Persona5 ~Phantom Thief of Å Villain~ 作:誤字脱字
※P5ベースでP5Rのキャラは出ません
※P5Rの時間軸を元にしております
※念のためにアンチ
ペルソナ5開発に辺り、一二三が本来怪盗団に入る予定だったが、容量の為、却下になったとありましたので入れたくなりましたが、キャラが掴めずオリ主として書きました。 よろしくお願いします
……カコン―――……カコン―――
塀の外は鉄の馬が往生し、天を突くは未来的な建造物が群れを成す
……カコン―――……カコン―――
だけど、塀の内側は別世界。
昨今コンクリートジャングルと化した東京では、滅多にお目にする事のない純日本庭園が広がっており、時折聞こえる獅子落としの音色が心行くまま『わびさび』を感じさせてくれて穏やかな気持ちにさせてくれると私は思うのだが、残念なことに今はその余韻に浸る時ではない
チラリと机を挟んで私と対面して座る人物に視線を送ってみると、手に持った湯飲みを机に置いたので、そろそろ頃合いだろうと悟った私も同じく湯飲みを降ろして口を開いた
「……組長」
「爺ちゃんで構わねぇよ、椿。……ここには、肉親しかいねぇからよ」
重く心に響くような声は、聴く人によっては威圧感を与えてしまうが、長年聞き慣れた私には逆に安心感を与えてくれる声だ。肉親だからこそ覚える感覚に口元が上がってしまうが仕方がない事だろう
「わかったわ、爺ちゃん。それで私に何用かしら?迎えを寄越す程だから余程の事だと思ってもいいのかな?」
「余程ってほどじゃねぇが………折り入って頼みがある」
「え、頼み?……もちろん、話しによるけど聞くわ。」
普段は迎えなど寄越した試しもないのに今日に限って校門を出れば黒塗りの車と厳つい男達が私を持っていたので、一大事かと思っていたら只の頼みごと?
爺ちゃんの事だから危険な橋を渡る話ではないと思うけど、前みたいに見合い話だったら今日の出来事を学校に説明する労力の分、小遣いをふんだくってやろうと祖父の言葉を待ったが、出てきた言葉は私の予想を悪い意味でも良い意味でも裏切ったモノだった
「頼みってぇのは進学先………受験先を秀尽学園にして貰いてぇんだ」
真っ直ぐに私の眼を見据えてくる爺ちゃんの瞳は冗談でもなく本気だと窺えた
余程の事じゃないって云う割には人生を大きく左右する選択だとは思うけど、最終就職先が家業を継ぐ事が決まっている私にして見れば余程の話じゃないって意味なのかな?
実際、本来の受験先の洸星を選んだ理由は稲山組の島*1で実家から一番近いからって理由だけど、秀尽って確か……
「……秀尽のある地域は天草組の島だった気がするけど?」
「俺も馬鹿じゃねぇ。大切な孫を俺の手が届かないトコに行かせる訳ねぇが……天草のとこが、狐を飼い慣らし始めやがった」
「狐?……ダンベエ*2がついたってこと?」
「あぁ、奴さんの金回りを調べるにおそらく議員さんか企業主だろうが、どうもきな臭くてならねぇ」
私達の様な組のモノを用心棒として裏に控えさせる人達は少なからず存在はしてはいる。
用心棒―――と云えば聞こえはいいが、厄介事が起きた時の対処をする代わりに金を貰うギブ&テイクなシノギ*3……表に出せない様な対処も仕事の一部に入る
天草は今時珍しく『過激』な行いを行う組で用心棒など守られる側が嫌がり、雇い主がここ数年いないと情報に上がって来ていたけど……それだけの話?
確かに敵対組織に資金源が出来たのは十分に警戒する事だけど騒ぐ程ではない
それ以外の要因が爺ちゃんに危機感を与えているってこと?
爺ちゃんは煙草に火を付け、大きく吸い天を仰いだ
「天運……とでも云えばいいのか、事が上手く行き過ぎてやがる。狐って言うのは大きければ大きい程、足が付きやすいってぇのに、それが全く見えねぇ」
「処理班がいるってこと?」
「軍隊でもあるめぇし、奴さんにそんな力があるとも思えねぇが……何かしらはいるな。おい!桐嶋!茶ぁ入れろや!」
「へい!」
打てばすぐ響くとばかりに外で控えていた桐嶋さんが爺さんと私の湯飲みに新しくお茶を入れるが、空気読もうよ………
私に考える時間を与える為にわざわざ醒めぬお茶を飲みきったと言うのに、これには爺ちゃんも呆れて軽く桐嶋さんの頭を叩いた
何故叩かれたのか首を傾げる桐嶋さんは、私にもお茶を注いでくれるが、私的には今呑んでいるモノを呑み終わってから注いで欲しかったと思い、軽く桐嶋の頭を叩いた
私達に頭を叩かれ不思議そう退出する桐嶋を見送り、私は口を開いた
「……大体の事情は分かったわ。私にその『何らか』を探って欲しいってことね?」
「まだ染まりきっていねぇ、おめぇさんなら奴さんの鼻を誤魔化せるからよ。勿論、おめぇさんの意志は尊重する……危険な山だ」
危険な山、ね……
後々、此方側の世界に入るつもりだったから覚悟は出来ている。まぁ、予想より早くデビューするだけで特にデメリットもないし、元々秀尽学園は第二希望の高校だったから抵抗もない。……いくつか確認しなきゃいけない事はあるけど、今の所、問題はないわね
「……いいわ、いくつか条件はあるけど引き受けるわ。でも、なんで秀尽なの?探るだけなら稲山組の島にある学校でも良いじゃないかしら?」
そう、確認する事の一つ目はこれだ
探るだけならわざわざ危険な天草組の島にある学校に行かなくても良い訳で、此方側のテリトリーの学校に通っていても問題はないはずだけど、なにか考えがあるのかしら?
眼で答えを促すと、爺ちゃんは膝を活きおいよく叩き豪快に笑った
「そりゃ~おめぇ!ブレザーだからに決まってんだろ!」
「………はぁ?」
「セーラー服もいいが俺は断然、ブレザー派だ。セーラー服を馬鹿にするつもりはねぇが、ブレザーは一人一人違った着こなしがある!」
「……洸星もブレザーだけど?」
「馬鹿野郎おめぇ!無地のスカートの何処がいいんだ!秀尽は、ちぇっく柄だろ?……いいじゃねぇか!死んだ婆さんも良く着てたもんよ!」
「え、え~………」
「それに黒と赤の制服……ありゃ~稲山組の色に合ってる。勿論、おめぇの第一志望の洸星も捨てたもんじゃねぇが、野郎の制服が眩しくて仕方ねぇ!男の制服って言ったら黒一択だろ!」
「…………」
「そう言った意味も含め、幹部の奴等とも話した結果、制服のアレンジに寛大な秀尽になったわけよ!」
「………もう好きにしたら?」
「おう!今からもおめぇさんの制服姿が楽しみだ!ハハハハハハ!」
知りたくも無かった爺ちゃんの趣味に私は肩を落としたが、本人気持ちは知らずとばかり爺ちゃんの笑い声が悲しく響くのであった
そして時は流れ4月11日――――
「後から『秀尽がある地域が一番キナ臭い!』とかキメ顔で言っていたけど、完全に自分の趣味を唄っていたわね」
「どうかしたの、稲山さん?」
「……入学する前に保護者との思い出を思い出しただけよ、新島さん。それより、代表の挨拶は大丈夫よね?」
「えぇ、ちゃんと練習もしたから大丈夫よ。稲山さんは、式の流れは頭に入っているかしら?」
「ただ項目を読み上げるだけなんて小学生でも出来るわよ」
「ふふ、頼もしいわね。副会長さん?」
「ありがとう。それよりも会長の挨拶、楽しみにしているわね?」
「……プレッシャーかけないでよ」
私達と教壇を挟んで反対側に座る人達からの視線を感じ、時間になった事を悟った私は、いまだに手を頭に抱えて俯く彼女にヒラヒラと手を振りながら既定の場所へと向かった
壇上で手をヒラつかせるなど式典に有るまじき行為に下で見ている何人かの教師は顔を歪めているけど、知った事はないし、私の家を知っている校長が睨みを聞かせているから下手に注意してくることはないだろうけど……
「(……体育教師の鴨志田、ね。校長のお気に入りだし色々と突っかかって来そうだわ)」
早くも目を付けられた事に対し、気分が落ちてしまうけど、しつこい様なら脅せばいいと割り切り壇上の端……ポツンと置かれたマイクスタンドの前に立った
目の前には『最後の』と感傷に浸っている顔や怠そうにしている顔、新生活を期待し目を輝かせている顔……千紫万紅の表情に応える為にも任せられた仕事は熟す
軽く喉を鳴らした後に私は口を開いた
『これより第〇回、秀尽学園始業式を始めます。』
稲山椿18歳、秀尽学園生徒会副会長の肩書を持つ花の女子高生は表の顏。裏は―――
―――関東最大の指定暴力団、四代目稲山組直系稲山組・稲山一蓮組長が孫娘にて敵対暴力団の情報を探るエージェント
……エージェントとは名ばかりで、なんの成果も上げられていない私の最後の高校生活が幕を開けたのであった
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Persona5 ~Phantom Thief of Å Villain~
第一話
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「……月島も外れ、ね」
机の上に広げられた東京地図に新しくペケ印を付け、目尻を押さえながら大きくタメ息を付く。
地図に掛かれたペケ印は既に二十を越えており、ペケ印の数は私が花の高校生活を棒に振り掴んだ外れ情報の数でもある
「月島は、最近チンピラが良い顔聞かせているって噂だったから期待していたのにショックだわ。……春休み前に戻りたい、私の青春返せ」
長期休日を利用し、月島周辺をいろいろと探ってみたが、そっちの筋に関わる話は浮いて来なく掴めた有望な情報は、もんじゃ焼きが美味しいお店とお好み焼きが美味しいお店のみ……私は食べナビの編集者じゃないっての!
期待していた噂のチンピラと接触に成功しても筋者でも無ければ男気もない只の粋がっているガキだった事が輪を掛けて残念でならない
「少しでも光るモノがあればスカウトも視野に入れていたのに口を開けば『遊びに行こう』『連絡先教えて』……こちとらそんな気も暇もないっつーの!」
春休みが無駄に終わった悲しみとつまらない男に絡まれた怒りから脱力し、机へと手を伸ばし突っ伏せてダラしない姿を晒してしまうが構うものか!誰も生徒会室へ入って来ない予定だし思う存分、ダラケテやる!とそう思っていたが――
「……なにしているの、稲山さん?」
開く事は無いと思われていた扉が開き、聞き覚えのある声に伏したまま顔を横に向ければ、黒のタイツが目に入った
何らかのスポーツ、いや格闘技をやっていたと思われる筋肉の付きようからタイツに隠された生脚は程良く引き締まり『美脚』と言える……いけない、下衆男のせいで私まで下衆な考えが浮かぶようになっているわね
溜息を一つこぼし、姿勢を正して声の主である新島さんに笑顔を向けた
「いえ、世の中の男は屑ばかりだなって」
「なにそれ?それより何で生徒会室にいるのかしら?今日は……会議も打合せもない筈よ?」
「少し落ち着いて絵図を描きたい、もとい調べたい事があっただけ。それより、新島さんこそどうかしたのかしら?」
広げていた地図を仕舞いながら私も新島さんに質問を投げかけると彼女も同じ様に溜息をこぼして椅子に腰を掛けた
「……新学期初日に大遅刻してきた生徒達がいたのよ。それで、生徒会も気に掛けてくれって校長先生が」
「なるほど。……お役所勤めは大変ね?」
「貴女もお役所勤めでしょ、副会長さん?」
「ん」
「……生徒会室管理だから持ち出しは出来ないからね?」
「わかってま~す」
特に何も言わずに差し出した手の意味を察したのか、新島さんは鞄から遅刻してきた生徒のファイルを取り出し私の手に乗せた
『雨宮蓮』と『坂本竜司』、ねぇ……
付箋でチェックされている二人の生徒。転校生である雨宮君は知らないけど、坂本君は聞いた事がある。中学生時代に陸上競技で優秀な成績を収め、今後の成長と即戦力を期待しスポーツ推薦枠として本校に入学した『元』陸上部所属の生徒。
『元』と頭に付く通り、足のケガが原因で素行が荒れて去年に不祥事を起こした生徒………教師からは問題児として腫物を触るような扱いになっているが、彼の本質から見れば一度や二度の遅刻やサボりなど気に留める必要はないように感じる
「大遅刻って云っても生徒会が監視するレベルの生徒ではない…校長が大袈裟に云っているだけじゃないの?」
「監視って言葉は好きじゃないわ。問題は坂本君じゃなくてもう一人の彼。彼は、その……噂の生徒だから、よ」
「噂?」
「暴力事件の」
「……あぁ、そういう噂流れていたわね。眉唾ものだと思って忘れていたわ」
天草組の事で頭が一杯で気にもしていなかったけど、春休み半ばぐらいに、秀尽学園に『傷害事件を起こした学生が転校してくる』と噂が流れ始めたのだ
出所は不明でどう広まったのか知らないけど、犯人は断定できる
噂の彼が本校に転入してくるのが決まったのは春休み前の3月初旬、噂が流れ始めたのは中旬であり、その間に雨宮君の事情を校長から聞いている人物で校長が信頼を置く人物……学年主任の教師もしくは彼でしょうね?
まぁ、傷害事件程度で騒がれても私からしてみれば『その程度?』にしか感じないわ
「噂に踊らされる気はないけど、何かが起きてからじゃ遅いわ。……生徒会からも彼の事を気にかけるようにしましょう」
「りょ~かい、会長」
「話は終わりね?球技大会の書類を纏めなくちゃいけないから先に帰ってくれて大丈夫って!」
席から立ち上がり彼等のファイルを返すタイミングを狙い、新島さんの手元にあった書類を5枚ほど抜き取った
「何でもかんでも一人でやらない。……この御礼は帰りのクレープに付き合ってくれるだけでいいわよ、会長さん?」
「もう!……ふふふ、ならお願いするわ」
「ふふん、お任せあれ」
私達は下校する生徒の声をBGMにしながらも作業を進めていったのであった
◆
4月12日――――
「……対戦表や段取りは兎も角、球技大会の設営って生徒会の仕事かしら?バレー部がやった方が速いでしょ、絶対に」
「バレー部は大きな大会前だから負担はかけられないって校長先生が――」
「なら鴨志田先生はどうなのよ?選手じゃないから暇でしょ、彼」
「……それは、その」
大会の設営をしている私達の目前には、校長と話している鴨志田先生……
現場責任者として生徒が危険行為を及ばないか監督しているつもりだろうが、彼の目線は生徒には向いていないし機材の運び出しも設備の安全確認もしない
生徒会を信頼していると云えば聞こえはいいが、やらされている身からしてみれば手伝ってくれの一言……生徒会も人数が少ないのだから理解してくれ
しかし、私の期待は彼には届いていないらしく、校長と一緒に体育館を出て行ったのであった
「これで不祥事が起きたら彼の責任ね?………指でも折ってやりましょうか?」
「馬鹿な事云ってないで手を動かして」
「は~い、会長」
と返事をして見たのは良いモノのやっぱり気持ちが入らない
他地区から集まった生徒達の初めての交流の場として新学期早々、イベントを提案した学校の心意気は買うけど肝心の先生があれだとやる気が出ないわ
でも、サボると新島さんは怒るし帰りの時間も遅くなるからやるしかないけど、何か話しながらじゃないと……
「あ、そう言えば彼、ちゃんと学校に来ていたわよ」
「彼?……転校生の事ね」
「えぇ、そもそも噂を鵜呑みにしちゃいけないわ。見た感じ、そんな事をする人間には見えなかったわ」
見かけたのは登校している所だったけど、あの鴨志田先生にも挨拶を交わしていた彼からは罪を犯す雰囲気は感じられなかった。むしろ自分の信念が明確にある人が持つ真っ直ぐな瞳をしていた
「そう言う人間こそ裏では何をやっているかわからないわ。……どうかしたの、胸を押さえて?」
「……気にしなくていいですわ、会長」
ふふん、そのブーメランは私にはよく刺さります
「それに彼……2年生の問題児と一緒にいたわ」
「……坂本竜司くん?陸上のスポーツ推薦で入学した」
昨日見せて貰ったファイルのもう一人
入学当初から一緒に居たみたいだし友達になったのかしら?
「うん、でも……無理な練習で怪我をしちゃってそこから非行に走ってしまったのよね、彼」
「……非行、ね」
新島さんの話しぶりから他の教師と同じで『彼がどうしてそうなってしまったのか』までは知らないみたい
……いやいや、カタギの情報収集力なんて幼い頃から稲山組に身を置いている私と比べたらあってないようなものだったか
彼自体に興味も同情もないけど、懇意にしている友達が俗物の考えで物事を考えているのは何だか癪に触るし、彼女の為にもならないと思い私はそれとなく教えてあげる事にした
「新島さんは、当時の状況はどこまで掴んでいるのかしら?」
「え?」
「新島さん。これは副会長ではなく一人の友人としての助言ね?………何事にも最初の種火って言うモノはあるものよ」
「種火?」
「えぇ。非行に走った原因であり、悪の根源。それは―――」
指で銃の形を作り、先程二人が出て行った扉を撃ち抜いた
「………ッ!まさか!」
「その『まさか』はどんな意味を持っているか私は判らないけど……人間、裏では何をしているかわからないものよ」
本当、何をしているか判らない
◆
4月15日――――
「……なんで私がパシリみたいなことをしなきゃいけないのよ」
私の心は、現在進行形で荒れていた
原因は二つ。一つ目は球技大会だ
勿論、私と会長(生徒会役員含む)が入念に準備を進めた甲斐もあって球技大会は問題なく進行し終了した。トラブルが発生したら直ぐに解決し、怪我人が出ても保健室へ連れて行き進行の妨げになる前に対処した。そして、今回最大の目的である『新入生が新しい環境に溶け込めるイベント』は、一年の廊下を見渡す限りでは十全に達成できたと思う。
今回のMVPは生徒会役員で決まり、パーフェクトな進行!…………球技大会の優勝組が教員グループと云う事を除けば
なに生徒の交流の場を荒らしてくれているのだよ、良い年とった大人がでしゃばるなんてナンセンス!生徒と教師の距離を縮める一環とか抜かしているけど、返って溝が深まるっつーの!
そんな場違いな行いをした教師に私は心底、呆れ怒りを覚えた
そして2つ目、球技大会の怒りが醒めぬ今日!この私が!校長のパシリにされたのだ!
事の発端は、2年の女子生徒が授業中に屋上から飛び降り自殺を図った
ゲリラ的に行われた行為は学園中に多くの目撃者を生み出し案の定、気の弱い生徒は動揺、馬鹿な生徒は女子生徒が落下した中庭へと授業中と言う事も忘れ殺到した
無論、その時に教師が上手く生徒を落ち着かせていれば野次馬が生まれる事も無かったのだが、教師も人に変わりは無く、動揺そして混乱。現場に向かう生徒を留める事が出来なく授業崩壊
仕方なく『耐性』のある私が、荒れた教室を納めたのだが、その姿を校長に見られ自体の収拾に駆り出される羽目になってしまった。
校長からして見れば私は、このような事態に見慣れているから動揺していない、迅速な対応が出来るとでも思っての人選なのだそうが、私は殺人処女である。
『耐性』があるだけで動揺も混乱もする。だから、校長の言葉に『生徒を借りだすな!』と反論出来なかったのが悔やまれる。
そして頼まれた内容が体育教官室にいる鴨志田先生を校長室まで呼んで来てほしいと言うモノ…………ふふん、私を伝言鳩に使うか
「きゃ!?」
「あ、わりぃ!」
イラついて周りが見えていなかったようで後ろから来た生徒と接触し倒れ込んでしまった
去って行く後姿は私と同じくらいの背丈で、この学校では珍しい金髪であった
「……レディーにブツかっておいて手も貸さないなんてナンセンスだわ」
「大丈夫ですか?」
「ッ!貴方は……雨宮君?」
「友達がすみませんでした」
ぼやく私を尻目に遠ざかって行く彼、それとは反対に差し伸ばされた手―――
顔を上げて見れば黒髪のくせ毛に黒縁眼鏡の少年……噂の彼、雨宮蓮が私に手を差し出していた
まさかココで彼に手を差し伸ばされるとは思ってもいなかったので、思わず手を取ってしまったが、彼も急いでいるのか謝罪の言葉を私にかけると直ぐに金髪少年が向かった先へと行ってしまったのだ
「ふふん、友達ね~?……それにしても彼らが向かった先って確か」
この廊下を真っ直ぐに云っても階段や渡し廊下はなく、あるのは体育教官室のみ
まさか、と思いながら私も体育教官室へと向かい、扉に手を掛けようとしたその時、荒々しい声が聞こえて来たのだ
扉に掛けていた手を引っ込め、そっと私は聞き耳を立てると聞こえてくる声は3つ…いや4つあり、おそらく体育教官室の主である鴨志田先生と金髪少年、雨宮君とあと一人だろう?
緊迫した雰囲気が扉越しでも分かったし、ただ事ではない事が起っていると感じる
内心、鴨志田先生の事を良く思っていなかった私は、今後の交渉材料にとスマホの録音機能を立ち上げた。そして直ぐにその行動は正解だった事に笑みを浮かべた
「たった今、病院から連絡が入った。意識不明で回復は絶望的…そんな奴が何を訴えるって!?もう回復の見込みは無いってよ……可哀想に」
「ウソ…だろ…」
「テメェ…ッ!」
驚きと怒り、そして傍観
言葉を発してはいない一人も含め、その場にいるみんなが鴨志田先生が告げた虚言(天ぷら)に踊らされていた
「また、それかよ……なら、もう一度『正当防衛』が必要だな?」
「うっせんだよ、クソがぁ!」
「ッ!おちつけ」
「何で止めるんだよッ…!?」
「挑発に乗るな」
「けどよッ…!」
『正当防衛』に『挑発』、そして『もう一度』の意味……
鴨志田先生が過去に正当防衛を行った生徒は……あぁ、金髪少年は坂本君、か
彼が陸上を離れたのは鴨志田先生が一枚噛んでいたのは知っていたけど、暴力を振るった事には変わりない。……本来なら自分を制して逆境を乗り越えて力に欲しかったとあの時は思ったけど、今の会話を聞く限りだと坂本君は踊らされていたと言う事か
大人の都合に子供を使うやり方は好きになれないし、個人的にも彼の事は気に喰わなかったし、将来有望な生徒をこれ以上、踊らされるのは秀尽学園生徒会副会長としても見逃せないわ
私はそっと体育教官室の扉を開いた
◆
「遠慮しないで、やれよ?」
「なにをするつりですか、鴨志田先生?」
「「「「「!!!???」」」」
いきなりの第三者の登場に4人とも驚きの表情を浮かべるが、流石年の功。
4人の中で一番早く復活したのは鴨志田先生であり、苦虫を潰したような顔を浮かべた
「……生徒会の稲山か。なに、この三人が私に突っかかってきただけだ。この三人は私の方から処罰を降す予定だから生徒会は気にしなくてもいい」
「なにが突っかかってきただ!」
「よせ、竜司!」
鴨志田先生の云い様に血が昇ったのか坂本君が鴨志田先生に殴りかかろうとするのを雨宮君が再び止めに入った。…うん、ここで手を出されては全てが台無しになってしまう
だから大人しくしていてね、坂本君?
「先生の判断に意を唱えるつもりはありませんが、先程の鴨志田先生の発言も軽率だと思います。突っかかって来た生徒に『遠慮しないで、やれよ?』と云う発言は教師としても大人としてもどうかと思います」
「……俺にも原因があるとでも言うのか?」
「はい。売り言葉に買い言葉……大人なら子供の戯言を流す程度の器を見せて戴けなければ困ります」
「ッ!」
鴨志田先生は苦顔を更に歪め私を睨めつけてくるが、堅気でしかない睨みなど私にとっては赤子に睨まれている程にしか感じない。……せめて野生動物ぐらいまでになって出直して来い
場の雰囲気が、先程とは打って変わって鴨志田先生に逆風が吹いていると感じた外野は私の顏と鴨志田先生の顔を交互に見ては戸惑いを現していた
「それと、先程病院から連絡が入って彼女は助からないと云っていましたが、嘘は良くない。医療関係者が学校に生徒の生死の連絡を伝えるとは思えませんし、連絡があったとしても学園で起きた事ですから校長先生に連絡が行く筈です。……たかが体育教師にそれを連絡する理由がありませんよね?」
「ッ!……こ、校長先生は手が離せないから代わりに「そもそも連絡が速過ぎません?まだ、運ばれて1時間もしてないのに手遅れだなんて判断を病院側がしますかね?」~ッ!まだいたのか!お前達はもう出ていけ!俺は色々と忙しいのだ!」
チェックメイト
嘘が表情に出た時点で貴方の負け、第三者に当り散らし紛らわしてダブルスコア、退出させる理由も浮かばないなんてテクニカルKOも良い所だわ
冷静に考えれば只の学生に病院がどのように連絡してくるなんて知る筈ないと言うのに
「私も退出します。……そうでした、その手が離せない校長先生がお呼びですよ、鴨志田先生?」
「ッ!おまえ!」
「では、失礼します」
先に出て行った3人の後を追う様に体育教官室から退出し、扉を閉めたが今頃、怒りで顔を真っ赤にさせている鴨志田先生が体育教官室にいると思うと笑い声が出てしまいそうになるけど腹を抱えて笑うのは生徒会室へ戻ってからと口元を引き締め、教室へ戻ろうと足を進めたが見覚えのある顔を見つけ足を止めた
「友達と一緒に行かなかったのかしら?」
「まだ、お礼を言っていなかったから……助かった」
「階段で手を貸してくれた御礼だと思ってくれていいわ。それに、鴨志田先生の態度が気に喰わなかったのは私も同じ」
「聞いていたのか?」
「あれだけ大声で騒いでいたら扉1枚越しなんて無いに等しい、今度からは周りにも気を付けなさい。でもまぁ、私以外に聞いている人なんていないでしょうから教師に喰ってかかったって事実は広まる事はないでしょう」
彼の場合『あぁ、やっぱり』と思われてしまうかもしれないけど、これ以上余計な尾鰭は、誰しも付けたくはないでしょうからね
「だけど入学早々、厄介な人に目を付けられたモノね、貴方も。それと忠告……鴨志田先生は校長の後ろ盾がある分、貴方達に本当に処分を言い渡せるわ」
「……処分」
「あの感じだと退学かしら?」
「ッ!」
いきなり話が飛び過ぎているかもしれないけど、鴨志田先生の権幕から容易に想像が出来るし、現に鴨志田の性で一人の教師が学園を去る事になった事実もある。
生徒会がいくら彼等を庇おうが、決定は覆る事はないだろう
ご愁傷さま、と俯いた彼の肩に手を置こうとした時、彼は顔を上げ一言呟いた――
「……このままじゃ終れない」
「ッ!」
聞く人が聞けば鴨志田先生に往復を考えている様に聞こえるが、私には彼がそんなチャチな事をするとは思えなかった。彼の目が――彼の意志が―――復讐など比ではない程の大事を仕出かす様に予告しているかの様に見えたのだ
本来なら、そんな
「なら、貴方達の処分が決まる次の理事会までにはケリをつけた方がいいわ。……一度決まった決議は覆らないわ」
「……わかっている」
「……そ。何をするつもりかは知らないけど応援してあげるわ」
「………あぁ」
妙に思いが篭った言葉を云い残し彼は立ち去って行った
彼が何を仕出かすかは分からない、本当に復讐するだけなのかもしれない。だけど、彼がこの戦いに勝利した際には、最後の高校生活に新たな風を運んでくれるような気がしたのであった
Next stage→ The name is phantom
稲山 椿
秀尽学園3年生の女子学生
指定暴力団「稲山組」の孫娘
数年前から頻繁するようになった事件に敵対組織が関与している可能性を感じた稲山会長より情報を掴む為、敵対組織の島にある秀尽学園に通い情報を集めている
都内のマンションに一人暮らし中。貸し駐車場にバイク3台、車(予定)一台