今日は転移事件の調査をしていた。
ナナホシの研究を手伝う事もあるが毎回じゃない。
彼女にも準備が必要なのだ。
今日はフィッツ先輩が来ない日だから1人だ。
だが最近行き詰まりを感じる。
転移関係の資料が少ないのだ。
「これは、独学で調べるのも限界かもな」
そう独り言を呟きつつ窓を見ると外はもう暗くなっていた。
今日はここまでだ。
俺は片付けをして図書館から出た。
ーーー
この時期、ラノア魔法大学は北方大陸に位置するせいか少し寒い。
俺は寒さを感じつつ、寮へと帰っている。
「わぁあぁ」
あくびが出た。
1人での転移事件の調査が少しつまらないのだ。
フィッツ先輩と一緒に調査している日は楽しい。
彼は頭が良く、俺の気付かないところによく気付く。
会話も楽しい。
入学してかなり経ったが、俺の不能が治る気配がない。
ヒトガミから、男としての自信を取り戻したいなら転移事件の調査をしろって言われているけど真偽のほどは怪しい。
「俺の病気は治るんだろうか」
また独り言を呟いていると1人の女子生徒がこちらに走ってきているのに気付いた。
その生徒は俺の目の前で止まると。
「これ、受け取ってください!」
「え、あ、はい」
とある女子生徒がいきなり手紙を渡してきた。
表面にはキレイな字で「ルーデウス様へ」と書いてある。
これってもしかして。
「あのー、これって」
「必ず読んでくださいね! それでは、おやすみなさい!」
その生徒は回れ右をして逃げるように走っていった。
「僕の話を…」
聞いてくれなかった。
これは絶対アレだろう。
ラブなレターだ。
俺は周囲に誰もいない事を確認しつつ急いで自室に帰っていった。
ーーー
予想通りだった。
手紙には、明日お話したい事があるからどの建物の何時に来てほしい、という事が書いてあった。
その時間は俺も授業が無くフリーだ。
俺の時間割を知っているんだろうか。
しかし、俺は不能だ。
付き合ってあの女子生徒を悲しませてしまうのは趣味じゃない。
いや、これはヒトガミのお告げによるものだろうか。
あの女子生徒と付き合えば俺の不能は治るんだろうか。
だとしたら俺はあの女子生徒と付き合ったほうが良い。
いやしかし、俺はあの女子生徒の事を何も知らないし。
初めて会ったばかりでそんな感情は芽生えてないし。
うーん。
当日まで悩んだが結論が出なかった。
ということで、
「クリフ先輩、どうしたらいいと思います?」
「どうしたらってなんで僕に聞くんだ?」
「クリフ先輩なら冷静に話してくれると思いますし」
「そうか、だがな、ルーデウス。僕はお前のおかげでエリナリーゼと付き合っているが、それ以前は無経験者だぞ?」
「はい、分かってます」
「そんな僕に答えられると思えないが」
「相談出来る人がクリフ先輩しかいなかったんです」
「そんなことないと思うが」
「周りを見てみてください」
「……そうだな、僕しかいなさそうだな」
「はい、なので天才のクリフ先輩にお力を貸していただきたく」
「そうだな、僕は天才だからな。何かアドバイスできるだろう」
クリフ先輩、ちょろいっす。
クリフ先輩には失礼だが、
本当はフィッツ先輩に相談しようと思っていた。
だが、当日までにフィッツ先輩と会う予定が無かったので相談できなかったのだ。
彼は忙しく、急に呼び出す事はできない。
なにより、俺の事で何度もお世話になっているのもあって、急に呼び出すのは彼に申し訳がない。
そこで、クリフ先輩に白羽の矢が立ったのだ。
「それで、お前はどうしたいんだ?」
「それが分からないから訪ねたんです」
クリフ先輩はため息をついた。
「じゃあ、ルーデウス、お前は彼女の事が好きなのか? 嫌いなのか?」
「会ったばかりでそんな風に見れませんが、好きではないと思います」
「じゃあ、断るべきだろう」
「なぜです?」
「いいか、ルーデウス。これは僕の経験談だが、一目惚れで告白してくる人は大抵はフラれる準備が出来ている。僕だってそうだったからな」
それはクリフ先輩が強いだけな気がするが。
「それに、ミリスの生涯一人の女性を愛せって教えがあるが、それはお互いがお互いを好きになってからの話だ。貴族は違うがな」
そういえば、クリフ先輩はミリス教徒だったな。
ミリス教徒の教えは日本にどこか似ている。
「教え抜きで考えても、僕は好きでもない女性と付き合うべきではないと思っている。なにより、その女性がかわいそうだ」
「そうですね、それは僕も思います」
「だろう? だからな、僕は断るべきだと思うんだ」
そういえば、クリフ先輩はあの事、知ってたよな。
「…クリフ先輩、僕が不能だって事、知ってますよね?」
「……あれは冗談だと思っていたが本当なのか?」
「本当ですよ、僕は何回も治そうとしましたが駄目でした」
「そうか、それで?」
「その女性と付き合う事で治るとは考えられませんか?」
「さっきも言ったが好きでもない女性と付き合うべきではないと思ってる。だがそれは夜の方にも言える事だ」
「はい」
「好きでもない女性とやって、お前は治るかもしれないが、彼女は悲しむぞ?」
「はい…」
「それでも、治したいのか?」
「いえ、僕の望むところではないです」
「なら、そういうことだ」
よし、俺の結論は決まった。
さすがクリフ先輩だ、経験が少ないのにも関わらず自分なりにちゃんとアドバイスしてくれる。
「あ、ルーデウス。相手を傷付けるような伝え方をするなよ。誤魔化さず正直な気持ちで伝えるんだ」
「はい、わかってます」
「よし、じゃあもう時間だろ? 行ってこい」
「はい! クリフ先輩ありがとうございました」
「ああ、また何かあったら言ってこい」
そうして俺は目的地に向かった。
ーーー
場所は確か入試の時に使った体育館の裏だったな。
体育館の裏とは、ありがちなシチュエーションだな。
もう俺の気持ちは決まっている。
彼女から気持ちを伝えられても、俺は誤魔化さず正直に伝えるのだ。
そういえば最近、俺にも少し気になる人が…。
いや、彼は男だ。
そういうのはやめよう。
俺が体育館裏に着くと、そこには昨日の女子生徒がいた。
彼女だ。俺は今から彼女に告白されるのだ
そう考えるとやはり嬉しい気持ちがある。
彼女が口を開いた。
「ルーデウスさん、来ていただいてとても嬉しいです」
「はい、それで僕にお話があるということですが」
「はい、えっと、私、私……!」
−−− シルフィエット視点 −−−
今日の授業が終わった。
「フィッツ、この資料ありがとうございました」
「はい、じゃあ、ボクは図書館に戻してきますね」
「お願いします。私たちは先に生徒会室に行っていますから」
「はい、分かりました」
ボクは資料を返却しに図書館に行った。
いつもの席にはルディはいなかった。
(ルディ、まだ来てないんだ)
だが、今日は生徒会のお仕事だ。
ルディと一緒に転移事件の調査はできない。
図書館を出ると今日1日の授業の内容を思い出していた。
今日も色んな事を学んだ。
難しい事もある。
だけど、小さい頃、ルディに教えてもらったおかげで今のところ成績も良い。
ふと、前を見るとそこには真剣な顔したルディが歩いていた。
(ルディ? こんな時間にどこ行くんだろ)
普段ならこの時間、ルディは図書館で転移事件の調査をしているはずだ。
もしくは、ナナホシのところで研究の手伝いをしてるはずだ。
けど、ルディが歩いているのは、ナナホシの研究室とも違う方角だ。
ルディの足は明らかに別の方角を向いて動いていた。
おかしい、何かある。そう思った。
(ちょっと、ついていってみよう)
尾行すると、ルディがボクと戦った建物の裏に着いた。
ボクは隠れるようにして覗いた。
(えっと、ルディと女子生徒? どうしたのかな)
よく見ると女子生徒の顔が赤くなっていた。
(え、どうしてあんなに顔赤いの?)
そこから、ボクが目にしたもの。それは。
「初めて見た時から、ルーデウスさんの事が好きです! 私とお付き合いしていただけませんか?」
告白の現場だった。
(えっ!?)
ボクは声が出そうになった。
急いで口を手で塞いだが声が出たかもしれない。
(ルディが告白されてる!? えぇ!?)
その女の子はボクなんかより全然美人だった。
ボクより胸はあるし、スタイル良いし、髪は女性らしく長くキレイで、声もキレイだった。
あんな子から告白されたら誰だってYESと言うだろう。
ルディだって例外じゃない。
そう思わされるほどの女の子だった。
ルディはきっと、あの女の子と付き合うだろう。
ボクは負けたと思った。
ルディはまだ返事をしてないが、そう思った。
そこからの事はよく覚えていない。
ボクは逃げるようにして、その場から走り去った。
誰かとぶつかった気がした。
転んだ気がした。
誰かに呼び止められた気がした。
気付いたら生徒会室にいた。
「シルフィ!? どうしましたか!?」
普段、ポーカーフェイスのアリエル様が驚いた顔をしている。
「おい、シルフィ! 何があったんだ!?」
普段、大声を出さないルークがボクに大声で話しかけている。
「ぐす……ぐす、うえぇえぇええん」
ボクは号泣した。
ーーー
「それでは、シルフィ。何があったのか説明してください」
「ぐす…はい」
ボクは1から全部話した。
図書館で資料を返却した事。
ルディが真剣な表情で歩いていたので、気になって尾行した事。
そして。
「ルディが、女の子に告白されてた」
「は?」
ルークが驚いた顔をしている。
「初めて見た時からルーデウスさんの事が好きです、私と付き合ってくださいって告白されてた」
「そうですか…」
アリエル様は顔に手を当てて、ため息をついた。
「そりゃさ、最近ルディは女の子の間で人気でさ、悪いやつは懲らしめるけど、普通の生徒には手を出さないし、下着泥棒の時もあんなに囲まれてたのにやり返さない紳士だって言われててさ」
「…」
「それにさ、ちょっと格好は貧乏くさいけど、よく見たら顔は悪くないし、影のある部分とか、強いのに自分勝手じゃないのもステキって言われててさ」
「…」
「それはボクだってそう思うよ、でもさ、こんな事ってないよ…」
「…」
2人共、ボクの言葉を聞いて無言になっていた。
けど、すぐルークが口を開いた。
「あの男、意外とモテるんだな」
ボクはこの言葉に少しイラッとして、ルークを睨んだ。
「そ、それでお前はどうしたんだ?」
「走って逃げてきた」
「は?」
「だから、走って逃げてきたの!」
「あの男の返事は聞かなかったのか?」
「聞けるわけないよ!」
「はぁ」
「あの女の子すごい美人だったんだよ? ボクなんか比べものにならないくらい美人でさ、ボクより胸はあるし、スタイルいいし、髪は長くてキレイだし、声もキレイだったし」
「…」
「ルディは時々エッチだから、あの女の子みたいのは絶対タイプだし、ルディはきっとOKするよ…」
「…」
「それによく考えたらさ、あんなところを覗き見してさ、あの女の子だって誰にも聞かれたくないから、わざと人通りの少ないところを選んで告白してるはずなのに、それをボクは盗み聞きしてさ、ボクって最低な女だよね…」
「…」
「ボクはあの女の子に負けたんだ…」
3人の間に沈黙が流れた。
すると、アリエル様がボソッと何かを言った。
「……はぁ。シルフィはあの男の事になると、どうしてこんなにポンコツになってしまうんでしょうか」
「アリエル様、なにか言いました?」
「…い、いえ、なんでもありません」
また、3人の間に沈黙が流れた。
その沈黙はボクにとって辛く、また泣けてきた。
「うぅ…ぐす」
「シルフィ、今日の仕事は特に何もありません。
私の護衛も休んで構いません。自室で休んでいなさい」
「え、でも」
「シルフィ、今のあなたには精神の療養が必要です。
これは王女である私からの命令です。休みなさい」
「…はい、アリエル様。失礼します」
ボクは生徒会室から退室し自室に向かった。
ーーー
その晩、夢を見た。
今まで見た夢の中で群をぬいて最悪だった。
悪夢だ。
ボクは今までルディと付き合ったら、ああしたい、こうしたいと思うものがたくさんあった。
だが、見た夢はそれがボクではなくあの女の子だった。
あの女の子はボクがしたかった事をルディとしているのだ。
しばらくすると、ルディがあの女の子にキスをしようと顔を近づけていた。
「ハッ!」
そこで目が覚めた。
上体を起こし体中が汗でびっしょりなのに気付いた。
ボクは濡れた布で体中を拭いていると夢の内容がフラッシュバックしてきた。
体を拭いてベッドに戻るが眠れない。
ずっと夢の内容が頭の中をグルグルしているのだ。
眠れるわけがない。
そして、また涙を流した。
「ぐす…、るでぃ、どこにもいかないでよ、やだよ、ボクを見てよ、るでぃ…」
ルディを呼んでも返事が返ってこない。
気付くと朝になっていた。
あれから一睡も出来なかった。寝不足だ。
普段なら、この時間は朝の走り込みをしている。
だが、そんな気分ではない。
しかし、このあとは、アリエル様のお召し替えと打ち合わせがある。
これを休むわけにはいかない。
そう思い、身支度をしてアリエル様のお部屋へと向かった。
ーーー
ボクはアリエル様の部屋のドアを2回叩いた。
「アリエル様、おはようございます…」
「あ、シルフィ。おはよう」
そしてボクはアリエル様のお召し替えをする。
普段はあまり気にならないけど、アリエル様の胸や髪、白い肌がとても気になった。
ルディはこういうのが好きなんだろうな。
「あら、シルフィ。寝癖がありますよ」
お召し替えが終わるとアリエル様がそんなことを言ってきた。
ほんとだ、寝癖がある。
直してきたはずなのに見逃したんだ。
「それにひどい隈」
鏡を見る。
ほんとだ。目の下に隈がある。
なんか、今日のボク、ボロボロだな。
朝の打ち合わせが終わると。
「シルフィ、命令です。休みなさい」
これは護衛の仕事をって意味だ。
アリエル様なりの優しさなのだろう。
ただ、ボクとしては仕事で体を動かしていたほうが良かった気がする。
授業中は上の空だ。
ほとんど聞いてない。
先生から指されてもアリエル様に指摘されるまで気付かなかった。
今日はルディと一緒に転移事件の調査をする日だ。
ルディと話していても、今日はきっと楽しくないだろう。
というか、ルディはボクなんかと一緒に調査するより、あの女の子と調査していたほうが楽しいんじゃないか。
そう思って、図書館へと向かう足が止まる。
ただ、ボクから頼んでいるのに急に行かなくなるのも失礼だ。
ボクは図書館へと向かう足を動かした。
ゆっくりと。
−−− ルーデウス視点 −−−
今日は楽しい楽しいフィッツ先輩との転移事件の調査だ。
最近の一番の楽しみだ。
だが、今日は違った。
全体的にフィッツ先輩が暗かった。暗すぎた。
俺が話しかけても、どこか上の空だ。
返事も「うん」とか「そっか」とかで素っ気なかった。
あとフィッツ先輩がたまに話しかけて来たが、それも暗い。
「ボクって必要な人間かな」とか「ボクって君の役にたててるかな」とか「君はボクと調査してて楽しい?」とかだ。
俺が「必要です」とか「十分助かってます」とか「楽しいです」とか返事しても全部「そっか」と返してくる。
まじで、今日のフィッツ先輩どうしたんだ。
もしかして風邪か?
風邪だと人間ネガティブになるっていうし。
そうだ。そうに違いない。
なら、フィッツ先輩に無理させちゃいけない。
早々に切り上げてフィッツ先輩を休ませないと。
そして、「今日はちょっと早いですけど切り上げましょう」と言うと、ちょっと驚いた顔をして「そっか」と返ってきた。
重症だ。
フィッツ先輩と別れると、俺は急ぎ自室に戻った。
−−− シルフィエット視点 −−−
ボクは最低だ。
転移事件の調査はボクから頼んで一緒に調査させてもらっているのに、それをあんな風に…。
それにルディはいつもより早く調査を終えて、急いで帰っていった。
あの女のところに行くんだろうか。
ふと、ブエナ村の時の事を思い出した。
ボクはルディが助けてくれた時からルディの事が好きだった。
あの時からずっとだ。
今はもっと好きだ。
ボクがルディを好きになったのが5歳の時で、
今が15歳だから、10年近くずっと片思いしているのだ。
そして、その片思いは実らなかった。
失恋ってこんな感じなんだな。
言葉で聞くよりずっと辛い。
ボクはルディとわかれた後、また泣きそうになった。
もうルディと距離を置いたほうがいいのかもしれない。
うぅ、でも悲しいな。
せっかくルディと会えたのにまた離れる事になるなんて。
ヤダな。
ルディに彼女ができたのにそれを応援できない自分が。
気付いたら生徒会室にいた。
ボクはソファに座ってボーッとしていた。
しばらくすると、ルークが口を開いた。
「おい、シルフィ」
「なに?」
「お前、ちょっとそこで待ってろ」
「え?」
そう言うと、ルークは走って生徒会室から出て行った。
アリエル様は黙ったままだ。
30分くらい経っただろうか。
ルークが1人の女子生徒を連れて戻ってきた。
間違いない。
あの
違う。あの
「フィッツ、あの時に見た女子生徒はこの方でいいな?」
「う、うん」
その女子生徒はボクが喋った事に驚いていた。
「あの、私はどうしてこのようなところに連れて来られたのでしょうか?」
「申し訳ございません。素敵な貴女様から少しお話を伺いたいと思いまして」
「はぁ」
その女子生徒はルークを嫌悪の顔で見ていた。
「それで、なんですか?」
「お話というのは貴女も聞き覚えがある男の事でして、名はルーデウス・グレイラット」
「っ!」
女子生徒は一瞬驚いた顔をしたがすぐに元の顔に戻した。
よく見ると、どこかアリエル様に似ている気がする。
「貴女はあの男に愛の告白をしましたね?」
「はい、昨日の事です。どうして知っているんですか? 人通りのないところを選んだのにも関わらず」
「うちの守護術師が偶然、通りかかってしまいまして。申し訳ございません」
「そうですか。いえ、謝らなくて結構です。それで、それがどうかしたのですか?」
「その結果を、そこいるフィッツにお教えいただきたくお呼びした次第です」
ボクは心臓の音が高鳴るのを感じた。
「はぁ、それでしたら、フラレましたよ。私は」
「え?」
あまりにもあっさりとしていた。
ボクは驚きの声をあげた。
「ですから、ルーデウスさんには貴女とは付き合えない、ごめんなさいっと言われフラレました」
ルディがこの女の子をフッた?
こんなに美人な子を?
え、なんで?
「ルーデウスさんには理由を尋ねても答えてくれませんでした。一目惚れでしたので覚悟はしていましたが、やはり辛いものがありますね」
「…」
「他に何かありますか? 昨日の事で私も辛いので、無ければ帰らせていただきたいのですが」
「いえ、もう結構です」
今までずっと黙っていたアリエル様が突然喋った。
「辛いところお呼びしてしまい申し訳ありませんでした。後日、御礼の品をお部屋のほうにお持ちいたします」
「いえ、御礼なんて結構です。いりません。ただ1つだけ、そこにいるフィッツさんに尋ねてもいいですか?」
「フィッツ、構いませんね?」
アリエル様はボクに許可を求めているけど、これは強制の言葉だ。
ボクにこれを断る権利はない。
「はい、アリエル様」
「では、フィッツさん」
「は、はい」
「あなたもルーデウスさんの事が好きなのですね?」
その質問、ボクは即答できる。
「はい、小さい頃からずっと大好きです」
「…」
「ルディが助けてくれた時からずっと好きです。今はもっと好きです」
「…そうですか、応援しています。頑張ってくださいね」
「はい、ありがとう……ございます…」
ボクはこの時、心の中がスッキリした。
そして泣き崩れた。
「それでは、失礼します」
そうして、その女の子は生徒会室から退室した。
ーーー
「うぅ…ぐす」
「シルフィ、いつまで泣いているのですか?」
「ぐす……だって、ボク、ルディを疑って、誤解して、ひどい事もしたし…」
「それは分かっています。なら、あなたはどうして、そこでずっと泣いているのですか?」
アリエル様の言っている事が理解できない。
「え…?」
「あなたが今、しなくてはならない事はなんですか? したい事はなんですか?」
「…」
「答えなさい! シルフィエット!」
背筋が凍る。
王女であるアリエル様の風格が、この生徒会室を支配した。
だが、アリエル様が言っている事。
これもボクは即答できるはずだ。
「ルディに謝りたいです。ルディに会いたいです!」
「そうですか。なら、泣いている場合ではありませんね」
「はい!」
そうだ。ボクは泣いている場合じゃない。
一刻も早く、ルディのところに行かなくてはならない。
ルディに会って、謝るんだ。
「行ってきなさい、シルフィエット。朗報を期待しています」
アリエル様は笑顔でそう言った。
ボクは立って、急いで生徒会室のドアを開けようとした。
「待て! 」
「ルーク?」
「お前、これ忘れてるぞ」
ルークが右手で持ってるもの。
ボクのサングラスだ。
いつの間にか外していたのだ。
「もう必要ないか?」
「ううん、いる」
「ふっ、そうか」
ルークはボクにサングラスを投げた。
それをボクは左手でキャッチする。
そして、ボクはフィッツになった。
「アリエル様、ルーク。ありがとう」
そう言って、生徒会室から走り去った。
ーーー
ルディを探さなきゃいけない。
ルディはいつもボクと別れたあとどこに行っているんだろう。
いつもはザノバ君たちと人形を作っているみたいだけど、時間が早すぎる。
じゃあ、どこ?
学校の外?
わからない。わからない。
ルディが行きそうなところ全部を探す事にした。
まず、図書館だ。
走って入ろうとすると警備の人に怒られた。
やっと解放されて、いつもの場所を探したが居ない。
次にナナホシの研究室だ。
ナナホシはノックもせずに入るボクに魔道具を向けたけど、ボクだと分かると納めてくれた。
研究室にルディは居なかった。
ナナホシに一言謝って次に向かった。
特別生の教室、居ない。
食堂にも購買にも居ない。
あと、ルディが行きそうなところは男子寮しかなかった。
走って、男子寮に入っていった。
普段、男子寮にいないボクを見て驚く人がいるけど、そんなの関係ない。
先に、ザノバ君の部屋を訪ねた。
ザノバ君はルディがいるところを知らないらしい。
御礼を言ってルディの部屋に行った。
ルディが行きそうなところはもうここしかなかった。
あとは学校の外だ。
ただシャリーアの町は広いし多分、見つからないだろう。
なら、ここが最後の希望だ。
ルディの部屋を叩いた。
「ルーデウス君!いる!?」
もう一回叩いた。今度は強めに。
「ルーデウス君!ルーデウス君!」
出てこない。
「ルーデウス君!ルーデウス君…、るでぃ…」
ここにいないとなると後は学校の外だ。
心が折れそうになる。
ボクは膝から崩れるように座った。
同時に泣きそうになる。
「ルディ…、会いたいよ、るでぃ…!」
ボクは諦めかけた。
「あれ? フィッツ先輩?」
だが、横から声がした。ルディだ、ルディだ!
ルディは片手に買い物袋を持って、そこに立っていた。
おそらく、学校の外に買い物に行っていたのだろう。
「ルデ……ルーデウス君」
「どうしました!? やっぱり風邪ですか!?」
「え、風邪?」
「今日のフィッツ先輩、なんだか元気なくて、風邪かなって思いまして」
風邪じゃないよぉ。
いや、今日の事を謝らなきゃ。
「あの、ルーデウス君!」
「はい?」
「今日、その、素っ気ない対応して、転移事件の調査もちゃんと手伝えなくて、ごめんなさい」
「いえいえ、体調が悪いと人間はネガティブになりますから。それより、僕の部屋に入ってください。風邪に効く飲み薬を飲んで、先輩には元気になってもらわないといけませんから」
「え、うん」
ボクはあんなに思いつめていたのに、ルディは全然気にしてなかった。
ルディらしいといえばルディらしいけど。
だけど、そのルディらしさが今のボクには嬉しかった。
そこからは楽しかった。
ルディが作ってくれた飲み薬を飲みながら、いっぱい雑談した。
飲み薬は苦かったけど薬だしこんなものだろう。
そういえば、ボクは風邪じゃないけど、これ飲んで平気だろうか。
いや、今考える事じゃない。
ボクは安心しちゃったのか睡魔に襲われた。
寝不足だったのだ。仕方ないだろう。
そして、睡魔に負けた。
夢を見た。良い夢だ。
ルディとあの女の子だったのが、ルディとボクになったのだ。
言葉にするとたったそれだけだが、とても嬉しかった。
ルディがボクにキスしてきた。
それから、ボクを押し倒して、ルディの顔がどんどん近くなっていった。
キャー! ルディの顔が、ち、近い!
「ハッ!」
良いところで目が覚めてしまった。
口からはヨダレが垂れていた。
ボクは急いでヨダレを拭いた。
ルディに、だらしない女と思われたくないからね。
背中には毛布がかけられていた。
ルディがかけてくれたのだろう。
ふと、ルディのいるほうを見た。
ルディも本を持ちながら眠っていた。
絵になるなぁ、かっこいいなぁ。
ボクはルディから本を取って、ボクにかけられていた毛布を、そっとかけてあげた。
ボクはルディの寝顔を見ていた。
ルディが起きるまで、ずっと。
ーーー
生徒会室に帰るとアリエル様にがっかりされた。
どうやら、ボクがルディに正体を明かして告白するだろうって思っていたらしい。
ボクは正体を明かすつもりも告白するつもりもなかった。
ただ、会いたくて謝りたかった。
ルークは薄々気付いていたみたいだけど。
それから、また同じ事があったらどうするんだと聞いてきた。
それを聞いたボクは、あの時に正体を明かして告白しておけば良かったなんて後悔したけど、今が幸せだから、また同じ事になったらその時考えればいいと返した。
それを聞いたアリエル様がボソッと何かを言った。
「シルフィはいつになったら、正体を明かすのでしょうか」
後日、ルディにボクが女の子である事がバレた。
ー end ー
編集履歴:2021/03/21
誤字の修正