シュテファニーが船内の異変に気づいたのはランチを済ませた後だった。
シュタイアー家の財政は厳しいが、貴族の面子を保つために船室は上のランクを取らねばならないし、徴募した兵達に景気付けの酒食も振る舞わねばならない。
よって個人的な食事は極めて質素なものとなっており、この日のランチもジャガイモとキャベツだけで済ませた。その分、キャビンアテンダントがドアをノックしてお連れ様が騒いでいると呼んできても、出征兵だから多目に見てあげてとクルーへチップを弾んだのだ。なのに再び「お連れ様が・・・・・・」とドア越しに言われると若干腹が立ったのも仕方がない。この航海中毎日ジャガイモとキャベツ尽くしになるのかしらと、溜め息混じりに財布を持ってからドアを開けると、キャビンアテンダントの顔は焦燥感に溢れていた。シュテファニーもただならぬ状況と察し、冷静に尋ねた。
「どうしたのかしら?」
「シュテファニー様、緊急事態でございます。この船に連邦のスパイが・・・・・・それもお連れ様の中に」
「えっ?」
バカな、と思った。徴募兵は全員私自身が綿密に身上を調べ上げて反連邦思想の者だけにしたはずだ。
「名前は分かる?」
「確かサワユキ・・・・・・といったかと」
「ありがとう。それはただのデマよ。私が今すぐ解決するから安心するように他のクルーには伝えて」
彼女の手のひらにチップを押しつけると、少し不安そうに下がっていった。
さて、行くか。
「オラっ吐けっ、この連邦の犬め!」
「ぎゃああああっ! だからスパイじゃないって言ってるだろ! このバカ底辺ども!!」
「俺達スペースノイドをバカにしてやがる! やっぱりコイツは連邦のスパイに違いない!」
酔った徴募兵は日頃の鬱憤晴らしにサワユキをタコ殴りにした。そしてしまいには「呼吸をさせるな! 宇宙に放り出せ!」のかけ声とともに口を塞がれ窓から放り出されようとするサワユキだったが、ちょうどその時にシュテファニーが一般船室へ降り立った。
「アンタ達、何やってんの!?」
「ひ、姫!!」
床でのびていたサワユキを除く徴募兵は全員シュテファニーに敬礼した。
「一体どういうこと、コレ?」
サワユキを足蹴にしながら尋ねるシュテファニーに徴募兵は答えた。
「はっ! こやつ、連邦のスパイでありました!!」
「バカ!! なわけないでしょ、こいつはただ最近になって宇宙へ追い出されたロクデナシよ。アンタ達は誰一人欠けても困るんだから、お互いに労りなさい!」
じゃないと私がザビ家に詰られるんだから、と心の中で付け加えた。
「はっ!! 姫の我々を思いやるお気持ち、感激の極みであります!」
「ジーク・ジオン! ジーク・ジオン!!」
兵達の歓呼が始まると、シュテファニーは手を振るだけで応え、それを避けるように足早に立ち去った。
「え、俺の治療はしないのか・・・・・・?」
サワユキは床で呻いた。