いつも元気いっぱいな彼女には珍しく、声が弱々しい。

 彼女をこんなに追いつめた原因が自分にもあると思うと額から汗が垂れ落ちそうになった。

 

 覚えてる。夏休みの、花火の前だよね。

 

「……あの時、センパイに言ってなかったですけど、外に出るのすら怖かったんです。だから、提灯の光すら届かない場所にいたんです」

 

 思い出したのは彼女と会ったのは夏祭りの日の小さな神社。

 彼女が言ったとおり、あそこに人はこないいわば穴場スポットでだ。

 

「あの時に声をかけられて、私は変われたんです。今の私があるんです」

 

 青い表情で、階段に座っている女の子が一人いた。その子に買っていた綿飴を渡したのを覚えている。

 

「もしも、ですよ。もしもあの時みたいに私が落ち込んでいたりしたら」

 

 手を伸ばして俺に向けている。小さな右手。僅かに震えているのも、本人は隠しているかもしれないけど分かってしまう。

 

「私の手をとってくれますか?」

 

 俺がもしも彼女が夢見ている優しい人間なら手をとっていたかもしれない。いや、そんな別の結末もきっとあった。

 

 その手は取れないだ。ごめん。

 

「そうですもんね。センパイはいつも隣にいてくれた彼女が好きですもんね」

 

 悲しさと満足した表情が矛盾しながらも顔に表れている。目に涙を溜めて、それでも満足をしていた。

 

 ……ノーコメントで。

 

「私が言うのもアレですが、分かりやすく動揺しすぎですよ」

 

 そんなに分かりやすいかな?

 

「分かりやすいんですよ」

 

 花を手に取って、それを渡す。受け取ってくれたのを確認して彼女を見る。

 ジーッとその花を眺め首を横に傾けていた。

 

「これ、何ていう花ですか?」

 

 メランポジウム。

 

「綺麗な黄色のお花ですね」

 

 気に入ってくれたならよかった。

 

 大事そうに、花を両手で抱えて、そのまま歩きに行って、教室の扉の前でピタリと止まった。

 

「私は諦めるわけじゃないですよ?」

 

 止まったことを不自然に思っていると、背中を向けたままで俺に言っている。

 普段みたいに彼女の元気いっぱいな声で。

 

 えっ?

 

「優しいセンパイを好きになる人は多いですけど、正々堂々挑ましてもらいますからっ」

 

 えっと、後輩ちゃん? 何を考えているのかな?

 

「ふふっ、ヒ・ミ・ツです。当ててみてください」

 

 この後輩。絶対ロクでもないことを考えている気がする。

 

――

 

『お姉ちゃんは簡単にできていたよ?』

 

『それしかできないの?』

 

 私にかけられる言葉は常にお姉ちゃんとの比較だった。私が何をやっても、お姉ちゃんに比べられて失望して私の周りから『期待してたのに』と言い残してなら勝手に消えていく。

 

 先生も親も誰も私自身を公平に見てくれる人はいない。

 それでも私は寝る間も惜しんで努力をした。

 

 勉強を頑張ってテストで九十点をとった。

 

 ――お姉ちゃんは毎回テストでは百点だった。

 

 運動を頑張って。傷だらけになりながら無心で外に出た。

 

 ――女の子らしくないねと誰かに笑われた。

 

 最後に歌うのが好きで自由に歌った。

 

『――ちゃん上手いね』

 

『もっと聞かせてよ』

 

 初めてお姉ちゃんに比べられない特技ができて、他人に私を求められた。自分自身に存在価値を見いだすことができる。

 それから私は他人に言われるがままに歌った。家に専用の部屋を作って、歌の先生まで呼んで。

 お父さんは喜んでくれたし、お母さんも蜂蜜のジュースを作ってくれてり、確かに幸せだった。

 

 余計に歌うのは私にしかできないことなんだ、と歌うことさえ止めなかったら私は一生幸せになれると思っている

 

『こほっ、こほっ』

 

 咳がでる。

 そのまま乾いた咳はなぜだか一週間は続いている。

 

『……あれっ、可笑しいな声がかすれてる?』

 

 度々歌いすぎて声がかすれることはあった、だけど二、三日で治ることが多かったから、今回もいつものすぐに治ると思っていた。

 

 結局治ったのは、それから一週間後で風邪だったと自分自身に納得させている。

 違和感に気がついたのは咳が止まってからの朝のチューニングの時だった。

 

『あ~』

 

 声が低い。

 

『あっ~』

 

 声が飛ぶ。

 

『あ゛~』

 

 声がでない。

 

 いくら声をだしても今まで通りに音楽に歌を乗せられない。

 そもそも歌声のだし方が分からない。今までどう歌ってたかも思い出せなかった。

 

『もう前みたいには歌えないんだね』

 

 歌を教えてくれる人がボソッと呟いた。

 

『……声が治るまで歌うのは止めにしましょう?』

 

 一番私が聞きたくない言葉を先生ははっきりと言った。

 

 朝の中学の廊下でヒソヒソ話が聞こえる。きっと私の話題だ。

 教室に着くとみんな指を指して笑っていた。お姉ちゃんのスペアにすらならない劣等品だとみんな思っている。

 

 何で歌えないだけでみんな離れていくの? 私を支えてくれないの? 私のことはどうでもいいの?

 私は貴方たちに言われたとおりにしただけなのに。

 

 歌えない期間が長くなればなるほど、また一人、私の周りには人がいなくなっていき。やっぱり親にまで見捨てられた。

 

『あー』

 

 とにかく歌わないと。歌って取り戻さないと。

 上手く歌えればきっと、みんな戻ってくる。焦る気持ちを抑えながら感覚を思い出していく。

 

『あ゜~』

 

 朝から防音の自分の部屋にこもってボイトレを十分にして、喉の準備運動を終えるとスマホを取りだす。

 

 流行のアイドルのアップテンポで歌いやすい歌。ダウンロードしたスマホを耳に当て、流れてくる声に合わせて私は歌を歌う。

 

 だけどそれでも歌えない。

 いくら声をだしても、掠れた声しか私からはでてこない。

 

『……今日は休め』

 

 扉にはお姉ちゃんが立っている。

 隣の部屋で聞いていたのかもしれない。

 

『なんで、なんで?!』

 

 きっと、歌えない私を見て馬鹿にしているんだ。

 唯一有った長所すらなくなった惨めな私を鼻で笑いたかったんだ。

 

『お姉ちゃんも私に歌うなって言うの?!』

 

『ち、違う私は――』

 

『もういい! 知らない!』

 

『待ってくれ』

 

 伸ばしてきた手を払いのけ、廊下を走ってサンダルで外に出る。

 やけに多い道にいる人をかき分けて、考えもなく走った。

 走って、躓いて。走って、転んで。走って怪我を作って。

 

 目的地は特になかった。黙々と前に進んで誰にも見えない。自分の消えたい感情を従いたかった。

 

 カラスの野太い声が聞こえ、ふと我に返る。

 目の前には真っ赤な提灯が垂れ、わいわいと人で賑わっていた。

 

『そっか、今日は夏祭りなんだ』

 

 屋台が並んでいて、子供は水風船を片手でついていてカップルは仲良く腕を組んで並んでいる。

 そこには暖があった。私にはないナニかが。

 

 眩しすぎて立ち止まって見たくなくて、鈍になった足を持ち上げる。

 人にぶつからないように、ふらふらとした足つきで私は歩く。

 

 このまま道にそって一直線に進んでいくと、夏祭りの花火が見える大きな神社がある。ここにいる人の大半はそっち側に歩いていっている。

 

 だから、私の行き先は脇道に逸れたところにある、小さい方の神社。あんまり人に知られていない分、人は少ないはずだから。

 私もたまたま、誰かに教えられていてラッキーだと思う。今は一人になりたいから。

 

 赤い提灯から逸れて灯りがなくなってスマホを取りだしてライトをつける。一歩二歩、進むごとに人の声が薄れていった。

 無事にたどり着いた頃には人の声は聞こえない。それどころか太鼓の音や鳥も、夏なのに蝉の声も聞こえない。夏にしてはやけに静かだ。

 

 階段を登りきり、小さめな鳥居の下に腰を下ろす。

 少しけ見える赤提灯の光を頼りに祭りを見下ろす。予想通りに周りには私以外の人はいない。

 

 スマホの画面をいじって、また音楽を流す。夏祭りを題材にした音楽。

 イメージはできる。これなら歌えると手応えを感じて、声をだそうと呼吸をする。

 呼吸が終わったと同時に前奏が終わって、歌が流れる、それにそって歌えばいい。

 

 流れてくる歌に合わせて口を開く。

 凜とした声が聞こえる。声をだすタイミングはいくらでもあったのに渡しは歌えなかった。ワンテンポ遅れても声をだせれば、それだけでよかったのに。

 

 気がついたら伴奏が終わる。この曲には私の声は一切なかった。

 

『……』

 

 私は声がでなかった。いや、だしたくなかった。

 歌っている女性の声を耳で聞くだけで精一杯だったから。

 

『なんでよっ!』

 

 真上の赤い鳥居が、月のせいで血のように不気味に感じる。

 

『……おねがいだから昔みたいに歌わせてよ。何も失いたくないんだよぉ』

 

 おえつが止まらなかった。泣き声はでるのに歌声は一向にでない私自身への絶望。

 もしかしたら私はみんなが言う通り歌えないのかもしれない。

 

『あれ、先客?』

 

 階段の登る音と一緒に紺色の袴を着た黒髪の男性が立っている。歳は多分同じくらいだった。

 

『あ、ごめんなさい』

 

 誰かと待ち合わせしているのだろうか。だったら退かないと花火も見る気分でもないし。

 

『祭りの時にここにいる人は珍しいから、つい』

 

『ど、退きます』

 

 謝って立ち去ろうと思い、声をスラスラとでて、少しだけ自分にイラつきが芽生えた。

 

『あはは、いいよここにいて。自分も人を待っているし』

 

『は、はい』

 

 男性は私の座っている、階段の下の段に座る。

 

『えっと、なんで泣いていたか聞いて良い?』

 

 泣いていたが聞こえたのだろうか、それとも今私は泣いているのか。

 

 彼の顔を見ていると、この人になら話しても良いのかなと、心の何処かで揺さぶられる。

 アブラゼミと祭りの大きな声が内緒話をするにはちょうどいい。

 心を決めて、恥ずかしいと思いながら口にする。

 

『実は――』

 

 初めて他人に私の悩みを話した。

 二つ上のお姉ちゃんと比べられること。歌だけが上手くなったこと。歌おうとすると喉が掠れて上手く歌えなくなったこと。

 

『そっか、辛かったね』

 

 誰かに心配されて支えられたかったことも、家を走って出てきたことも。

 

『これ、食べる?』

 

 優しげな声で問いかけ彼が差しだしてきたのは屋台で売っている白色の雲みたいな綿飴。

 

『えっと、大丈――』

 

 きゅー、と私のお腹から音が鳴った。そういえば朝から何も食べていなかったとことを思い出す。

 ここには私だけじゃなくて、目の前に男の人がいることに気がついて顔に熱が集まっていった。

 

『遠慮しなくていいよ』

 

『あ、ありがとうございます』

 

 お腹が鳴った以上、貰わないという選択肢はない。

 指が触れあって、私の冷たい体温と彼の温かい体温が交換された。

 

『あっ』

 

 とくに気にしない彼に少しだけ、むっと思う気持ちを抑えながら、しっかりと受け取ってふわふわな雲みたいな綿飴を不貞腐れながらかじる。

 

 一口を食べてもなくならない。

 食べても食べてもいつまでも続くと思えるほど手の中には大きくある。

 

 二口食べれば、灰色な私にも夢を見れた。

 甘くて素敵な夢。隣に優しい人がいて、笑い合っている。

 

 三口食べる頃には私は綿飴を食べるのを止めた。

 

 綿飴を渡されて、次第に花火が打ち上げられた。

 ちらりと横目で見たセンパイの色とりどりの花火に照らされた顔は、悲しい表情をしていたのを今でも私は強く強く覚えている。

 

 

 赤提灯が照らす夏祭りがセンパイと初めて会った、私の勝ち目のない盲目な恋の始まり。

 

 この時はセンパイとまた会うなんて思っていなかったのに、次に会ったのが仲直りするためにお姉ちゃんと同じ高校に入ったときだった。

 たまたま、その時の男性が学校の先輩としていた時は運命だと思いました。センパイの計らいとして、学校生活で忙しいお姉ちゃんとの、仲直りするための機会を作ってくれた。

 

『ねえ、お姉ちゃん』

 

『どうした?』

 

 お姉ちゃんの黒髪が揺れる。

 間近で見たのは本当に久しぶりのことで、何を話せばいいのかが分からない。頭の中を真っ白にしながら、震える唇を噛んで必死に絞りだす。

 

『ごめん』

 

『もう、いいのか?』

 

 『何を』とか『どうしたの』とか理由を聞くのじゃなくて私とまじめに話してくれる。お姉ちゃんはやっぱり昔から変わらないことに安心をした。

 最近はお姉ちゃんの顔を見ても、ぶれたり靄がかかっては見えない。お姉ちゃんの心が歪んでいたからじゃない。私の目が曇っていたからだった。

 

『うん、いいんだ。意地張ってたみたい』

 

『お姉ちゃんとも、そのもっとお話ししたいかな?』

 

 最後に甘えたのは子供の無邪気だったころ、久しぶりにしかも高校生になってから甘えるのは、少し恥ずかしかったせいで不思議と疑問形になってしまう。

 

 『触れてもいい?』と聞くと『ああ』と言ってお姉ちゃんは腕を広げる。

 そのまま、甘えるように抱きつく。

 

『こっ、このままでいい?』

 

『ああ、そうしよう。いっぱいここで話そう』

 

 私は恥ずかしさで死にそうだったけどお姉ちゃんは、そんなことを気にしていないみたいだったけど。

 

 

「センパイには沢山貰いました」

 

 物や感情や、様々な形で私にはかけがえないモノを沢山貰った。

 

「……今日も花貰って。これじゃあ何時まで経っても返しきれないですよ」

 

 教室に溶け込むセンパイの姿を思いだして、自然と拳に力が入る。

 

「私からも返させてください。それが私からのお願いです」

 

 目の縁の涙を拭き取って、教室を背中にして歩く。扉を振り返らない。長い廊下の前を向くって決めたから。

 




人物データ

後輩
 プリンみたいな髪。元気いっぱい。
 好きな食べ物は蜂蜜ジュース。
 今は歌うのは控えて天文学部に入っている。
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