無職転生 - SSでも本気だす -   作:イルキ

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『泥沼vs守護術師フィッツ 前編』の続きです。
前編を未読の方は、先にそちらをお読みください。
(本文約12,600字)


泥沼vs守護術師フィッツ 後編

ルーデウスは杖に魔力をこめる。

フィッツは先制して水魔術を放った。

 

(さすが、シルフィだ。早い)

 

ルーデウスはそれを火魔術でレジストする。

 

フィッツはすかさず水魔術を連発した。

ルーデウスはそれを全てレジストする。

 

フィッツは水魔術の連発を続けた。

一発、火魔術を放った。

 

ルーデウスは若干驚きながらも全てレジストした。

 

(今のは火魔術の上級か? シルフィ使えたのか)

(やっぱり、ルディにはレジストされるよね)

 

お互い無詠唱魔術の使い手だ。

戦場には魔術の音だけが響き、観客席は静かだった。

 

だが、その静寂を打ち破るものがいた。

 

フィッツだ。

 

彼女はコツコツと足音をたてながら歩いた。

歩きながら魔術を放った。

普通のことに思えるがルーデウスにとっては謎だった。

 

ルーデウスは一瞬レジストを止め、

咄嗟に『岩砲弾(ストーンキャノン)』を放った。

それはきっと牽制の意味があったのだろう。

 

フィッツは気付いて『岩砲弾(ストーンキャノン)』をレジストしようとした。

しかし、遅かった。

いや、ルーデウスの『岩砲弾(ストーンキャノン)』が速すぎたのだ。

 

「ぃぃぃっ!」

 

慌てて避けるも、左腕を掠めた。

 

(ルディ…!)

(威力は抑えたけど、速すぎたか?)

 

2人の間にしばしの沈黙が流れた。

 

(ルディ、手加減してるよね? なら…!)

 

この時のフィッツはルーデウスに少し怒っていた。

ボクは本気なのに手を抜かれている。

それに気付いてしまったからだ。

 

 

フィッツはまた足音をたてて歩き始めた。

歩きながら水魔術を中心に連発した。

時々、火魔術と風魔術も放った。

 

彼女は魔術の系統だけじゃなく威力も変えた。

回転率が良く威力の低い魔術を中心に放ち、

稀に上級魔術のような威力の高いものも放った。

 

ルーデウスはそれに気付いて丁寧にレジストする。

が、その顔には焦りが見えていた。

フィッツの狙いが分からないからだ。

 

(シルフィ、何を考えている?)

(もう少し…もう少し…)

 

ルーデウスの後ろは一度下がるための十分なスペースがあった。

なお、それは万が一の時のためだ。

今は、万が一ではないと彼は判断した。

だが、本当は一度下がるべきだった。

 

(ここだ!)

 

フィッツは水魔術、火魔術、風魔術の初級と中級をランダム、かつ高速で連発した。

 

(これはやばい!)

 

ルーデウスは予見眼を使ってレジストに集中した。

 

(火、水、風、水、火……土は?)

 

ルーデウスが全てレジストを終えると。

歩いていたはずのフィッツの姿がなかった。

 

右を見る、いない。

左を見る、いた。

 

だが、フィッツは見たことないスピードで走っていた。

予見眼を使っても追えないスピードだ。

彼女の靴は魔力付与品(マジックアイテム)だ。

魔力をこめれば、通常の何倍も早く走れる。

 

あっと言う間に2人の距離が縮まる。

ここで、ルーデウスは失策に気付いた。

一度下がるべきだったと気付いたのだ。

しかし、もう遅い。

 

フィッツは走りながら杖を構え、魔力をこめる。

 

「ルディィィィ!」

「『泥沼』!」

 

ルーデウスはフィッツに『泥沼』を使いたくなかった。

彼女は幼少期、村の子供達に泥玉を投げられ、いじめられていた。

あれは彼女にとって苦痛の日々だっただろう。

それを思い出してはいけないと、今まで『泥沼』を使ってこなかった。

だが、彼女の真剣な声を聞き、手加減をやめたのだ。

 

フィッツはそれに気付いたのかもしれない。

けど、ルディはこんなものではない。

魔術の腕はボクよりもっと上のはずだ。

彼女はそう思った。

 

 

フィッツは『泥沼』の地点に水魔術を放ってレジストする。

 

「『水蒸(ウォータースプラッシュ)』! それと、『氷結領域(アイシクルフィールド)』!」

 

混合魔術『フロストノヴァ』はこの2つの魔術を合わせて放たれる。

フィッツは2つの魔術を無詠唱で同時に放つことは出来ないが、

時間差をつけて同じ効果にすることは出来た。

つまり、フィッツは結果的に『フロストノヴァ』を放ったのだ。

 

「甘いよ、ルディ!」

 

フィッツは走り続ける。

 

「『泥沼』!」

 

ルーデウスは予見眼を使ってフィッツが走る地点に土魔術を連発した。

 

だが、先程の『水蒸(ウォータースプラッシュ)』であたりは水浸しだ。

時間もそれほど経ってないため『氷結領域(アイシクルフィールド)』を放つだけで『フロストノヴァ』と同じ効果が期待出来る。

 

フィッツは水魔術で『泥沼』をレジストする。

 

「『氷結領域(アイシクルフィールド)』!」

「くっ!」

 

ルーデウスは一旦、『泥沼』で足止めすることを諦めた。

すると突然、その場にしゃがんで、左手で地面を触った。

 

そして。

 

 

「『フロストノヴァ』!」

 

本物の混合魔術『フロストノヴァ』が炸裂した。

 

ルーデウスを中心にして円状に氷の世界ができた。

彼が作った氷の世界は観客席まで届いていた。

 

フィッツは急ブレーキをするも氷にのまれた。

 

「『フレイムピラー』!!」

 

フィッツは全力の火魔術でレジストした。

数多くの炎柱が立ちのぼり、炎の世界できた。

彼女が作った炎の世界も観客席まで届いていた。

 

 

もう2人共、観客席の事は忘れているようだった。

 

 

フィッツは自分の足を拘束している氷が、

まだ溶けていないことに気付いた。

 

ルーデウスを見ると『岩砲弾(ストーンキャノン)』を放とうとしている。

 

「『バーニングプレイス』!」

 

フィッツは急ぎ火魔術で氷を溶かした。

そして足元に衝撃波を放ち大きく後ろにジャンプした。

同時に、とある魔術を溜める。

 

彼女は自分が先程までいた場所を見ると、

とんでもない速さで、何かが通ったのが分かった。

 

ルーデウスの『岩砲弾(ストーンキャノン)』だ。

 

そして、彼はまた『岩砲弾(ストーンキャノン)』を放とうとしている。

 

 

空中にいるフィッツは無防備だ。

そう考えたルーデウスは、土魔術を放つ。

 

「『岩砲弾(ストーンキャノン)』!」

 

すると、フィッツも土魔術を放つ。

 

「『岩砲弾(ストーンキャノン)』!」

「なっ!」

 

2つの『岩砲弾(ストーンキャノン)』は空中で大きな音をたてて、砕け散った。

 

2人が使う『岩砲弾(ストーンキャノン)』は同じ魔術であっても威力が段違いだ。

普通に放てばルーデウスのほうが上だろう。

しかし、フィッツが溜めれば別だ。

彼女はジャンプしてすぐ『岩砲弾(ストーンキャノン)』を溜めていたのだ。

 

ルーデウスはフィッツの着地に合わせるように土魔術を放つ。

 

「『岩砲弾(ストーンキャノン)』!」

「『土槍(アースランサー)』!」

 

フィッツは『土槍(アースランサー)』で発生させた土の柱に一度着地した後、もう一度ジャンプした。

同時に、『土槍(アースランサー)』は『岩砲弾(ストーンキャノン)』によって砕かれた。

 

フィッツはまだ空中にいるが、地面までもう少しだ。

 

「『泥沼』」

「あっ!」

 

フィッツは『泥沼』に両足をズボッと突っ込んだ。

ここは『水蒸(ウォータースプラッシュ)』で水浸しではなかった。

もし、『氷結領域(アイシクルフィールド)』を放っても、

『フロストノヴァ』にはならないだろう。

 

「『土槍(アースランサー)』!」

 

フィッツは急いで自分の足元に土の柱を作り『泥沼』から脱出する。

牽制に火魔術を放つ。

 

「『火断(フレイムスライス)』!」

「『水砲(スプラッシュフロウ)』」

 

ルーデウスは水魔術でレジストした。

だが、威力が強いのかレジスト後も、止まることはない。

 

フィッツは柱から滑り込むようにジャンプして避ける。

 

「きゃっ!」

 

が、受け身に失敗した。

ふと、足を見ると先程の水魔術で泥が落ちているのがわかった。

彼女は足に『水砲(スプラッシュフロウ)』を喰らって、受け身を取れなかったのだ。

結果として、土の柱から飛び降りる形となった。

 

足にダメージを受けたフィッツは、

魔法陣でも治りが遅いのを感じて、無詠唱で治癒魔術を使う。

ルーデウスには出来ないことだ。

 

(ルディ、本気になってる、かも)

 

ルーデウスとフィッツはお互いの距離を測った。

大きく後ろにジャンプしたとはいえ、

フィッツが走る前よりも距離は縮まっていた。

 

フィッツの作戦実行距離内だ。

ルーデウスの『乱魔(ディスタブ・マジック)』の射程内だ。

 

フィッツは杖に魔力をこめる。

 

ルーデウスは、両手をパンッと叩いた後、杖を構えた。

乱魔(ディスタブ・マジック)』の体制だ。

 

しかし、フィッツはそれを読んでいた。

 

「『火球弾(ファイアボール)』!」

「『乱魔(ディスタブ・マジック)』!」

 

フィッツは火魔術を2発放った後、

すぐ衝撃波を放って、大きく左に高速移動した。

 

フィッツは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ぐわっ!」

 

ルーデウスは、予見眼を使って『火球弾(ファイアボール)』の1発目は避けたが、

2発目は右腕に喰らって、杖を落とした。

 

杖は無くても魔術は放てる。

フィッツはルーデウスが杖を落としたのを見ても油断しない。

 

フィッツは水魔術を、高速で連発した。

その中に泥玉を添えて。

 

(『乱魔(ディスタブ・マジック)』を避けた!?)

 

ルーデウスは、ここで初めて、

フィッツが『乱魔(ディスタブ・マジック)』を避けたことに気付いた。

 

急いで、魔術のレジストに入った。

途中、フィッツが走ってきているのが見えた。

 

「『岩砲弾(ストーンキャノン)』!」

 

ルーデウスは焦って、レジストの合間に『岩砲弾(ストーンキャノン)』を放った。

 

フィッツは、走った勢いのまま、横に衝撃波を放って避ける。

 

「っ!」

 

彼女の顔を掠り、ツーッと赤い液体が落ちる。

だが、彼女の足は止まらない。

 

(もう少しで、ルディに…!)

 

ルーデウスは最後の魔術をレジストすると、

それが泥玉であることに気付いた。

が、予想外のことで反応が遅れた。

予見眼を使いつつも、飛び散った泥玉が顔に命中した。

 

(視界が…見えない…!)

 

ルーデウスは顔の泥を落とし視界を取り戻すと、

フィッツが、両手をパンッと叩いて、杖を構えている事に気付いた。

 

(やばいやばいやばい!)

 

ルーデウスは『岩砲弾(ストーンキャノン)』を放とうとした。

 

「『乱魔(ディスタブ・マジック)』!」

「っ!」

 

遅かった。

フィッツの『乱魔(ディスタブ・マジック)』をまともに喰らって、ルーデウスの魔術は打ち消された。

 

ルーデウスは予見眼でフィッツの次の行動をみた。

 

<シルフィが後ろ蹴りの体制に入る>

 

ただ、ルーデウスの頭の中は真っ白だ。

両腕をクロスさせてガードするしかなかった。

 

フィッツから闘気を纏った後ろ蹴りが放たれた。

 

「くっ!」

 

彼の腕に触れた瞬間、フィッツの足から衝撃波が放たれた。

 

ルーデウスは後ろにノックバックした。

同時に、腕にヒビが入ったのを感じた。

 

両腕のガードを解いて、前を見ると。

 

フィッツがルーデウスの喉元に杖を突きつけようとしていた。

その瞬間、誰もがフィッツの勝利を確信しただろう。

 

 

しかし。

 

「あっ」

 

フィッツは『フロストノヴァ』の残った氷に足を滑らせた。

 

「きゃっ!」

「シルフィ!」

 

フィッツは、ルーデウスを押し倒す形となった。

 

 

 

−−− ルーデウス視点 −−−

 

 

俺は今、シルフィに押し倒されている。

 

だめだよ、シルフィ。

みんなが見てる。

え、我慢できない?

じゃあ、お家に帰ろう。

お家でゆっくり、しっぽりと、ね。

 

いや、ふざけるのはやめよう。

 

シルフィは、靴で通常よりも早く走ってコケた。

ケガの心配をするべきだろう。

 

「シルフィ、ケガはない?」

「あ、うん、ごめん、ルディ」

 

ケガはなさそうだ。

シルフィの顔を見ると、サングラスが取れていた。

転んだ勢いで外れてしまったのだろう。

 

俺のほうもケガはなさそうだ。

あんな勢いで倒れれば背中辺りがケガをしそうだが、いつも鍛えているおかげか大丈夫だ。

さすが俺の筋肉だ、なんともないぜ!

 

しかし、どうしよう。

司会は勝敗を決めてくれない。

というか、みんな口を開けて、ポカンとしている。

 

あれは俺の負けだった。

全てが後手にまわった。

素直に負けを認めてもいい。

 

それに模擬戦とはいえ、あれだけの戦いを見せられれば十分だろう。

 

ただちょっと悔しいな。

せっかくシルフィが俺の上にいるし。

よし。ちょっとイタズラするか。

 

腕はもう完璧に治っている。

俺は右腕をシルフィの頭に、

左腕をシルフィの腰にやった。

 

「ちょ、ルディ!?……ん」

 

そしてシルフィを抱き寄せ、キスをした。

ただのキスじゃない。深いキスだ。

 

そして1hit、2hit、3hit……。

 

「んんん!んん!」

 

シルフィは拒絶の声をあげて、

「ルディ!ルディ!」と言っている気がした。

逃げようとしているが、逃さない。

 

「んん! …ん…ん…………」

 

さて、22hitくらい行っただろうか。

 

俺はキスと拘束をやめて体を起こそうとした。

が、シルフィの体に力が入ってなかった。

 

「あれ、シルフィ?」

 

シルフィは顔を真っ赤にして、気を失っていた。

目は渦巻の形に、口は歪みきったかなりアレな感じに。

 

司会は俺だけが体を起こしたのを見て、

 

「しょ、勝者! 泥沼のルーデウス!!」

 

そう宣言した。

 

 

…やべっ、勝っちゃった。

 

 

ーーー

 

 

司会の勝利宣言の後。

俺とシルフィはすぐに医務室に運ばれた。

魔法陣のおかげでケガはないけど、念のためだ。

 

医務室に運ばれた後、シルフィはすぐに目を覚ましたが。

 

「あのー、シルフィエットさん?」

「…」

 

口を聞いてくれなかった。

どうやら、嬉しい反面、恥ずかしかったらしい。

シルフィは片頬をプクッと膨らませている。

 

しばらくすると、医務室に見知った顔が入ってきた。

ザノバ、クリフにエリナリーゼ、リニア、プルセナだ。

 

ナナホシは、最後のアレをみて、

呆れた顔をしながら研究室に帰ったらしい。

 

ザノバは「さすが、師匠ですな!」と言い、

クリフは「おめでとう、ルーデウス」と言い、

エリナリーゼはシルフィと話していた。

 

「それで、リニアとプルセナの狙いはなんだ?」

 

俺は2人の狙いが最後まで分からなかった。

 

「狙いも何も、ただ、ボスとフィッツの戦いを見たかっただけニャ」

「そうなの、今回私たちは何も悪いことはしてないの」

「そうか、疑って悪かったな」

「さっきの戦いに免じて許してあげるの」

「満足したか?」

 

リニアとプルセナは大きく頷いた。

まぁ、満足したならいいだろう。

 

だが、やはりと言うべきだろうか。

最後のアレは全員にあり得ないという顔をされた。

シルフィには、後でちゃんと謝っておこう。

 

しばらく経つと、エリナリーゼを残してみんないなくなっていた。

 

突然、医務室のドアが光に満ちて直視出来なくなった。

神だ。神が降臨なされた。

 

ロキシーだ。

 

「あら、ロキシー」

「エリナリーゼさん、こんばんは。

 それと、シルフィとルディ、お疲れ様です」

 

俺とシルフィは「ありがとう、ロキシー」と返事をした。

 

「ルディ、一度『フロストノヴァ』を使いましたね?」

「はい、使いました」

「やはり『フロストノヴァ』ですよね。

 ジーナスさんが、あれは『絶対零度』だ、とずっと言っていまして」

「あはは、俺は『絶対零度』は使えませんから」

 

確か『絶対零度』は『フロストノヴァ』の上位互換で水帝級魔術だったか。

俺は水王級魔術師だから使えない。

 

「転移迷宮の時も思いましたが、ルディの『フロストノヴァ』はすごい威力ですね。

 あれじゃあ『絶対零度』に間違われても仕方ないと思います」

「ロキシーも間違えていましたしね」

「む、そんなことを覚えている頭はこれですね。

 すぐに忘れてください」

 

ロキシーに頭を両手でグリグリされた。

痛い。

 

「しかし、少し威力を調節したほうが良いと思います。

 観客席まで届いていましたし」

 

え、まじで?

威力は調節したつもりだったが、

それはちょっとまずいんじゃないか。

 

「そうだよ、ルディ。あれは強すぎるよ」

「ごめん、俺も本気だったんだ」

「あら、シルフィ。あなたの火魔術も観客席まで届いていましたわよ」

「え、そうなの?」

「はい。ルディの『フロストノヴァ』もそうでしたが、

 シルフィの『フレイムピラー』も威力が高くお見事でした」

「まさに、氷の世界と炎の世界って感じでしたわ」

「そ、そっかぁ。ボクも全力だったしね」

 

シルフィが照れてる。

というか、シルフィの『フレイムピラー』も届いていたのか。

あとでアリエル達に叱られるな。

 

ふと、シルフィを見ると青い顔をしていた。

俺と同じことを思っているようだ。

 

「あ、2人共、安心してください。

 レジストに参加した教師の中から数人、体調不良者が出ていますが、ケガ人はいません」

 

「そうですか、安心しました」

「そっかぁ、良かったぁ」

 

ケガ人がいなくて良かった。

これでアリエル達からの叱責が軽くなったな。

ひとまず安心だ。

 

「そういえば、ロキシーはルーデウスのセコンドをやっていたんですって?」

「はい。あまり良いアドバイスは出来ませんでしたが」

 

ロキシーが落ち込んでいる。

なぜだ。

ロキシーのアドバイスは完璧だったはずだ。

 

「ルディにどんなアドバイスをしたの?」

「ルディには、自分の魔力総量をシルフィと比べてみなさいと」

「あー、そうだね。

 ボクよりルディのほうが魔力総量は上だしね。

 最初みたいに魔術を放ってレジストしての繰り返しだと、ボクが先に力尽きるもんね」

「はい、なので、そのように立ち回りなさいとアドバイスをしました。

 ルディは対人戦闘の経験が少ないようでしたし」

「そっか、そうだね」

 

ああ、そうか。

 

思えば、俺の作戦はシルフィの魔術をひたすらレジストする持久戦で、

シルフィの作戦は、俺に色んな魔術をレジストさせて、自分はその隙に一気に近付いて近距離で戦うことだもんな。

 

レジストされる前提のシルフィの作戦に対し、俺の作戦は、最初から悪手だったのだ。

 

それでも、ロキシーは悪くないだろう。

俺の作戦が、ロキシーのアドバイスによるものでも、彼女を責めようとは思わない。

彼女は、何の作戦もない俺に、アドバイスをしてくれたのだ。

責める資格もないだろう。

 

それに、俺にはもう少しやりようはあったと思う。

途中からシルフィの作戦にも気付いていたしな。

 

なにより、『乱魔(ディスタブ・マジック)』を喰らって、頭が真っ白になったのは良くなかった。

乱魔(ディスタブ・マジック)』を喰らったときの対処法は、もう少し考える必要があるな。

 

他にも反省すべき点はあるし、後でよーく考えておこう。

 

 

そういえば、シルフィのセコンドはエリナリーゼだったな。

シルフィは俺の対策を聞いたらしいが、エリナリーゼはどんな対策を教えたのだろうか。

対策の対策をすれば、今後のためになるだろうから知っておきたい。

 

そう思って聞いてみた。

 

「エリナリーゼさんはシルフィにどんなアドバイスをしたんですか?」

「私は特に何もしていませんわよ」

「そうなんですか?」

「ええ、シルフィには既に自分で考えた立派な作戦がありましたもの。

 私のアドバイスなんて必要ありませんでしたわ」

 

あれ?

ちょっと予想外だ。

 

「ですが、ロキシーが覗いた時、熱心にアドバイスしていたって言ってましたが」

 

俺がそう言うと、シルフィの顔が赤くなった。

 

「あ、あれはね、ルディ。その…えっと…」

「シルフィはこの戦いに勝つメリットを分かっていなかったようで、それを熱心に教えてあげただけですわ」

「ちょ、お祖母ちゃん」

「メリット…?」

 

シルフィが俺に勝つメリット?

なんだろう。

 

「それはルーデウス!

 あなたをベッドの上で好きに出来る権利ですわ!」

「あ、なるほど。

 ですが、その権利、俺はシルフィに頼まれれば、いつでも差し上げますよ」

「あら、そうですの」

「…」

 

シルフィは顔を赤くして、黙りこくってしまった。

 

「それより、ルディ。1つ聞きたいことがあるのですが」

「なんですか?ロキシー」

「ルディがシルフィに最後にやっていた技。

 あれを教えてください」

 

俺はエリナリーゼに目配せをした。

すると、エリナリーゼは「それはね」と言って説明を始めた。

ロキシーは「なるほど」と言って理解していたが、顔は赤くなっていた。

 

シルフィは、アレを思い出したのか、

またプクッと片頬を膨らませている。

 

そういえばここは、学校で医務室だ。

こんな場所でなんて会話をしてるんだ。

夜の医務室プレイをやりたくなってしまう。

 

しばらくすると、ロキシーはまだ仕事があるらしく、医務室から退室した。

それにつられてエリナリーゼも帰っていった。

 

医務室の先生からは特に問題ないと言われたので、医務室から退室することにした。

が、去り際に「生徒会室に行くように」と言われたので、シルフィと行くことになった。

 

 

ーーー

 

 

生徒会室に入ると、まずルークに怒られた。

 

「ルーデウス、シルフィ、あれを見てみろ」

 

見ると、俺らが戦ったグラウンドがあった。

グラウンドはひどい有様だった。

 

所々に小さいクレーターが出来ていて、俺らが通った入場口も破壊されていた。

観客席も損傷していたが、幸いにもケガ人はいない。

先生方が力を合わせてレジストしてくれたおかげだ。

ただ、どうしても防げない魔術あったせいか、

体調不良を訴える先生が何人かいるらしい。

 

他にも色々なものが壊れていた。

 

ルークは俺らに被害の説明を終えると、続けて口を開いた。

 

「あのな、ルーデウス。

 お前はもうアリエル様の狙いが分かっているだろうが、これはいくらなんでもやりすぎだ」

「アリエル様の狙い? ルーク、なにそれ?」

 

ルークはアリエルを見て、アリエルが頷くのを見ると話始めた。

 

「ああ、アリエル様はまだ味方になってない貴族や要人を、力を見せることで一気に味方につけるつもりだったんだ。この模擬戦でな」

「あ、やっぱり、そうなんだ」

 

シルフィはどうやら気付いていたらしい。

 

「しかし、これじゃあ味方につけるどころか、恐怖して逃げ出しかねないぞ。

 内容も内容だ。パフォーマンスの範疇を越えている」

 

ルークは、手を顔にあてて「まったく」と言ってため息をついている。

 

確かにパフォーマンスであれば、後半の高速戦闘は必要なかった。

あんな威力の『フロストノヴァ』も必要ない。

前半のような魔術のレジストの繰り返しで十分だった。

 

俺は、一応謝るべきだろうか。

アリエルからはこんな話をされていなかったが、

戦う前に気付いたわけだし。

 

「アリエル様、申し訳ありませんでした」

「ルディ!? ルディが謝る必要ないよ!

 ルディを本気にさせようと動いたのはボクだし…。

 アリエル様、ごめんなさい!」

 

いや、シルフィは悪くないだろう。

俺は途中で、それらしくやられていればよかったんだ。

それを俺はムキになって真正面から受けたのだから。

 

2人で一緒に謝っていると、アリエルが口を開いた。

 

「まあまあ、ルーク、2人をいじめるのはそれくらいにしなさい。

 ルーデウス様もシルフィもお顔をあげてください」

 

アリエルの顔も見ると怒ってはいないようだった。

少し安心だ。

 

「私は貴族や要人を味方につけるためだけに、ここまで事を大きくしたのではありません」

「…」

「様々な方から要望があったのです。

 元学園最強と現学園最強の戦いが見たいと。

 それはシルフィも例外ではありませんでしたが」

「アリエル様!」

 

シルフィが咎めるような口調でアリエルの名前を呼んだ。

シルフィが俺と戦いたかった?

どういうことだ?

 

「それに、私も魔術師同士本気の戦いを見てみたかったですしね。

 まあ、シルフィについては後でゆっくり話すと良いでしょう」

「うー…」

「結果としては、先程、ルークが言った通りですが、それは私たちでなんとかしましょう」

 

アリエルは「それに」と言って続けた。

 

「観戦していた生徒と先生方の期待に満ちた顔。

 そして、友人であるシルフィの楽しそうな顔が見られただけで私は満足です」

 

シルフィが楽しそうだった?

俺にはそう見えなかったけど。

アリエルがそう言うならそうなんだろう。

 

それに、アリエルは王女であると同時に生徒会長なのだと分かった。

学校のことも少しは考えているようだった。

 

 

あと俺は模擬戦を通して思ったことがあった。

 

俺は「上から目線の発言になってしまいますが」と前置きした。

 

「私は幼い時の妻を知っているせいか、妻の実力を少し過小評価していました」

「ルディ?」

「私と離れ離れになってからの妻の努力は、父パウロから聞いておりました。

 そんな妻の努力の成果が見れて、私も満足です。

 内容的には私の敗北でしたしね」

「ルディ…!」

 

シルフィの俺を見る目が輝いている。

 

「そうですか。

 あとでシルフィにも直接言ってあげてください。

 喜ぶと思いますよ」

「はい、そうします。アリエル様にも満足していただけて良かったです」

 

そう言うと、アリエルの顔が変な形に歪み始めた。

 

「ええ、特に最後のアレは最高でしたぁ。

 公衆の面前であんなことをされるのも良いものなのでしょうねぇ」

「え?」

「アリエル様! ルディ、見ちゃダメだよ!」

 

アリエルの顔が変だ。

俺はシルフィにアリエルの顔が見えないようにと、手で目隠しをされた。

 

そういえば、アスラ貴族は変態が多いんだったか。

なるほど、アリエルもか。

 

 

ーーー

 

 

俺とシルフィは一通りの用事を終えると、帰宅の途についた。

 

「ねえ、ルディ」

「なんだい?」

「ボクね、ルディと本気で戦ってみたかったんだ」

 

アリエルもそんなこと言っていたな。

 

「どうして?」

「ボク、ルディの入試の時、何も出来ずに負けたでしょ?」

「うん」

「あの時、ルディに久しぶりに会えて嬉しかったし、ルディにボクの成長した姿を見てほしかったんだ」

 

俺は1年間、シルフィをフィッツ先輩として見てきたけど、

ブエナ村の時を思い出せば、はるかに成長したと思う。

もう俺の後ろを疑いもなく、付いてきてたシルフィとは違っていた。

俺も何回かフィッツ先輩に悩みを相談して解決してくれたし、

何度も俺を助けてくれた。

 

ただ、それは精神面での話であって魔術の腕の話じゃない。

 

「そしたら、ルディってば、ボクの魔術を封じちゃうさ。

 あぁ、ルディにボクの成長した姿を見せられないんだなって思って、少し落ち込んだんだ。

 そりゃあ、勝てるとは思ってなかったけどさ」

 

俺は返す言葉がない。

 

「でも、ルディに『乱魔』を教えてもらってるでしょ?」

「うん」

「だから、もしかしたらルディと五分の戦いが出来て、ボクの成長した姿を見せられるかもって思ったんだ」

 

確かに、シルフィの魔術の腕はすごかった。

作戦もシルフィが1人で立てたらしいし。

伊達にいくつもの死線を潜り抜けてない。

 

「それで、アリエル様に相談していたんだけど、

 リニア達が突然あんなことを言い出して、

 偶然通りかかったアリエル様が大事にしちゃって」

「うん」

「だから、あんなことになったのはボクのせいでもあるんだ」

「そっか」

「ルディ、ごめんね?」

「いや、謝らなくていいよ」

 

そうか。

あれはシルフィが言い出した事なのか。

シルフィは申し訳なさそうな顔をしているが、俺は彼女と戦うことになって驚きはしたものの、怒りはしてない。

 

だが、少し気になることがある。

 

「でも、どうして直接俺に言ってくれなかったんだ?

 シルフィが言ってくれたら俺も戦ったぞ?」

「あー、えっと、それはね…」

 

シルフィ少し考えた後、言いにくそうに口を開いた。

 

「ルディは、ボクと戦うとなると必ず無理をするって思ったんだ」

「俺が無理を?」

「うん。ボク、ルディは戦いが嫌いで、心もそんなに強くないって知ってるよ。

 だから、ルディにお願いするのは申し訳なくて」

「そっか」

 

シルフィがいい子すぎて泣きそうです。

俺はシルフィと手を繋いだ。

 

「ルディ?」

「ごめん、ちょっとこうしたくて。いいかな?」

「うん、いいよ。えへへ」

 

シルフィも握り返してくれた。

 

「シルフィ、俺は今日の戦いでシルフィが成長した姿を見ることができて嬉しかったよ」

「ルディ…」

「それに、上級火魔術も使えるようになってたし。

 泥も、もう怖くないんだな」

「夫が『泥沼のルーデウス』って呼ばれてて泥を好んで使うのに、その妻は泥が苦手っておかしいでしょ。

 ルディの知らないところで、泥を克服できるように頑張ったんだよ」

 

シルフィが自分のことを妻と言って赤くなってる。

 

「でも、上級火魔術は使ってないよ?」

「え、そうなの」

「うん。ボク、火魔術は中級までしか使えないよ?

 この前、言わなかったっけ?」

「え、でも最初の火魔術は上級に見えたんだけど」

「あれは、『大火球』を溜めたんだよ」

 

『大火球』は確か中級だったな。

 

「ルディも『岩砲弾』を溜めて使ってたでしょ。

 それと同じだよ」

「そっか」

 

しかし、溜めたにしては時間が短すぎた。

あの短時間であの威力か。

シルフィは天才だな。

 

「シルフィはやっぱ天才だな」

「ルディ、それ皮肉?」

 

あれぇ、シルフィが怒っている!?

 

「ち、違う!

 俺は本当に、シルフィは天才だなって思って、その、ええと」

「ふふ、冗談だよ。

 ルディはそんなこと言わないって知ってるからね」

 

ふぅ、なんだ冗談か。

 

「えへへ、褒めてくれたんだよね、ありがと、ルディ」

 

シルフィがニヤニヤ笑っててかわいいなぁ。

耳もちょっとピクピク動いてる。

 

「ひゃあ!?」

「あ、失礼」

「もうっ、ルディ!」

 

耳を舐めたら、プイッとそっぽを向かれてしまった。

そんな彼女も可愛いと思ってしまう俺は異常だろうか。

 

 

ーーー

 

 

辺りはもう真っ暗だ。

学校から家まで大体30分くらいだが、いつもより長く感じた。

 

「あーぁ、でもやっぱり悔しいな」

「悔しい?」

「うん、反省点も沢山あったからね。

 良い所までいったのに最後は結局、ルディに負けちゃうし」

 

反省点なんてあっただろうか。

シルフィの魔術の使い方は完璧だったと思う。

それに、もうほとんど杖を俺の喉元に突きつけていたしな。

あれはシルフィの勝ちだろう。

 

「あれはシルフィの勝ちでいいと思うぞ」

「ルディもそう思う?」

「も?」

「うん、みんな言ってたんだ。あれはボクの勝ちだって」

「そっか。じゃあ、あれはシルフィの勝ちだ」

「や、やった!」

 

シルフィの喜ぶ顔ってどうしてこんなにかわいいんだ。

また耳を舐めたくなる。

 

「ルディ、耳舐めないでね?」

「お、おう」

 

釘をさされてしまった。

女の勘だろうか。恐ろしい。

 

シルフィも家でなら許してくれるし、家で舐めよう。

 

「そうだ、シルフィ」

「なあに?」

「俺にしてほしいことがあったら直接言ってくれ。

 俺はシルフィに我慢させるつもりはないからね」

「え、うん。今回のはボクも悪いと思ってるよ」

「そうか。じゃあ早速、俺にしてほしいことない?」

「え、うーん………あっ」

 

どうやらあるみたいだ。

思えば、シルフィにこれを聞いて、ちゃんと返ってきたことは片手で数えられるくらいしかない。

ちょっとドキドキするな。

 

「えっと、ボクはルディに勝ったんだよね?」

「ああ、俺も負けを認めてる」

「じゃ、じゃあ、その…ルディを……ごにょごにょ」

「え、ごめん。よく聞こえなかった」

 

「だから! ルディをベッドの上で好きに出来る権利!!」

「…」

「ハッ」

 

シルフィは慌てて口を抑えた。

辺りは暗くなっているとはいえ、まだ人通りは多い。

みんなこっちを見てクスクスと笑っている。

 

俺も予想だにしなかった発言に面食らってしまった。

 

「えっと、じゃあ俺は今日守りで」

「…る、ルディ! はやく帰るよ!」

「ちょ、シルフィ!

 手を繋いでいるんだから、いきなり走らないで」

 

あぁ。今日も色々あったけど幸せだな。

 

 

ー end ー

 

 

 

・後日談

 

「ねえ、ルディ」

「はい」

「今日はボクが攻めで、ルディが守りのはずだったよね?」

「はい…」

「どうして、途中で変わっちゃったの?」

「…頑張って攻めてるシルフィが可愛くて、我慢出来ませんでした。

 申し訳ありません」

「怒ってるわけじゃないから謝らなくていいけど…」

「…」

「……ボクもなんか楽しかったし」

「シルフィ…!」

「あっ…!」

 

その後、ルーデウスとシルフィは第2回戦を始めるのであった。

 




・後書き

投稿が遅れてしまい、申し訳ありません。

今回はルーデウスとシルフィが戦うお話でした。
いかがでしたでしょうか?
戦闘シーンは少し長かったですかね?

模擬戦はルーデウスの勝利ですが、内容を振り返るとシルフィの勝利になるんじゃないかな、と思います。
私の予想ですが、この頃の2人の実力はそんなに離れておらず、『乱魔』と条件次第では、シルフィでも勝ち得ると考えています。
そんな考察をもとに今回のお話を書きました。

話は変わりますが、無職転生のアニメは視聴しましたか?
私は第1クール目の再放送を毎週欠かさず見ています。
第2クールも10月から放送するので、早く見たいですね。
10月が待ち遠しい…。
フィッツ先輩もちょっとだけ出してほしいなぁ…。

それでは。
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