どうやらボクの親友が美少女たちをフルそうで   作:『テキスト』

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ある同級生の場合

 

 カチッと時計の短針の音が鳴ると、時間が進む感覚がした。

 それまで意識が遠のいていたことに、焦りを感じつつ両手でほっぺたを強く叩く。

 

 いつのまにか外にいた生徒たちは気がついたら校内に戻っている。

 朝から窓際で追っていた太陽が、空すらオレンジ色に変わるほど強い力。少しも変わらないのは巨大な白い影が空に浮かんでいるだけでそれくらいだ。

 

 頭がぼーっとする。ふらふらな体を支えるために黒板まで歩いて、体を壁で支える。

 朝から続いている頭痛が、常に頭の中で鳴らされていた。

 

「おーい」

 

 耳元で誰かが何かを言っている。低い音の鈴みたいに心地のよい音。

 目を開けると前に一人の少女がいた。

 

「気づかなかった?」

 

 全然気づかなかった。

 

「そっか」

 

 いつ扉を開いたとか、いつここまで近づいてきたのかさっぱりだ。

 彼女はマイペースに俺を指さしている。彼女の人差し指を目線で追うと袖にいきつく。

 

「……チョークで袖が白く汚れてる」

 

 うん、ありがとう。自分で落とすから退いてて。

 

「遠慮しなくていい」

 

 彼女はそう言ってから近づき手で叩く。「えいっ」と途中で何回か呟きながら白い粉を落としてくれる。

 眠たげな半開きな目を眺めながら、自分が彼女に気がつかなかったことに恐ろしく思えた。

 

 少し前から頭に力が入らない。意識がもやもやとする。

 

「やっぱり、声がでないんだね。だからチョークで会話している。私ともあなたの元に訪れた彼女らとも」

 

 無意識に指先に力を入れる。耐えられなくなったチョークが無抵抗に落ちていった。

 手を伸ばせば届く、そう思っているうちにチョークの下半身はバラバラに砕け散る。教室の中には粉が舞った。

 

「あなたは悪くない。悪いのは――」

 

 俺が悪いんだよ。全部。

 

 半分に割れてしまったチョークで書く文字は歪で、読みづらい。でも、書かないといけない。

 

「本当にあなたは優しいあなたのままなんだね」

 

 声と表情は明るく表現されている。無邪気な子供みたいな

 

「日が落ちてきた」

 

 急に窓の外を見る。心細く、名残惜しそうな彼女の横顔が目に焼きつく。

 まったく違う側面の顔を彼女は

 

「初めて会ったときも、こんな夕暮れ時だった」

 

 ああ、落とし物のストラップを探していた時だよね。今でも覚えているよ。

 

「あの時、真っ赤だった」

 

 真っ赤だった、というのは今日みたいな夕暮れの教室じゃなくて俺の顔のことだろう。

 思いっきりやったことで恥ずかしくなってしまったから。

 

「嬉しかったの」

 

「初めて私のことを理解してくれた人がいてくれて」

 

 俺はただ、好きなものを肯定しただけだ。

 彼女が俺に対する好意は恋愛というには遠すぎて、友情というには近すぎた。

 

「それで、どうかな?」

 

 彼女に渡す花は最初から決まっていた。

 残り三つと少なくなった花から一つ選んで彼女に握らす。

 

「返事の代わりにお花ってことは、私はフラれたってこと?」

 

 ごめん。

 

「いや、いい。何となく分かっていた。それよりもほら」

 

 彼女に渡された少し硬い物。

 

「お守りを代わりに渡す」

 

 手の中を見るとあの日探していた特撮モノのラバーストラップ。空いていた片方の手を持ち上げて両手を抱えるように持たせられた。

 

 大事にしていたのに良いの?

 

「いいの。こういう時は素直に貰っとくべき」

 

 ……分かったありがとう。何か他に俺にできることはないか?

 

「今度、オンリーイベに連れてって」

 

 それくらいなら付き合うよ。それでいいのか?

 

「そっ、なら許す」

 

 彼女のその笑顔は、一番幸せそうな顔をしている。

 

「絶対、必ず帰ってきて」

 

 ああ、帰ってくるよ。

 

――

 

『可愛い、可愛い我が子』

 

『欲しいものは? 何を食べたい? 何を着たい?』

 

 産まれたときから、両親は私に甘かった。甘くて甘くて、私の願いを何でも叶えようとする。

 欲しいものは頼んでいないのに渡されて、好きな物を沢山食べさせられて、可愛らしい服を着せられた。私がお姫様になりたいと言えば本気でお姫様みたいにしたくれるなのだろう。

 

 両親は私が好きだ。依存している。でも、私は両親のことを好きになれない。

 両親の姿が狂気に染まって見えるから。

 

 私にとってこの両親といるだけの世界は生きづらい。だけど、たまたま、つけていたテレビを見て学校に憧れた。そこに行けば何か変われるんじゃないかって、そう思っていた。

 

 

『いやいや、――ちゃんはこうでしょ』

 

 何で誰も私の意見は聞いてくれないの?

 

『貴方は――ちゃんにふさわしくない』

 

 何で私の友好関係を貴方が決めるの?

 

『私たちが守ってあげるから』

 

『……違う。私は』

 

『大丈夫。全部、分かっているから任せてよ』

 

 他人が私の何を知っているの?

 

 

 この世界は私にとって地獄だ。誰も話を聞いてくれない。

 私が求めていたのはそういうのじゃない。物語にあるような、ありふれた幸せが欲しかっただけなのに。

 

 神様。幸せを求めることは罪なのですか? これは罰なのでしょうか。私が生きることに対しての罰。

 

 人間関係が嫌になっていって、代わりにテレビをよく見るようになった。

 格好いいヒーローが、人を助けて人に好かれる。ヒロインを助けてその人と結ばれる。

 私はヒロインなんかよりも格好いいヒーローになりたかった。

 

 両親に変身するためのベルトを渋い顔をする。

 なんで、私の好きなものに対しては嫌な顔をするのだろうか。

 どうしてバッグに付けていた、ヒーローのキーホルダーを学校の人は捨てるの?

 

 私は分かり合えないそう思ってしまって、私は家族や友人。身近な人と喋るのを辞めた。

 

 

 高校に入ってからも誰とも話さないで一人で過ごしていた。

 帰り道にキーホルダーを落としたのに気づいたのは偶然だった。

 

 幼い頃から大切にしていた一番好きなヒーローのキーホルダー。

 

 慌てて教室に戻ると、夕焼けの教室に誰かが立っていた。床に落ちていた物を拾って見ている。

 よく見るとそれはキーホルダーだった。彼が持っていた物は。

 

 教室に駆けだして、彼からそれをひったくる。私は何も考えられない。真っ白になった頭で無我夢中で手を伸ばした。

 

『……嫌……捨てないで』

 

『特撮が好きなんだ』

 

 悪意のない言葉なのか、あるのかはとっさには判断ができない。

 

『……ごめんなさい……見ててごめんなさい』

 

 せがむしかない。泣くしかない。プライドなんて高価なものは産まれる前に捨ててきた。だから、それだけは捨てないでお願い。

 

『そこに立ってて』

 

 何をやるのだろう、と呆然と彼を見上げる。

 

『俺も好きなんだよ』

 

『……そうなの?』

 

 投げ捨てるように言った言葉は取り上げるための嘘じゃなくて本当に?

 

『ちょっと見てて』

 

 私と距離を少しだけとって、彼は深呼吸をした。

 机群を避け夕暮れを背後に私の方に影が伸びてくる。

 

 足を少し前に出してからベルトを着けると懐に手を入れて何かを掴むポーズ。それを私に見せつけ右手を握りこぶしにし、反対の手に合わせるようにぶつける。その後、右手を思いっきり上げてから『変身』と小声で呟きベルトに拳を突き刺す。最後に首をくるりと回した。

 

 何かは知っている、私が今手に持っている主人公の変身のシーンだと。

 テレビで親の顔より見た光景。何回も鏡に向かって自分でもやっていたんだ忘れるはずがない。ただ、やる意味が分からなかった。

 

『やっぱり、恥ずかしい』

 

 うつむきながら言う。

 自分からやっておいて、恥ずかしがる彼の姿に笑ってしまう。

 

『ちょっと、笑わないで』

 

『ごめん。あなたみたいな人は初めてだから』

 

 彼との出会いは太陽が夕陽になるひとときの時間。

 私のかけがいのない大切な記憶だ。

 

 

 『先輩それ』人差し指の方向は鞄に付いていた彼に拾ってくれた特撮のストラップ。

 部活の待ち時間での出来事だった。

 

『悪ぃ。口悪かったよな。気にしないでくれ、癖になっちまったんですよ』

 

 私に話しかけてきたのは、彼に好意を向けている一人だと思う。彼と親しげに話しかけているのを何回か見たことがあった。

 その彼女の口からは悪意がない。

 

『いや、口調は普段でいい。それより好きなの?』

 

 『お、じゃ遠慮なく』と言うと、肩の力が抜けたのか口調がより丸い雰囲気に変わる。

 

『アタシはまあ、好きだな。語れるほどじゃないけど』

 

『意外』

 

 私以外に女性で特撮が好きな人を初めて見た。

 

『格好いいモノは好きなんだよ。先輩もそうなんだろ?』

 

 格好いいから。私も特撮を見て憧れた。格好いいモノを格好いいヒーローを。

 それでも女性が格好いいのはおかしいと両親に周りから言われ続けた、だから格好いいモノを見るだけですませたのに。

 彼女は好きなモノになること続けている。それが羨ましくて、純粋に凄いと思ってしまう。

 

『そうかも。彼も、――も格好いいのが好きだって言ってた。この特撮もよく見ているらしい』

 

『お、それはいいこと聞いた。じゃ、二人で聞きに行かないか?』

 

『いいの?』

 

 貴方だって彼に惹かれているはずなのに。独り占めにした方が楽なのに。

 

『人数は多い方が、話した時に面白いだろ?』

 

 純粋な感情を向けられて、私は負けたと思った。鼓動が速くなって、呼吸が乱れる感覚。

 何かしらの見えない呪縛が砕ける光景がそこにはあった。

 

『先輩? 来ないのか?』

 

『いま行く』

 

 後輩だけど頼りがいのある彼女についていけばきっと見えてくる。私の望む世界が。

 彼が彼女とのきっかけを作ってくれたなら、彼は神様か神様の使いなんだろう。それくらいに彼は世界に愛されている。

 

 

「それにしてもチューリップなんて久しぶりに見た」

 

 学校の廊下。落ちかけの夕陽の光で赤く強く照らされた真っ赤なチューリップを見ながら呟く。

 花の本当の色は赤じゃない。教室で見たのはオレンジ色の綺麗な色だった。

 

「どっちが綺麗なんだろう」

 

 周りに照らされて、整えられた可憐で、真っ赤になってしまった花。

 元々の綺麗な色を見せるように持った花。

 周りから見たらどっちも綺麗で美しい。欲しくてたまらなくなるかもしれない。

 

 そんな中、本人からしたら美しいのどっちなんだろか?

 整えられた美を見て欲しい? 元々の可愛さを持って欲しい?

 

 私だったらきっと――

 

「……彼には、素の自分を見て欲しい。恋人でも友人としてもどっちでもいいのかも」

 

 恋人とかじゃなくて彼とは友人として、素の自分を見てもらいながら生きていくのも悪くはない。




人物データ

同級生
 クリーム色のサイドテール。口数は少ない。部活には一応天文学に入っている。
 特撮番組が好きで親に隠れてイベントに行くほど。
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