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関係者各位 ●年〇月●日
長野県文化連盟
都道府県選抜高校麻雀大会選考会のお知らせ
拝啓 清秋の候、皆様ますますご繁栄のこととお慶び申し上げます。日頃より、本連盟の活動にご理解・ご協力頂き誠にありがとうございます。さて、見出しの件ですが、□月△日に都道府県選抜高校麻雀大会が開催されることとなりました。つきましては、下記のとおり選手選考会を行いますので、皆さまご参加いただきますよう願います。
記
日時 : 〇月△日(金)〜□日(日)
場所 : 温泉宿〇〇
連絡先 風越女子高等学校麻雀部顧問
久保貴子 000-0000-0000
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インターハイが終わり木々が色づく頃、私の元にそんな手紙が届いた。
ー麻雀大会…都道府県対抗…お姉ちゃんとまた闘えるかも!
インターハイで闘い無事仲直りすることができたお姉ちゃんは高校を卒業をしたら帰ってくることになっている。
もう戻ることがないと思っていた姉妹の絆をもう一度繋ぎ合わせてくれた麻雀、その場となった全国の舞台、それらは私の記憶から消えることは一生ないだろう。
ーうん!すごくワクワクしてきたよ!
翌日
「咲はもちろん参加するわよね?」
部室に入るといきなり部長に声をかけられた。
「へ?」
突然のことだったので情けない声をあげてしまった。
どうやら遅れてくる間に話が進んでいたようだ。
「都道府県選抜よ!昨日手紙来てたでしょ?」
「あっはい!でも、これってチームってどうなるんですか?」
「もー、ちゃんと読みなさいよ…ここに選考会って書いてあるでしょ?」
全国での再戦が楽しみでよく読んでいなかったのが災いした。
「咲ちゃん、相変わらず抜けてるじぇ」
「大丈夫なんかいのぅ」
「咲さん、しっかりしてください…」
ーもう、みんなして言わなくてもいいのに…
その頃、龍門淵にて
「衣は参加するぞー!」
「オレはいいよ、面倒くさそうだし」
「私も…」
「僕も遠慮しとこうかな」
乗り気な衣と対照にやる気のない純、智紀、一。そんな4人のもとへ龍門淵家次期当主である龍門淵透華が怒り心頭ながらやって来る。
「何をおっしゃいますの⁉︎龍門淵は全員参加に決まってますわ!地区大会での雪辱を果たしにいきますわよ!」
「うむ、全国には阿知賀のような怪奇な相手がいるだろう
とても楽しみだ!」
同じく、風越にて
「華菜ちゃん、これどうする?」
「もちろん参加するし!きっと宮永や天江、それに鶴賀の大将も来るだろうから…そこでリベンジだし!」
「なら、私も鶴賀のあの人に…勝てそうにないところもあるけど…」
「なら私も」と深堀
「私なんかが参加してもいいのでしょうか…?どうしても県大会決勝を思い出してしまって…」
「…文堂…」
落ち込む文堂にどう声をかけようか迷う面々。
「大丈夫よ、文堂さん。私たちはあれから強くなった。今度こそ風越が最強ってことを証明しましょう!」
「「「「キャプテン!」」」」
同じく、鶴賀にて
「ワハハ、ゆみちんは参加するのかー?」
「ああ、大学は指定校で決まっているしな。何より面白そうだ。蒲原はどうするんだ?」
「ワハハ、私は大学は決まってないが一日くらいなら大丈夫だろー」
「智美ちゃん、選考会は三日間だよ?それにこの日は補習があるんじゃ…」
「!?」
「…蒲原は参加できないとして、他のみんなはどうするんだ?」
半ば呆れながら話を進める加治木。
「私は先輩が参加するなら参加するっす!」
「うむ、私も新部長としてやらなくては!」
「わ、私も…」
「ならこの4人で申し込みだな。頼んだぞ睦月」
「は、はい!」
「待ってくれ、ゆみちん私がいなかったら会場までどうやって行くんだ?」
そんな蒲原の叫びが加治木に届くことはなかった。
ー○月△日(金)ー
「お、おはようございます」
「咲ー、遅いわよ」
「すみません、寝坊しちゃいまして、、」
「また迷子になったのかと思いましたよ」
ー返す言葉もない…
実際のところ道を間違えた訳だし…このことは秘密にしておこう。
「ま、いいわ。これくらいの遅れは想定して予定は立ててあるから。咲が今日が楽しみで寝付けなくて遅れるだろうってね」
と笑う部、元部長。この人は本当に怖い人だ。
「わりゃ恐ろしい奴じゃのぅ」
「あら、まこもこれくらいできないといけないわよ?部長なんだから」
「こんなこと部長にしかできないじぇ」
「今まこが部長って言ったばっかじゃない…ま、とりあえず出発しましょ」
選考会の会場は電車で1時間ほどの場所にある。確か結構有名な宿だったはず、なんてことを考えている内に最寄り駅へ着いた。
「サキー、ノノカー!久方ぶりだな!」
「衣ちゃ、さん!」
会場へ着くと県大会決勝や合同合宿で卓を囲んだ皆んなにで迎えられた。よく見ると、知らない人が2人ほどいる。
「平滝高校の南浦です。」
「千曲東の棟居です。」
「清澄の竹井です。よろしくね。」
ーああ、そうか。棟居は団体の1回戦、南浦さんは個人で闘ったんだったっけ?棟居さんはやりづらかったな。
「うちが最後かしら?」
「まだ鶴賀の方たちが来てなくってよ」
鶴賀は長野で1番北に位置し、今回集まる中では会場から最も遠い。いつもなら暴走気味のフォルクスワーゲン・タイプⅡでやってくるのだがー
「すまない、遅れてしまって。まさか電車での移動がここまで大変だとは思わなかったよ」
「一時間に一本、乗り換え駅でも30分待つなんてまいったっす」
「すみません、私がしっかり予定を立てていれば…」
鶴賀学園御一行の到着だ。って、あれ?4人?1人足りない。東横さんかと思ったがそうではないようだ。そんな疑問はすぐに解決された。
「蒲原さんは?」
「元部長さんなら補習があって不参加っす」
ーなるほど、受験生は大変そうだ。清澄の受験生である元部長はIH初出場にして初優勝した清澄を導いた実績が認められて大学や実業団、プロチームから引っ張りだこだったらしい。最終的には教師になる為、東京の大学へ進学することが決まっていた。
「全員揃ったみたいだな」
「「「「藤田プロ⁉︎」」」」
それぞれが会話に花を咲かせるなか現れたのは、まくりの女王の名で知られる長野出身のプロ雀士藤田靖子であった。
「選考委員の藤田靖子だ。よろしく」
「それでは選考会の日程を伝える。まず今日は各自自由に過ごしてもらって構わない。明日は私と久保も卓に入って打ってもらう。そして最終日である明後日はここにいる全員でランキング戦をやってもらう。その結果と2日目の様子を見てメンバーを決めようと思う。何か質問がある者は?」と前で語るカツ丼さん。その横には風越のコーチだっけ?久保コーチもいる。
「ちょっといいかしら?」
「竹井か、どうした?」
「今年のIHは清澄が優勝したじゃない?てことは長野からは2チーム参加できるのよね?」
「ああ、その通りだ。他に質問がある者は?ーいないようだな。それじゃ解散」
「サキー、ノノカー遊ぼう!麻雀しよー!」
「おっふろー、おっふろだじぇー!」
「久、ちょっといいですか?」
「この前三尋木プロのレアが…」
ー今度こそは負けないし!
ーまた冷たい透華になっちゃうのかな…
ーまたあの場所で闘うにはここで勝たないと。
それぞれが想いを抱き夜は明けるーーー
「えー、おはようございます。藤田プロはまだ寝てるので私が進行をします」
「コーチ大変そうだね」
「昨日も遅くまで付き合わされてたし!」
「池田ァァ!うるせぇぞ!」
場の空気が凍りつく。これが鬼の久保かと皆が慄く中、日常茶飯事なのかピクリともしない池田。
このどうしようもない場をどうにかするため福路が助け舟を出す。
「ーそれで、コーチ。今日はどのように進めるのですか?」
「…失礼しました。えー、先日も説明があった通り今日はとりあえず自由に打ってもらい私も混ざって皆さんの様子を見させてもらいます。では10分後から開始で」
「ダブルリーチだじぇ!」
「ツモ、嶺上開花。1600、3200」
「リーチだし!」
「ツモ!海底撈月!」
「どうだ?様子の方は」
「藤田プロ…もう昼ですよ?」
「ここの布団が気持ちよくてな。仕方ない」
「…こっちに牌譜がまとめてあります。」
「ふむ、お前の所感はどうだ?」
「やはり宮永と天江が抜き出て強いですね。あとは片岡や竹井、福路や加治木もいいですね。あとは鶴賀の東横、
南浦さんもなかなか」
「じゃちょっと打ってくるかー、龍門淵の娘も気になるしな」
「龍門淵透華ですか?たしかに強いですが原村とかと比べると…」
「いや、なんでもない」
ーこの様子だとまだ覚醒してないようだな。条件があるのか、ただ不安定なだけか?
藤田プロも交え闘いが熱くなりーーー
「それでは今日はここまで。解散」
ー結局、覚醒はなしか。しかし宮永…全国の魔物を相手にしてさらに成長したか…これなら世界戦も…
選抜合宿3日目
日が沈み月が姿を現す頃、因縁とも呼べる闘いの火蓋が切って落とされた。
宮永咲、天江衣、加治木ゆみ、池田華菜、県大会決勝を闘った4人である。
東1局 ドラ 東
親 池田華菜
南家 天江衣
西家 宮永咲
北家 加治木ゆみ
6巡目
天江 打 東
池田 二二四五①①②③⑦⑦⑸東東
(それを鳴けば1向聴、天江の海底もずらせる…でもそれじゃダメなんだろ?)
天江(風越が鳴かない⁉︎…刮目相待。今までとは違うということか)
13巡目
「ツモ!チートイドラドラ、4000オールだし!」
池田 37000
天江 21000
宮永 21000
加治木 21000
ーもう、負けないって誓ったんだ!ここで負けるわけにはいかないし!
「一本場だし!」
東1局1本場 ドラ ②
17巡目 天江「立直!」
宮永(聴牌できない…)
加治木(やはり来るか…)
「ツモ!海底撈月!2100・4100!」
池田 32900
天江 29300
宮永 18900
加治木 18900
東2局 ドラ 八
親 天江
宮永(池田さんも衣さんも強い…私も負けてられない!)
「カン」
③④⑤⑥⑥⑵⑶⑷⑺⑺ [四四四四] ⑥
「ツモ、嶺上開花、1600・3200です!」
池田 31300
天江 26100
宮永 25300
加治木 17300
東3局 ドラ②
親 宮永
加治木
一四五*②②⑥⑦⑧⑵⑹⑼発発 西
(3向聴だがドラ3、ここは和了っておきたい)
2巡目 加治木が発を鳴いて2向聴
4巡目 「チー」
二四五*②②⑧⑵⑹ [⑤⑥⑦] [発発発]
池田の捨てた⑤を鳴く。ドラでもなく手の進まないので普通は考えられない鳴きである。(天江や宮永は感覚派の打ち手だ。特に天江は相手の点数を察して打っている節がある…ならその感覚をずらしてしまえばいい)
清澄を応援し、全国の強豪をみて生み出した“ただの人間”なりの闘い方であった。
「ロン、発ドラ3で7700」
ー何の気配も感じなかったのに⁉︎
天江の感覚の隙をついた一閃。
池田 31300
天江 18400
宮永 25300
加治木 26000
東4局 ドラⅥ
親 加治木ゆみ
ー東4局でトップ、これは華菜ちゃん大勝利だし!
「ロン、5200」
「うっ、はい…」
ーって、そううまくはいかないか…
池田 26100
天江 23600
宮永 25300
加治木 26000
天江が池田から5200を和了り点数がほぼ横並びとなった状態で南場へ突入する
そして南4局
南4局 ドラ⑧
親 加治木 26000
南家 池田 23700
西家 天江 28000
北家 宮永 22300
加治木 一五七九②②⑥⑦⑨⑸西発発 ⑼
ー良い配牌とは言えないが発が対子なのは有難いな。しかし…
池田 一一二三①④⑧⑧⑸⑺南南南
ーダブ南ドラ2確定!これで決めたいけど…
天江 二三四六⑥⑦⑧⑨⑨⑵東南北
ーこの場を凌げば衣の勝ちだが…
3人が覚えた違和感。それは咲の不自然なまでの大人しさであった。咲の和了りは先程の
東2局のみでそれ以降は大きな動きを見せていない。そして3人はこの感覚に覚えがあった。そう、県大会決勝の安上がりからの大物手を和了り数え役満を決めたときに極めて似ているのだ。
そうとなると目的は一致する。
(((宮永咲に警戒しながら最速で和了る!)))
「ポン」加治木が発を鳴いて仕掛ける。
対して池田と天江は配牌が良く有効牌の引きも良かったので門前で手を進める。
全員が勝利への手を張った時…
「カン!」
嶺の上に花が咲く。
⑵⑶⑷⑹⑹⑺⑺⑺⑻⑻ [⑴⑴⑴⑴] ⑻
「ツモ、嶺上開花!4000・8000です!」
池田 19700
天江 24000
宮永 38300
加治木 18000
こうして2度目の闘いは幕を閉じた。
「咲!池田!それから鶴賀の!今日はとても楽しかった!また衣と遊んでくれるか?」
「もちろんだ、負けたままではいられないからな」と加治木
「あたしも!この借りはいつか返すし!」
「私も皆さんと打ててとても楽しかったです」
対局が終わり緊張の解けたそれぞれの卓で他愛もないおしゃべりが交わされ和やかな雰囲気がしばらく続いた。
が、それも束の間。
メンバー決定の話し合いの為、別室へ行っていた藤田プロと久保が戻ってくると空気が一変する。
「それでは、代表メンバーを発表する」
「Aチーム、先鋒 片岡優希、次鋒 福路美穂子、中堅 竹井久、副将 宮永咲、大将
天江衣」
「Bチーム、先鋒 龍門淵透華、次鋒 池田華菜、中堅 東横桃子、副将 原村和 大将
加治木ゆみ」
「以上が代表メンバーだ。選ばれなかった者の分まで頑張ってくれ」
ー面白そうなチームね
ー咲と同じチームだ!
ー原村和と同じチーム!どちらがより目立つの白黒つけてやりますわ!
ー先輩と同じチーム…頑張るっすよー!
ー全国…またいろんな強い人と闘える!
長野県、代表メンバー決定!