無職転生 - SSでも本気だす -   作:イルキ

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第六十九話と第七十話の間のお話。(本文約8,500字)


相談のきっかけ

「ルーデウス君も生徒会に入らない?」

 

ボクがそう言ったのには理由がある。

 

『泥沼のルーデウス』

 

ボクらがその情報を得たのは入学して3年目の時だ。

ボクはこれがルディだとすぐ確信したがアリエル様とルークは半信半疑だった。

無理もない。このとき得たルディの情報は明らかにおかしかった。

おかしいものではあったが情報通りの強さを持つ人物であればアリエル様も力を貸してほしいと言っていた。

 

ボクがルディと戦った後の話合いでは、アリエル様もルークもルディを悪く言っていた。

一旦、ルディを仲間に引き入れるのことについては保留となってしまった。

 

(アリエル様とルークを説得する方法は無いかな…)

 

ボクは考えた。

考えた結果。

 

(そうだ!生徒会に入ればいいんだ!)

 

生徒会に入っているのは、ボクらだけじゃない。

普通の生徒も生徒会に入っているのだ。

そこで一緒に働けばルディが無害であることが証明できるはずだ。

もし仮にルディが有害だったとしても仲間に入れなければいい。

ルディに限ってそんなことあるはずがないが。

 

(それにルディが生徒会に入ればボクと一緒にいられる時間も増える!)

 

あのかっこいいルディを生徒会室でも見られる。

もちろん、アリエル様の仕事や生徒会の活動も真面目に取り組む。

 

色々と考えてみるとますますこれが良案に思えた。

ボクは早速、この案についてアリエル様に話した。

すると、アリエル様は「良いでしょう」と許可を出してくれた。

 

(よし!明日、ルディに話そう)

 

そして、今。

ルディを生徒会に誘ったのだ。

 

 

 

−−− ルーデウス視点 −−−

 

 

今日もフィッツ先輩と仲良く転移事件の調査をしていた。

少し休憩していると、フィッツ先輩が「そういえば、ルーデウス君」と言って話を始めた。

 

「ルーデウス君も生徒会に入らない?」

「生徒会ですか?」

「うん。ルーデウス君は強いし礼儀正しいから生徒会の一員としてやっていけると思うんだ」

 

生徒会。懐かしい名前だ。

前世ではその集団に入って「生徒会に入っています」と言うと大人からの印象はアップし面接のネタとしても使われた。

時には、集団の中からカップルが生まれる場合もあるらしい。

 

俺には無縁の話だったが。

ん?カップル?

 

「生徒会って『恋愛禁止』なんてルールがあったりしますか?」

「え!?……ないけど」

「そうですか」

 

なんとこの世界の生徒会も恋愛ができるらしい。

 

生徒会で俺の敏腕がふるわれて1人の女性が俺に恋をする。

俺はそれを快く受け入れアレが治療される。

なんてことが俺の脳内で出来上がった。

もっともそれで治るなら苦労はしてない。

 

「今のルーデウス君は他の生徒から悪いイメージがついてるでしょ? だから、生徒会で活動していけばそれを払拭できると思うんだ」

 

しばらく悩んでいるとフィッツ先輩が話だした。

確かに他の生徒からの視線は今のところ良くない。

むしろ悪いだろう。

 

入試とはいえ学園最強といわれたフィッツ先輩を模擬戦で倒したり下着泥棒の疑いをかけられたり。

俺が特別生なのもあるだろう。

このままじゃアレの治療もできそうにない。

 

「君も周りから悪いイメージがついた状態を良くは思わないでしょ?」

「はい」

「どうかな?」

 

考えてみると良い案に思えた。

 

「そういうことでしたら」

 

と言って止まった。

 

この世界の生徒会は前世の生徒会とは違う。

今の生徒会は複雑なのだ。

 

「いえ…先輩、お聞きしたいことがあるんですが」

「うん、いいよ。なにかな」

 

フィッツ先輩は上機嫌だった。

俺を生徒会に入れようと言いだしたのは彼なのかもしれない。

 

「今の生徒会長ってアリエル・アネモイ・アスラ王女ですよね?」

「うん、そうだよ」

 

アスラ王国第2王女アリエル・アネモイ・アスラ。

 

彼女の話はザノバから聞いた。

 

そんな彼女が、俺を生徒会の一員とするのを許すだろうか。

いや、フィッツ先輩のことだ。

すでに許可を得たのだろう。

 

じゃあ狙いはなんだ。

俺をアリエルの陣営に加えることだろうか。

俺はフィッツ先輩を倒したことで学園最強になった。

彼女はそんな俺の実力を評価して自分の護衛とするつもりだろうか。

 

俺は元冒険者だ。

ジーナスも言っていたが在野の魔術師は魔法大学そのものを見下してることがあるらしい。

 

そんな俺を、おいそれとアリエル陣営に加えるのは良くないと判断したのだろう。

そこで、俺の生徒会での働きぶりを見て陣営に加えるか検討する。

 

そんなところだろうか。

なんだか今日の俺は冴えている気がする。

 

しかし、彼女の護衛となれば戦うことも増えるだろう。

俺はこう見えて戦うのが苦手だ。

できることなら戦わずにいたい。

 

もしくは、俺の実力を危険視して抹殺するのが狙いだろうか。

いや、そんな話をフィッツ先輩がしてくるわけがない。

 

どちらにせよ、アスラ王国の政争に巻き込まれるのは御免だ。

下着泥棒の件もあってフィッツ先輩には申し訳ないがここは断らせてもらおう。

 

「フィッツ先輩、生徒会に入るのはやめておこうと思います」

「えっ…そっかぁ」

「せっかく誘っていただいたのに、すみません」

「いや、いいんだよ。謝らないで」

 

フィッツ先輩の長い耳が垂れ下がっていた。

彼はサングラスで目を隠していて表情を見ることはできないが、稀に感情が耳に出ることがある。

 

「えっと、一応、理由を聞いていいかな?」

 

理由。

素直にアスラ王国の政争に巻き込まれるのが嫌だと言ってもいいがフィッツ先輩はその渦中にいる人だ。

あまり快く思わないだろう。

 

あと、ヒトガミは転移事件について調べろと言ったはずだ。

そうすれば、男としての自信を取り戻せるだろうと。

生徒会として活動することじゃない。

 

「転移事件の調査も忙しいですし、生徒会に入ってしまうと調査の時間がなくなってしまいますし」

「あー、そうだね」

「あと、僕は傍流したとはいえグレイラットの血筋です。父の元の名はパウロ・ノトス・グレイラットです。何か良からぬ勘違いをする人も出てくるかも知れませんし」

「あ、そっか」

 

これは後腐れなく断るための言葉だ。

パウロや俺も血筋や家名は気にしない。

家庭教師時代はボレアスとも関わりがあったが、今はノトスともボレアスとも縁は切れている。

 

「それに…」

 

そこで思い出した。

思い出してしまった。

 

魔大陸からフィットア領に帰ったときのことを。

 

エリスの祖父サウロスは転移事件の責任を取らされて処刑された。

それを聞いた当時の俺は反射的に「馬鹿な」と言っていつの間にかイスから立ち上がっていた。

あれは兆候も何もなく人が防げるようなものではなかった。

あれは天災だった。

 

たくさんの人が死んだにも関わらず国はまた人を殺したのだ。

難民キャンプに着いたときも国が復興に力をいれてるようにはみえなかった。

 

もしサウロスが生きていればフィットア領の復興は今よりも進んでいただろう。

そんなタラレバが頭の中をグルグルしていた。

 

俺がアスラ王国の政争に手を貸したくないのはこういったところにもあるのだろう。

 

しかし、そんなことは俺にとっては小さいことだ。

 

エリス。

エリスだ。

 

ギュッと握られた手の痛みは今でも思い出す。

 

エリスの父と母は転移事件で亡くなった。

サウロスは国に処刑され亡くなった。

つまり、エリスにもう家族はいない。

ギレーヌは生きていたが家族とは違うだろう。

 

そして、あの夜。

エリスは家族を欲していた。

そこで俺とエリスは経験者となったわけだが。

 

エリスは出て行き、俺はEから始まってDで終わるものに罹った。

あれでエリスが立ち直れたなら良いが俺は病気になった。

 

もし、あの夜がなければ、俺はこんな気持ちになっていなかったのではないか。

もし、サウロスやフィリップが生きていれば、あの夜はなかったのではないか。

 

またタラレバが頭の中をグルグルする。

 

 

あぁ、俺って嫌な奴だな。

 

 

「…デウス君!、ルーデウス君!」

「え?」

「どうしたの、大丈夫!?」

 

言われて気付いたが俺は涙を流していたらしい。

まただ。また泣いてしまった。

あれを思い出すといつもこうだ。

 

俺は咄嗟に制服の袖で涙を拭ったが、止まらない。

ポロポロと落ちてくる。

すると、フィッツ先輩が手でハンカチを持って俺の涙を拭ってくれた。

 

「これ、使ってよ」

「すみません…、ありがとうございます……」

 

フィッツ先輩のハンカチで涙を拭っていると、ふと良い香りがした。

優しくて、温かみがある香りだ。

俺はその香りで、また涙を流す。

 

 

あぁ、しばらく止まりそうにないな。

 

 

 

−−−

 

 

フィッツ先輩は俺が泣き止むまでずっと待ってくれていた。

待つだけじゃなく、頭を撫でてくれたり背中に手を置いてヨシヨシとしてくれた。

 

どのくらい時間が経っただろうか。

俺が泣き止むとその手はあるべきところに戻っていった。

少し残念だ。

 

「これ、ありがとうございました。洗って返しますので、明日まで待ってもらってもいいですか?」

「ううん、いいよ。一緒に洗うから気にしなくて大丈夫だよ」

「そうですか、本当にありがとうございました」

「いえいえ」

 

嬉しそうに笑うフィッツ先輩に、俺はハンカチを返した。

 

「…見苦しいものを見してしまいましたね」

「え、そんなことないよ。ルーデウス君にとって悲しいことがあったんでしょ」

「…」

「それに、悲しいことを思い出させてしまったボクにも原因があるというか、その…ごめんね」

 

またフィッツ先輩の耳が垂れ下がってる。

フィッツ先輩は暇じゃない。

アリエルの護衛という仕事がある。

そんな中、時間を作って俺に協力してくれているのだ。

少ない時間の中、俺は泣き止むまでフィッツ先輩を待たせ、ハンカチを借り、そして今「自分が原因だ、ごめんね」と言っている。

俺は最低だ。すぐに否定しなければいけない。

 

「いえ、これはフィッツ先輩が原因ではないです。なので謝らないでください」

「え、は、はい!」

 

つい強めの口調で話してしまった。

今日はなんだか失敗続きだ。

 

何か話さなきゃいけない気もするが言葉がでてこない。

 

「…」

「…」

 

しばらく沈黙が続いた。

今日はもう転移事件の調査はやめて寮に帰ろう。

酒場に行って、久しぶりに酒でも飲むか。

そうしよう。

酒を飲んで今日のことは忘れよう。

 

そう思ったとき、フィッツ先輩の口が開いた。

 

「あのね、ルーデウス君。昔、ボクのお父さんに聞いたんだけど、人は悩みがあるとずっと心に溜め込んで苦しい思いをしてしまうんだって」

「…」

「けど、その悩みを誰かに話すことで発散できるんだって」

 

それは前世でもよく言われていた。

前世の俺は誰にも相談できなかったが。

思えば、今も誰かに相談していなかったかもしれない。

 

 

「だからね、ルーデウス君。君の悩みを、ボクに話してみてよ」

 

相談することで解決出来るとは限らない。

しかし、相談することで頭が整理されることや、心がスッキリすることもあるのだろう。

そして今、フィッツ先輩は俺のために「ボクに相談して」と言ってくれている。

 

なんて人格者だ。

最高です。フィッツ先輩。

 

「少し長くなるかもしれませんが、いいですか?」

「うん、いいよ。話して」

 

俺の悩みはフィッツ先輩では解決できないだろう。

しかし、俺はフィッツ先輩に話した。

 

ある少女と一緒に魔大陸から3年かけてフィットア領に戻ってきたこと。

難民キャンプに着いたとき、国が再建に取り組んでるようには思えなかったこと。

ある少女の祖父がアスラ王国で転移事件の責任を取って処刑されたこと。

俺は転移事件の生存者を処刑したことに憤りを感じていること。

ある少女の父と母は転移事件の影響で亡くなり、その少女に家族はもういないということ。

ボレアス家の家臣団会議のこと。

ある少女は、家族を無くし悲しんでいたこと。

ある少女は、気付いたらいなくなり、今はどこにいるか分からないこと。

 

なぜだか分からないがエリスの名前は出さなかった。

あと、あの夜のこと、病気のことは話さなかった。

あまり人に聞かせていい話には思えなかったからだ。

 

話しているとまた涙が落ちてきたので、その度にフィッツ先輩のハンカチにお世話になった。

 

それと、フィッツ先輩は話の合間によく質問をしてきた。

話を聞いてくれている証拠だと思う。

 

「その少女を妾にって話をしてきたのは誰だったの?」

「確か、ピレモン・ノトス・グレイラットだったと思います」

「へぇ、あの人が…」

 

フィッツ先輩は手を口に当て、考えていた。

耳が上下にピコピコと揺れている。

かわいい。触りたい。

違う、話の続きだ。

 

「あ、実際に妾にするのは確か違かったと思います」

「え、だれ?」

「ダリウス・シルバ・ガニウス上級大臣です。彼はある時、その少女を見て気に入ったらしいです」

「ダリウス…」

 

フィッツ先輩の雰囲気が変わった。

サングラスで表情が分からないが多分怒っている。

 

「これは会議で話された予想ですが、第2王女派に属していたピレモンは、国外追放された第2王女の派閥の力が弱まっていると見て、第1王子派に寝返るために、ダリウスにその少女をさし出すだろうと話していまして」

「…」

「あっ」

 

忘れていた。

ベラベラと話していたが第2王女はアリエルのことだ。

そして、フィッツ先輩は彼女の護衛だ。

恐る恐る彼の顔を見てみると、サングラス越しでも分かるくらい怒っていた。

彼にとって、この話はまったく無関係というわけではなかったらしい。

 

「あの…フィッツ先輩?」

「あ、ごめんね。ちゃんと聞いてるよ」

 

そう言いつつ、フィッツ先輩はまた俺の頭を撫でた。

いつものフィッツ先輩に戻ってくれた。

 

「続けて」

「はい」

 

俺はまた話を続けた。

だが、もう話すことは少ない。

 

この件は俺が生徒会に入らない理由ではないということ。

単純に転移事件の調査に忙しいから生徒会に入らないということ。

 

最後に、この件は誰にも話さないでほしいこと。

 

だが、フィッツ先輩はここで口を開いた。

 

「ダリウス上級大臣とピレモン様の話だけアリエル様に話してもいいかな?その話はボクらにとって無関係じゃないみたいなんだ」

 

俺は悩んだ。

悩んだが、フィッツ先輩なら大丈夫だろう。

彼を信用することにした。

 

「はい、そういうことでしたら。構いませんよ」

「ほんと!?ありがとう、ルーデウス君!」

 

彼は小さくガッツポーズをした。

 

 

−−−

 

 

俺らはまだ図書館にいる。

窓から見える外の景色はすっかり暗くなっていた。

時間もいつもより遅いだろう。

 

「えっと、ルーデウス君。どうかな、少しは楽になれたかな?」

「はい、楽になりました」

 

少しなんてもんじゃない。大分楽になった。

 

「そっかぁ、よかったぁ」

 

彼は嬉しそうに耳の裏をポリポリかいている。

これは彼特有の仕草で俺も気に入っている。

 

「フィッツ先輩」

「な、なにかな!?」

 

驚いたのか口調がおかしくて笑ってしまう。

 

「時間、いつもより遅いですけど大丈夫ですか?」

「え、あ、うん。今日は特にアリエル様のお仕事はないから大丈夫だよ」

 

つまり、今日は休日だったのか。

 

「そうですか。休みの日にわざわざありがとうございます」

「いいんだよ、気にしないで。それに…」

「それに?」

「……なんでもないよ!」

「そうですか」

 

いつもの俺ならここで話を終わらせていただろう。

だが、今回はフィッツ先輩が何を言おうとしたのか気になった。

 

「少し気になりますね」

「え、んーと」

 

彼は少し考え、こう言った。

 

 

「ないしょ」

 

…これも俺のお気に入りだ。

 

 

 

 

−−− シルフィ視点 −−−

 

 

ボクらは今、2人並んで寮に帰っている。

ルディが言った通り時間はいつもより遅かった。

 

そういえば、さっき咄嗟に「今日は仕事じゃない」と言ったけど、あれは嘘だ。

今日はボクの休日じゃない。

アリエル様には事前に「ルディを生徒会に誘うから遅くなる」と伝えている。

 

ちょっと遅すぎる気もしたけどアリエル様だったら大丈夫だろう。

 

「そういえば、先輩。次のお休みはいつですか?」

「えっと、ごめん、まだ分からないんだ」

「次のお休みが決まったら教えてください」

「え、どうして?」

「今日のお礼にご飯でもご馳走しようかと思いまして」

 

ルディとご飯。すごく行きたい。

大きくなったルディと一緒にご飯を食べる。

ブエナ村にいたときから憧れていた。

嬉しくて顔が変な形になりそうなのを感じた。

 

「ほんと?嬉しいなぁ」

 

平然を装っているつもりだ。

ちゃんと出来ているよね?

大丈夫だよね?

 

よし、帰ったらアリエル様に相談しよう。

 

「わかったよ。決まったら教えるね」

「はい、お願いします」

 

いつもこんな風に雑談しながら帰っている。

気付いたらいつものわかれ道だ。

 

この時間、男子生徒が男子寮に行くには遠回りしなくちゃいけない。

寮生の決まりごとだ。

 

「じゃあ、フィッツ先輩。今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします」

「うん、またね」

 

この瞬間は少しだけ寂しい。

もう一生会えなくなるわけじゃないのに。

 

そうだ。

ルディに1つ言うことがあったんだ。

 

「あ、ルーデウス君」

「はい?」

「ルーデウス君はこれからもたくさん悩んだり苦しんだりすると思うんだ」

「…」

「だから、その、そういうときは溜め込まないでボクに話してね」

 

「はい、分かりました。そういうときは、またお願いします」

 

ルディは少しの沈黙のあと、笑顔でそう言った。

 

 

 

−−−

 

 

あの後、ボクはアリエル様にその日のことを報告した。

もちろん、ルディに秘密と言われたところは話していない。

アリエル様には悪いけど、2人だけの秘密ができたみたいで嬉しい。

 

ルディが生徒会には入らないことを伝えても、アリエル様とルークは無表情だった。

けど、ダリウス上級大臣とピレモン様の話については顔をしかめた。

 

ルークは小さい声で「そうか」と言い、アリエル様は「予想していたことです」と言っていたが、2人共落ち込んでいるように見えた。

 

報告を終えるとアリエル様がボクとルディとのご飯の予定を立ててくれた。

つまり、ボクの休日だ。

 

アリエル様は場所も決めようかと提案したが「今回は男からの誘いです。あの男に任せたほうがよろしいでしょう」というルークの言葉から場所はルディに任せることになった。

ルディのことは悪く言っても、2人はいつも優しい。

 

だけど。

 

(ボクは今、ルディから男の子だと思われてるんだよなぁ)

 

 

 

−−−

 

 

自室に戻って今日のことについて考えた。

 

まず、ルディだ。

ルディはボクに悩み事を話しながらも、何か隠していた。

 

(ボクがブエナ村のシルフィエットですって言えば、ルディは全て話してくれるかなぁ)

 

けど、ボクは正体を明かせない。

アリエル様から許可はもらっているけど、入試のときに「はじめまして」と言われてから正体を明かすのが怖いのだ。

 

あと、ボクは気になることがあった。

 

(少女って一体だれなんだろう)

 

ルディは少女のことを大切に思っていた。

それは話の節々から伝わってきた。

それにルディは少女の話になると必ず涙を流していた。

 

(魔大陸から3年も一緒だったら、そりゃ大切に思うよね)

 

ルディは魔大陸からフィットア領までの道のりは詳しく話さなかった。

もし話していたら時間は足りなかっただろうけど。

 

(ルディからあんなに大切に思われるなんて、なんだか嫉妬しちゃうなぁ)

 

ふと、ポケットの中が気になった。

入っていたのはルディが涙を拭くのに使っていたハンカチだ。

 

(このハンカチどうしよう)

 

そして今日、急だったとはいえルディの頭と背中を触った。

手の開閉を繰り返して、あの時の感触を思い出す。

 

(ルディの背中、ゴツゴツしてたなぁ)

 

誰かに自慢したい気分だった。

 

ボクは周囲に誰もいないことを確認するとハンカチを持ってベッドに向かった。

 

ボクが今からやるのは、ルディとの間に良い事があったとき行う儀式だ。

ブエナ村のときも1回だけやった。

 

まず、ベッドの上で枕を両腕でギュッと握りしめる。

今日は枕じゃなくハンカチだ。

次に、両足をバタつかせながら、右に左にゴロゴロする。

そして、今日あったことを思い出しながら「キャー」とか「ルディー!」とか小声で口に出す。

 

簡単な儀式だ。

今日もその儀式を行った。

 

 

 

 

 

 

アリエル様に見つかるまで。

 

 

 

 

−−−

 

 

数日が経った。

 

あれからもボクとルディの関係は良好だ。

 

変わったことといえば、ルディがボクによく相談事を持ってくるようになった。

ボクを頼ってくれてるみたいで嬉しい。

 

人形の作成から恋愛相談まで、色んなことをボクに相談してくる。

恋愛相談をされたときはビックリしちゃったけど。

 

そして今日も図書館でルディと転移事件の調査だ。

今日はどんなことを話すんだろうか。

 

ルディと合流すると何か悩んでいるみたいだった。

けど、いつもボクからは話を振らない。

ルディから話してくるのを待つんだ。

 

「フィッツ先輩」

「なあに?」

 

ルディはいつもボクの名前を呼んでから話すんだ。

それでこの後、いつもこう言うんだ。

 

「相談したい事があるんですが」

「うん、いいよ。話して」

 

そしてボクは

 

(このフィッツ先輩に任せてよ!)

 

ルディの悩みを解決してあげるのだ。

 

 

― end -

 

 

 

・後日談

 

「アリエル様」

「なんですか、ルーク」

「シルフィはあそこで何をやってるのでしょうか」

「見て分かりませんか?想い人の涙が染み込んだハンカチを顔に近づけたり離したりしてるのですよ」

「…洗濯はしましたか?」

「していないでしょう」

「…そうですか」

「シルフィ」

「は、はい!なんですか、アリエル様!」

「そのハンカチ、そろそろ洗濯したほうがいいと思います」

「え、それはアリエル様のお言葉でもちょっと…」

「…」

「…」

「…」

 

 




・後書き

無職転生、ほんとに良い作品ですよね。
アニメももちろん見てます。
なろうの小説も全部読みましたが何回も泣きました。
ただ少し工夫はしました。

BGMです。読みながらその場面にあったBGMをかけました。
自分はドラクエのBGMが好きなのでドラクエ主体に聞いていました。

例えば、このSSでいえば日常シーンで
ドラクエ8の「静かな村」又は「そうだあの時は」を
かけ、
ルディがエリスのことを思い出して泣き出すあたりでは
ドラクエ8の「つらい時を乗り越えて」をBGMでかけるのがオススメです。

シーンによってはあえてBGM無しっていうのもアリですね。

皆さんは小説を読むのにBGMをかけたりするんでしょうか。
気になりますね。

それでは。

2021/03/16:誤字や表現のミスなどを修正
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