大仏の兄は飄々としている 作:奈良の大仏
おめでたやーおめでたやー
「珍しいわね、あんたから私に相談なんて」
「別に相談ってほどのことじゃないんだが……」
「立派に相談よ。真剣な面持ちで『駄弁ってかないか』って誘う奴の大半は、なにか話を聞いてほしい奴なんだから」
じぃと俺の顔を見つめながら、四条眞妃は呆れたように言う。
普段はただのツンデレキャラのくせに、流石は四条の令嬢と褒めるべきか。
洞察力は人並み以上に優れているらしい。
それこそ、かぐやに比肩するほどずば抜けている。
感情を表に出さないのは俺の専売特許だと思っていたけど、やはりまだまだ青臭いということなのだろう。
いや、取り繕う余裕もないほど、今の俺は普段から離れてしまっているのかもしれない。
「で、どんな話? 仕事がうまくいってないの? それとも勉強? そろそろ、ちゃんと勉強したほうがいいわよ、あんた。素が悪いんだから」
「ハハハ、どれも違えよ。でも、最後の言葉は流石に傷ついた」
傷ついた、と言いながら俺が勉強に不向きな頭をしているのは知っている。
よくもまぁ、いまだ留年もせずこの偏差値70を超える秀知院で在籍できているなと感心する程だ。
それこそ、かぐやや周りの助力が無かったら、まだ中等部にいたかもしれん。
冗談じゃないことが、我ながら笑えない事実である。
「男がねちねちと陰気に考えてるのよくないわよ」
「わかってる」
「そう。でもあんたのことだから、やっぱり考えちゃうんでしょ、馬鹿ね」
「かもな」
眞妃は俺の顔を見ずにまだ続ける。
「あんたはいつもそうよね。付き合ってた時も何でも一人で決めるんだもん」
「あったな、そういうことも」
「別に男が絶対にエスコートしなきゃいけない、なんて義務ないのよ」
「そうだな」
眞妃は一旦そこで区切り、足を組み替えた。
「あーあ、見栄張らず困ったら困ったって言えばいいのに」
「……」
「飄々としてる自分がかっこいいーなんて思ってると、いつか取り返しのつかないことに」
「眞妃」
俺の言葉が会話の終了を告げさせた。
そこまででいい。
眞妃は十分に俺の背中を押してくれた。
普段は俺が押す側のはずなのに、こう言う時は目敏くして欲しいことをしてくれる。
だからきっと、俺もこの話を持ちかける相手を四条眞妃という、優秀な友達に絞ったのだろう。
「ありがとう、もう十分」
「……そう」
眞妃は自分の手元に置かれているティーカップを取り、そのまま口へと運ぶ。
軽く喉を潤せば、何事もないような表情を作り改めて姿勢を正した。
俺はそれら一連の動作を見終わってから、ゆったりとした速度で開口する。
「眞妃、恋愛感情ってどんなものだと思う?」
「…………はぁ?」
素っ頓狂な声を上げたのは、間違いなくあの完璧に近い存在の四条の令嬢である。
「いや、今なお身を焦すほどの恋に熱をあげている眞妃なら、明確な表現ができるんじゃないかと思ってさ」
「……あんた、それ本気で聞いてるの?」
呆れたように、というか、実際に呆れたらしく眞妃は軽く額に手をあてて首を横に振った。
「え、なに? たいき誰かに惚れたの?」
「わからないんだよな。俺が抱いている感情って何んなのか」
「はぁー、恋愛感情分からない奴が、今絶賛人気中の男優なんて信じられないわね! ファンに謝りなさい! ついでに、あんたが主人公を務めてた恋愛映画で感動したことある私と渚にも謝りなさい!」
めちゃくちゃ理不尽なことで怒られた気がするが、まぁ、ひとまずは事実な気がするので俺は軽く謝っておく。
だが、本当にわからないのだ。かぐやに抱いている感情が一体全体なんなのか。
妹であるこばちは「好きってことじゃないの、女として」と言ってくる。
某事務所の後輩は「雰囲気に当てられただけ」だと言う。
昨年お世話になった先輩は「恋愛は人それぞれ」だと投げやりで曖昧な回答を返してきた。
これら3人の共通する点は、良くも悪くも俺がかぐやに恋していると言う点だ。
昔から好きだったにせよ、雰囲気に当てられただけにせよ、どのような感情を抱いてるにせよ。
それらは総じて恋愛感情だと言ってくる。
だが、俺としてはどうもしっくりこない部分もあった。
かぐやのことは綺麗だと思うし、素直にいい奴だと思う。
一緒にいたら楽しいし、これからも一緒に居続けたいのだと言う気持ちも嘘じゃない。
でも、なぜか腑に落ちない。
「あんたが恋愛相談するってことは、そういう感情を抱く人がいるってことでしょ……まぁ、たいきが本気でその人と一緒にいたいと思うなら、告白すればいいんじゃない?」
「んな、投げやりな」
「後悔するからよ、誰かさんみたいに」
眞妃はいつもよりも真剣な眼差しで俺を捉える。
「……分かってる。本当に好きなら俺から何かを言うべきだというのも。あやふやにするべきじゃないってことも」
「なら、さっさと告って、さっさと玉砕してきなさいよ」
「だから、そうじゃないんだって」
「?」
「俺が本当にその人を、異性として好きなのか分からないんだよ」
今の状況が「分からない」と言う言葉で済ましてしまっていいのかすら、今の俺には分からなかった。
それだけ、かぐやと俺は長い時間をともに過ごしてきた関係だ。
楽しい時も、辛い時も、清濁合わせ飲むように肉親に近い距離で接してきた間柄だ。
それなのに、いきなり自分が彼女を異性として見ていたかもしれない。
もしくは見られていかもしれないと思うと、何とも言えない気持ちだけが胸中で渦巻く。
まるで霧がかかった土手道を歩いている気持ちだ。
前に進んでいるのか、横に逸れているのか、はたまた後ろにさがっているのかすら判然としない。
自分のことのはずなのに、どこか他人の背中を眺めているような気持ちにすらなってくる。
「……はぁ、いいこと教えてあげるわ」
「いいこと?」
「ええ、答えになるか分からないけど、とっておきの情報よ」
腕を組んだ眞妃は紅茶に沈めていた視線を、俺の目へと持ち上げる。
「恋ってのはね、ちょっとしたことで一喜一憂して、一緒の空間にいるだけで緊張もしちゃって、少しでも関われたらそれだけで一日中満たされたように感じなの——そういうのが積み重なって、人は『あぁー、私この人が好きなんだなー』って思うの」
「それは流石に何となく理解できるけど」
「何となくじゃないのよ。本当にその人に恋しちゃったら、そのことしか考えられないんだから」
では、俺が今こうやって悩んでいるのもやはり恋していると言うことなのだろうか?
かぐやの発言に悶々と頭を悩ませて、何となく互いに話しづらくなって。
今の状況はあんまり好きじゃないな、と頭を抱えている俺がいる。
四六時中、とまでは言わないが、あいつのことを考えてどうにか現状を打破できないか考えている。
でも、やっぱり付き合ったり、キスしたり、その先に進みたいかと言われたら……。
ぱんっ。
そこまで考えていると、目の前に座る眞妃から軽いデコピンをおでこにお見舞いされた。
「頭で無理やり言語化しなくていいのよ。ただ、たいきが思ったことを口にしてみればいいの」
「口に?」
「どうせしたことないでしょ。あんた隠したがるところあるから」
それとこれとは話が違うだろ、とは思ったが、眞妃の言う通りでもある。
俺はかぐやに向けている気持ちを口にしたことはない。
好きとか面倒くさいとか、単調な言葉ならいくらでも並べた事がある。
でも、他人に説明せずに、自分の思いの丈をただがむしゃらに呟いたことは無かった。
それはかぐやも同じだと思う。
「俺は…………俺はあいつが喜べば嬉しいし、面倒な時は面倒だなって思うけど……それでも一緒にいるだけで楽しい。強いのか弱いのか分からなくて、でもしっかりと芯は通ってて、普通そんなこと言わんだろってことも臆さず他人に言って、それで誰かと軋轢を生んだりして……たまに馬鹿になったり、弱ったりするけど、俺と違ってあいつは——……」
ふと、自分の人差し指を見て思い出す。
それはもうかなり昔の記憶。まだ自分が初等部の時、まだ四宮かぐやと言う人間をあまり知らなかった時期のことを。
(ああ、そうだったな……)
今まで当たり前すぎて振り返ることもなかった。
なんなら、あいつの目の前でしかやらない癖にまでなっていた。
かぐやとの色褪せない思い出。
「なんか気づいたみたいね」
「ん? あぁ……気づいたというより思い出したに近いかも」
「何よそれ、まぁ、いいわ。一つだけこの四条家の才女である私からアドバイスをしてあげる」
眞妃はそういって一本の人差し指を立てた。
「恋に落ちたらね、誰だってそれが恋ってビビッとくるもんよ。真剣に恋愛感情が分からない奴が本気で恋してるわけないの……あんまり恋を嘗めるな、たいき!」
恋を嘗めるな。
そう言われた時の俺の表情は驚くほどに、滑稽なものだったに違いない。
鏡を用意されれば、思わず笑ってしまいそうなほど腑抜けているかもしれない。
でも、なぜだろうか。
俺にとっては眞妃のその一言が、この世の真理のようにも思えて。
いや、昔の自分と重なってしまったのか。
ちょっとだけ笑ってしまうのだった。
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