大仏の兄は飄々としている 作:奈良の大仏
とりあえず、アンケートの上位三人くらいを選ぶ予定です。
期限は、次回の投稿か、次次回の投稿です。
一学期もそろそろ終わろうかという時期。
「恋愛相談……ですか?」
神妙な面持ちで四宮さんがそれを持ちかけてきたのだ。
最初、言語能力を失いかけた私は、すぐさまいつも通りの容態を取り戻す。
「えーまぁ、恋愛というより人間関係と言いますか、なんと言いますか……。まあ、異性に付いての相談をしたくてですね。……恋人のいる柏木さんなら、何か有益なお話が聞けるんじゃないかと」
四宮さんがあれやこれやと言葉を転がしているものの、要約すれば男女関係の相談である。
そう言ったことはそつなくこなしてそうなイメージを持っていたため、正直に言うと私は意外だった。
四宮さんの交友関係的に、話の対象は二択に絞られるだろう。
白銀会長か、それとも大仏くんの方か。
なんにせよ、四宮さんが悩んでいるのであれば、私の答えは既に決まっている。
「なるほど。四宮さんには一度、相談に乗っていただいてますしね。私でよければ是非」
そう言って、私たちは生徒会室へと場所を移した。
「それで、何かあったんですか?」
生徒会室に着いた私は、前座を設けることもなく単刀直入にそう聞いた。
本来ならば、時間をかけてゆっくりと聞き出した方がいいのかもしれない。
私含め女の子はそう言った過程を大事にする傾向にあるからだ。
けれど、目の前にいる四宮さんに限っては、変に時間をかけないほうがいいと思えた。
「そうですね……」
四宮さんはそう一拍置く。
「単刀直入に言いますと、その気もないかもしれないのに、私は男性に告白まがいのことをしてしまったんです」
あー、思ったよりも重いのきたなー。
それが四宮さんの言葉を聞いた私の率直な感想である。
四宮さんのことだから、もう少しソフトな内容が飛んでくると思っていた。
けれども、蓋を開けてみれば、入っていたのはウサギなんかじゃなく、蛇である。
それもとびっきり大きいやつ。某魔法学校にある秘密の部屋に巣まう大蛇だ。
ひとまず、今の説明だけでは状況判断もできないため、私は静かにうなずいて補足を促した。
「具体的なお話を聞いても?」
「はい……私、少し前に風邪をひいてしまいまして、その時にどうやら意識も朦朧だったせいか口から普段言わないようなことをぽろりと……それからというもの、相手の子とも話しづらくなって、今ではめっきり会話が無い状態なんです」
そう言われて、なんとなくここ一週間の噂で聞いたことがあるような気がする。
最近、秀知院で有名だった二人があまり話さなくなったらしいことを。
それのせいかクラス内でも若干冷たい空気が流れているとか、なんとか。
それを四宮さんは知っているのだろうか。
いや、知らないのだろう。
知っていたら、こんな正々堂々と私に相談はしてこない。
かと言って、今それを四宮さんに教える必要もなければ、メリットもない。
なるほど。確かにこれは恋愛相談というより人間関係の相談に近いと私は思った。
「ちなみに、どのようなことを口にしたか聞いても良いですか?」
興味本位では無い、と言えば嘘になる。
私は少しの好奇心と、四宮さんの力に成りたいという純粋な気持ちからそう尋ねてみた。
「そ、そのお恥ずかしい話……『結婚したい?』って聞いた後に『私は好き』と言ってしまいました……」
それ、もはや告白なのでは? とは言わない。と言うよりも、口が裂けても言えなかった。
そう話す四宮さんの表情が、色恋にうつつを抜かしている乙女なものではなく、後悔や失念からくる罪人のような陰鬱さで彩られていたからだ。
決して、四宮さんにとってこの話は軽いものではないと改めて感じる。
それと同時、私は決して茶化したり、曖昧に答えたりはしたくないと再認識した。
「なるほど、その流れですと『私はあなたと結婚したい』という風にも取られかねませんね」
「はい、そうなんです」
「実際のところ四宮さんはその彼のことを本当に男として好きではないんですか?」
他人から聞かれて認識する恋もあるものだ。
四宮さんの内情が分からない現状、今すぐ私の自意識のみで返答を出すことはできない。
「うぅ……はや——他の人にもそのように聞かれたのですが、どうにも言葉にしづらくて」
「つまり言葉で言い表せない感情を彼に抱いていると?」
「はい、その通りです……」
んー、困ったな。
私は下顎に指を当てながら、いくつかの思考をしてみる。
結局のところ、四宮さんとその男の人の距離はあまりに近すぎるのが原因なのだろう。
私には最近できた彼氏がいるが、彼氏のような男友達はいない。
それゆえに、完全に四宮さんに同調することができなかった。
いや、これはただの言い訳か。
四宮さんに今必要なのは私から向けられる安っぽい共感ではなく、自分の心と向き合う機会である。
それを踏まえた上で、四宮さんは男の人と仲直りをしたいはずだ。
「四宮さんは最終的にその人とどういうふうな関係になりたいと考えています?」
「どういう関係……」
「ほら、恋人関係じゃなくても何かしらの距離感を保ちたいとかはありませんか?」
私が笑顔でそう尋ねると、四宮さんは何かを思い描くように視線を宙へ投げた。
「私は……彼とは今までみたいに気楽で、ムカついて、困った時には助けあって、休日などは一緒に遊んで、それで、それで……」
四宮さんは膝の上に置いてある手にぎゅっと力を入れて私を見る。
「私は彼と離れたく無いんです。このまま彼との関係が終わるなんて嫌なんです。もっと話したい、もっと遊びたい。だってあの人は初めて……初めてできた友達なんだもん」
それが四宮さんが出した答えなのだろう。
愛情というものにも種類はある。古代ギリシャ人ですら8つに分類していたほどだ。
四宮さんが男の人に向けている愛情は決して不潔なものではない。
深い友情だって、時には恋愛や家族愛に勝るもののはずだ。
四宮さんが思い描くその気持ちに、一体だれがケチをつけられる。
私からすれば、四宮さんが抱くその友情に敬意を表したいくらいだ。
「四宮さんの気持ちはよく分かりました。きっとそれは恋よりも美しいものなのかもしれませんね。あとは彼が四宮さんの告白まがいをどう受け取っているかですけど……聞けたら苦労していませんよね」
私の静かな問いかけに、四宮さんはこくりと力なく頷いた。
腹を割って話せているなら、今頃このような暗い四宮さんでは無くなっているはずだ。
他人に全てを見せると言うのは、それだけリスキーな行いである。
四宮さんの言う男の人が、仮に四宮さんを心から女として愛していた場合、四宮さんが出した答えは残酷なものでしかないのだから。
と、そこまで考えて私の脳裏にある考えが過った。
「でも、四宮さんからそんな告白まがいの言葉が出たということは、何かしらのきっかけがあったんですか?」
「そ、それはその何と言いますか、心理テストを少し」
「心理テスト?」
ピコン、と頭の上で電球がついたような感覚がした。
「は、はい。好きな人が分かるというもので、彼から私の名前が出てしまって……」
「あぁ、それで四宮さんは意識してしまったんですね。彼はその心理テストの答えについて知っているんですか?」
「知らないと思います。その時はすぐに誤魔化しましたし、彼も帰ってから調べたとは言ってなかったので」
と、そこまでの話を踏まえると、もしかしたらと私は考える。
四宮さんが思っているほど、その男の人が意識していない可能性があった。
このままでは四宮さん一人で解決するのは難しいだろうし、私がその男の人に直接聞いてくるのはありかもしれない。
ただ、これには問題もある。
私と四宮さんとの間に、それをしても許されるだけの交友関係が築けているのかという問題だ。
結局のところ、この相談は他者が介入すべきことではないのだ。
四宮さんとその男の人が腹を割って話し合う。それが一番の解決策であることは自明だった。
聞いている限り、別に仲違いをしているわけではない。
四宮さんは男の人に罪悪感を、そして男の人は四宮さんにきっと懐疑心を抱いている。
友情という名の湖に投じられた一石が、いつの間にか湖全体に波紋を起こすように。
この問題は、その石の正体を二人で見つけることが必要不可欠だと思った。
「私が一番怖いのは、その……もし本当に彼が私のことを好きだった場合、私は彼を傷つけたことになります……それも無意識に。そのせいで、彼が私から離れていくんじゃないかって——それが怖くて堪らないんです」
そう呟く四宮さんはいつもよりも小さく見えた。
まるで明かりのない夜道を彷徨い歩く幼児のようだ。
ふと目を離した瞬間、そこから消えてしまっているような、そんな錯覚に襲われてしまう。
結局のところ、私は四宮かぐやという人間を本当の意味では知らない。
初等部から現在にかけて、彼女とそこまで話したことがなかったからだ。
それゆえに、彼女とその男の人の関係性を私は言葉で表現ができないでいる。
当然、男の人が四宮さんをどう思っているのかも、私には想像できない。
けれど、ふと感じたことが一つだけあった。
それは光明のような、閃きのようなものである。
私が普段、
「私、思うんです」
私の一声にさっと四宮さんは顔を上げた。
目尻にはやはり少しだけ涙が溜まっている。
そんな儚げな表情を見て、私はゆったりと一本の人差し指を立てて見せた。
「四宮さんが大事にしているその方は、きっと四宮さんと同じぐらい、四宮さんを大事に思ってるんじゃないかって。だから、そう易々と四宮さんから離れたいと思わないんじゃないかって」
それは憶測のようで、けれど確信めいた言葉のようで……。
どこかそう願っているような言葉でもあった。
ただ、私のその一言を聞いた四宮さんは、私の人差し指をじっと見つめると、
「……えぇ、そうよね」
と安心したように笑って応えるのだった。
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