大仏の兄は飄々としている   作:奈良の大仏

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一ヶ月ぶりに投稿とか、すんません。
さてなぜ、かぐやルートがアンケートにはなかったのか。


それは、どのルートでもかぐやルートっぽいもを入れる予定だったからだよ!!!
かぐや編の前日譚みたいなもんじゃい!!


四宮かぐやは突きつけられる。

 会長が目の前で綺麗なサービスエースを決めた。

 それだけのことなのに、私の胸は自然と弾んでしまう。

 紅潮する姿を誰にも見られていないだろうか、そんな心配が思考の隅にやられるほど、今の会長の姿は逞しいものであった。

 そんな会長を見れる試合も、数分もすれば終わってしまう。

 もう少し相手が強ければ、長く、ゆったりと会長の勇姿を目に焼き付けれたというのに。

 だが圧倒的な力で相手を捩じ伏せてしまう会長というのも、いいものである。

 あのキリッとした目つきが、さらに鋭く見えるのだ。

 猛々しいとはまさに、今の会長を切り取った姿のことを言うのかもしれない。

 

「かぐやさん……」

 

 私が思考に耽っていると、隣で感涙して拍手をする藤原さんに話しかけられた。

 え、なんで泣いてるの、あなた……。

 

「あの子、私が育てたんです」

「母!?」

 

 思わずそんな疑問を口にしてしまったが、藤原さんはそれに構うこともしない。

 会長の方に目線を向けては涙し、それを拭って見つめては涙するを繰り返している。

 見ているこっちまでどうにかなってしまいそうな気がした。

 

「あの……藤原さん。そんなに泣いてしまうのなら見ないほうが……」

「何を言っているんですか、かぐやさん!! 我が子の頑張りを見ない人なんていません!」

「だから貴方は誰目線で会話してるの!?」

「かぐやさんこそ、会長の勇姿を見なくていいんですか!?」

「え、わ、私も? そ、それは見ますけど……」

 

 思わず私は吃ってしまう。

 他人から直接、会長を見ろと言われたら気恥ずかしさが出てしまうものだ。

 しかし、そんな私の気恥ずかしさも吹っ飛んでしまいそうな出来事が、目の前で起きた。

 

「あれ、たいき君ですね……」

 

 藤原さんがそう言って指し示すのは、上着を脱ぎ取るたいきの姿だった。

 

「たいき君もバレーをするのでしょうか?」

「そんなはず無いと思います。彼、今は減量中だから無駄なスポーツはしないって……」

 

 そうだ。彼は絶賛夏の撮影に向けて減量していると聞く。

 無駄なスポーツをしない、弱った体で素人が入り混じる体育などやっていいはずがない。

 怪我をすれば一大事だとこの前も話していた。

 体が商売道具なのだと自慢げに話していたはずだ。

 ちらりと、たいきの対戦相手を見てみる。

 そこには神妙な顔つきでボールを持っている会長の姿が見えた。

 どうやら会長の一強を利用して、A組の男子たちが冗談混じりにたいきを投入したのだろう。

 浅はかな考えと嘲るのと同時に、心なしかたいきが楽しそうに笑っているのが見えた。

 もともと、誰かとスポーツや遊びをするのが好きだった彼からしてみれば、これはこれでいい口実になったのかもしれない。

 まあ、いやいや出場させられているのであれば私が止めてあげたけれど、彼が望んでいるのならそれはそれで良いのだろう。

 できれば怪我なんてせずに終わって欲しい。

 

「あれ、大仏が出るの?」

「たいきくーんがんばれー!」

「おーい、たいきー。負けたら放課後にスムージー奢ってねー」

 

 彼が試合に出るとギャラリーが盛り上がる。

 さすがは小学校の時から人気者だっただけのことはある。人望も伊達じゃない。

 しかし好かれていると言うことは、アンチもいると言うことに他ならない。

 誰からも好かれる存在など、あの神の子ですら出来なかったのだ。

 たかだか人にできることはずもないのは自明の理である。

 体育館の隅の方ではたいきが持て囃されるのを面白くなさそうに見つめる人もいた。

 

「あれ、四宮のおば様は応援してなくていいの?」

 

 そんな中、私に声をかけてくる女性が一人。

 

「四条……眞妃さん」

 

 たいきとビジネス上の元カノであり、四宮家と仲の悪い四条家の令嬢。

 ある出来事から一定の距離を今日まで保ち続けてきた、彼女がなぜか私に話しかけてきたのだった。

 

「たいきとおば様ってすごい仲が良いんでしょう? あの子達みたいに大きい声援をあげなくていいの?」

「相変わらず言うことに品が無いわね。別に声をあげなくても応援はできます」

 

 いくらか冷めた声で私はそう返す。

 彼女はそれを歯牙にも掛けないのか、「ふうん」と軽く言うとコートを見つめた。

 

「ずっと気になってたんだけど、なんであんた達って仲が良いの? どう見ても馬が合わないでしょ」

「それ、どういう意味かしら」

「言葉のままよ。あいつとおよそ一ヶ月付き合ってわかったことだけど、あれが四宮の人間とつるめる性格だと思えないもの」

 

 彼女はそう得意げに言うと腰に手を当てた。

 眞妃さんの言うとおり、たいきと四宮家の性質が会わないのは昔から分かっていることである。

 彼は自由気ままで誰からも好かれ、誰にでも優しい為人をしている。

 それこそ道端に捨て猫がいればきっと見捨てないようなお人好しだと言えるだろう。

 一方、四宮家は違う。役に立つのであれば手段も厭わない非道な面が存在する。

 それが理由で四条家という別勢力が生まれてしまった歴史を持っているくらいだ。

 彼が捨て猫を拾う人間であれば、四宮家は平気で猫を捨てられるような家柄だ。

 そんな家の令嬢である私が、なぜ彼と仲良くできているのか。

 そう聞かれれば答えを持ち合わせていないのは、実は当人である私たちの方だった。

 

「貴方には関係ないでしょ。私とたいきの間柄なんて」

「まあ、そうよね。その通りよ。でも、元カノとして気になるじゃない?」

「元カノって貴方ね……。たいきから彼氏のフリをして欲しいからって聞いたわよ。あと本命がいるんでしょう?」

「は、はあ!? 本命なんていないわよ! バカにしないで!」

 

 私の言葉があまりにも彼女の弱点だったのか、眞妃さんは思わず咽せてしまう。

 こうして見ると、意外とこの情報は良いものかもしれない。

 

「あいつ……私の情報を流したのね」

「たいきからは聞いていないわ。貴方とたいきの話を盗み聞きしただけよ」

「性悪め……」

「なんとでも言いなさい」

 

 そうやって勝ち誇った笑顔を向けると、彼女は負け犬のように下唇を噛んだ。

 

「じゃあ、逆に聞くけどおば様には本命とかいないの」

 

 眞妃さんは私の情報を探るため、あまりにも拙い攻撃を仕掛けてくる。

 どうやら私に好きな人の情報を握られて、かなり弱っているらしい。

 

「ええ、別にいな———

「かぐやさん好きな人がいるんですか!?」

「っ!!!?」

 

 私としたことが! この天然モンスターの存在を見落としていた!?

 

「えへへー、誰なんですー? やっぱりかぐやさんも年頃の女の子ですし、そういうことに興味あるんですよねー?」

 

 一応、周りには配慮しているのか、私の耳の近くで彼女は声を顰め尋ねてくる。

 

「か、勘違いですよ、藤原さん。私にそういう人は……」

「あら、それは無いんじゃない? 私だけ情報をあげておば様は何も言わないなんて?」

「あなたまで……!」

 

 藤原さんに加えて、眞妃さんまでもががっしりと私の腕を掴んで離さない。

 前門の虎後門の狼とはまさにこの状況を指しているのでは無いだろうか。

 今ここで私の好きな人が会長ってバレたら、今までの苦労が水の泡じゃない!

 

「やっぱりかぐやさんの好きな人ってあの人ですよね」

「決まってるじゃない。おば様とあいつ仲良しだし」

「ですよねー! 私もずっと怪しいと思ってたんですよ!」

 

 え? なになに? もしかしてバレてたの? なんなのこの口振りは!?

 私は早坂とたいき以外に恋愛頭脳戦の話をしたことなんてないのだけれど、もしかしてあからさますぎたかしら。

 となれば、もしかしたら会長も私の気持ち気づいている?

 そんなのあれじゃない、「四宮はずっと俺に告白してほしかったんだな、可愛い奴め」ってなってるってことじゃない!

 そんな恥辱堪えられないわ! 誰か私を殺して!

 

「かぐやさんの好きな人はズバリ———!!」

 

 やめて、それ以上は言わない———……

 

「たいき君ですよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何をいうかと思えば、私の好きな人がたいき?

 言っていることの意味を理解しているのかしら、この子。

 やはり乳にばかり栄養が生きすぎて頭がろくに回っていないんじゃないかしら。

 それなら可哀想ね。もはや人間以下の思考力で生活しなければいけないなんて。

 

「え、違うんですか?」

 

 藤原さんがキョトンした表情で問いかけてくる。

 

「当たり前でしょ。私とたいきは友達です。そんな恋愛感情とかありませんよ」

 

 私はそう言って、彼女達を腕から振り解きため息をついた。

 もしかして会長のことがバレているのかと思ったけど、どうやら取り越し苦労だったようだ。

 よかった……。

 

「えー、でもかぐやさんがそうでも、たいき君はそう思ってないかもしれないですよ?」

「そうね、私もそう思うわ」

 

 藤原さんと眞妃さんが二人して、目を合わせて頷いた。

 彼女達の中でどうやら何らかの共通認識があるらしい。

 

「それはどういう事ですか?」

「もー、鈍ちんですねーかぐやさんは。ツーマーリー、たいき君はかぐやさんのこと、きちんと女の子として見てるってことですよー」

 

 その考えはこの数年間、一度も生まれることのない考えであった。

 

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