大仏の兄は飄々としている   作:奈良の大仏

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ああ、感想でヒロイン抗争が……。
眞妃ちゃんに関しては入れるの忘れてたんです。
土下座します。


ということで初めて主人公が一人称でしゃべる回
というより、ここからは主に主人公視点で話が進んでいく。
つまり今までのは序章だったのだ。


大仏たいきは断りたい。

 空が黄金色に光る放課後。

 今日も今日とて俺と彼女は会話に花を咲かせていた。

 

「フランスの交流会ねー」

 

 俺はチラシを眺めながらそう呟く。

 目の前には幼馴染と言ってもいいほど、付き合いの長いかぐやが疲れた様子で座っている。

 彼女が持ってきたのは、三日後に開催されるパリ姉妹校と交流を深めるパーティーについてだった。

 

「校長が急に準備・運営を生徒会にお願いしてきたのよ。おかげでこっちは大忙し。猫の手も借りたい気分だわ」

「あの校長は適当なところあるからな」

「今回は特に適当すぎるのよ」

 

 その言葉に俺は肯定以外の何もできる気がしなかった。

 校長の孫にあたる寺島さんですら、校長のことを「私と同じくテキトーに生きているから」と言っていたくらいなのだ、他人がとやかく言える部類ではない。

 まあ、その後先輩から「おじいちゃんとたいきってどことなく似てるよねw」と言われたのは腑に落ちなかったけど。

 え? どこが俺と似てるの? 笑えねーよ、寺島さん。

 

「でも、フランスに興味ある生徒も秀知院にはいるだろ」

「そうね。一応、参加人数は募集しているし、見窄らしいパーティーにはならないと思うわ」

「なら安心だな。よかったじゃん」

「どこがよ」

 

 俺がそうケラケラと笑いながら言ってのが気に入らないらしく、彼女はプイッと顎を逸らした。

 

「これのせいで今うちは慢性的に人不足なのよ。予算、見積もり、支出管理等は石上くんが、チラシやパーティー会場のレイアウトは藤原さんが、全体の進行管理、パリ姉妹校側の接待をするのに私と会長、先生方が駆り出されてる。正直、人が足りてないの」

 

 かぐやは不機嫌そうな声色でそう言うと、俺が持っていたチラシを指さした。

 彼女の言う通り、チラシは見たところ急造もいいところな出来栄えである。

 ざっと見ただけでも誤字・脱字が2つ見つかった。

 ろくに見直しもできていない状況なのだろう。少しばかり生徒会には同情する。

 

「それでもなんとか切り詰めて今はできているわ。あとはお土産を買いに行ったり、司会用のスピーチ原稿を各々で作成して、各自練習してくるだけ」

「ほー、じゃあ前準備はある程度できてんだ」

 

 さっきの話を聞く限り、前準備が全く終わらず詰んでるのよって言い出しそうだったのに、これは意外な事実であった。

 まあ、かぐやや御行が関わっている以上、意地でも無様なものには仕上げないだろうけど。

 だってこいつらどっちもプライド高いし。

 

「じゃあ、今日は俺に何の頼み? こんな話を振るくらいだから、愚痴だけじゃないんだろ」

 

 そう言ってひらひらとチラシを手で揺らせば、かぐやはこくんと可愛らしく頷いた。

 まあどうせ、お土産買いに行く人員が白銀と自分だから、この前みたいに服装を決めてくれと言うのかもしれない。

 そうなったら今度は愛にでも全部放り投げよう。

 一着の服を決めるのに4時間も考えられたら堪らないし。

 

「今回たいきにお願いしたいことは、このパーティーでの出し物についてなの。急で悪いんだけどお願いできない?」

「あー、まさかの当日の手伝いか……」

 

 これまた意外や意外、まさか当日の方のお願いをされるとは正直思っていなかった。

 しかも、これに関しては俺じゃなくてもできそうな案件である。

 それこそフランスに興味のある生徒にでも企画させれば済む程度のもの。

 そんなものをかぐやが切羽詰まった様子でお願いしてくるのは、実に彼女らしくなかった。

 

「頼めるのが貴方しかいないのよ、お願い」

 

 まあ、理由は分からないが、そんなふうに頭を下げられれば、初等部からの付き合いであるかぐやのため、俺は大抵のことをやってもいいと思ってはいる。

 しかし、これはあまりにタイミングが悪すぎた。

 実際問題、生徒会は人数的に各々の仕事で手一杯なのだろう。

 だから他の人材から出し物を企画・展開してくれる人が欲しいと言うのは理解できる。

 それでも来週の月曜となると、撮影とか収録とか俺にも予定があったりするのだ。

 こればかりはどうしようもない。

 

「すまんが、スケジュール的に俺が直接出るのは厳しい。とりあえず、俺も知り合いには聞いてみるよ」

 

 そう言ってスマホを取り出してLINEを開ける。

 条件としては、仏語を話せて場の空気をしっかりと読める奴なのだが、結構それだけで絞られそうな気もする。

 まあ、いないわけではないし用件を話して、頼めそうならかぐやに紹介すれば良いだろ。

 それこそ寺島さんとか、昨日、恋愛相談に乗ってやったツンデレ娘とか最適な気がする。

 あいつ多国籍企業の令嬢だし、かぐやとは遠い親戚だ。かぐやとの仲は微妙だけど、御行や千花とは同クラスなので、なんとか折り合いも付けられるだろう。

 と、そこまで考えたとき、俺のスマホを持つ手が何者かによって掴まれた。

 

「急にどした、かぐや?」

 

 掴んだ手を辿れば、案の定と言うべきか、かぐやが俺の手を握っている。

 なんだ? なんか気に障ることでもしたっけ。

 

「……んで」

「ん?」

「なんであの子の頼みは聞いて、私の頼みは聞いてくれないの」

「———はあ?」

 

 そう意味のわからないことを言われた俺は、少し微妙な間を開けて素っ頓狂な声を上げた。

 なんであの子の頼みは聞いて、とは一体なんのことか。少し記憶を掘り返してみる。

 今日かぐやと話したのは朝のS H R前と、昼食を一緒に食べた時くらいだ。

 その間、誰かの頼み事を聞いた覚えは一切ない。

 と言うより、俺とかぐやが話しているときは誰も近寄ってこなかったりする。

 さてそれを踏まえた上でもう一度考えてみよう。

 俺がいつ、どこで、どのようにして、誰かの頼みを聞いたというのだ。

 

「かぐやよ、訳が分からん。俺は誰の頼みも聞いてないぞ」

「聞いてたじゃない」

「いつ?」

「昨日よ」

「昨日?」

 

 そう言われて、再び俺は海馬に散りばめられた記憶を丁寧に掬った。

 昨日と言えば、確かツンデレ娘が俺のところへ凸ってきたことくらいしか記憶にない。

 それ以外は差し当たって男友達とだべったり、先生に使い回しされたくらいの何気ない日常である。

 頼み事、と言われて思い浮かべるのは眞妃と先生だけ。

 でも先生なんかにお願いされても、かぐやがこうなる訳ないし、かと言って眞妃との話は誰にも聞かれないように外で話をしたのだ。かぐやが知っている訳がない。

 いや、もしかして着いてきてた?

 

「お前、昨日盗み聞きしてたのか……」

 

 なるほどと言った様子で俺がため息をつけば、かぐやは少し強張った表情で俺の手に爪を立てる。

 

「なんで黙ってたの」

 

 それが何を指している言葉なのかは想像に容易い。

 確かに、今まで俺はかぐやにはあんまり隠し事をしてこなかった。

 それは彼女がそういう行為を嫌がるからであり、彼女は情報というものにすごくデリケートだからである。

 それなのに俺は今回のこと、つまり”眞妃と付き合っていた”ことは秘密にしていた。

 それは一概に、四宮家と四条家が仲悪いと知っていたからだ。

 俺としては別に他意があった訳じゃない。

 別にかぐやには眞妃のことを言ってもいいと思っていたし、なんなら眞妃も俺とかぐやは仲が良いことを知っているので気にしないだろう。

 しかし、それが当人たちだけの話で済むならである。

 そこにかぐやのお兄さんたちやら、執事やら、さらには四条家の両親やら、使いの人やらが出てくる可能性があるから面倒なのだ。

 俺としてはあくまで四宮家と四条家のいがみあいは中立である。

 どちらかに加担する気もなければ、どちらかを陥れようと思ってもいない。

 俺が好きなのはあくまで、そのグループに所属している人間であり、間違ってもそのグループ自体に関して好き嫌いなど無いのだから。

 

「あくまで俺と眞妃のプライベートな話だったから話さなかった。かぐやもプライベートな話を眞妃に知られたくないだろ?」

「……じゃあ、私の情報をたいきは流してないって言うの?」

「当たり前だ、バカたれ。噂やゴシップの怖さは俺が一番知っているだろ」

 

 俺はそう言って苦笑いを浮かべる。

 芸能人として働いている俺が、ゴシップの怖さを理解していない訳がない。

 

「だったら、私の頼み事も聞いてちょうだい」

「それとこれとは話が違うだろ。その日は仕事があるんだよ」

「なんでよ!! どうせ、あの四条の娘が気になるんでしょ!? どうせ男なんてそんなもんよ! 下半身に忠実で、欲望を剥き出しにするケダモノよ!」

「話が噛み合ってねぇな、おい……」

 

 俺はそう言ってこめかみを指で押し当てる。

 かぐやという人間は昔から聡いようで脆い人間だった。

 一度誰かに懐へ入られたら、その者に攻撃された瞬間フルボッコの開始である。

 今で言えば、千花や御行がそれに当たるだろう。

 誰かに裏切られたと分かった瞬間、こうやって稚児のように涙を浮かべて喚き散らす。

 もし、彼女の大好きな御行が「四宮が嫌いだ」とか言えば、きっと自殺するんじゃないだろうか。

 まあ、その時はその時で、なんとかしてやろう。

 とりあえずだ。経験則から言うと、こうなったかぐやは非常に面倒くさいということを俺は知っている。

 普段は凛々しく聡明な彼女であるが、そこから一転、一定以上のストレスを抱えたり、体調不良を起こした時などは、このように駄々っ子になる。

 まさに欲望の権化。幼児がなりふり構わず感情を発散させているのに近い。

 こうなった彼女を止めるには奥の手を切るしか無いだろう。

 

「仕方ない、かぐや。ならこうしよう。今回はどうしても外せない仕事で無理だが、その代わり、次にお前がする頼み事は何がなんでも聞いてやろう。仕事も、プライベートも、何も関係なく、次はお前のために動いてやる」

 

 俺はそう言って一本だけ人差し指を立てて、かぐやに笑いかける。

 あくまでもこれは問題の先延ばしでしか無いのだが、まあ、こうでもしないと彼女は引いてくれそうに無いし、仕方ない。

 かぐやも俺の言葉を吟味しているのか、先ほどから黙って目を伏せている。

 このまま大人しく納得してくれれば良いんだけどなー。

 

「……分かりました。今回はそれで飲んであげます」

 

 かぐやはそう言ってため息をつくと、仕方なしですよっと言った様子で俺の提案を飲んでくれる。

 よかった。これでダメなら、愛の力を借りるしかなかった。

 

「では、早速お願いがあるのだけど」

 

 彼女はそう言って姿勢を正す。

 約束を取り交わした瞬間にそれを執行するとは流石は四宮家の令嬢。中々の胆力だ。

 まあ、ずっとお願いを保留されるより、今その場で使ってくれる方がありがたいから良いけど。

 でもなんだろ、少し嫌な予感がする。気のせいだろうか。

 

「……一応言っとくけど、死ねとか、裸で校内走れとかは無理だぞ」

「しないわよ、そんなお願い! 私を普段どんなふうに思ってるの!?」

 

 なんだよかった。俺の人権を無くすようなお願いはされないらしい。

 これなら落ち着いて彼女のお願いが聞けそうだ。

 俺はそう思い、かぐやの次の言葉を催促させるため、スッと手のひらを向けて「ではどうぞ」と言う。

 

「簡単なお願いよ。パリ姉妹校のパーティーで出し物してちょうだい」

「うん、振り出しに戻ったね」

 

 俺はそう言って、思考を捨て去ることにした。

 

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