ほぼプロローグの1話、どうぞ
「レモン先輩、何でディフェンス行かないんですか!?」
「いや~、これ以上ユニフォーム汚すとママに怒られるからさ」
DF陣の1人である
気を改め構えなおす神白に対し、相手はペナルティーエリアの1歩前で止まり首を鳴らす。彼の名は
「もうやめにしませんか? いくらあなた方があがこうとも、我々王都学園の勝ちは揺るぎません」
「無駄話はよせよ。正々堂々、ホイッスルが鳴るまで勝負するのがサッカーじゃないのか?」
神白は再びグローブで汗を拭くと、まっすぐな目で我望を見つめる。周りのチームメイトが王都学園の攻撃に倒れている中、傷だらけでもコートに立つその姿は応援しているお互いの生徒から一際目を引いていた。我望はため息をついて首を横に振ると、ボールを頭上に打ち上げた。それに続いて飛び上がった我望の後ろから、小規模のブラックホールが現れボール共々吸い込んでしまう。その直後、どこからともなく我望のドスの利いた声が鳴り響く。
「ミステリーホール!!」
すると突然センターラインにブラックホールが出現し、紫のオーラを纏ったボールが神白目掛けて一直線に飛んできた。いつの間にかセンターラインに移動していた我望は、ボールに止めようとする神白を鼻で笑いシュートが決まることを確信していた。神白は徐々に勢いを増していく我望のシュートをキャッチするタイミングを窺っている。今の彼にはチームメイトの声が届いておらず、ただ向かってくるボールを止めることだけに集中していた。やがてペナルティーエリアにボールが到達すると、神白はタイミングを合わせて両手を突き出した。それと同時に神白の手のひらに白いオーラが現れ徐々に巨大な手の形に変化していく。これには余裕な態度を取っていた我望も目を見開いて驚嘆の声を上げた。
「おい嘘だろ、なんだあれは……!」
「うおおおおお! 必殺……」
神白は元々ゴールキーパーどころか、サッカープレイヤーではなかった。1週間前に
「勇悟、サッカーやってくれ!!」
「待て待て待て、状況がよく分からねえ。まずは頭を上げて教室を出よう、話はそれからだろ?」
「引き受けてくれるのか!」
「まだうんとも言ってねえぞ俺は……」
赤浦を連れて神白が向かったのは、1年生の教室がある新校舎だ。ここの1階にあるサッカー部の部室に入ると、既にユニフォームに着替えていたほかのチームメイト達が赤浦のことを待ちわびていた。赤浦は教室での情けない姿が嘘のように活気を取り戻すと、神白に肩を回して清々しい程の笑みを浮かべた。
「今度の王都との戦い、この神白勇悟にキーパーを任せることにした!」
「そういう事だったのか……は?」
「よろしくな、勇悟!」
神白の手を取り力強く握る赤浦に、チームメイトは安堵の表情を浮かべ神白の元にやってくる。
「俺、DFの文屋連十郎。気軽にレモンって呼んでくれよ」
「僕は
「
「1年2組、DFの
「いや自己紹介はいいから、とにかく説明を頼む」
困惑する神白に対して、七三分けをした少年がネックレスを付けながら先頭に立ちぶつぶつと何かを唱え始めた。その奇妙な行動に引き気味な神白に、少年は落ち着いた様子で小さくうなずいた。
「問題ない、君なら王都のシュートを止められる」
「えっと……名前何だっけ?」
「姓は
「ご丁寧にどうも……」
満足げに神白から離れていく緑門を後目に、残りのメンバーが自己紹介を続けた。
「俺はフィールドに咲く一輪の花、青峰充です。以後お見知りおきを、先輩」
「私は
「おいおい眼鏡くん、いくら月が憂いても太陽がない限りは輝くことはできないんだよ?」
「君は一輪の花ではなかったのですか?」
険悪な空気に包まれる中、青峰と伽藍を2人のメンバーが制した。取り合えず仲直りした2人を確認すると、部室にいる最後の2人が神白に話しかける。
「俺は
「よろしく神白君、僕は
「よろしく……」
神白は大清水が差し出した手を握りしめる。部室にいるメンバーの自己紹介が終わると、赤浦は神白にパイプ椅子を渡した。赤浦も同じくボロボロのパイプ椅子に座って向かい合うと、神妙な面持ちで話し始める。
「俺たち虹ノ宮中は1週間後、サッカーの名門校である王都学園と練習試合をすることになったんだ。だが見ての通りピッチに立つメンバーは10人しかいない……俺は藁にも縋る思いで、ガキの頃に日が暮れるまでサッカーで遊んだお前に頼ったんだ」
「いやすごいいい話にしようとしてるけど、どうして10人しかいねえのにその王都学園と戦うことになった?」
「まあ理由は2つだ。1つは俺たちの仲間、灰賀の入院だ」
その後、赤浦は雑談も含めて20分ほど灰賀について語りだした。
「それは災難だったな。それで、もう1つは?」
「それは……」
赤浦が話そうとしたその時、勢いよく部室の扉が開かれジャージ姿の女性が入ってきた。黒縁の眼鏡をかけなおして部室のホワイトボードの前に立つと、またもや勢いよくボードに貼られた紙を叩きつけもう片方の拳を固め叫んだ。
「みんな、王都との練習試合まであと1週間! 新入部員が新たに見つかったわよ!」
「誰? この人?」
「
赤浦は神白にこっそり耳打ちした。星野は意気揚々に部室の外にいたマネージャーの
「ぼぼぼぼ僕、
「うん、元気が良いのはいいことよ! 橙山君にはMFに入ってもらうわ」
「あの、先生! そのことなんですが、もう11人目は集まってまして」
赤浦は神白を連れて立ち上がると、星野の元に立つ。星野は神白の顔をまじまじと見つめた後、橙山と神白を見比べて答えを出した。
「神白君、あなたサッカーやりたい?」
「やりたいかはあれなんですけど……友達のピンチを助けるのは当然だと思いますんで」
「ん~ありがとう! 私と神白君友達になった覚えはないけど嬉しいわ~」
神白は赤浦と顔を見合わせ苦笑すると、星野から渡された入部届を受け取った。神白が入部すると決まると、部室の仲間達は歓迎ムードで神白と赤浦の元に集まってくる。その様子を微笑ましく思う星野だったが、隣にいた橙山はたじろぎながら星野に話しかける。
「すみません……あの神白という先輩が入るということで、僕はこの辺で失礼させてもらおうかと」
「あら逃がさないわよ? せっかく了承してくれたんだもの、せめてマネージャーとしてでもサッカー部に残ってもらうわよ?」
「ええ……先輩たちになんて言おう」
こうして、虹ノ宮サッカー部に11人目のメンバーである神白勇悟が入部したのだった。なよなよした橙山も後にプレイヤーとして戦うことになるが、それはまた先の話である。
こうして神白を含めた虹ノ宮イレブンは、打倒王都に向けて更なる練習に励むのであった。
Pic-up Character
■神白 勇悟(かじろ ゆうご)
背番号:1
誕生日:5月16日
虹ノ宮中の2年生で、新人ゴールキーパー。
友である部長兼キャプテンである赤浦のため、
チームを守る盾となる。
Pic-up Shoot
■ミステリーホール
ボールと共にブラックホールに入り、相手の意表をついて
シュートを決める技。
次回は王都との練習試合、そして神白の必殺技が明らかに!