大仏の兄は飄々としている   作:奈良の大仏

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聞いてください。
書きだめしていた7話までの話が全て消えました。
本当です。辛いです。
死にたいです。

てことで、アンケートの結果は下に書いてあるゾ。
非ログイン勢も見れるように書いてあげたゾ。


伊井野ミコは思い出す。①

 それはまだ私が初等部の時。

 その日、私は初めての友達である大仏こばちちゃんと家で遊ぶ約束をしていた。

 しかしなぜか彼女は家に現れなかった。

 小学生の時だから、まだ相手に電話をするなんて考えも思い浮かばず、私はいつものように家で1人、来るのか来ないのかも分からない彼女を待ち続けた。

 けれどそんな日に彼は現れた。

 

『初めまして、君が伊井野ミコちゃんだよね?』

『そう、だよ?』

 

 何が楽しいことでもあったのか、何か面白いことでもあったのか、誰もが見惚れるような笑顔を浮かばせながら、彼は言う。

 私はその顔を見てすぐに合点がいった。

 

 ———ああ、この人がこばちゃんのお兄さんか。

 

 憶測でもなく、予想でもない。私は確信を持ってそう理解した。

 それは何故かって、そんなもの顔を見れば一瞬で分かる。

 彼の目元はあまりにも彼女とそっくりで、その宝石のような瞳に私は吸い込まれるような感覚を覚えたから。

 こばちゃんからその存在は聞かされていたけど、対面するのはこれが初めての事である。

 いつも彼女からは「兄は変な人」と聞かされていたため、私は彼に少し興味を持っていた。

 

 結論から言えば、確かに彼は変な人だった。

 最初はただただ不思議な人だなという印象を覚えた。

 常に笑顔を振りまいているのも理由の一つだが、彼はどことなく浮世離れして見えたのだ。

 ここにいるはずなのに、ここにいない。

 正面で話しているはずなのに、向かい合っていない。

 言葉にできないようなその感覚に、私はつい酔いしれてしまっていた。

 

『あ、そうそう。今日はごめんね。こばちがここに来れなくなった事を伝えに来たんだった』

 

 彼は思い出したように呟くと、私の目の前にある物を差し出した。

 それは見たことのない和菓子屋の包み。彼は「お詫びの品に」と言ってそれを渡してきた。

 一つ上の人にしては妙に気が利いているというか、大人びているというか。

 こばちゃんもそうだけど、やはり子役などをしているとそういうのが身につくのだろうか。

 そこからは自然な流れで彼を家にあげ、私は彼女の兄と話すことになった。

 結論から言うと、彼はとても話し上手であり聞き上手であった。

 私の話なんて同年代の子達は誰も真面目に聞いてくれないのに、彼は真摯に聞いてくれる。

 まるでこの場の主人公は君だよ、と言わんばかりの話の引き出し方だった。

 

『ママは紛争地域でワクチン配ってて、パパは裁判所で遅くまでお仕事。とっても大事なお仕事なんだよ』

『そっか。ミコの両親は素晴らしい人たちだな。ミコも鼻が高いだろ?』

『うん。私はパパやママが大好きだよ』

 

 こんなふうにこれ以上ない独壇場を渡されれば、誰だって必然的に会話を捗らせる。

 それは私だったとしても変わることない。

 子供からすれば世界の中心は自分のようなものだ。

 それこそ、理性がまだ確立されていない小学生ならなおのこと。

 だからこそ、ついつい調子に乗って”しなくて良いはずの話”までしてしまう。

 

『だから、私もパパやママみたいになるの……。ママとパパは悪くないから』

 

 私がふと呟いた言葉。

 みんながもっとちゃんとした人になってくれるようにするのだと、そう切に願う言葉。

 そうすればきっと、私は1人じゃなくなる。私の周りに人がいっぱい集まってくれる。

 パパやママだって学校行事に現れて、誰も嫌な思いをしなくて済む世界が作り上げられる。

 だからこれは詭弁でもなければ虚言でもない、私の本音。

 両親はみんなのために頑張っている。だからパパとママは悪くない。

 周りがしっかりしていれば、それだけ誰かが損な役回りをしなくて済むはずだ。

 誰かに皺寄せがきたり、誰かが不幸になったりすることなんてない。

 幸福の格差なんて糞食らえ。不条理や不平等なんて大嫌いだ。悪人がいるから善人が困る。

 悪人のせいで善人が損をする社会なんてあって良いはずがない。

 努力したものが報われない社会なんて存在して良いはずがない。

 もしそんな社会が現実だと言うのならそんな社会、———消えてしまえばいいんだ。

 

『んー、ミコのしたいことって本当にそれ?』

 

 だけどそんな言葉を吹き飛ばすかのように、隣にいた彼は不思議そうに言った。

 

『本当だもん……。私はパパやママみたいになりたい』

『んー、じゃあそこは本当なのか。でもさー、夢って普通笑いながら話すもんだと思うんだよ。ほら、夢って希望に溢れてるだろ?』

 

 講釈を垂れるように話す彼に私は何も言えなくなった。

 将来の夢。私のやりたい事。

 彼が言うように、私はそれに対し希望なんてものは膨らませていない。

 

『それなのにさ、今のミコは全然楽しくなさそうだ』

『っ!』

 

 楽しげに私のほっぺを弄る彼の瞳は、私の視線を釘付けにする。

 ヘラヘラと笑った彼の笑顔は、私の切り詰めた感情を溶かすように咲き誇った。

 

『よし決めた! 今から映画でも見に行こう!』

『えっ、急に!?』

 

 もう決めたぞーと言わんばかりに私を着替えさせようとする彼。

 やると決めたら即行動が、彼のモットーらしい。

 確かにこれは、こばちゃんが変な人と言うだけのことはある。

 

『教えてやる。この世は善悪だけが全てじゃないってことを』

 

 そうやって楽しげに笑う彼が眩しくて、儚くて……。

 けれどどこか月のように美しくも思えてしまう。

 私が悩んでいること苦しんでいることなんてそっちのけ。

 客観的に見ても、傍若無人なその態度はまさに天災と言えるのだろう。

 まあ、それでも———……、

 

『ミコ。弱音を吐きたい時は、吐いたって良いんだ。甘えたって良いんだよ』

 

 彼が連れ出してくれたこの日、私はたしかに救われたのだと思う。

 

 

 

 

§

 

 

 

 

「あ、お兄さん」

 

 学校で会うのは確か三日振りの顔に私は頬を綻ばす。

 いつも、こばちゃんからはその存在を聞いてはいるが、やはり会うのが一番、心安らいだ。

 お兄さんの方も私に気が付いたのか、軽く手を振って挨拶してくれる。

 いつも通り、言葉でこそ挨拶はしてくれないが、仕草や表情できちんと返してくれた。

 今はそれだけで十分である。

 

「どうしたの、ミコちゃん」

 

 すると後ろからこばちゃんが私の体越しに階段の下を覗き込む。

 そして、兄の姿を見つけた彼女は一気に機嫌を急降下させ、ふんと鼻で笑い飛ばした。

 

「あの変態か」

 

 彼女は自身の兄を、一週間ほど前からこうやって「変態」呼称するようになった。

 曰く寝込みを襲われたとか。

 お兄さんから詳しく話を聞いてみれば、「朝たまたま早く起きたから起こしにいっただけ」とのことだったが、思春期の彼女からすればそれ自体かなりキツかったのだろう。

 兄妹とはなんとも複雑な間柄である。

 お兄さんは怒った妹を見て気まずくなったのか、そのまま左の方向へと曲がっていった。

 こばちゃんはそれを見て、右の方向へと曲がろうとする。

 一応、風紀院の見回りルートは左なのだけど、これは何を言っても無駄な気がする。

 

「お兄さん良い人なのに。そんなに嫌ったら可哀想だよ」

「良いのは外面だけ。私が妹じゃなければ多分一生関わらない人種だったよ、あれ」

「そこまで言う?」

 

 仲がいいのか悪いのか、本当にこの兄妹は分からない。

 時々、休日にはデートしてるとか言ってたが。あれか、もしかしてお兄さんは財布なのか。

 私がそんなふうに考えていると、こばちゃんは丸眼鏡を外してため息をつく。

 彼女は顔がかなり良いので、それだけで扇情的な気持ちにさせられた。

 

「まず”名前”からして気に食わない」

 

 彼女はそう言って丸眼鏡をシートで拭い終えると、それを掛け直しスタスタと歩き続ける。

 私も彼女の言葉に何か返そうと思ったが、やはりやめて置くことにした。

 夫婦喧嘩は犬も食わないらしいが、兄妹喧嘩も犬は食わないのだ。

 

「……はあ、ミコちゃん。週末って暇?」

 

 幾許の間、沈黙していた彼女は唐突に私へ問うてくる。

 

「え? うん。昼からなら」

 

 私も週末は町内の清掃活動があるだけで昼からは暇なため、とりあえず首肯で返した。

 こばちゃんが誘うってことは、多分、映画を見に行くかショッピングのどっちかだろうし。

 あー、この前、新しい口紅が欲しいって言っていたし、もしかしてそれかな?

 

「じゃあ、映画見に行かない? お兄ちゃんが面白いって言ってたから」

 

 お兄さんが面白いと言っていた映画……か。

 私はそこで少しばかり想像してみる。

 お兄さんが基本的に好んでみる映画のジャンルは、アクションとホラー・パニック。

 ド派手な演出がされているものや、緊張感ある作品が好きである。

 逆に私が好きなのは、ラブストーリーやミュージカル。あと青春映画と……。

 まあ、つまり私の好きなジャンルじゃない可能性が高そうということ。

 サスペンスホラーとかであれば、まだ免疫はあると思うけど。(大抵乙一作品のせい)

 しかしそんなもの、目の前にいるこばちゃんが好き好んで見に行くとは思えない。

 大仏家の兄妹は良い意味でも、悪い意味でも好き嫌いがしっかりと分かれているのだから。

 兄が肉派であれば、妹は魚派みたいに。

 

「一応聞いておくけど、どんな名前の映画?」

「えーと、確か『とっとり鳥の助』だったかな」

「え?」

 

 ……いやいや、それ絶対地雷の映画でしょ。

 え? どんな映画? ストーリーはどう進むの?

 まずそれ何ジャンル? ハートフルコメディとか、そういう感じの映画?

 頭すっごい悪そうな映画に聞こえたのは私だけかな。興行収入とか1億もなさそう。

 

「すっごい、つまらなさそうなんだけど」

「私も最初はそう思った。けど、一応お兄ちゃん以外の人も絶賛してたし、少し興味沸いちゃって」

「それはそれでどうなの……」

 

 と、まあそんなこんなで私たちは最終的に映画を見に行った。

 感想としては、まあ是非とも見て判断してくださいっていう感じの映画。

 映画館では、見たことある男女2人を見たような気がするけど、多分気のせいだろう。

 こばちゃんもその2人を見て微妙な顔をしていたし。

 とにかく今はそれよりも、早くお兄さんに映画の感想でも送り付けようと、私はスマホに指をかけるのだった。

 




選ばれたのは早坂でした(まあ、ですよね)

1位 早坂愛   (53票)
2位 白銀圭   (34票)
3位 伊井野ミコ (23票)
4位 子安つばめ (17票)
〃  藤原千花  (17票)
6位 龍珠桃   (12票)
〃  大仏こばち (12票)
8位 石上優   (05票)⇦なんでやねん。
9位 白銀御行  (03票)⇦いやだから、なんでやねん。


ということで、早坂メインに方向が決定。
他の子達のルートは気が向いたら、この順番で描かれる。
ハーレムルート? 知らんがな。
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