どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで 作:『テキスト』
こんこんと短めなノックの音と共に扉が開く。
そこには、制服もきちんと着ている学校には不釣り合いな銀色のカエルの着ぐるみが立っていた。
先生に見つかれば校則が書かれた紙を見なくても指導室に連れて行かれ一発アウトになりそうなやつ。
「人が中にいるときは。来訪者は入るときにノックすると、この世界ではマナーと聞いたのだが合っていただろうか」
勿論、七人目の来訪者の彼女にも俺は見覚えがあった。
明らかに着ぐるみの変なやつが転校初日に自己紹介をしているのに俺は不審者を見るような目で見ていたけど、周りからは違ったらしい。
後から他の人に聞くと長身の銀髪美少女の姿をしていたカエルのカ要素が一つもなかった。
不思議と彼女は俺だけが着ぐるみに見えていたから、彼女に気になって聞くと大変、驚かれて学校生活についてくるようになってしまった。
何でも着ぐるみは防御服みたいな扱いで、見える方がおかしいと耳元で囁かれた。勿論、他の人には美少女が俺の耳元で囁いたから変な噂が流れたが、あれは悪い思い出だった。
ノックは二回だとトイレとかに使われるらしいよ。
「む、それは失礼した」
銀色のカエルのほおが赤く染まるのは何処かシュールな気もするけど、転校してから度々ある光景で以外と慣れてしまっている。
いいよ、そんなに気にしてないし。俺もよくノックのマナーとか知らないしね。
「なら良かった」
それより、何でここに来たの?
何というか、この人は俺に危険視して近づいて来たから、告白とかそういったことはしなさそうだったと思うけど。
「ああ、それは手紙が入っていたんだ」
何所に?
「下駄箱に、果たし状と言うんだろ? この文化は」
あー、合ってるような間違っているような。
「それで果たし状で何をするのだ? この旧教室に来いとしか書かれていなかったのだが?」
いや、何もしなくていいよ。そのまま帰って。
「そうか。なかなか不思議な文化だな。もちろん郷には入れば郷に従えと言う言葉も有るんだ、ワタシはここでお暇して頂くよ」
あ、帰る前にこれ。
「花? なんでワタシに?」
ほら、ちょっと早いけどさ。
「……ああ、バレンタイン」
そう、ホワイトバレンタイン。バレンタインのお返し。
嫌だった?
「嫌とかそう言うんじゃなくて。元の世界だと元々のイベントすらなかったから、お返しの文化もなかったよ」
何を渡せば良いのか分からなかったから、花にしたけど大丈夫だった? 食べ物だと体質に合わなくてアレルギーとか起こっても嫌だしね。
「この花は大丈夫ですけど。貰ったチョコも食べられていないのに、本当に律儀だね。……だからタラシって言われるんですよ」
えっと、後半よく聞こえなかったんだけどなんか言った?
「いいえ、何でも。独り言ですし気にしないでください」
あんまり腑に落ちないけど、分かったよ。
「……次の人も詰まっているみたいですし、この辺で失礼しますね」
うん、じゃあね。また。
「ええ、また会いましょう」
扉をカエルの着ぐるみは軽々と出て行った。
本当にあれの原理が分からん。
――
遠い昔に緑は枯れ、水が尽きた世界。ワタシが住んでいる地球の話だ。
『貴女にはこの世界に二年間行ってもらいます』
『……分かりました』
どんなに狂った人間でも私の上司であるから、任務は了承をしなければならない。
ホログラムの男にワタシは頭を下げる。
『貴女には期待してますよ』
淡泊に抑揚なく言われる。感情を込めることすらしない目の前の人物にワタシは怒りを覚えた。
期待なんてしないのに、そう言って何人潰してきた? お前たちのせいで何人が犠牲になった?
ワタシの友人や家族は何故死んだ?
この世界は歪だ。千年も前から資源が尽きかけシェルターの外には人工の建物以外は、植物は枯れて何所までも続く砂の道しかなくなった。
動物も人間以外はここ最近確認されていない。
植物も海も石油やエネルギー資源が、全部が全部枯れた。そのくせ、人間の生きたいという欲望だけは尽きずに無限に溢れる。
消耗に消耗を重ねていつしか本当に人間だけの世界になってしまった。
この資源がない世界は、雨にすら見捨てられ降らなくなった。そんな世界で資源のなくなった弱いどう生きる?
簡単だ、世界を作った。過去に有ったモノを復元するんじゃなくて新しく生命を作ってだ。
未来に期待するんじゃなくて、この進化なんて終わってしまった廃墟の世界を生き延びさせるためだけに、わざわざ世界を作って資源を搾取してここを延命している。
『……くそったれがぁ!』
改めて手渡された資料を見てから、上司がいなくなった部屋の壁を思いっきり殴りつける。
拳に痛みが走るが、耐えられないわけではない。
資料に書かれているのは、簡略化された歴史と仕様の用途。六番目に作られた、人工世界。この世界の娯楽もかねてときどき、ある細工をしてからテレビに流していた。
しかし、それは昔の話で何年か前にこの世界に資源を全部移すため、真っ白の光とともに砂漠になったはずだった。
この光に触れた人工世界の資源だけを、そのままこの世界の地面や川の跡地に反映される。
持ってきた異世界の資源はこの世界には定着しない。水も緑も。だから、毎回消費する前に新しい世界を作って備蓄が尽きる前に新しい世界から資源の回収をする。そうすれば約三年は保つ。
世界を作って消費して、また世界を作って。普段の人工世界は何倍にも時間が加速された状態で資源の育成をする。
ワタシの世界の住人が潜入するときだけ時間を等倍にしていた。
これから入る世界も消耗されて捨てられる世界の一つだった。だけど、この人工世界は気がついたら緑が宿り、奇跡的に人類が復活したのだ。
――明らかなイレギュラーな存在。人工世界に旅立ったこの世界の住人によるモノだったのは明らかだ。
イレギュラーは何を考えるか分からない。大胆に動けば管理している者に感知される、目立たないように動くしかないからだ。
上司達は反逆を恐れている。作られた世界の反逆を。失う物はこの世界を、いや自分の地位を。
だから、どうしても潰したくてたまらないらしい。無論ワタシは思ったことはないが。
人工世界に今日からワタシが行くことになった。
理由があったからだ。
――ある日、管理していた父さんが、人工世界に入って行方が分からなくなった。
人工世界の何人が幸せな世界を営みを見て、心が荒れて自ら行方不明になっていた。父さんもその中の一人だったのだろう。
だから父さんには恨みはしない。
恨んでいるのは世界を管理している仕事の上司だ。
気に食わない人間を世界に派遣して、その人達が荒んでいる様子を、あれを含む腐った上司たちは皆ギャンブルしている。
入る人間が失踪するかどうかの。
『変えてやるよ、こんなゴミ世界』
憎しみを抱きつつ着慣れた銀色のカエルを体に身につけて、ワタシは世界に落ちた。
いつも通り全ての世界で作ってある家から学校へ通う。簡単な手続きで転入し、着ぐるみに搭載されている催眠効果でこの服もワタシ自体も違和感なく溶け込める。
適当に挨拶をして、二年この学校で異常がないか確認してから、世界を旅して資源を確保し元の世界に帰る。
それだけだった。
『ちょ、ちょっと良いか?』
昼休みにワタシの前に一人の人間が現れた、黒髪の日本にならどこにでもいる人間だ。
連れて行かれるのはよくあることだ、大体は告白とか言うモノをするために体育館裏にでも行くのだろう。
ワタシには見えないが、ワタシの外形は生きやすく、最もコストのかからないようにした結果、非常に整っていてよくなっていらしい。
もちろん、上司らがワタシたちがモテて苦しむ姿を見たいだけなのだが。
『ワタシは何故つれてこられた?』
思った通り、体育館裏に来た。男は一人でもじもじしている。まあ、いざ連れて来て緊張する人は何人か見てきた、そう不思議ではあるまい。
『……その、転校生さんって』
好きな人はいるか? とかそんなありきたりな事を言うのだろう男に油断していた。
『何で着ぐるみなのに誰も文句言わないの?』
『……え?』
見えているのか、このカエルが。イレギュラーだ、間違いなく報告しないといけない存在。
『秘密にしといてくれ』
ああ、面白い。この人間をあの世界に連れて行けばどうなるのだろうか?
学校というイレギュラーが簡単に見つけられる施設にいるのに関わらずに、あの上司が発見出来なかったんだ、適当な管理していたあの上司は顔面蒼白になってきっと罰せられる。
耳に口元のスピーカーを近づけて周りに聞かれないように小さな声で話す。
『えっと?』
『いつか話す。だから待っていてくれ』
ちなみに、耳元で会話をしていたせいで目撃した生徒に噂されるがそれはまた別の話だ。
彼をワタシの世界に連れて行くにあたって、彼の周りと仲良くしようとした。その為に自分の心を壊して近づこうとしたが、周りから関わってきた。
彼の人望だろう、優しい人間なんだ彼は。
某日、彼が仲良くしている教室の三人と昼休みにトランプをしたときの何かの機会だ。罰ゲームなるもので口にしたのは。
『転校生が負けたから、罰ゲームね』
髪の毛がツインテールの少女はワタシに向かってそう言った。言葉が厳しいところが何カ所かあるが悪意は向けられていない。
『罰ゲームとな?』
『ええっと、誰も知らないような豆知識を喋るとかで良いんじゃない?』
三つ編みの少女がそう言うが、私の豆知識として、この世界の住人には言ってはいけないことが多すぎる。
『この世界はゲームである』
しばらく悩んだが、前にネットで見たこの世界に最も近しい表現の仕方を口にした。
『あー、それって哲学のやつ?』
ツインテールが確認をしてきたから。ワタシはそうだと頷くと、ツインテールはドヤ顔で椅子に勢いよく座った。……痛かったのか、背中をさすっているがあれは無視をした方が、良かっただろうか?
『まあ、最初の方だしこの辺で良いと思うよ』
三つ編みがそう言うと『それも、そうねと』と笑っていた。
テーブルに散らばったカードを一つのデッキにしてシャッフルしてから一人一人に配る。
目の前に座っているツインテールから、三つ編み、自分にカードを配ってもう一人にカードを配ろうと表情を見ると、もう一人の顔色が青くとても悪そうにしていた。
『どうした、そんなに顔を青くして、体調が悪いのか?』
『えっと、その』
『体調が悪いなら保健室行った方がいいですよ?』
『カードならいつでもできるし、早めに行った方がいいわよ。あんた、この前だって真冬の川に入って風邪引いたんだからもっと自分を大切にしなさいよ』
相変わらずツインテールは言葉がきついと思うが彼女の愛情なのだろう何も言わまい。
『ふむ、ワタシの発言のせいでこうなってしまったのだワタシが連れて行こう』
手を伸ばす。
『あ、えっとありがとう』
『先生に言っとくからしっかり休んで来なさい』
二階にある教室を出て階段から、一階にある保健室に無言でお互い歩く。
『ねえ、さっき言ったのって本当の事?』
口を開いたのは隣にいる特に彼の近くにいて親友と言われている方からだった。
『さっき?』
『ほら、この世界がゲームみたいな』
ああ、あれか。本当だと言えば半分は合っている事になるが、そんなに知りたい事だろうか? 自分の住んでいる世界が作られた世界だなんてワタシなら信じたくないが。
少し疑問に思ったが、素直に伝えた方が良いだろう。
『ああ、この世界は作られた存在だ』
『そっか、やっぱり』
小声で言われたそれは、意味は分かったがなぜ小さな声で言ったのかをワタシは理解ができなかった。
世界の真理に近づいたから? それとも、生きているのがゲームの世界だと知って虚しくなったからか?
いや、どちらも違う。彼女はひどく安心をしている。自分が正しかったと間違っていなかったとそう思っているはずだ。では。なぜそう思っている?
親友の彼なら分かったかもしれないがワタシには分からない。
そんな風に考えていると、保健室に着いていしまった。中に入るとご自由に利用してくださいと紙が貼られているだけで誰もいなかった。
『では、良く休むのだぞ』
『うん、ありがとう』
奥にある未使用のベッドに案内をしてからカーテンを閉めて、扉をくぐり抜け、教室に向かう。
モヤモヤとあの安堵した表情を忘れられないまま、ワタシはその日を終えた。
教室を出てからふと思う。
「フラれたというやつだなこれは」
ワタシの世界に連れて行くのは止めよう。
後三年の任期を終わってからきちんとした上司に、報告するだけでも効果があるだろう。彼を消そうとしてもワタシが守れば良い。
「にしても、誰かにプレゼントを貰うとは」
今まで学生に分して紛れ込んでいたから、こういったプレゼントとは無縁だった。
特に花か、向こうの世界だと嗜好品のせいで随分と高価だったから買える余裕はワタシにはなかったな。
「リボンに名前が書いてあるな」
裏返っていたリボンを表にすると文字が書かれている。
「ふむふむ、ジャスミンと言うのかこの花は」
少なくともワタシがいる三年間は枯らさないように育てようと思った。
……ちなみに、保健室にあの子を送った日。なかなかカーテンが閉まらないで、遅刻しかけたのはここだけの秘密だ。
人物メモ
転校生
年齢不詳の銀髪に赤い目。長い髪にアホ毛が立っている。
ゼリー飲料がお手軽で好き。