大仏の兄は飄々としている   作:奈良の大仏

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四宮かぐやと大仏たいき③

 初等部の時ひとり浮いている女の子がいた。別に嫌われているとかではない、と思う。

 ただ、その子が思ったことをすぐ口にしてしまうタイプだったためか。はたまた小学生とは思えぬほど成熟してしまっていたためか。何にせよ、誰よりも清廉潔白だったが故に、その子は孤立気味になっていた。

 

『四宮さんは皆んなと一緒に遊ばなくていいの?』

『別に、私が行くと盛り下げるだけよ』

 

 何となしに俺が声をかけても、返ってくる言葉と言えば「気分じゃない」「盛り下がる」「興味がない」の三連コンボ。

 なんで何時もそんなつまらなさそうにしているのか。

 当時の俺には分からないくらい、その少女の顔には影かかかっているように見えた。

 

『楽しいと思うけどな』

『私や周りの子はそうは思わないわ』

『ふーん』

『……逆に聞くけど。なんでそんなに私ばかり誘うの、あなたは』

 

 その質問は多分、彼女の気まぐれだったのだろう。彼女から俺へ質問を投げかけてくることなんて滅多にないことだ。

 いや、今を除けばこれまで一度も無かったと記憶している。

 それくらい俺と少女の間には見えない壁があったし、別に仲がいいわけでもなかった。

 

 ただ、同じクラスの少年と少女。

 

 互いの認識はそんなものだろう。同じ教室で、同じ給食を食べて、同じ先生から同じ内容の授業を聞いている。

 かなり希薄な関係性ではあったものの、俺と少女の関係などその程度しかなかった。

 

『別に深い理由はないよ。みんなで遊んでるのに四宮さんだけ遊ばないのもどうかと思っただけ。だから誘うんだ』

『別に気にしなくていいわよ』

『そう? でも、何時もつまらなさそうじゃん』

 

 俺がそう問いかければ、僅かに彼女の瞳孔が鈍く光ったような気がした。

 

『……私からすれば、どうして貴方が常時ヘラヘラしているのか分からない』

 

 鬱陶しそうに。

 いや、本当に俺を恨んでいるかのように、彼女は顎を逸らして吐き捨てた。

 

 だが残念なことに、初等部でまだ心も発達しきっていない俺には、それが何を意味していることなのか理解できなかった。別に俺もただの子供だ。泣く時は泣くし悲しい時は普通に悲しむ生き物だ。特別なものなんて一つも持ち合わせいない。

 だから、彼女が何に苦しみ、何に怯えているのか。はたまた本当に俺のことが嫌いなだけだったのか。

 それを理解するには、5年は時を要するだろう。

 

 故に俺の回答は間抜けなもので落ち着いてしまう。

 

『んー、別に楽しいから笑ってるだけだけど』

『可笑しいことを言うのね。楽しいことなんて滅多にないわ』

 

 俺の抱いた平凡の感想を、彼女は「可笑しい」と一蹴した。

 

 けれど、本当にそうなのだろうか?

 楽しいことが滅多にないなんて人生は、本当にかわいそうに思えてくる。

 俺は友達と遊んでいる時も、両親や妹と出かける時も、食事をするときも、授業を受ける時だって、小さいが確かな幸せと楽しみを噛み締めている。

 

 だから、きっと彼女はそれに気づいていないだけだ。

 俺は一人そのように結論を出してしまった。

 

『んじゃー、四宮さん。面白いことするから、ちょっとこれを見てよ』

『? 何で、人差し指を見るの?』

『いいから、いいから。騙されたと思ってさ』

 

 俺は右手の人差し指を一本だけ真っ直ぐ立てて、それを彼女の目の前へと持っていく。彼女は訝しむようにその動く人差し指を目で追った。

 

 やがて、俺の指が彼女の眼前で止まる。拳ひとつ分くらいの隙間しか無い状態。

 それでも彼女は、律儀に俺のいった通り、指をじぃと眺め続けてくれた。

 すると、どうだろうか。

 いつもつまらなさそうな顔している彼女の目が、某光の巨人と同じく寄り目となっている。

 つまり軽い変顔だった。

 いつも教室内ですました顔をしている彼女が、ウルトラマンのような変顔をしたのである。

 

『ぷっ、はははは!』

『え? なんであなたが笑うの!?』

『いや、だって、四宮さんの顔がさ、はははは!』

 

 たまらず吹き出してしまった。

 我ながら、本当にどうしようもないくらい馬鹿馬鹿しい悪戯である。

 

『っ、もしかして揶揄ってるの?』

『違う違う、ただ俺がいつも笑ってるのはさ、こんなくだらないことなんだよって教えたくてさ……ぷふ』

 

 ひとしきり笑い終えた俺は、今度は自分の方に指先を向けた。

 

『本当にくだらないでしょ? こうやると寄り目になるだけなんだ。でも、四宮さんが真面目な顔して目で追うからさ、つい面白くって』

 

 俺は自分もお返しに寄り目の顔を披露しながら、悪気はないと弁明する。

 それだけで許してくれるとは思えないが、まぁ、これで恥ずかしい思いしたのはお互い様だと思って欲しい。

 別に彼女の寄り目の顔を写真で取って、誰かに見せたりする訳じゃ無いのだから。

 

『四宮さんは知らないだけなんだよ、多分ね。だって、面白いことなんてこんなどうでもいいことでもいいんだ。それを共に笑える人がいないって言うのかな? んー、何にせよ辛いことばかり見ない方がいいよ。楽しいことなんて、適当に見つかるんだから』

 

 子供のくせに、と大人になれば鼻で笑ってしまいそうなほど、偉ぶった態度だとは思う。

 でも、これが俺の本心なのだと、俺が彼女に伝えたいことなのだと胸を張って言えることでもあった。

 

 だからだろうか、彼女が俺の立てた人差し指を見ているのに気づかなkったのは。

 

『ふふ、何よそれ……』

 

 初めてみる四宮かぐやの笑み。

 呆れて漏れ出たものかもしれない。俺のバカさ加減を鼻で笑っただけなのかもしれない。

 でも、どんな理由でもよかった。

 

 あまりに綺麗に彼女が笑うものだから。

 俺はその時、生まれて初めて一生忘れられない光景を目に焼き付けたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 A組の教室で俺は自分の席に座って黒板を眺めていた。

 眞妃と別れた後、わざわざ何の用事もないのに学校へ帰ってきたのだ。

 夕日が沈む街を見るわけでもなく、目の前に設置された黒板をボーと眺めながら、静かに時が流れるのを待つ。

 すると、がらがらと扉が開く音が耳に入ってきた。

 

「お、かぐや」

「あら、たいき」

 

 ここ少しの間、ほとんど会話をしていなかったはずなのに、俺とかぐや共にすんなりと言葉が出てきた。

 かぐやは俺の姿を発見するなり、いつもの定位置である席へと腰掛ける。

 ゆったりとした動作は四宮家の令嬢として鍛えられたが故か、とても様になっていて美しい。

 彼女は幼少期から花道や茶道なんかも一流なのだから、当然と言えば当然であるが。

 

「さっきさ、昔のこと思い出してたんだよな」

「奇遇ね、私もよ」

「ちっさい時のかぐやはいーつっも生真面目で暗い顔してたなーって」

「小さい頃のあなたはいつも馬鹿みたいに笑ってただけよね」

 

 ふふふ、ははは、とお互いの笑い声が教室に響く。

 俺もかぐやもお互いの顔を見ずに、昔あった他愛もないことを語り合い続けた。

 

「覚えてる? 昔、愛が木から降りれなくなったの」

「覚えてるわよ。主人と恥ずかしかったわね」

「お前、まじでさっさと見放したよな。その後、普通にカブトムシ取ってきたし」

「登れたのだから普通降りれるわよ。降りれないのは彼女が泣き虫だっただけ」

 

 あれはあーだった、これはこーだった。

 本当に懐かしい気持ちになりながら、俺たちは夕日が沈み切ったのも関係なしに言葉を交わし続けた。

 

 気がつけば、本当に帰らなければいけない時間だ。

 積もる話があったわけではない。証拠に、俺たちが話していたことといえば、ただの思い出話。近況報告なんて一切挟まずに、それだけの話題で俺たちはずっと会話に花を咲かせ続けた。

 

 しかし、どんなものにも終わりがくる。

 俺はかぐやに訴えるような目で見た。

 

「なぁ、かぐや。言っときたいことがあるんだ」

「ええ、私もあなたに言っておきたいことがあるわ」

 

 俺とかぐやは視線を交わし、合図もなしに同時に開口する。

 お互いに人差し指を立てて。

 

「「好きだ(よ)、親友として」」

 

 親友として、もしくは尊敬する相手として。

 

 それが俺たちが導き出した答えである。

 昔、もっと言うのなら出会った最初期であれば、俺もかぐやに恋愛感情を持っていたかもしれない。

 けれど、それでも「かもしれない」の話だ。子供の頃の好きなんて、それだけ高が知れている。

 今は彼女のことを愛おしく思う反面、やはり異性としてではなく一人の人間として尊敬している部分も大きい。俺には無いものを彼女はもち、彼女に無いものを俺が持っている。

 欠けているピースを合わせるように、なんて表現は安っぽいかもしれないが、俺とかぐやの関係性を示すのであれば、それが一番しっくりするのかもしれなかった。

 

 何にせよ。

 見事、示し合わせたかのように重なった言葉は、それだけで俺たちを笑いの渦へと誘うには十分な効力であった。

 

「ははは、まじかシンクロしたな!」

「えー……普通に気味が悪いわね。真似したでしょ?」

「違う、その理論ならお前が真似したんだ」

「私は誰かの真似なんてしないわ」

「え、でもお前。お兄さんにそっくりじゃん」

「へぇ〜、面白いこと言うのね、たいき。今度それ言ったら東京湾を泳いでもらおうかしら、ドラム缶に入って」

「それ泳いでねーよ、沈んでるよ」

 

 いずれ俺たちには互いにパートナーと呼べる存在ができるであろう。

 かぐやであれば御行がそうなると信じているし、祈っている。

 でも、そうなっても。

 やっぱり俺たちは、こうしてくだらないことで笑え合える友として、一生関わっていきたいと思えた。




かぐや様、完結おめでとうございます!
そして、たいきとかぐやの拗れ話も一旦これで終わりです!

いや、ずっと投稿していなかったので、皆さんには申し訳ない気持ちがいっぱいでした。
ストック飛んだ時は、もう萎えに萎えましたが。

まぁ、ともあれこれで「かぐや編」?みたいなのは終わり!
夏休みは 圭ちゃん、早坂、白銀パパ で決定ですので、夏休みエピソードも随時投稿していきます!

本当に原作完結おめでとう!

夏休みのエピソード誰のを見たい

  • 早坂愛
  • 白銀圭
  • 伊井野ミコ
  • 子安ツバメ
  • 四条眞妃
  • 龍珠桃
  • 大仏こばち
  • 藤原千花
  • 不知火ころもs
  • 白銀御幸
  • 石上優
  • 白銀の父(ネタ枠)
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