大仏の兄は飄々としている   作:奈良の大仏

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本日連続で投稿しようかなと思っていたりする。
出来なかったらごめんなさい。




四宮かぐやのお見舞い。①

「これお願いね」

「うぃっす」

 

 俺はそう言って教師から、かぐや宛のプリント類と愛宛のプリント類、両方を受け取る。

 なぜ俺がそんなものを受け取っているのかと言うと、今日、彼女たちは昨日の雨にやられたらしく風邪を引いて学校を休んだためだ。

 昔からかぐやや愛と遊んでいた俺であれば、教師も任せやすいのだろう。

 もちろんそれは間違いじゃないのだが、ここでひとつだけ問題が存在している。

 

 俺って実は、四宮家から出禁をくらっているのだ。

 

 何かの比喩とか、冗談なんかじゃない。

 真面目に俺は四宮家からブロックされている。

 初等部から中等部にかけて、俺はことあるごとにかぐやを家から脱走させ、遊びに誘った。

 さらには、学校行事のたびに一緒に写真とか学校側に撮らせたりもしている。

 そんなことをすれば、あちらの親御さんとしては快く思ってくれるはずもなく、何度かきつーい説教を受けたこともある。

 なんなら、本邸からかぐやの兄貴が降臨したことすらあった。

 あの時は真剣にやりすぎたなと俺も猛省している。

 そんなわけで俺は「出禁」と言い渡されてからと言うもの、あんまりあいつの家に寄り付いていない。(時折、侵入してるけど)

 特に本家から別邸に移った使用人とかだと、口うるさいのである。

 はあ、今日もプリントを持っていったとして、易々と侵入できるかとても不安だ。

 なにせ今の俺は厳しい減量によって真面目に体力がないから。

 

「愛に渡せば大丈夫かなー」

 

 そう思いながらプリントの入った封筒をくるくると回す俺。

 体の頑丈な愛はどうせかぐやの看病で休んでいるだけだろう。

 ちょっと呼び出せば外に出てきてくれると思うので、そこで渡そうと画策する。

 流石に別邸に更迭された元四宮本家の使用人も俺が家に入らなければ通報したりしないだろ。

 ……しないよね?

 

「あれ? どうしたんですか、たいき君」

 

 そうやって考え事しながら廊下を歩いていると、後ろから可愛らしい声が聞こえた。

 一体誰だろうなどと考えることもなく、俺は悠長に振り返る。

 そこにいたのは2年B組の生徒にして生徒会会計 藤原千花であった。

 

「生徒会に用事ですか? 珍しいですね!」

 

 千花は満面の笑みで近づいてくると、俺の腕を持ってそのまま生徒会室に案内しようとする。

 まぁ、ここからであれば生徒会室が近いため、勘違いされるのも理解できる。

 が、別に俺はいま生徒会室に行きたいわけじゃない。

 ここは素直に理由を話して千花を振り解いた方が賢いか……。

 

「あー、千花まってくれ。俺は今日休んでるかぐやにプリントを届けなきゃいけないんだ」

 

 そう言って見せるのは先ほど教師からもらった茶封筒。

 千花はそれをみて、目をパチクリとさせた。

 

「え? かぐやさんに何かあったんですか?」

「詳しくは連絡ないから知らんが、たぶん風邪じゃね? 昨日の雨ひどかったし」

「あー、そうですねー。私もタクシーのところに行くまで相当濡れましたし」

 

 千花はそう言った後、むむむと何やら唸り声をあげて思考へ埋没しはじめた。

 長年の経験が言っているのだが、これきっところくな事じゃないと思う。

 そうとなればさっさと去ってしまおう。

 変に話を続けて藪蛇になりたくないし。この天然に構うとかなり労力が削られる。

 俺がそう考え踵を返した瞬間、後ろから肩をガシッと掴まれた。

 

「私! 私もお見舞い行きます!」

 

 振り向けばそう言って満面の笑みを浮かべている千花の顔が。

 ……アー、ナンカ未来ガ見エテキター。

 

「いや、病人のところに大勢で押しかけるのは良くないだろ」

「えー、じゃあたいき君の代わりに私が行きますよ」

「それもやめとく。お前が行ったら、かぐやの病気悪化しそうだし」

「たいき君は私のことなんだと思ってるんですか!? これでも私優等生ですよ!?」

 

 何言ってるのかよく分からない千花を置いて、さっさと行ってしまおうと俺は歩き出した。

 愛のことを知らない人間を連れて行くと、あいつに心労がたたってかぐやの風邪がうつりそうだし。

 だけど俺がそう思った矢先、これまた俺を呼びかける声が響いた。

 

「あれ、藤原先輩とたいき先輩じゃないですか。どうしました生徒会に何か用事ですか?」

 

 今日はよく声を掛けられるなと思いながら、俺はふぅと息を吐く。

 優であれば別にかぐやのところに行きたいとか駄々をこねないだろ。

 ならば軽い挨拶くらいはしておいてもいい。

 

「ああ、優ちょっと———

「聞いてくださいよ、石上くん! たいき君が私が病気のかぐやさんのところに見舞いに行くと、さらに病気を悪化させるって言うんですよ! どう思います!?」

「いや、めちゃくちゃ正論じゃないですか」

「そうですよね、そんな訳ありま……、え?」

 

 千花は、まさか優からそんな言葉が出てくると思っていなかったのか固まってしまう。

 自己評価が高いのはいいが、これが客観的事実なのだ。諦めろ、千花。

 俺はそう心の中で言うと、千花の肩をポンと叩いて早々に立ち去ることにした。

 

「待ってください! まだ認めません! 私だってかぐやさんの見舞いに行きたいんです!」

「往生際が悪いですよー、藤原先輩」

「石上君は黙ってて!!!」

「えぇー……」

 

 千花の言葉に見事撃沈した優は、「僕、間違ったこと言ってないのに……」と言いながら、そのまま生徒会室の方へと歩いて行ってしまった。

 まあ、面と向かって女子の先輩から「黙ってろ」はきついものがある。

 あれを耐え忍ぶだけのメンタルは中々身につけられないだろう。

 

「どうやったら納得してくれるんだ?」

 

 俺も千花を言葉だけで説得するのを諦めて、彼女との妥協点を模索することにした。

 

「勝負です、たいき君! 私が負けたらお見舞いの権利はたいき君にお譲りします! 私が勝った場合はお見舞いの権利を私にください!」

 

 うん。中々に理不尽な妥協点では無いだろうか。

 俺とかぐやと愛に一切のメリットが感じられないところは、流石と褒めるべきであろう。

 愛が対象Fと呼称するだけのことはある。

 まさに天災。台風とか地震とか、そういう類のものと認識を改めるべきかもしれない。

 豊実さん(千花のお姉さん)。貴方の妹は貴方に似て破天荒ですよ。

 

「わかった。それで千花が納得するなら、それで決着をつけよう。勝負内容は……」

 

 と、悩んでいるとその声は乱入してきた。

 

「その勝負待ってもらおうか」

 

 俺と千花が声のする方に振り向くと、そこには御行が立っていた。

 生徒会室が近いからって、ここまで生徒会メンバーと遭遇するものだろうか。

 誰かに嫌がらせでもされているような気さえして、俺は嫌気がさす。

 

「御行、なんの勝負か分かって言ってる?」

 

 念のため、御行がノリだけで乱入してきたのではないかと聞いておく。

 どう考えても想い人のために名乗り出たと思うが。

 

「当たり前だ。四宮への見舞いであろう? それなら俺が行くのが筋だ」

 

 普段よりも強気なその言い分に、俺は内心首を捻らざるを得なかった。

 はて、何をこんなに真剣味を帯びているのやら。

 かぐやの風邪と何か因縁があるのであれば、まあ、彼にこの茶封筒を譲るのもやぶさかではないと俺は思っている。

 それこそ、かぐやも好きな男が見舞いに来てくれた方が嬉しいだろう。

 もしかしたら、甘えん坊かぐやによって二人の仲が進展してくれるかもしれない。

 それならそれで俺としても大変嬉しいのだが……。

 

「えー! 何で会長まで私の邪魔をするんですか!?」

「藤原書記こそ。物見遊山な気持ちで見舞いに行くものはどうなんだ」

「ぎくっ、それを言われると反論がし辛いですねぇ……」

 

 どうやら千花と御行間でも話がついたらしい。

 

「分かった。なら御行も勝負に参加ということで。勝負内容は適当にじゃんけんにするか」

 

 俺はそう言って茶封筒を持っていない方の手を差し出した。

 これなら不正もイカサマも何も無いであろう。さらに言えばスムーズに決着がつく。

 御行が勝てそうな勝負にしてもよかったのだが、そうすればきっと千花が文句を言ってくるだろうし、最悪ここは俺か御行が勝てればいい。

 最悪のパターンは千花だけが勝利してしまうものだが、その時はその時でもう諦めよう。

 愛に「頑張って生き延びろ」とLINEだけしとく。

 千花に捕まった時点で、運がなかったのだ。仕方ない。

 

「それじゃ、いくぞ。じゃんけん……」

 

 俺はそう言って無気力な声を出し合図する。

 無駄に思考時間とかを与えたら、こいつら心理戦にシフトしそうだし強制的に開始した。

 俺の言葉に合わせて、御行も千花も慌てて一斉に手を振り抜く。

 こういうとき。超人などであれば相手の手の動きを見て、自身の出す手を変えたりするのだろう。

 残念なことに俺はそんな人間をやめるほどの反射神経と動体視力は持ち合わせていない。

 なのでこの勝負は本当に運任せである。

 

「「「ぽん!」」」

 

 そう言って出された三人の手を見回してみる。

 俺がパーで、御行も同様にパー。千花だけがグーを出していた。

 こうしてみると実にあっけない幕引きだ。

 結果としては上々で、一番のモンスターである千花をくだせたのは大いにありがたかった。

 

「嘘ですぅぅぅぅ! こんなのぉぉぉぉぉ!!」

 

 現実逃避からくる雄叫びを発しながら、千花はその場で崩れ落ちる。

 

「おいおい。なにも泣くことは無いだろう」

「会長は知らないから、そんなことが言えるんですよ!」

「ム……。それは聞き捨てならないな。俺が何を知らないと言うんだ」

 

 千花の醜態に呆れていた御行が、反論されたせいでなにか良からぬスイッチが入ってしまった。

 おいおい。何やら嫌な予感がしてきたんだけど。

 

「風邪を引いたかぐやさんは……」

「風邪を引いた四宮は……?」

 

 あー、千花が見舞いに行きたがってた理由はそれかー。

 

「すっごく甘えんぼさんになるんです!!」

 

 あ、御行が固まった。

 

「ちょーかわいいんですよ! 素直できゃわいいかぐやさんを見れるのは風邪の日くらいなんです! どれだけ抱きしめても怒られないですから」

 

 まあ千花の言いたいことは分かる。

 あの他人のことを全く意に返さず甘えてくるかぐやは非常にレアと言えるだろう。

 弱るときはとことん弱る。メンタル面においても、フィジカル面においても、かぐやという人間はそういう風にできている。

 本音を聞いてもいないのに話してくれる彼女なんて、早々に現れない。

 普段は強化外骨格みたいなものに包まれているのに、それを解いた時はオープンすぎるくらいだ。

 

「それなのに……それなのに……、会長のばかああああああああ!!」

「えっ!? 何で俺だけ!?」

「そりゃ俺より御行との方が千花は仲が良いからだろ」

 

 泣きながら走り去ってしまう千花を見つめながら、俺は御行にそう言った。

 生徒会メンバーは強固な信頼で結ばれているのだろうことは、第三者の俺が見てもわかる。

 そう考えると、なんだか悪いことをしてしまった気もして仕方がない。

 でもこれは、かぐやと愛の平穏のためだ。必要な犠牲とはこのことを言う。

 と、そこで俺はふと気づく。

 あれ? 御行にも愛のことバレたらダメなんじゃないだろうか。

 主にあいつのいう恋愛頭脳戦(笑)のために。

 ……まあ、いいや。御行なら変なことをしないだろうし。

 

「じゃ、行くか」

 

 俺は疲れた脳みそを休ませるために思考を放棄して、何やら考え事をしている御行を連れて行くのだった。

 

 

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