えっ、スカンディナヴィア十字を立てちゃいけないんですか!? 作:ryanzi
1919年1月14日5時14分、後に〈ヨーロッパを終わらせた戦争〉と呼ばれる戦争は終結した。
協商と同盟の本気の出しすぎ、およびアメリカの無差別上陸作戦・・・。
原因は大きく分ければ二つなのだが、植民地の勝手な独立とかもあった。
とにかく、ヨーロッパは一部地域を除いて大きく後退してしまった。
スウェーデン「命拾いした」
ギリシア「そうかそうか、ゆっくり哲学でもするか」
トルコ(共和国)「早めにリタイアして正解だったわ」
・・・話を続けよう。フランスはブルボン朝がなんやかんやで復活した。
ドイツでは以前のように諸侯国家が乱立するようになった。
イタリアは半島全土が教皇庁の下に支配されることになった。
スペイン、ポルトガル、ノルウェーが消えると同時に、星条旗に三つも新しい星が加わった。
デンマークはアメリカ、協商、同盟の大乱闘の舞台となったので崩壊した。
オランダは隣国と同じように道路の役割を担うことになった。
フィンランドが一番マシだろう。独立できたから。毒ガスの影響で国民がカバみたいになったが。
ロシアはウラル山脈以東の領土を日本とモンゴルとタンヌ・・・何だって?とにかく分割された。
イギリスは『戦争は平和なり』『自由は隷従なり』『無知は力なり』と叫ぶようになった。
スイスは・・・ある意味、どの国よりも戦火から逃れることに成功したかもしれない。
「・・・こりゃ酷い」
そんなヨーロッパの悲惨を伝える新聞を読みながら切り株に座っているスウェーデンの青年。
この青年こそがこの馬鹿馬鹿しい時間の無駄にしかならない小説の主人公である。
名をアーベル・ショットブッラル。農家の三男坊である。
上の兄たちは不幸にも戦争直前にパリ見物に行ってしまったのだ。
その後、彼らの行方を知るものはいなかった。
(兄さんたち、やっぱり徴兵されちゃったのかな・・・)
戦争は全てを壊してしまった。スウェーデンもある程度被害を受けた。
ノルウェーから侵攻してくるアメリカを撃退するためにシュールストレミングを用いたのだ。
それにより、国内でのシュールストレミング不足が深刻な問題になってしまった。
シュールストレミング不足のせいで、街のあちこちで人が発狂するのは珍しくなくなった。
アーベルの幼馴染のオーサ・レンノもそのせいで発狂してしまったのだ。
それに、ヴァイキングと化した旧デンマーク人も何とかしなくてはいけない。
スウェーデン人はヴァイキングと戦ったことがないので、一から対策を練らねばいけないのだ。
アーベル個人もそうだが、国家全体が色々と厄介な問題を抱えていた。
それでも暮らしが楽なのは、戦後から始まった高福祉政策のおかげといえる。
物価は高くなったが。大事な事なので二回言おう。物価は高くなったが。
「・・・はあ」
溜息をついて、上空を見上げる。
雲と浮動技術を導入したスイスが浮かんでいる。
今は平和だが、一寸先は闇なのだ。不安しかない。
「こら、若者がそんな暗い表情をするでない」
「あっ、ピーテパルトおじさん」
この老人の本名を知るものはいない。
ピーテパルトが好物だからピーテパルトおじさんと呼ばれているのだ。
「いいか、儂の時代よりかは何もかもが遥かにマシになっておる。
お前さんは普通に小麦粉のパンを食べておるが、儂が子供の時は木の皮を混ぜたんじゃぞ。
そんな地獄と比べたら、今は実に恵まれておるというのに・・・」
「おじさん、時代によって何が問題なのかは変わるんだよ」
「変わるもんか。外交問題なんて、国名が変わるだけで内容は変わらん。
食糧問題も、パンからシュールストレミングと食品名が変わっただけじゃ」
「そういうもんですかね」
「そういうもんじゃ、お前さんの幼馴染もいずれ治る」
アーベルの視線はアジア情勢を伝える一面に向かっていた。
日本は〈ヨーロッパを終わらせた戦争〉に参加していたが、遠かったのが幸いした。
おかげで、今ではモンゴルやタンヌ何とかと共にアジアを支配する三巨頭の仲間入りだ。
十九世紀はヨーロッパの世紀だったが、二十世紀はアジアの世紀になるのは間違いない。
いや、アメリカの存在も忘れてはならない。
正しくは、アジアとアメリカの世紀であろう。ヨーロッパよ、さようならだ。
「それはそうと、アーベル。相談があるんだがの」
「何でも言ってください」
「実はな、ピーテパルトをたくさん作るために色々と機械を作ろうとしたんじゃ」
そう言うと、ピーテパルトおじさんは山頂の小屋まで走っていき、
そして、数秒後にアーベルのもとまで戻ってきた・・・ドアを担ぎながら。
「すると、こんな粗大ごみができてしまったんじゃ。はっきり言って、いらん」
「あれほど本を読んで機械を作れと言ったじゃないですか」
「受け取ってくれんかの?お前は何でもと言ったはずじゃが?」
「わかりましたよ・・・」
この粗大ごみとしか思えないドアこそが、スウェーデンに光を与えたのだ。