どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで   作:『テキスト』

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元不良少女の場合

 

「先輩こんなところにいたのか」

 

 教卓に寄りかかりながら、時計を見ていた。チクタクと時間が進んでいく、と過ぎ去った時間を埋めるように手に微かに痛みが走る。

 ぼんやりと自分の手を見ていると呼び鈴が鳴ってすぐに彼女が教室の前に現れた。

 

「まったく、探したぜ。先輩」

 

 褐色の健康的な肌に金色の髪をなびかせ、ニィと唇を上げて立っている。紫色のツリ目のギャル風に見える美人。

 彼女も知り合いの女性の一人だ。

 

「こんな場所にいると風邪引くと思うけど」

 

 俺は好きで教室にいるから。

 

「先輩はやっぱり頑固だな」

 

 今日の何回目か分からない、彼女が呆れた顔で言われるがままにその言葉を聞き耳を痛くしながら黙って頷く。

 

「まあ、いいか」

 

 額から軽く汗が流れた。彼女が自分のハンカチで拭き取ってから俺の方にきゅっきゅっと足音を立て迫って来る。

 机にぶつからないように、ジグザグに歩いて。上履きのきゅっきゅっと鳴る音は近づく。

 

「なあ」

 

 彼女が教卓の横まで来ると、俺と真っ正面まできて向かい合う。ゾクッとする彼女の鋭い紫色の瞳がひどく美しい。

 

 ドンッ、と鈍い音が背後からする。顔の左側に彼女から伸びた手に俺の頬をかすれた。

 その頬から、鈍い痛みを感じる。鋭く包丁で切れたような痛み。

 

 それでも痛みよりも今は彼女と俺の体勢に問題があった。

 壁を背にして、彼女が俺に覆い被さる体勢。

 

 ――いわゆる壁ドンだ。

 

「なあ、先輩。アタシと一緒に毎晩、星を見ねぇか?」

 

 彼女の僅かに熱を持っている吐息が、首をくすぐるように吹きかけられる。そのまま彼女の甘い花みたいな匂いが鼻から脳に直接伝わってきた。

 それくらいに彼女との距離が近い。

 

「おっと、アタシの爪で血がでちまったみたいだね。悪ぃな」

 

 ペロンとアイスクリームを舐めるように、熱を持っている頬を彼女の舌が黒板にもたれかかって俺に寄りかかって、俺の血がでている箇所を舐めた。

 

「んんっ。ごちそうさまでした?」

 

 頬の血を舐め取ると、蛇みたいに唇の端から端まで舌でなぞって。

 色っぽさがあるのにまったくトキめかない。

 

「んで、続きなんだけど。それも、先輩と一緒に見た景色がな」

 

 なかったことにして、ためらいながら言う姿にはあんまりにも先ほどの行動とは似ていなかった。

 

「アタシと一緒なら先輩に退屈はさせねぇよ、それでどうする?」

 

 身長が俺と変わらないせいで、目線が合う。薄く赤くなっている頬をしながらぱちくりとお互いに向かい合う。

 

 いつまでもそうしていると思えるほどの錯覚。変化のない時間。

 自分からはなにもできないせいで何分も彼女とそうしていると、彼女からこの状況がおかしいことに気がついてハッとしたような顔に変わった。

 

「あ、悪ぃなこれじゃあ会話できないか」

 

 そう言って、彼女はしぶしぶといった表情で腕を退かして俺から離れていく。

 教卓の側から出てきいき、教卓に一番近い机に腰掛けた。

 

「で、どうよ?」

 

 ゴクッと喉を鳴らしながら、彼女は上目づかいで覗くように見る。

 さっきまでは強気だった雰囲気は女性特有の甘いモノになっていた。

 

「アタシと付き合ってみるか?」

 

 近くにいるわけじゃないのに、耳元で囁かれるような彼女の声がやけに耳の中に反響をする、してしまう。

 

 ごめん。

 

 彼女は微かに目がにじみ、すぐに俺から視線を逸らされてしまう。

 

 泣いてる?

 

「はんっ」

 

「このアタシが?! フラれた位で? 泣くかよ」

 

 バンッと机を両手で叩き、威嚇をするように大きな音が鳴った。

 

「うっ……うう」

 

 紫色の目から水が溢れている。

 一粒ごとに意味があるなら、俺はどれくらいの罪を彼女に犯したのだろう。

 

「涙じゃないからな」

 

 汗?

 

「ぞうだよ。汗、汗だから」

 

 俺は今、人に嫌われることをしている。

 喉がかすれた美少女が目の前で一人泣き崩れ、彼女を呆然と見ることしかできない。

 

「みんなよぉ」

 

 そっぽを向く彼女のために俺は花を教卓の上に置く。

 少しずつ削られていく自分の意識をしっかりと保ち、頭に力を入れる。

 

「花か?」

 

 涙声で聞く普段とは違う彼女にドキリとしつつも彼女に向き合う。

 この行為がいくら無駄でも俺は忘れてはいけない。

 この光景を、彼女たちを俺だけは忘れてはいけないだ。

 

「……星みたいだな」

 

 取り出したのは五枚の花弁がついている可愛らしい花。教卓に置いた花を傷つけないように渡して、彼女も俺を真似て小さな花を傷つけないように受け取った。

 

 名前はペンタス。

 

「ぺん……たす。ペンタス」

 

 何回か呟き、教卓の上の花を受け取ると目をゴシゴシと心配するほど強く擦り始めた。

 

「じゃあな。先輩アタシのダメなところ見せちゃって、また明日な」

 

 目が赤い。自分でも言うのはなんだけどそ彼女は乗り越えたんだろう。だったら俺は背中を押さないといけない。

 

 ああ、また明日。

 

 明日が本当にあるなら嬉しいけど。

 彼女の後ろ姿にぼんやりと眺めながら思ってしまう。

 

 

 

「彼女も泣いてたけど大丈夫?」

 

 彼女が去ってから教室に立っていた人物に、また茶化しに来たのか、とその程度の気持ちしか湧かなかった。

 

 明日からの学校生活が大変なことになりそうだ。

 

「五人もフッといてしかも全員超がつくほどの美少女だもん、他の美少女にも学校生活で囲まれせて。それなのに君は男子生徒にも人気あるってある意味チートだよ? 人生満喫しすぎ、運が尽きて今日にでも死ぬんじゃない?」

 

 思い出したのは男子生徒ともよく遊んだ記憶は記憶だ。

 確かに創作物ではそういった主人公は大抵男には嫌われているイメージがある。

 

 言葉の節々から何か殺害宣言されているけど気のせいなのか? ちょっと現実じみてるから、たちが悪くて笑えないし。

 

 それで何でここに? お茶しにでも来たのか?

 

「だる絡みされたくないなら早く誰かとくっ付いて、美少女たちに囲まれるの止めなよ。ちなみに今はコレを持ってきたんだよ」

 

 手に持っているのは新品のチョークが入っている箱。手をひらひらとして、見せびらかすように動かしている。

 

「必要なんだろ?」

 

 ごめん。ありがとう。

 

「早めに決めてくれるとボクも安心できるんだけど」

 

 目を細め、本人は睨めつける怖い表情をしているつもりだけど、まったく見えない。

 

「それじゃあ、ボクはもう行くけどくれぐれも彼女たちをよろしく頼むよ」

 

 ハイハイ。一回言ってくれたら分かるから。

 

「はい、は一回でいいから。もう行くねバイバイ」

 

 小さな手を小さく横に振って扉の外を出て行った。

 

 俺の髪の毛から一枚の花びらが落ちていく。

 視線を追うと教室の中は大量の桜の花びらが舞っている。窓から見える満開だった桜の木には花弁が今は半分ほどだった。

 

――

 

「……あー、あ」

 

 教室を出たアタシは、意味もなく廊下を歩いている。

 今まっすぐ自分の教室に戻れば、まだ四限の授業に間に合うけど、戻る気分に到底なれなかった。

 

「情けない姿、先輩に見せちまったな」

 

 誰にも見せたことのない弱々しい姿。それも先輩にだけは見られたくなかった。

 

「ま、それは初めて会ったときも同じか」

 

 目をつむって強く思いだす。

 イメージするのは彼と初めて会った、河川敷の風に揺れる芝生と川の自然な匂い。

 

 

『ヒィッ』

 

 その声を聞いて第一に思ったことは『何で?』だった。

 唾液を、近くのアスファルトに捨てる。いつも透明な唾液が今は赤を含んだ斑模様になっている。

 

『こ、こないで……』

 

 ワタシは上級生にクラスメイトのいじめられてた奴を助けた。それだけなのに。

 助けた奴はいじめられていた上級生を見るようにアタシを見ている。

 

『お、お金なら。お金ならありますから……許して』

 

 これじゃあ。ワタシがいじめてるみたいじゃないか。

 

『お、おい。』

 

 ワタシが声をかけても、彼女は震えてどこかに走って行った。

 

 中学の転校初日。放課後の夕焼けと一緒に残されたのは、口の中がヒリヒリと痛むアタシと彼女の財布だけだった。

 ワタシはその次の日から学校全体から恐怖で無視されるようになった。

 

『ヒィッ』

 

 廊下を歩いて、また誰かに恐れられた。

 昨日のいじめられた人ならあらためて会話をしたかったけど、知らない顔。

 

 

 幸い喧嘩する才能だけはあったみたいで、何人も何人も上級生がやって来たけどその度に返り討ちにすると、それから生徒からだけじゃなくて先生からも不良ということで注意されるようになる。

 

 タバコも吸っていない。お酒も一口も飲んだことがない。ただ、クラスの奴を守っていただけなのに。

 そのアタシのどこが不良なんだ? 誰か教えてくれよ。

 

 

 口の中は鉄の味がまたする。ピリピリとする血の混じった唾液を河川敷の芝生に吐き出す。

 

『たく、もういいだろあのクソ先輩たち。あれから一年以上経っているのにさ』

 

 

 

『そんな所で寝ていると風邪ひくぞ?』

 

 上から男の声が聞こえた。若い同じくらいの男。

 そんな中でのんびりとアタシはこの町でまだアタシに声をかける人がいたんだ、と思っていた。悪い意味で有名になっているから。

 ちらりと見た男の着ている服は、アタシと同じ学校の制服だ。

 

『どうした?』

 

『……構わないでくれ、アタシは眠いんだ』

 

『だから、河川敷で寝てたら風邪ひくって。それにもう夕暮れ時だし』

 

 アタシと仲良くしていたら、あの先輩たちにコイツも絡まれるかもしれない。

 アタシのせいで誰かが絡まれるのは嫌だから。

 

『うるせぇ』

 

 立ち上がり、右手に力をこめて顔に突き出す。当てるつもりはない。ただ、脅かすだけ。見た感じは線の細い優男だし、すぐに目の前から消えてくれるだろう。

 拳は風を切って、吸いこまれるように引き寄せられるように目の前の男の顔に進む。

 

『あぶなっ』

 

 声とともに殴った方の拳の手首を下方向に相手の手が力を入れつつ、アタシの拳が男の立っていた場所を進みそしてからぶる。目の前に男はいない。

 

 何所に、避けた?

 

 悩む必要はない、アタシよりも大きな奴が視界から消えたんだ。視界に見えた腕が伸びている先は場所は一つしかない。

 男は後ろに立っていた。

 

 急いで後ろを振り向こうと、体に力を入れて右側で方向転換をしようとして、――気がついたら河川敷の道にアタシは投げ捨てられた。

 

『ぐぁっ』

 

 河川敷には草が生えていて柔らかい。それでも背中をぶつけて上手く呼吸ができないくらいには、アタシにダメージが入っている。

 

 視界の縁に見えていた男の動きを思い出す。

 男の左手がアタシの首を掴んで、くるりと回されて体勢が崩れたところに、男の右肩でアタシの顎を持ち上げ、たたき付けられるように投げられた。

 相手を傷つけないように、背中に手を添えられていてまだ余裕があるのは明らかだった。

 

『ご、ごめん。投げるつもりはなかったんだ。ただ、反射的にやっちゃって』

 

 アタシが人に投げられるなんて初めてだ。

 

『このっ』

 

 立ち上がって殴りかかる。それでも彼はアタシを避けてまた投げられた。

 

『えっと、ちょっと?!』

 

 立つ度にアタシは投げられ倒れた。

 

 何回も何回も。意味がないことはとっくに気がついていたのに向こうにも律儀に付き合ってもらって。

 

 倒れる数が二桁を越えた頃に繰り返してやがて、立ち上がる気力すらなくなってアタシは寝っ転がった。

 

『……星が綺麗だな』

 

 雲がない夜空に一番星が光っていた。

 他の星が遠慮しているわけじゃないのに、その星はのびのびと一番に輝いている。

 

『星を見たことないのか?』

 

『なわけねーよ。ただ、河川敷で寝っ転がって見るのは初めてだったから。寝っ転がってみろよ』

 

 アタシの言葉に従って優男は寝っ転がった。

 

『確かに俺も初めてかもしれない』

 

 手を伸ばしても星には届かない。分かりきっていることなのに毎回アタシは残念に思えてしまう。

 

『悪かった』

 

 呼吸をするのも止めて、素直に謝る言葉が出た。

 

『えっ』

 

『いきなり殴って。言い訳になるんだけど、一応止めようとは思ったんだ』

 

『いや、こっちこそごめん。いきなり投げて』

 

『いいよ、投げられたアタシが悪いし』

 

 時間が何分経ったか分からない。アタシからいなくなったのか、あの男がいなくなったのか気がづいたら自分の家にいた。

 何かの不思議か、その日からあの先輩たちに絡まれることがなくなった。

 

 

 河川敷で見た星が綺麗で忘れられなくて、あの夜から一人で星を見ても、光り輝いていた一番星があの日よりもくすんで見えてアタシの心は満ち足りない。

 

 だから高校には天文学部に入った。一人で見るよりも綺麗な一番星が見れると思ったから。

 

『おはよう』

 

 土曜日の朝。部室にしている教室の扉をガラガラと開けて、中にいたプリンみたいな髪色の同級生に挨拶をする。

 まじまじと見られつつも窓側の席に座る。スマホの時間を見ると部活動の集合の一時間前。

 電源を切ったりつけたりを何回か繰り返す。時間が早く進むわけではないけど、じっとするのもスマホをいじりたい気分でもなかった。

 

『何だ?』

 

 教室に入ってから五分経っても視線を送り続けてくる同級生に話しかける。

 

『え、えっとなんか見た目と思ってた雰囲気が違って? イヤリングとかチャラチャラしているのに結構早くきてるから?』

 

『あー、悪かったな。今日耳に付けているコレはノーホール』

 

 頭にハテナマークを付けながら聞いている同級生が少しおかしくて喉をならしつつ耳を指さしながら応えた。

 

『のーほーる?』

 

『ほら、耳に穴開けなくていいやつ』

 

『へー、そんな物があるんですね』

 

 のんきにアホらしく応える少女に自然と笑ってしまう。

 

『高校だからな、開けない方が良いだろ。穴開けると菌とか湧くらしいし』

 

『えへへ、あんまり興味なくて』

 

 可愛く笑っているけど高校女子としてどうなんだ?

 

『アンタも髪の毛だけ見たらかなりチャラチャラしているけどな。今度教えてやるよ』

 

『え、良いの?』

 

『なんだ、その、話しかけてきた奴も久しぶりでな』

 

 中学では結局卒業するまで友達の一人もできなかったし。

 

『嬉しいの?』

 

『なっ、そんなんじゃない』

 

 顔がカッと熱くなる。

 それじゃあ、アタシが寂しがり屋みたいじゃないか。

 

『ふふっ、よろしくお願いします』

 

 笑いながら言う姿に劣等感をいだく気持ちはなくなった。

 

『ああ、これからよろしくな』

 

 

「あー、上手くいかねぇな人生」

 

 それはいつものことか。むしろあの先輩に春がきたんだ祝ってやんねえと。

 

「気分が乗らないし、今から仮病で帰ろっと」

 

 夜になったら河川敷に行く。今日はあの日に見た星よりも綺麗な星が見つけられると思ったから。

 




人物データ

不良少女
 金髪、紫色の瞳。
 甘い物と綺麗なものが好き。
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