大仏の兄は飄々としている   作:奈良の大仏

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正直ですね、最初の感想の時に思ったことは

「君のような勘のいいガキはry」

でしたねwwww


1章 四宮かぐや
四宮かぐやは心理テストを行う。


「たいき、テストをしましょう」

 

 妙に畏まった言い方で何かを始めようとするかぐや。

 俺は手に持ったファッション雑誌を眺めながら、適当に彼女に返事する。

 

「急にどしたしー。できれば期末考査終わったし、これ以上頭を働かせたくないんだけど」

「大丈夫よ。テストはテストでも心理テストだから」

「何が大丈夫なの」

 

 まあいいや、と思い読んでいたファッション雑誌を閉じて話を聞く体勢に入る。

 彼女がこんなことを言い出した時は、大抵何か訳があったりするのだろう。

 予想では御行に心理テストを使って、「好きな人は四宮」とか言わせようとしてるように思える。

 これが当たってなくても、多分、それに近いことを行う気がした。

 

「そもそも心理テストって誰でも当てはまるようなことしか結果で言わないじゃん。ガチの心理学者が用意したわけでもないし」

「でも、何か気持ちを変えるきっかけになるとは思わない?」

 

 そう言われて俺は少し考えてみる。

 心理テストの結果が仮に「あなたの一番大切なものは小学校の時の思い出です」とか言われれば、確かにそれ以降一番大切なものは小学校の思い出とかになりそうな気がする。

 普段そんなに意識していないことへの再認識。

 それへの誘導手段として使えば、心理テストもあながち意味がないわけでもない気がしてきた。

 

「ふーん。じゃあ、なんか適当に出してみてくれよ」

 

 基本的にそういったものを信じない俺は、とりあえず試しにとかぐやからの質問を促す。

 

「そうね。まずこれなんてどうかしら———……」

 

 

 

問1

あなたは、長蛇の列を並び、ようやくの思いで超有名店のお菓子を手に入れることができました。

その瞬間、あなたは何と言いますか?

 

 

 

「あー、店員から受け取っただろうし、その人に向かって『ありがとうございます』とか?」

 

 俺は「何を目的とした心理テストなんじゃ?」と疑問に思いながら、率直に答える。

 こんな抽象的な質問で何かが分かるはずも、当たるわけもないのだ。

 第一、長蛇の列を並んで洋菓子買うこと自体が俺にはありえない。

 そんなことしてたら、ファンの子とか、一般人の人から握手やサインを求められるよ。

 違う意味で長蛇の列ができてしまう。

 

「はあ、面白みがない答えね。これでわかることはズバリ『告白された時に言うセリフ』。芸能人ならもう少し、ロマンチックな言葉はないの?」

「誰が洋菓子屋の店員にロマンチックな言葉を吐くんだ」

「次ね———……」

 

 俺のつっこみなど知らぬと言いたげに、ペラりとかぐやは持っている本をめくった。

 さっきから問題をどうやって出してるんだと思ったが、あの本から出題してたいのね。

 かぐやのことだから、本の内容は全て熟知していそうだが。

 

 

 

問2

好きな人のタイプを3つあげなさい。

タイプは外見でも中身でも概念でも構いません。

その想像した3つのタイプを全て持つ女性が数人、あなたに告白したとします。

あなたは彼女たちのどこを見て選びますか?

 

 

 

 これはもう言うまでもなく恋愛系の心理テストだな。

 多分、聞いてきた最後の条件に何か秘密があるのだろう。

 しかしそれが何かというのは、あえて考えない。

 そういうの考え出したら心理テストをしている意味がないし、何より面白みにかける。

 なのでここは本能が赴くままに、自身の感情にしたがって答えるのがベストであろう。

 大丈夫、俺ならきっと変な解答はしないはずだ。

 

「一度全員振る。その上で、また告白してきた人と付き合う。いわば、愛情の深さで決める」

「へぇー」

 

 俺の答えを聞いたかぐやは、先ほどと打って変わり面白いものを見つけたように目を細める。

 なにかまずいものでも踏み抜いてしまったか。

 心の臓でも掴まれたように、冷や汗が背中に滲む。

 もう答えてしまった回答をいまさら変更することもできない。

 となれば、あとは無難な問題だったことを祈るのみだ。

 

「これはあなたが出した条件が、最も重要視している異性のタイプよ。へぇー、たいきは愛情の深さを重要視しているのね。意外と理想主義者だわ」

 

 ヘラヘラとした態度で、俺を馬鹿にするようにかぐやは感嘆符を漏らし続ける。

 それはやけに俺の心をムカつかせた。

 愛情の深さで選んで何が悪いと言うのだろうか。

 それこそ、人間は愛が無ければ生きていけないのだと思う。

 愛して欲しい人間と、愛してあげたい人間が両方出会い、そして幸せが生まれる。

 それはどんな御伽噺よりも、華麗で儚い大団円ではないだろうか。

 愛がなければいつしか破綻する。愛が軽ければ痛い目にあう。

 それはどんな家庭でも、どんなカップルでも言えることなのだから。

 

「うっせ。悪かったな」

 

 だから八つ当たりにも近い声色で俺がそう返す。当然こんなもの演技だ。

 これくらいのことで俺がイラつきを表面に出すわけがない。

 けれど、かぐやはその言葉でぴたりと止まった。

 

「ご、ごめん。少しからかっただけで、別に馬鹿にしたわけじゃ……」

 

 今にも泣きそうな声。

 普段、こんな声を絶対に出さないから、かぐやも驚いたのだろう。

 それを聞いた俺はつい吹き出しそうになりながらも必死に堪える。

 さっき人を嘲笑した罰だ。かぐやにはこれくらいのお灸を据えても問題ないだろう。

 

「ぷふっ、気にしてないから、さっさと続きしようぜw」

「え? もしかして怒ってたの嘘なの!?」

「いやいや、嘘じゃないよ、めっちゃ怒ってたよ。それよりほら、さっさと次にいこ」

 

 俺がそうやって急かせば、我にかえったようにかぐやはページをめくり出した。

 なんとか俺の笑いは気付かれずに済んだようだ。よかった。

 

「なんだか腑に落ちないけど、じゃ、じゃあこれなんて良いんじゃない?」

 

 

 

問3

貴方はいま薄暗い道を歩いています。

そのとき後ろから肩を叩かれました。

その人は誰ですか?

 

 

 

 ふむ。これまた抽象的な質問がきた。薄暗い道、というのは一体どのような場所だろう。

 例えばスリラーで出てくるような廃墟の中とかの怖い道だろうか。

 それとも、普通に下校時に通る夜道みたいなものか。

 一応どれも全て薄暗い道であることに変わりはない。

 しかし、言葉の内包する性質は一緒でも、恐怖の度合いや、その道をなぜ歩いているかというストーリーが異なってくる。

 廃墟とかであれば何かに追われているイメージ。普通の夜道であれば知り合いから声をかけられるイメージ。

 これも踏まえた上での質問なのだろうが、それでもこれによって答えが変わってきそうだな。

  んー、廃墟、夜道、廃墟、夜道。

 

「……難しいな」

「直感で答えたらいいわ。心理テストは熟考したら負けよ?」

 

 どこか急かしてくるかぐやの言う通り、心理テストは抽象的な質問に自分の思ったことを話すから、その人の深層心理がわかるというもの。

 問題のあれやこれやを考えていたら、それこそクイズになってしまう。

 となれば、適当に思いついた人間の名前をあげるのが吉なのかもしれない。

 誰が似合うとか、誰が俺を追いかけ回しそうかとか考えず、テキトーに———……。

 

 

 

「かぐやだな」

 

 

 

「へ?」

 

 彼女は俺の言葉が聞き取れなかったのか、気の抜けた言葉で返してきた。

 ん? もしかして「今貴方を嫌っている人」みたいな問題だったのだろうか。

 薄暗い道を後ろから、という少々危なげな質問ではあるし、十分ありえる。

 それならそれで、申し訳ないことをした。

 ただ純粋に、パッと想像して一番早くに出てきたのがかぐやだったから、そう言ったのだが。

 

「なんかすまんな。ついつい直感で答えたわ。許してくれ。別にお前のことは嫌いとかじゃないからな? ちゃんと好きだぞ」

「……え?」

「いや、え? じゃなくてだな」

 

 俺はそう言ってかぐや顔をじっと見つめる。

 なんだこいつの顔。すごいアホっぽい顔してるけど、大丈夫か?

 レアかぐやとまではいかないけど、それなりに脳のキャパシティが縮小してそうだな。

 レアかぐやがミカンひとつ分だとしたら、今のこいつは茄子ひとつ分くらい縮んでそう。

 まあ、どれだけ体積に差があるかなんて知らないんだけどね。

 

「その、た、たいきは私のことそう思ってたの?」

 

 いや、どう思ってたんだよ。

 そう思ってたのって聞かれても、「そう」の部分がどこに掛かっているのかが分からん。

 嫌いの方にかかってるのか、それとも好きの方にかかっているのか。

 ここはとりあえず無難な返しをするのが1番の得策かな。

 

「よく分からんが、嫌いだったらこんだけ一緒にいないだろ」

「あわわわわわわ」

 

 俺が告げた瞬間に、とうとうかぐやが壊れてしまった。

 なんなんだいったい。この心理テストの結果はそんなにまずいものだったのだろうか。

 答え確認のためにも俺は彼女の持っている本を取り上げようとする。

 けれど、かぐやは寸前のところで俺の挙動に気がつき、さっと自身の持っている本を懐へと忍ばせた。

 

「なんでだよ、見せろよ。気になるじゃん」

「だ、大丈夫! 答えはあ、あれよ『答えた人物が貴方の大切な友人』ってやつだから!」

 

 慌てふためいた様子でかぐやがそう言えば、俺は呆れたようにため息をつく。

 彼女が言っていることは絶対に嘘だと分かるからだ。

 何をそんな必死に守っているのかは知らないが、まあ、そこまで見せたくないのなら仕方ないかとも思う。

 別にかぐやが気にしないなら、それはそれで構わないことだし。

 俺からこれ以上なにかを探る気も起きない。

 なので俺はいつも通り、一本だけ人差し指を立てて言う。

 

「お前、鼻血出てんぞ」

 

 彼女は俺の指摘で気が付いたのか、急いで自分のハンカチを鼻部分に当てる。

「こ、これは違うの」と言いながら必死に己の痴態を隠そうとする彼女の姿が、なんだか昔、時々転んでいた彼女の姿と重なって、俺はつい笑ってしまうのだった。

 

 

 

§

 

 

 

 心理テストを終え帰宅した四宮別邸———

 

 

 四条さんと藤原さんに言われた言葉。

『大仏たいきは四宮かぐやを女として見ている』

 それを聞いた時、私に沸いた感情はとても不思議なものだった。

 

「なにかありましたか、かぐや様」

 

 目の前で佇んでいる早坂が私の顔を盗み見て言う。

 たいきと心理テストをして帰ってきてからというもの、確かに私は心ここにあらずという雰囲気であった。

 長年連れ添ってきた従者からしてみれば、私の精神状態なんて丸わかりなのだろう。

 だから彼女に声に少しだけ優しさが孕まれていたのは、きっと気のせいではない。

 

「ねぇ……早坂」

 

 私は彼女の顔を見ずに恐る恐るといった様子で名前を呼ぶ。

 彼女はそれに対して「はい」とだけ簡潔に答えた。

 

「もしもあなたに好きな人がいて、でもそれを相手は気づいていなくって、あまつさえ他人のことが好きなんだってその人に相談されたら、どうする?」

 

 我ながらカオスなセリフである。

 自分でもまだ考えがまとまっていないのが分かってしまう。

 いつもなら、もっと簡潔で単純な言い回しができるのに、今の私はこれが精一杯だった。

 それだけあの心理テストの結果は、私にとって衝撃的だったということ。

 四条さんや藤原さんに言われるよりも、本人から「ずっと恋愛対象として見ていた」と言われたような気がして、気が動転している。

 

「難しいですね。私ではなんとも言えません」

 

 私の質問の意味が分からないというよりは、自身の想像力では答えが導き出せないと言った様子の早坂が、申し訳なさそうにそう答える。

 

「そうよね、あなたなんかに恋愛相談してもよね」

「殴りますよ?」

 

 従者として無礼すぎる言葉を無視しながら、私は深いため息をついた。

 

「じゃあ、ずっと友達と思っていた人から告白されたどう思う?」

「ずっと友達と思っていた、ですか」

「そうよ。恋愛感情を抱いていなかった相手から好きだと言われたとき」

 

 私がそう詳しく説明してやると、早坂は下顎に手をつけて小考する。

 彼女だって普段はギャルモードをしているし、男友達くらいいるだろう。

 それこそ、たいきは彼女にとっても男友達同然の存在だ。

 この質問であれば、彼女も想像しやすいはず。

 

「……相手によりますね」

 

 早坂はそれが考え出した末の結論らしく、そう答えた。

 相手による、か。

 確かに男友達と言ってもランクのようなものはあると思う。

 あまり友達が多くない私でも、無意識に優先順位や好感度の差異は発生しているだろう。

 そのため、彼女のその結論を私は馬鹿にすることはできなかった。

 

「なんですか、たいきに好きとでも言われたんですか?」

 

 あっけらかんとした様子で早坂が率直に告げる。

 私にとって男友達と言える存在はかろうじて会長かたいきしかいないため、早坂がそう思っても仕方ないことだと思った。

 それに彼女に隠し事をしたところで意味がない。

 早坂は私の侍女であり、姉妹のような存在だ。そこまでひた隠しにすることもないだろう。

 

「ええ、そうよ。直接ではないけれど」

 

 私は思い切って全てを話すことにした。

 一人で背負いこむのが辛いというのもある。

 ただ、こればかりは私の考えだけで、どうこうできる問題ではないと思ったのだ。

 

「そうですか……しかし、直接ではないというのはどういうことですか?」

「心理テストをしたのよ」

「あぁ、そういう」

 

 どこか合点がいったのか、早坂は一人納得したように頷く。

 一時的にとは言え、私と早坂は心理テストを一通り網羅した仲だ。

 心理テストの中には、答えが意中の相手になっているものがあることも彼女は知っている。

 

「でも、それだけでは判断材料に欠けるのでは?」

 

 早坂はそう言って、今回の問題を引き起こさせた元凶とも言える心理テストの本を机の上から引っ張り出してきた。

 

「そうかもしれないわね。杞憂だったなら、私だって……別にそれで良いわ」

 

 襟足から伸びる髪の毛をくるくると指で巻きながら、私はそんな希望的な意見を言うしかできないのであった。

 

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