カードゲームで支配できるような世界の主人公になってしまったのでメタデッキを組みます 作:さすらいのひまじん
拝啓、おふくろ様。桜咲き、新たな出会いの季節。季節の変わり目で風邪を引きやすいこの頃ですが、いかがお過ごしでしょうか?
私は今、
「あうあ〜ばぶばぶ〜」
赤ん坊となってまたあなたの乳を吸っております。
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アニメを見ていたら世界が崩れていったあの日から、俺は何故か赤ん坊になっていた。
しかも色々と世界がおかしかった。
まず第一に両親の名字がおかしい。うちはまず間違いなく『勝鬨』なんて名字じゃ無かった。もっと普通の、どこにでもいるような名字だったはずだ。別に両親が別人だとかそういうわけじゃない。直近の記憶よりは随分と若々しいが流石にそこを間違えるほど家族仲が悪かったわけじゃない。つまり、何故か名字だけが変わってしまったのだ。しかも『勝鬨』か〜。珍しい名字ですね(棒)。
次に、前の世界では俺が大人になるまで販売されていなかったMoWが既に販売されており、代わりに他のTCGが全滅しているのであった。なんでやろな〜(棒)。
そしてそのMoWであるが、随分と大流行しているみたいで、世界中で知らない人どころか、プレイしたことない人なんて1人もいなくて、世界大会だって開かれてるんだって!はえ〜すっごい(棒)。
……いい加減、現実逃避はやめよう。
つまりは、俺は前の世界で見ていたアニメ「マスターズ・オブ・ザ・ワールド」の世界の主人公、『勝鬨 遊』になってしまったようです。なんでさ。
「つまり俺がMoWをやるかどうかがかなり重要なんですよ」
「? なんで? ユウはMoWをやりたくないの?」
この俺の前で可愛らしく首を傾げる女の子こそが、この物語におけるメインヒロイン兼幼馴染兼俺のご主人様となる『切札 愛花』その人である。俺の家のお隣に住んでおり、赤ん坊の頃にお互いの公園デビューで出会ってからこうして毎日遊ぶようになった。
まだこの世界を理解していなかった頃は「こんな可愛い子と幼馴染とか人生勝ち組やんけ勝ったなガハハ」と笑っていたもんだが、理解した時「でもこの子ヤンデレになるんですよね」と冷や水をかけられたのは想像に難くない。でも可愛いんだよな〜。2人っきりの世界に監禁エンドだけ避けられれば、ヤンデレになってでも付き合うことを歓迎しても良いかもしれない。閑話休題。
時は流れて、12年。中学1年生の今、ついに彼女からMoWの誘いを受ける。
これはつまり、物語の始まりを意味するのだ。
ここで俺がその誘いを快く受けてMoWを始めた帰り道、俺はW・E・Dを拾い、レアキラ団に狙われ、流れに流れて行くところまで行ってしまうのだ。
正直なことを言えば、やりたくない。なんで俺がそんなこととも思う。思うのだが……
「も〜、さっきからどうしたの? いつものユウらしくないよ?」
「……」
はっきり言う。レアキラ団はクズの集まりだ。世界征服を狙っているのもあるが、それ以前に、わざとレアカードを相手に拾わせ、相手がそれをデッキに入れたところを狙いバトルを挑むと言う最悪の手法を使ってくるのだ。
この世界にMoWのデッキを持たない人なんて赤ん坊ぐらいしかおらず、レアキラ団なんて表舞台に出ていないし、レアカードは1枚でも十分に強いので、誰だってデッキに入れる。そうして知らずに候補者になった人は、レアキラ団に「マスターズ・ルール」での試合を挑まれ、レアカードを使いこなせずに全てを奪われるのだ。実際主人公がW・E・Dを拾うのもこの手法に巻き込まれた結果である。主人公は負けなかっただけなのだ。
そんなクソコンボかましてくる相手がいるのに、主人公になってしまった俺が戦いを放棄しても良いのか?俺が放棄したら、この世界はどうなる?レアキラ団の被害はどこまでも大きくなり、目の前の少女だって彼らの奴隷に成り下がるだろう。そして最後にはW・E・Dの計略を誰も止められず、世界は終わるのだ。
そんなの、俺は認められない。認められるはずがない。
「ユウ! ちょっと、聞いてるの? 本当におかしいよ? いつもなら___」
「聞いてる!聞いてるし、やるよ! MoWだろ?デッキはあるのか?」
「……もう。あるよ! はい、このデッキ」
「……あっ、いや、待ってくれ」
「?」
このバトルの帰り道。この貰ったデッキにW・E・Dを入れた形でレアキラ団と戦うことになるのだが、正直言ってこのデッキはW・E・Dと相性が良くない。運が悪ければレアキラ団に負けることもあるだろう。ならば……
「これってマナカが組んだってことは、マナカはデッキの中身知ってるんだろ?」
「? うん。私のデッキとカードも枚数も全部一緒だよ」
「それじゃつまんないだろ? 俺自分でデッキ組みたいから、カードショップ行こうぜ」
「えぇ? まぁ良いけど……」
せっかく今後の展開を知っているんだ、絶対に勝つためのメタデッキを俺は組む!
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「デッキがでっきたよ」
「え? さむ……」
「え? つら……」
カードショップにて。
この世界のカードショップにはレアカードを売っていないことを確認し、それを踏まえてデッキを構築する。
しかし___
「いくつか効果が違うな…これがアニメ版ってやつか」
「? あに? なんか言った?」
「いやなんでも。さて、やるか!」
デッキをカットして山札にして、マスターを裏向きでセットする。
このバトルは勝っても負けても問題ないお遊びだ。楽しむ、と同時に初心者っぽいムーブを心がけよう。
あんまりマナカに疑われたくない。束縛が強くなる気がするし(恐怖)。
「マスター開示! ノーマル・マスター!」
「え?そんな大声出して表向きにするの?普通に表向きにすれば良くない?」
「何言ってるのユウ! カードの効果や名称を声に出して言うのはマナーだよ!」
「いや、それはそうなんですが……うん。マスター開示! ノーマル・マスター!」
いきなり前の世界との違いに突っ込んでしまった……まぁ逆に初心者っぽいか。ヨシ!
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ノーマル・マスター
スキル このマスターは全てのカードを利用できる
Lv.0 Attack 0/ Guard 0
Lv.1 up時 山札からカードを1枚引く 1/1
Lv.2 up時 山札からカードを1枚手札に加える 2/2
Lv.3 起動/対抗 ターン1 相手のマスター又はモンスターに3点のダメージ 3/3
LIFE 20
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ノーマル・マスターは一番スタンダードなマスターで、アニメ世界じゃほとんどの人が使ってるのがこれ。と言うか他のマスターは基本的にこのノーマル・マスターを覚醒させることで手に入るらしく、他のマスターを使っていると言うことはそのプレイヤーがかなりの熟練者であることを示すとか。
初心者である俺たちが使うのも当然これになる。効果はかなり無難だ。使いやすいとも言う。
「先攻後攻はどうやって決めるんだ?」
「え?ジャンケンとかコイントスとか… ユウは初めてだしターンの流れ覚えきれてないよね? 今日は私が先攻で見せるね」
「あ〜、そうだな。よろしくマナカ先生」
「任せて!」
勿論、基本ルールなんて丸暗記しているが、今回は相手の言い分に乗っておこう。
と言うか、今後先攻後攻なんて先に動いたもん勝ちになる。先攻が有利になるときは積極的に先攻を主張しないとな……
初期手札5枚を準備して、いよいよゲームの開始になる。
「それじゃあ始めるよ! ドロー!」
「手札2枚を経験値にして、レベルアップ!効果でカードを1枚ドロー!」
「メインフェイズ! 手札からエンジェルを使役するよ!」
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エンジェル(モンスター)
Attack 2/ Toughness 3
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「スペルを一枚詠唱して、先攻はアタックできないからターンエンドだね!」
「俺のターンだな。ドロー」
「2枚経験値にしてレベルアップ。効果で1枚引く」
「メイン。手札を1枚捨てて、破壊槌を装備」
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破壊槌(ウェポン)
【条件 手札を一枚捨てる】
スキル 相手のモンスターが廃棄された時、カードを1枚引く
Attack +2/ Guard +0
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「さらに突撃ゴブリンを使役する」
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突撃ゴブリン(モンスター)
Attack 4/ Toughness 1
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「アタックフェイズ! Lv1でアタック値が1で破壊槌+2されて合計3のマスターでマナカにアタックだ!」
「ちょっと! 場にモンスターがいるときは相手マスターに攻撃できないよ!」
「あり?そうだっけははは(わざとだけど)」
「じゃあそのエンジェルにアタックだな」
「こっちはエンジェルのアタック値から俺のガード値を引いて1点のダメージで…」
「私のエンジェルはタフネスが0になったから廃棄されるね」
「破壊槌の効果で1ドロー!」
「よし!じゃあゴブリンで攻撃___」
「も、できないよ。出したばかりのモンスターは使役酔いがあるもん」
「ユウは全然ルール覚えてないんだね〜」
「しっ、知ってたし(本当に)」
「俺はこれでターンエンド!」
初心者ムーブをしながら、感覚を思い出していく。何せ12年前に見たアニメだ。流石に序盤の雑魚が使うデッキを完璧に覚えているわけではない。
しかしながら、マナカが今使っている、本来なら俺も使うはずのあのデッキはどちらかと言うと受けデッキで、回復と壁役モンスターが多いデッキだ。コントロールができるほどしっかりとした構築になっていないが、まぁ良くも悪くも初心者向けって感じだ。前の世界じゃスターターキットで販売されていた。
それに対して今俺が使っているデッキは所謂アグロと呼ばれる超攻撃的なデッキだ。相手マスターにダメージを与えることが最優先で、それ以外を無視すると言ってもいい。このアグロデッキがW・E・Dと相性が頗るいいのだ。受けデッキとは相性が良くない理由もなんとなく察するだろう。
このデッキならW・E・Dを普通に使いこなして、レアキラ団ともまともに戦えるはずだ。ギリギリの逆転劇なんていらんのですよ。相手のデッキをちゃんと覚えてないのが悔やまれるが…
ちなみにマナカのデッキとの相性的には良くない。マナカが初心者的プレミをしてくれれば勝ち目があるが、まぁ負けてもいい試合だ。この後の負けられない試合のための犠牲ってやつだナ。
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「俺のターン、ドロー……」
現状を再確認しよう。
マナカは残りライフ10でLv.3。場にはセイクリッド・エンジェルが1枚とジャスティス・ワンドを装備している。
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セイクリッド・エンジェル(モンスター)
【条件 自身のライフが5以下】
登場時 自信のマスターのライフを5回復
5/10
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ジャスティス・ワンド(ウェポン)
【条件 相手リーダーのライフを5追加する】
攻撃時 交戦の後、自身のライフを3回復する。
+1/+1
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そして俺は残りライフ8でLv3。場には大喰らいスライムが1枚と突撃ゴブリンが1枚。装備している破壊槌、そして発動待機状態のスペル、自爆大爆発が1枚だ。
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大喰らいスライム(モンスター)
【条件 モンスターを1枚以上使役している】
登場時 自身の使役しているモンスターを1枚、廃棄しても良い。
そうした場合、相手はモンスターを1枚廃棄する。
5/5
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自爆大爆発(スペル)
お互いのマスターに5点のダメージを与える
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マナカはノーマル・マスターLv3のスキルで、対抗のタイミングで3点バーンを飛ばせる状況にある。そのためマナカが俺に向かって3点を飛ばした時点で、バーンダメージにガード値の軽減は適用されないため、俺は自爆大爆発を打てなくなる。残り10点を自爆大爆発なしで与えるのはかなり厳しいと言わざるを得ない。となると……
「……ヨシ! 俺は手札から侵食虫 ドリワームを使役するぜ!」
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侵食虫 ドリワーム
【条件 自身のマスターに2点のダメージを与える】
登場時 相手は自身のモンスターを1枚廃棄する
2/1
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「うぇ…… なんでユウってそう言うモンスターばっかり使うの?」
「なんでって、いいだろち○こ虫」
「ちっ!!?? もっ、もう!ユウはバカなんだから!」
「で?対抗は? 使うのか?」
「……いや、まだいいかな。そのスペルが気になるし」
「セイクリッド・エンジェルを廃棄するよ」
「じゃあノーマル・マスターの起動効果でマナカに3点と___」
「頼むマナカ。俺と一緒に死んでくれ」
「えっ!? そ、それって___」
「喰らえぇぇ!!自爆大爆発!!」
「…………はぁ。対抗でユウにバーンね」
「ひでぶ!?」
普通に負けました☆
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