翌朝
サイド7民間港
不味い、全然わからん・・・・・・ジオン行きのシャトルはどこだ・・・・・・
そもそも僕はこういう空港とか駅とかの乗り換えが物凄く苦手なのだ・・・・・・トーキョーほどじゃないけど、このサイド7空港も出来たばかりのせいなのかごちゃごちゃしててさっぱりだ。
僕はシャトルを探すことにイライラし始め、そして諦めた。
バカバカしい、なんで僕がこんなことを。僕がシャトルを見つけられないのはサイド7が悪いし、ひいては連邦が悪いのだ。そう、これも連邦憲章が間違っているせいなのだ・・・・・・
「アンタ、なにしてんの!?」
「ヒッ!?」
物思いに耽っていると、後ろから刺々しい言葉がかかった。
「もう出発時間よ!? こんなとこでボケッと突っ立ってんじゃないわよ!!」
そう言うと女は僕の腕を掴みゲートを駆け足で通過する。個人認証の際名前が表示され、女はシュテファニー・フォン・シュタイアーと呼ばれることを知った。
僕はこの気まずい空気を和ませようと話しかけた。
「シュテファニー・フォン・シュタイアーって言うのか~。なかなか言い名前だね」
「はぁ?!」
シュテファニーに物凄い顔で睨まれ、僕は泣きそうになったが我慢して平気な顔を保った。
クソっ、これだから女は感情で動いて困る。せっかく僕が気を遣ってやったのに・・・・・・
気まずい空気のまま僕はジオン行きのシャトルに乗り込み、サイド7に永遠の別れを告げた。
さらばサイド7、何の思い出もないけれど。さっさと嫌な奴諸共ぶっこわれてしまいますようにっと。
「ジーク・ジオン! ジーク・ジオン!」
シャトルの中は異様な空気に包まれていた。ハイスクールの修学旅行のバスの中のように、陽キャどもがバカ騒ぎをしている。違うのは年齢が一回りも上ということだ。見るからに下劣な連中だ。僕は隅の席で寝たふりをした。シュテファニーは貴族らしく別の船室に向かっていった。僕も連邦軍将官の息子という高貴な生まれだし一緒に行くべきと思ったんだけど、シュテファニーが怒っていたので黙っておいてやった。僕は女と違って空気が読める。
「オイ! アンタも一緒に呑もうぜ! シュテファニー様の奢りだ!」
酒臭い男が馴れ馴れしく肩に腕を回し、鼻先にニホンシュの入った瓶を持ってきた。フン、あまり上等じゃないな。まぁ、いただいてやろう。ゴクゴクと飲み干していると、酔っ払いが僕をしげしげと眺めてこう言ってきた。
「あんちゃん、ひでえボロボロな格好じゃねぇか・・・・・・あぁいやすまねぇ、俺ァ口下手でな、許してくれや。あんちゃんがえらい苦労をしただろうに・・・・・・」
そういって涙ぐむ酔っ払いのオッサン。泣き上戸か、コイツ?
「いや、別にそんな苦労はしてないけど」
「おぉ! 謙虚なあんちゃんだなぁ! おおいみんな! この苦労人でいいやつのあんちゃんに乾杯してくれ!!」
すると、ジークジオンの合唱をしていた連中がワッと寄ってきて、僕の姿を見るなり涙ぐんでは乾杯を叫んだ。
「乾杯! うぅっ・・・・・・俺より酷い格好をしてる奴初めて見たぜ・・・・・・」
「あぁ、こんなボロボロになるまで連邦の奴らにこき使われたんだな・・・・・・連邦はゆるせねぇ!!」
泣いたり怒ったり忙しい連中だなぁ。そう言えば連邦軍の刑務所を釈放されて河原で寝っ転がってそのまま来たから、着替えてないんだよな。まぁ、家でニートしてた頃から服はあんま着替えなかったしお風呂もたまにしか入らなかったしなぁ。しかしひさびさに酒を飲んで気持ちがよい。
「これで温泉に入れたら最高なんだがなぁ」と呟く。
「オンセン? オンセンってなんだよあんちゃん?」
「オンセンってあれだろ? 地球にあるっていう塩っ辛くて大きい水!」
横から割り込んできた別の酔っ払いの冗談に僕は笑った。
「ハハハ、酔いすぎだよ、そりゃ海だよ。まぁ海に入るならビールの方がいいね」
「アハハ、すまねぇすまねぇ。学校で習った気がするけどもう忘れちまったよ! 覚える意味もねえからな!」
そう言って酔っ払いは頭を叩いて笑った。
「しかし兄ちゃんはまるで海に行ったことがあるみてぇじゃねぇか。どこか漁業用コロニーの海で働いてたのかい?」
「漁業コロニーの海? 写真で見たことあるけどあんなの池だよ池! アッハハハ! 僕が入ったのは本物の海さ! 気持ちよかったねぇショーナンは・・・・・・」
僕が瓶を揺らしながらショーナンの海を思い浮かべていると、周りの酔っ払い達は遠巻きになってこそこそと話し始めた。
「え・・・・・・地球に行ったことがあるのか、この男・・・・・・?」
「移民第一世代なのか・・・・・・?」
「バカ言え、禿げてるとはいえまだそんなジジイじゃねぇだろ・・・・・・」
なぜかはわからないが不穏な空気が漂い始めたので、僕は場を和ませようと冗談を言った。
「まぁ、ショーナンの海なんて大したことはないよ。やっぱりシドニーの海が一番さ。なんてったってグレートバリアリーフの絶景と言ったら――」
その瞬間、酔っ払い達はこれまでの喧噪の三倍の大きさで騒ぎ出した。
「アースノイドだッ!地球人がこんなとこに紛れ込んでやがった!!」
「連邦のスパイだ!ひっとらえろ!!」
そしてあっという間に僕はもみくちゃにされ吊し上げられたのであった・・・・・・