大仏の兄は飄々としている 作:奈良の大仏
ごめんなさい。
タイトルをつけることにしました。
見返したい時に誰の話か分からないので。
あと、大仏たいきの9人の元カノは全て原作キャラだったりします。
9人目が四条眞妃です。
局所的に俺は体育の授業に参加しなかったりする。
別に運動が嫌いだとか苦手とかそういう話ではない。
単純に仕事関係で怪我をしたらダメな時期だとか、役作りのため体へ負担をかけられない時期だとか、そういうのが存在しているからである。
まあ、こんな生活を中等部の時から続けているせいで、今更それに対してどうこう思ったりしないのだが、それでもふと部活で真剣にスポーツをしてみたいと思ったりもする。
初等部までは何も考えず誰かとサッカーしたり、鬼ごっこしたり、野球なんかもやったりしたものだ。
誰かとともに汗を流し、誰かとともに切磋琢磨する。
まさに青春と呼べるような一ページ。誰もが一度は体験する汗と涙の喜劇である。
「ゲームセット!!!」
そんな審判の轟きが聞こえれば、目の前では御行が見事サービスエースをきめていた。
おかげで一部の女子たちは大盛り上がり、かぐやも熱っぽい視線を浴びせている。
俺からみても、確かに白銀の動きは元バレー部だったのっていうほどの動きだ。
普通、素人がジャンプサーブなんてできないから。
「やべーB組の白銀まじでつえー」
「まず、ジャンプサーブが取れねーよ」
「どうする? 女子たちがいるのに負けっぱなしとかマジで恥ずいんだが」
さっき試合に負けた連中が、俺の見学しているところまで下がってきて愚痴をこぼした。
まあ、運動神経良いやつなら取れないこともないサービスだし、多分、次回以降の体育であればコイツらも慣れてきて白銀完封時代は終わりを告げるだろう。
だが、コイツらには男の意地というものがあるらしい。
次回の体育に勝ったところで、今日良い思いをしているのは白銀であり、それのせいで割りを食っているのはA組の男子連中である。
このまま引き下がっては、A組のブランドが保たれない。
これはA組の男子たちの壮絶なモテるための戦いでもあるからだ。
「なあ、ちょっとだけで良いから、たいきも出ねー?」
陸上部の真人が俺にそう問いかけてくる。
まあ、1試合くらいなら出てもいいのではと思っているが、念のため首を横に振った。
「すまんが、後で何言われるか分からん。あいつ面倒だし」
「えー、ころもちゃんだっけー。あの子学校来てないから、ばれねーってー」
「そうだ、そうだー。いつも観戦ばっかりしやがって、お前も負けて株落とせー」
「たいき調子のんなー」
「お前ら、後半が本音だろ」
クラスの男子連中に揶揄されながらも思い出すのは仕事の後輩の女の子。
まあ確かに、妹と同じ歳の女の子にびくびくしてるとか、笑えないなと思う。
「でも俺こう見えて今減量中なんだが」
「はあ? 減量中こそ運動しろよ」
「いや、やりすぎはよくねーんだよ。体壊れるわ」
そうここ最近俺は毎朝のランニングにくわえ、昼に食べるものはりんごひとつだけだったりする。
これも全ては夏休みに撮る病的な患者を演じるため。
大丈夫だ、マシューだってこのくらいしているに違いない。
俺も見習って頑張ろう。
「じゃあ、ローテーションの一周分だけ出てくれよ」
「そうそう。それなら十分お前の株も一緒に下げられるからさ」
「お前ら本当に気骨だな」
半分いじられながら仕方ないか、と1人思う。
コイツらとスポーツすることなんて本当に最近では滅多にないことだ。
上辺ではこう言っているものの、本当のところ俺たちは一緒にスポーツをして遊びたい。
だったら友達として、A組の男として、このバレーの授業に参戦するべきであろう。
「はあ、しゃーねえ。一周分だけだぞ」
俺はそう言って上着を脱ぎ、下に着ていた体操服になる。
べ、別に最初から参戦する気があったから体操服を着ていたのとかじゃないんだからね!
と、どこぞのツンデレ娘みたいに言ってみるが、気持ち悪いので今後は控えよ。
事実、俺が体操服を来ているのは先生に、「一応着ておきなさい」と言われているからだ。
体操服持ってこなかったとき、関心・意欲・態度の点数を消すぞと脅されたのは記憶に新しい。
「あれ、大仏が出るの?」
「たいきくーんがんばれー!」
「おーい、たいきー。負けたら放課後にスムージー奢ってねー」
なんか出てきただけでめちゃくちゃ言われているけど、気にしないでおこう。
俺が体育に出るのなんて、本当にいつぶりか。
高校2年になってからは参加してないので、多分3月が最後。
つまりこのクラスの連中で戦うのはこれが初めてということになる。
ふむ。連携もクソもないな。
とりあえず準備運動だけは怠らずにやっておこう。
「ポジションはテキトーに安定感のある住友がセッターポジで、背の高いたいがと足速い真人が
そうやってテキパキと指令を下せば、みんな俺の意見に納得してくれたのか意気揚々と自身の持ち場についた。
これは部活の練習試合なんかじゃない。
誰も彼もが初心者で、バレーボールなんてそこまで熱を入れてしたことがない者たちだ。
ルールなんて当然、そこまで詳しく知らない。
戦略的にどのようなものがあるのかとかも知らない。
それ故に、ここで必要なのは知ではなく、力。
相手を徹底的にねじ伏せるだけの力である。
「まさか、お前が出てくるとはな」
俺がネット越しに相手を眺めていると、この場の中心とも成りつつある御行が立っていた。
普通に珍しい。コイツから俺に声をかけてくるなんてほとんど無いのだ。
それこそ何か必要事項を話す時だけ声をかけてくる。
なので、御行と俺は呼んでも、彼からは「たいき」と呼ばれたことがない。
顔見知り以上友達未満とかいう変な間柄である。
「んまあ、コイツらに後押しされてな。無様を晒せと言われたんだよ」
「なるほど。しかし本当にそのまま負けてくれると嬉しいのだが、そういう気もないんだろ?」
「もちのろん。誰だって女の子にはカッコよく見られたい」
俺はそう言ってにっこり笑い、ちらりとかぐやの方を見る。
御行もその言動を理解したのか、一瞬だけ苦々しい表情をしてエンドラインまで下がっていった。
さて、この挑発にどれだけの効果が発揮されるだろうか。
できることなら今のあれで精神状態を崩し、サーブの精度も乱して欲しいところだが。
白銀御行という男はそこまで弱くないと俺は知っている。
「じゃあ、ゲーム始めま〜す」
やる気のない審判役の生徒がそう声をあげれば、まずは定石通り御行のサーブから始まる。
大体、あいつのジャンプサーブ成功率は6〜7割。
本番でそれだけ決まっていれば十分武器として使っていいレベルの凶悪サーブである。
コート内に入ってしまえば、あれを綺麗に打ち上げるのは至難の業。
手で打ち上げることばかりを考え、反応が遅れて足も動かず棒立ちになってしまうというのが、さっきまでのA組チームであった。
しかし、俺が入ったからにはそう易々と決めさせたりはしない。
「住友! 龍! 真人! もうちょっと前! 御行のサーブは大抵前あたりに落ちる!」
「「「了解!!!」」」
御行の下がった歩数と、トスの高さから推測。俺の言葉に反応した反射神経のいい3人が一歩だけ前に出る。
そして放たれる御行のサーブ。
ぱしん、と気持ちのいい乾いた音を鳴らし、俺たちの守るコート内へボールを侵入させる。
そして……
「体当たりぃ!」
自分の範囲内に落ちようとするボール目掛けて、真人が体を張って止めた。
「ナイス!」
しかし、所詮は体に当てただけ。
手でしっかりレシーブするほどの技術はまだ真人にもない。
体で堰き止められたボールは誰も予期しない方向へと弾かれる。
あれを取らなければ、結局御行の独壇場は変わらない。
「まあ、落ちてないだけで十分だけど」
俺はそう言って隣のコートまで吹き飛びそうになったボールを追いかけて飛び上がった。
「いくぞ、伊織!」
俺はそう言ってオーバーパスの姿勢に入る。
届けるのはW Sの伊織がいる少し手前であり、彼の打点と思われる高さ。
本来トスとは通常セッターがスパイカーにあげるものであるが、時として、このようにセッターがあげることのできないようなボールを他の人があげることもある。
それ故に全員が思う。
俺がジャンプトスをして伊織にあげるのだと。
それが間違いだとも知らずに。
「一本っ!!」
オーバーパスの姿勢から無理やり上半身をひねり、そのまま腕を振り抜いてスパイクを決める。
誰もが唖然とする体育館。
伊織や真人といったA組の連中も、顔をポカーンとさせていた。
俺はそれを見てどうしようもなく笑いそうになり、ぷふっと1人声をあげてしまう。
「馬鹿正直にあげるわけないだろ、ばーか」
減量中のせいで、妙に重く熱い体を引きずりながら俺はからっと笑った。
あーあ、水分もろくに取ってないから、まじでさっさと勝負決めるか、一周分やらなければ倒れてしまいそうである。
怪我はしないで済むけど、熱中症で倒れるとか洒落にならん。
試合に勝って勝負に負けるみたいなものだ。
「負けるなー! B組!! A組なんか蹴散らしちまえ!」
「A組も勝ってねー!!」
「おぉ、なんかあそこのコート白熱してるぞ」
「会長! たいきくんなんかに負けちゃダメですよ! あの特訓の日々を思い出して!」
ふむ。いつの間にかどんどんギャラリーが増えている気がする。
これただの体育の授業なんだけど。クラスマッチと勘違いしてない?
俺はそう思いながらも、渡されたバレーボールを見つめる。
久しぶりにみんなとする競技。
誰かと一緒に行うチーム戦。
1人のプレイヤーに一喜一憂する観客。
ジムで走ったり、トレーニングマシンで1人黙々と運動をつけるのとは訳が違う。
体育祭も去年は出られなかったし、クラスマッチも去年は出られなかった俺としては、この感覚は久方ぶりに感じた高揚感だった。
「うん……。やっぱり、こういうのは楽しいもんだな」
元々、体を動かすのは誰よりも好きだった。
スポーツが好きで、誰かと遊ぶのが好きだった。
だから今だけは全て忘れてこれに没頭しようと思える。
本当は最後、御行に花を持たせてやろうと思ったが……。
「やるなら徹底的に、だな」
俺はそう言って悔しがるあいつを見て、大いにバレーを楽しむのであった。